失業保険とは、再就職の意思がある失業者の保護を目的に給付されるお金のことで、退職時に一定の条件を満たしていた場合受給できます。
失業保険は、従業員の過失が原因で懲戒解雇された場合でも、再就職の意思があれば受給可能です。
ただし、中には失業保険の受給に不利益になるケースもあるため、処分内容の確認が必要です。
本記事では、懲戒解雇になった場合に自身が失業保険を受給できるか確認する方法や、受給できないときに取るべき対処法を紹介します。
また、不利益が生じる原因やどのようなデメリットがあるのかも解説します。
懲戒解雇となり失業保険を受け取れるか不安な方は、ぜひ参考にしてみてください。
懲戒解雇されても失業保険は受給できる

懲戒解雇処分で退職した場合でも、失業保険を受給できます。
ただし、解雇理由次第では失業保険の受給に関して不利益な扱いを受ける場合があるため、早めに確認した方がよいでしょう。
懲戒解雇になった場合、「重責解雇」に該当しているかどうかが非常に重要です。
重責解雇に該当する場合は一般的な失業保険受給までの流れとは異なり、給付開始時期や給付期間などで不利益が発生します。
重責解雇に該当するケースの具体例は、記事の後半で詳しく解説します。
懲戒解雇で失業保険をもらうための確認事項

懲戒解雇で退職した方が失業保険を受給するためには、まず自身が重責解雇に該当していないかどうかを確認する必要があります。
「懲戒解雇」と「重責解雇」とでは、失業保険の受給における待遇が大きく異なるためです。
会社が定める就業規則に違反した場合や不正行為をおこなった従業員に対し、雇い主が一方的に雇用契約終了を通達する行為を「懲戒解雇」と呼びます。
懲戒解雇された者は解雇理由に応じて「重責解雇」と「それ以外の解雇」に分類され、重責解雇に該当する場合は失業保険の受給に不利益が発生します。
懲戒解雇による退職後に失業保険の受給を考えている方は、まず自身が重責解雇に該当していないか確認してください。
失業保険にかかわる重責解雇と懲戒解雇は異なる

「懲戒解雇」と「重責解雇」は一見すると似ていますが、どちらに該当しているかにより失業保険受給の待遇が大きく異なります。
どちらの解雇も、原因は従業員の過失です。
「懲戒解雇」は、会社が定めた就業規則に基づき、会社の秩序を乱したと判断された際に下る処分です。
「重責解雇」は、より悪質、もしくは重大な過失が認められる場合に適応される処分で、雇用保険上の言葉では「労働者の責めに帰すべき重大な理由による解雇」と表現されます。
重責解雇とは
重責解雇とは、軽微なものを除く横領や窃盗、機密情報の持ち出し、経歴詐称など従業員の重大、または、悪質な過失が原因の解雇です。
懲戒解雇のすべてが重責解雇に該当するわけではありません。
解雇となった原因により、重責解雇かそれ以外の解雇のいずれかに分類されます。
重責解雇に該当するか否かの判断をおこなうのは事業主です。
重責解雇は失業保険の受給にさまざまな悪影響が生じるため、離職者は重責解雇処分に納得できない場合ハローワークへ意義の申し立てが認められています。
また、重責解雇は非常に重い処分であるため失業保険の受給のみならず、再就職にも悪影響を及ぼす可能性があります。
重責解雇なのかを知るタイミング
懲戒解雇処分を受けた際、自身が重責解雇に該当しているかどうかは、務めていた会社から発行される離職票で確認できます。
確認する項目は、「離職理由」欄です。
事業主が重責解雇と判断した場合には、該当箇所に記載されている「重責解雇(労働者の責めに帰すべき重大な事由)」の欄にチェックマークが入ります。
離職票が発行されるまでの期間は、会社により異なります。
申請しないと発行していない会社もあるため、失業保険の受給を考えている方は退職する際忘れずに担当者へ離職票の発行を依頼しましょう。
重責解雇と懲戒解雇の関係性
懲戒解雇は労働契約法上の概念、重責解雇は雇用保険法上の概念です。
懲戒解雇は、会社の就業規則に基づき秩序違反や非違行為をおこなったと判断された場合の処分です。
たとえば、常習的な遅刻や無断欠勤、さまざまなハラスメント行為、勤務態度の改善が見込めないなどの場合は懲戒解雇の対象となる可能性があります。
一方で重責解雇は、犯罪を犯した、法令違反で処罰を受けた、機密情報を漏らした、重大で悪質な就業規則違反をおこなったなどの場合に下る処分です。
繰り返しになりますが、懲戒解雇=重責解雇ではありません。
従業員の過失の内容により重責解雇に該当するか否かが判断されます。
重責解雇になるケース

