失業保険は、会社を退職する際に一定の条件を満たしている被保険者に受給されるお金で、正式には「雇用保険」と呼びます。
離職者が再就職するまでの生活を保障するためのお金で、条件を満たしていれば自己都合の退職でも受給可能です。
本記事では、休職のまま退職した場合に失業保険を受け取れる条件と受け取れないケース、退職前後の流れ、必要な手続き方法、退職時の注意点などを解説します。
また、休職のまま退職してもよいケースについても具体的に紹介します。
休職のまま退職した場合に失業保険がもらえるか知りたい方、休職中で復職するか退職するか悩んでいる方はぜひ参考にしてください。
休職のまま退職しても失業保険はもらえる?

休職のまま退職した場合でも、条件を満たしていれば失業保険の受給が受けられます。
失業保険を受け取るために満たす必要のある条件は、次のとおりです。
- 働く意思と能力がある
- 再就職を希望している
- 失業保険受給に必要な被保険者期間を満たしている
失業保険は、働く意思と能力を有する失業者の求職活動中の生活を保護する目的で給付されるお金です。
働く意思と能力とは、すぐに働ける状態であることを指します。
そのため再就職を希望しても、病気やけが、妊娠、出産、介護などの理由ですぐに再就職できる状態ではない場合は、失業保険給付の対象外となります。
また、失業保険の受給には、一定の被保険者期間を満たしていることが必須条件です。
自己都合による退職の場合は、離職日前の2年間のうち12か月以上の被保険者期間が必要です。
被保険者期間とは、単に雇用保険に加入し保険料を支払った期間を指すものではありません。
労働日数が11日以上あった、もしくは労働時間が80時間以上あった月のことです。
長期にわたり休職していた方だと被保険者期間が12か月に満たないことがありますが、病気や出産などのやむを得ない事情による休職の場合は緩和措置の適用対象です。
休職により30日以上賃金が受けられない期間があった方は、被保険者期間をカウントするための2年間に、賃金の支払いがなかった日数の追加が認められています。
緩和措置により長期間休職していた方でも、被保険者期間を満たしやすくなります。
これらの条件をまとめると求職のまま退職した場合に失業保険を受け取るためには、被保険者期間が12か月以上あり、心身ともにすぐに再就職しても問題ない状態で求職活動中であることが必要です。
休職のまま退職して失業保険を受給できないケース

上記のように一定の条件を満たしていれば、求職のまま退職しても失業保険を受け取れます。
ただし、次のようなケースでは失業保険を受給できません。
- 働けるような健康状態ではない
- 傷病手当金を受給している
それぞれ解説します。
働けるような健康状態
先ほども解説したように、失業保険は働く意思と能力がある失業者の求職活動中の生活を保護する目的で給付されます。
そのため、病気やけが、精神疾患、妊娠、出産、介護などですぐに働ける状態ではない方は、失業保険を受給できません。
ただし、上記のようなやむを得ない事情ですぐには働けない状態が30日以上続いた場合は、救済措置があります。
通常、失業保険の受給期間は離職日の翌日より1年間ですが、救済措置が認められると働けない状態だった日数分を受給期間に追加でき、最長4年まで延長可能です。
救済措置により、問題なく働ける健康状態に戻るまで失業保険の受給期間を延長できます。
受給期間の延長は失業保険の受給を申請できる期間が延長される措置であり、給付日数が延長されるわけではないため誤解しないようにしましょう。
傷病手当金との併用
傷病手当金とは、業務外の事由により休職し会社から給料の支払いが受けられない被保険者の保護を目的とした給付金です。
一定の条件を満たしていれば退職後も継続して傷病手当金を受給できますが、失業保険受給との併用はできません。
傷病手当金は、病気やけがで働けない方の所得を補償するための給付金です。
一方で失業保険は、すぐに働ける方の求職活動中の生活を保障するための給付金です。
給付の目的がそれぞれ異なるため、傷病手当金と失業保険の併用は認められていません。
障害年金は併用可能
一つの原因に対して複数の給付金の受給条件を満たした場合「併給調整」の対象となる場合があります。
併給調整の対象になると、いずれかの制度の支給額減額や支給停止などをおこない、被保険者に支払われる金額が調整されますが、「失業保険」と「障害年金」には供給調整の規定がありません。
つまり、給付の条件を満たしていればどちらも満額で受給できます。
障害年金は、障害があり働けない方のみを対象にする給付金ではありません。
障害はあるものの勤務時間の配慮や、単純作業への制限などの協力があれば働ける状態だと、障害等級3級に該当するため働きながらでも障害年金の受給が可能です。
一方、失業保険の受給は働く意思と能力のある方が対象です。
働く能力とは、フルタイム勤務に限定されるものではありません。
週20時間以上の勤務が可能であれば働く能力があるとみなされるため、失業保険の受給条件は満たしています。
医師の診断書や就労可否証明書などで、両制度の受給条件を満たしていることが証明できる場合は、障害年金と失業保険の併用が可能です。
失業保険以外に休職のまま退職しても受け取れるお金