非常に重い処分となる重責解雇に該当するケースには、次のようなものがあります。
- 詐称や虚偽の申告で就職した
- 刑法各本条の規定に違反した
- 事業所の設備や器具を破壊した
- 事業所に損害を与えた
- 就業規則に違反した
- 事業所の機密を漏らした
- 事業所名を悪用した
それぞれ具体例とともに解説します。
詐称や虚偽の申告で就職した
就職活動中に、学歴や経歴、所有スキルなど採用に有利になるような虚偽の申告をした場合は経歴詐称となります。
過去の犯罪歴を秘匿した場合も同様です。
就職後に経歴詐称が発覚し解雇処分になると、虚偽の内容に重過失が認められる場合には、重責解雇として処分される可能性があります。
刑法各本条の規定に違反した
刑法各本条に定められている規定に違反して犯罪を犯した、または、処罰の対象となる行為をおこない罰せられた場合は重責解雇となります。
重要なのは、処罰を受けたかどうかです。
そのため、取り調べ段階や裁判中などの刑を決定している途中の状態では、まだ重責解雇として処分できません。
重責解雇が認められるのは、刑が確定したあとです。
事業所の設備や器具を破壊した
事業所が所有する器具や設備を故意に破壊した場合は、重責解雇にあたります。
重要なのは、事業所の所有物を壊す意思があったかどうかです。
操作ミスや不注意などが原因で偶発的に壊れた場合は、故意が認められないため重責解雇にはあたりません。
一方で、意図的に会社の所有物を破壊した場合は器物損壊罪にあたるため、重責解雇の対象となります。
事業所に損害を与えた
故意に会社の信用を失墜させるような言動を取り、売り上げの低下、顧客の減少、営業不振など有形無形にかかわらず事業所に損害を与えた場合は重責解雇にあたります。
意図的に会社の名誉を傷つけようとするおこないは極めて悪質であるため、労働者の責めに帰すべき重大な理由による解雇に該当します。
就業規則に違反した
就業規則に違反した場合、重責解雇に該当する場合があります。
ただし、軽微な違反であれば重責解雇にはなりません。
重責解雇になる可能性のある就業規則違反には、次のようなケースがあります。
- 勤務先で窃盗、横領、傷害などの刑事犯に該当する行為をおこなった場合(ただし、極めて軽微なものは除く)
- 賭博や風紀の乱れなどで職場の規律を乱す、ほかの従業員に悪影響を及ぼす場合
- 正当な理由のない二週間以上の無断欠勤、出勤督促を無視した場合
- 勤務態度に関する指導を再三受けても改善されない場合
常識を著しく逸脱し、会社の不利益に繋がるような行動を見直さない場合には、重責解雇として処分される可能性があります。
事業所の機密を漏らした
事業所の機密情報を漏洩した場合は、重責解雇に該当します。
機密情報には、製品の製造方法や原料、使用している機材、経営状況、経営上の機密などが含まれます。
事業所の機密情報を守ることは労働者として当然の務めです。
そのため、故意に機密を漏らした場合には重過失が認められ、重責解雇となる場合があります。
事業所名を悪用した
従業員が自己の利益を得るために事業所の名前を勝手に使用した場合は、悪用とみなされ重責解雇にあたる可能性があります。
仮に事業主、事業所への損害はなかったとしても、個人の利益を得るために事業所名を悪用した場合は詐欺罪、または、背任罪が成立する場合があります。
失業保険受給への重責解雇の影響

重責解雇となった場合、失業保険の受給に関して次のようなマイナスの影響が発生します。
- 失業保険を受給するために必要な加入期間が長くなる
- 失業保険給付までの待機期間が長くなる
- 失業保険が給付される日数が短くなる
失業保険は原則、離職前の1年間のうち被保険者期間が6か月以上あれば給付されます。
しかし重責解雇の場合は、離職前の2年間のうち12か月以上の被保険者期間が必要です。
雇用期間が2年未満、もしくは被保険者期間が12か月に満たない場合は、失業保険の受給は受けられません。
通常、失業保険受給までの待期期間は7日間ですが、重責解雇の場合は7日間に加え3か月の給付制限期間が追加して設けられます。
さらに、重責解雇の場合の失業保険の給付日数は、90日~150日です。
給付日数は雇用保険の加入期間に応じて決定されます。
重責解雇以外の解雇だと、給付日数は90日~330日と上限が大きく異なります。
重責解雇になるとさまざまな不利益が発生する理由は、保護を与える必要がないほど重大、または悪質な事由による解雇と認められるためです。
ハローワークに異議申し立てが可能

従業員の過失が懲戒処分に該当するか、重責解雇に該当するかを判断するのは事業主です。
重責解雇の判断に納得できない場合は、ハローワークの職員に異議申し立てをしましょう。
離職者が事業主の判断に意義を申し立てた場合、ハローワークは離職理由判断のため必要に応じて、離職者のみではなく事業主への聞き取り調査もおこないます。
両者が主張する内容を踏まえて、第三者であるハローワーク所長、または地方運輸局長が離職理由を判断します。
ハローワークでの失業保険受給の手続き

失業保険は退職後、自動的に給付されるものではありません。
失業保険を受給するためには、勤めていた会社やハローワークで次のような手続き、申請が必要になります。
- 離職票を受け取る
- 求職申し込み書を記入
- 窓口で職員の質問に回答
- 雇用保険者受給説明会に参加
それぞれ詳しく解説します。
1:離職票を受け取る
失業保険の申請には、勤めていた会社から発行される離職票が必要になります。
退職者からの申請がないと、離職票を発行していない会社もあります。
申請すればすぐに離職票を受け取れるわけではありません。
離職票が発行されるまでには会社とハローワークとの間でいくつかのやり取りがおこなわれるため、離職者の手元に届くまでは10日~2週間程かかると考えた方がよいでしょう。
退職後すぐに失業保険の給付を申請しようと考えている方は、退職時に離職票の発行申請を忘れずにおこないましょう。
2:求職申し込み書を記入
離職票が手元に届いたら、求職申し込み書を記入しハローワークに提出します。
失業保険は、働く意思がある失業者の保護を目的とした給付金です。
求職申し込み書は、再就職のために求職活動をおこなう証明となる重要な書類です。
求職申し込み書に記入する内容には、次のような項目があります。
- 氏名、生年月日、住所などの個人情報
- 求職情報を公開するか否か
- 希望する職種や雇用形態、勤務時間帯
- 希望勤務地、賃金、転勤の可否
- 学歴や保有資格
- 経歴、保有スキル
求職活動に必要な情報を記入します。
求職申し込みはオンラインで自宅からもできますが、失業保険の手続きはハローワークでのみ対応しています。
3:窓口で職員の質問に回答
失業保険受給資格の決定をおこなうために、ハローワークの窓口で職員の質問に回答します。
あわせて、退職理由に間違いがないかの判定もおこないます。
離職票に記載されている退職理由に意義がある場合は、ハローワークの職員に相談しましょう。
必要に応じて事業主の話も聴取し、事実関係を確認したうえであらためて退職理由が判定されます。
4:雇用保険者受給説明会に参加
受給資格が決定すると、雇用保険者受給説明会の日時が指定されます。
指定された受給説明会には必ず参加しましょう。
初回の説明会で「雇用保険受給資格者証」と「失業認定申告書」が発行され、失業認定日が指定されます。
そのあとは原則月に一度、指定のハローワークに求職活動の状況を記録した失業認定申告書と受給資格者証を提出する流れになります。
初回の説明会で配布される書類は求職活動の度に必要になるため、大切に保管しましょう。