休職のまま退職しても、失業保険以外に支払われる可能性があるお金があります。
受け取れる可能性があるお金は、次のとおりです。
- 退職金
- 傷病手当
それぞれ解説します。
退職金
休職のまま退職しても、退職金を受け取れる可能性があります。
退職金制度を導入している会社で退職金支給の条件を満たしていれば、休職のまま退職した場合でも退職金の受け取りが可能です。
ただし、会社が休職者の退職金減額や不支給に関する規定を設けていた場合は、通常の支払いが受けられない可能性があります。
退職金制度の有無、不支給に関する規定の有無については、社内規則で確認するとよいでしょう。
傷病手当
傷病手当は、社会保険加入者が病気やけがなどが原因で一定期間働けない、その間給与の支払いがないなどの条件を満たした場合に給付されるお金です。
退職すると傷病手当の受給資格は喪失しますが、資格喪失後も継続して傷病手当が給付されるケースがあります。
継続給付を受けるための条件は、次のとおりです。
- 資格喪失日の前日までに、被保険者期間が継続して1年以上ある
- 資格喪失時に傷病手当金を受けていた、または受けられる状態だった
上記に該当する場合は、退職後も傷病手当金を継続して受給できます。
休職のまま退職する方法

休職のまま退職する場合、理想的な退職までの流れは次のとおりです。
- 業務の引き継ぎをおこなうことが理想
- お世話になった方に退職を伝える
- 退職届に必要事項を記載
- 退職届を直接もしくは郵送で渡す
- 郵送の場合は添え状も同封
- 内容証明郵便も活用
- 必要に応じて診断書も準備
退職日の扱いがどうなるかもあわせて、それぞれ解説します。
業務の引き継ぎをすることが理想
休職からそのまま退職する場合でも、可能であれば業務の引き継ぎをおこないましょう。
休職理由次第では、会社を訪れることや同僚と会うことに強いストレスを感じる可能性があるため無理する必要はありません。
しかし、極力わだかまりを残さず退職できるよう、伝達事項がある業務を抱えていた場合は退職前に引き継ぎをおこなうことが理想的です。
お世話になった方に退職を伝える
お世話になった方には退職する旨を伝え、これまでの感謝と共に挨拶するとよいでしょう。
職場の方全員に退職の挨拶をする必要はありませんが、とくにお世話になった方がいる場合は声をかけることをおすすめします。
退職届に必要事項を記載
退職届には、次の事項を記入します。
- 退職理由
- 退職日付
- 届出日
- 所属、氏名
- 宛名
退職理由を詳しく記載する必要はなく「一身上の都合により」で問題ありません。
退職届は会社で定められている形式があれば従い、なければ一般的なテンプレートを参考にして記入しましょう。
退職届を直接もしくは郵送で渡す
会社との関係が良好で、退職者の健康状態に問題がない場合には、退職届を上司へ直接手渡すことが理想です。
しかし、病気やけが、精神状態などにより直接手渡すことが困難な場合には、退職届を郵送で提出できます。
郵送の場合は添え状も同封
退職届を郵送する際には、退職届のほかに「添え状」も同封しましょう。
添え状とは、物や文書などを送る際に同封する手紙のことです。
直接だと簡単な挨拶を交わしてから退職届を手渡す流れになりますが、挨拶を交わせない郵送の場合は添え状が挨拶代わりとなります。
社会人のマナーとして、文書を郵送する際には添え状の同封を忘れないようにしましょう。
内容証明郵便も活用
退職届を郵送する場合は、郵便局の窓口で「内容証明郵便」として手続きするとよいでしょう。
内容証明とは「いつ、誰が、誰宛に、何の書類を送ったのか」を郵便局が証明する制度です。
また、文書を受け取った記録も残るため「届いていない」「受け取っていない」などのトラブル回避につながり安心です。
必要に応じて診断書も準備
休職から退職を申し出た場合、必ずしも会社がすぐに納得するとは限りません。
中には引き止められたり、先延ばしの提案をされたりする場合もあるでしょう。
しかし、退職届とあわせて医師の診断書も同封すれば、健康上の理由でこれ以上の勤務が困難な状態であることを証明できます。
診断書は病気やけがの状態を証明できるのはもちろんですが、症状を可視化しにくい精神的な問題の深刻さを証明する手段としても非常に有効です。
退職日は約1か月後になる
退職を申し出た際、退職日をいつにするかは会社ごとの就労規則に基づき決定します。
一般的には、退職を申し出た日から約1か月後を退職日として、雇用契約を終了する会社が多いようです。
雇用契約解除の期間に関する規則を設けていない会社の場合、退職を申し出た日から2週間経過すれば雇用契約の終了が認められています。
退職日に関する法律上の規定はないため、自身の会社の就労規則を確認しましょう。
退職後は各種手続きをする

退職したあとは、次の手続きをおこないましょう。
- 国民健康保険に加入
- 国民年金に切り替え
- 住民税に切り替え
それぞれの手続き内容を解説します。
国民健康保険に加入
会社を退職すると、それまで加入していた社会保険から抜けることになるため、あらたに国民健康保険に加入する必要があります。
国民健康保険加入の手続き期限は、退職日の翌日から14日以内です。
14日を超えると医療費が十割負担となるため、早めに手続きを済ませましょう。
国民健康保険の加入手続きは、住民票のある市区町村の役所窓口でおこないます。
やむを得ない理由により役所へ行くことが困難な方は、郵送、もしくは代理人による手続きも認められています。
国民健康保険の加入手続きに必要なものは、次のとおりです。
- 健康保険資格喪失証明書、退職証明書、離職票のうちのいずれか
- 印鑑
- マイナンバーカード
- 身分証明書
国民年金に切り替え
会社を退職すると、それまで加入していた厚生年金から抜けることになるため、国民年金へ切り替える必要があります。
国民年金への切り替え手続きも、国民健康保険と同じように退職日の翌日から14日以内に済ませましょう。
切り替え手続きは住民票のある市区町村の役所窓口でおこなうため、国民健康保険の加入手続きとあわせておこなうことをおすすめします。
手続きに必要なものは、次のとおりです。
- 退職証明書、社会保険資格喪失証明書などの退職日が確認できる書類
- 基礎年金番号通知書、年金手帳などの年金番号が記載されている書類
- 身分証明書
住民税に切り替え
会社に勤務している間は基本的に、所得に応じた住民税を毎月の給与から天引きして納付する「特別徴収」が適用されていました。
しかし、退職のタイミング次第では残りの住民税の特別徴収が適応されず、自身で支払う必要があります。
前年の所得に応じて決められる所得税の支払期間は、6月から翌年5月までの1年間です。
1月~5月に退職した場合は、退職月の給与や退職金から未払い分の住民税が差し引かれます。
6月~12月に退職した場合は、翌年5月までに天引きされる予定だった住民税は退職後、自身で支払わなくてはなりません。
これを「普通徴収」と呼び、普通徴収に切り替わると納税通知書が送付されます。
いずれの支払い方法でも自動的に処理されるため、離職者による手続きは必要ありません。
特別徴収のメリットは、住民税を12分割した金額が毎月給与天引きされるため負担を感じにくく、払い忘れがないことです。
一方で普通徴収は住民税を4分割し自身で支払わなくてならないため手間がかかり、一回の支払額が増えます。
6月~12月に退職した方で普通徴収への切り替えを望まない場合、会社に相談すれば退職金や退職月の給与から未払い分の住民税をまとめて差し引いてもらえる場合があります。
退職時に住民税の支払いを済ませておきたい方は、会社の担当者へ相談するとよいでしょう。
休職のまま退職する際の注意点

休職のまま退職する場合、次のような点に注意が必要です。
- 休職期間は勤務年数として数えない
- 転職活動で不利になる
- 有給を消化できない
それぞれ解説します。
休職期間は勤務年数として数えない
休業期間は、従業員から会社への労務提供がおこなわれていないため、勤務年数に含まないことが一般的です。
退職金は基本的に勤務年数に応じて算出されるため、休職期間が長い方は退職金の額が少ない可能性があります。
ただし、休職期間を勤続年数に含めるか否かについては法律で定められておらず、各会社ごとに扱いは異なります。
詳しく知りたい場合は、会社の就労規則を確認しましょう。
転職活動で不利になる
休職のまま退職した場合、転職活動で不利になる場合があります。
不利になる要因としては、休職理由があげられます。
病気やけがなどが原因で休職のまま退職した場合、問題なく勤務できる健康状態にまで回復しているなら、マイナスな印象を持たれることは少ないでしょう。
しかし、精神的な問題は症状が見えにくいため、再発の可能性を理由に不採用となる場合があります。
また、出産、育児、親族の介護などで休職のまま退職した場合、勤務時間の制限や急な欠勤の可能性を理由に採用が見送られる可能性もあります。
再雇用を考えている方は、採用担当者の不安や懸念を払拭できる状態を整えてから転職活動をはじめるとよいでしょう。
有給を消化できない
休職期間中は、有給休暇を消化できません。
休職は、やむを得ない事情により勤務が困難になった従業員の労働が免除されている状態です。
そのため、会社を休んでも欠勤や労働不履行扱いになりません。
一方で有給休暇は、所定の休日以外の日に休暇を取得でき、賃金の支払いも受けられる制度です。
会社を休んでも賃金の支払いが受けられる有給休暇の取得対象日は、労働の義務がある日です。
つまり、労働が免除されている休職期間中は有給休暇の取得対象日にはなりません。
そのため、休職中は有給休暇を消化できません。
休職のまま退職してもよいケース