懲戒解雇でも失業保険以外にもらえるお金

懲戒解雇でも、失業保険以外に支払われる可能性があるお金があります。
懲戒解雇でももらえる可能性があるお金は、次のとおりです。
- 解雇予告手当
- 退職金
- 解雇後の給与
- 未払い残業代
- 慰謝料
それぞれ詳しく解説します。
解雇予告手当
従業員を解雇する場合、雇い主は解雇の30日以上前に従業員本人へ解雇予告をしなければなりません。
規定の期日までに解雇予告ができない場合、会社は従業員に解雇までの残り日数に応じた金額を支払う必要があり、これを「解雇予告手当」と呼びます。
解雇予告手当を算出する計算式は、「平均賃金×(30日-解雇予告日から解雇日までの日数)」です。
たとえば、予告なしの即日解雇の場合は「平均賃金×30」、解雇日の20日前に予告された場合は「平均賃金×(30日-20日)」の計算式で算出された金額の解雇予告手当が受け取れます。
解雇予告、および解雇予告手当は退職する従業員に時間的、金銭的猶予を与えるための制度で、懲戒解雇の方も適応対象です。
ただし、重責解雇の場合は解雇予告除外認定が認められ、解雇予告手当制度の対象外になることがあります。
退職金
懲戒解雇による退職の場合でも、退職金を請求できる場合があります。
懲戒解雇でも退職金を請求できる可能性のあるケースには、次のようなものがあります。
- 懲戒解雇が不当だった場合
- 会社が退職金の不支給に関する規定を設けていない場合
- 過去の功労のすべてが無になるほど重大な過失とはいえない場合
懲戒解雇として認められるための条件を満たしていない場合、懲戒解雇は無効となり退職金の請求が可能となります。
また、「懲戒解雇の場合は退職金を減額、もしくは支給しない」などの不支給規定を設けていない会社は原則、従業員からの退職金支払い請求を拒否できません。
ただし、例外もあるため詳しく知りたい方は自身の会社の退職金規定を確認するか、専門家に相談するとよいでしょう。
退職金は、従業員の過去の功労への対価として支払われるお金です。
従業員の過失により懲戒解雇となった場合でも、懲戒解雇の原因が過去の功労のすべてを抹消するほど重大、もしくは悪質と認められない場合は退職金の支給が受けられる可能性があります。
解雇後の給与
懲戒解雇は、いくつかの条件を満たしていない場合は懲戒解雇とは認められず、無効になるケースがあります。
具体的には、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と労働契約法第十六条で定められています。
懲戒解雇が無効になった場合は、不当な解雇で働けなかった期間の給与の支払い請求が可能です。
たとえば懲戒解雇後、解雇の正当性について争い半年後に解雇は不当と認められた場合、半年間働けなかったのは解雇した会社に原因があるため該当期間分の給与を会社に請求できます。
未払い残業代
懲戒解雇でも、未払い残業代の請求が認められています。
未払いの残業代がある場合は、懲戒解雇の正当性に関係なく請求可能です。
懲戒解雇が有効でも、従業員の労働に対して発生した賃金がなかったことになるわけではありません。
従業員が働いた分の賃金は全額残らず本人に支払われるものと、厚生労働省により定められています。
賃金が支払われる権利は懲戒解雇になった方にも適応されるため、未払い残業代の請求が可能です。
慰謝料
懲戒解雇が不当だと認められた場合には、勤めていた会社に慰謝料を請求できます。
ただし、解雇が無効になれば必ず慰謝料を受け取れるとは限りません。
準備不足の状態で慰謝料を請求しては、十分な金額を受け取れない可能性もあります。
妥当な慰謝料を受け取るためには、次の行動を取るとよいでしょう。
- 弁護士に相談する
- 懲戒解雇の不当性や、処分により受けた精神的苦痛を証明する証拠を集める
- 慰謝料請求は裁判所を通す
慰謝料の請求を個人でおこなうことはおすすめできません。
専門家に指示を仰ぎ、十分な準備が整えてから慰謝料請求の手続きに入るとよいでしょう。
まとめ

「懲戒解雇」と「重責解雇」は一見すると似た印象を受けますが、失業保険の受給に与える影響は大きく異なります。
従業員の重大な過失、悪質なおこないが原因で解雇になる場合は、ほかの理由による解雇と区別するために「重責解雇」として処理されます。
懲戒解雇のすべてが重責解雇として扱われるわけではありません。
懲戒解雇でも重責解雇に該当していなければ、失業保険の受給が可能です。
しかし、重責解雇になると、失業保険の受給にさまざまなデメリットが生じます。
解雇理由を重責解雇にするかは事業主が判断します。
離職票に記載された判定に意義がある場合は、ハローワークの職員に相談しましょう。
離職者、事業主両者からの情報を踏まえた判断が受けられます。
「懲戒解雇だから」「重責解雇に該当しているから」と失業保険の受給を簡単に諦めず、適切に対処するとよいでしょう。