休職した場合、必ず復職しなければならない決まりはありません。
自身の状態次第では、復職せずに退職した方がよい場合もあるでしょう。
休職のまま退職してもよいケースには、次のようなものがあります。
- 復職するイメージがわかない
- 復職が怖い
- 精神疾患になった
- 休職の原因が解決しない
それぞれ解説します。
復職するイメージがわかない
自身の病気やけが、家族の介護のために休職した際、一定期間を過ぎても休職前と同じように働けるイメージができない場合の復職は難しいでしょう。
たとえば病気やけがの場合、業務に制限が必要だったり、回復に想定以上の時間がかかったりするケースであれば、無理に復職せず退職して治療に専念するのも一つの手段です。
また、家族の介護や子どもの育児をしなくてはならない場合は、休職前と同様の勤務を介護や育児と並行しておこなうには、周りのサポートがなければ無理があるでしょう。
休職中に協力体制を得られなかった、継続的なサポートを得ることが難しいなどの事情がある場合には、復職は困難と考え退職を選ぶことをおすすめします。
復職することが怖い
肉体的には職場復帰できる状態だったとしても、職場へ戻ることが怖いと感じるのであれば復職はおすすめできません。
恐怖心を抱えながら無理して復職しては、さらなる精神状態の悪化につながる可能性があります。
職場復帰が怖いと感じるのは、職場に何らかのストレスの原因があるからでしょう。
根本を解決しない限り、ストレスや恐怖心から解放されることはありません。
自身が変わることで解決できる問題なら復職するのもありですが、解決が見込めない事情で恐怖を感じているのであれば、退職し別の職場を探す手段もあります。
「職場に戻ることが怖いから退職する」も立派な決断です。
自身を守るためにも心のSOSには素直に耳を傾けるとよいでしょう。
精神疾患になった
仕事が原因で適応障害やうつ病などの精神疾患を患った場合、復職を考える前にまずは治療に専念しましょう。
そのためには、休職のまま退職するのも有効な手段です。
原因となるストレスの発現から3か月以内にさまざまな不調が出現する適応障害は、ストレスとその影響が収まれば6か月以内に症状が消退するとされています。
つまり、職場に原因となるストレスがある場合、退職し職場を離れることは非常に有効な治療手段です。
うつ病は再発率が高いため、一見症状が改善したように見えても職場に行くとストレスで再び症状が悪化する可能性もあります。
精神疾患になった場合は、無理に復職して働きながら治療するよりも、環境を変える方が症状改善に効果的です。
心身ともに健康な状態を維持するためには、ストレスの根源から離れて十分な休養を取りましょう。
休職の原因が解決しない
休職の原因が解決していないのなら、無理に復職しない方がよいでしょう。
後遺症が残らない病気やけが、一時的な家族の介護などが原因で休職している場合は、問題が解決すれば休職前のように職場復帰が可能です。
しかし、一定期間休んでも問題が解決しない場合、復職は難しいでしょう。
休職中に、病気やけがにより以前のように働くことが難しい、介護が長期化するなどの可能性が出た場合は、退職も選択肢に入れることをおすすめします。
また、職場の人間関係やハラスメント関連が原因で休職した場合、原因が解決していないと復職しても再び仕事に行けなくなる可能性があります。
休職した原因の解決が難しい場合は、休職のまま退職するのも一つの手段です。
まとめ

休職のまま退職した場合でも、働く意思と能力があり再就職を希望している、受給に必要な被保険者期間を満たしているなどの条件をクリアしていれば失業保険は受給できます。
すぐに働ける健康状態ではない、傷病手当金を受給している場合には失業保険の給付対象外となりますが、やむを得ない事情がある方には緩和措置が設けられているため後々失業保険を受給できる可能性は残されています。
退職した際には、国民健康保険への加入、国民年金への切り替えを退職日の翌日から14日以内に済ませましょう。
休職のまま退職した方が再就職する場合、休職理由次第では転職活動で不利になる場合もあります。
転職活動は、人事担当者の懸念を払拭できるような状態を整えてからおこなうとよいでしょう。
病気やけが、精神疾患が原因で休職した場合は無理に復職せず、退職して治療に専念するのも一つの手段です。
休職のまま退職しても、失業保険以外に退職金や傷病手当金を受け取れる可能性があるため、失業中の生活が不安な方は退職前に自身が受け取れるお金がどのくらいあるか調べてみるとよいでしょう。
※本記事の情報は2023年月9時点のものです。