マイクロバブルと赤外吸収分光法を用いてナノプラスチックの化学的特性を分析する新手法の提案~環境中のナノプラスチック分析に期待~
芝浦工業大学
芝浦工業大学(東京都江東区/学長 山田純)デザイン工学部デザイン工学科・田邉匡生教授は、(株)東レリサーチセンター(所在地:東京都中央区/社長 吉川正信)、山形大学(山形県山形市/学長 玉手英利)、東洋大学(東京都文京区/学長 矢口悦子)、東北大学(宮城県仙台市/総長 冨永悌二)と実施している共同研究において、水中の極めて微量のナノ粒子をマイクロバブル※1を用いて凝集させることによって濃縮し、その局所的な化学的特性を原子間力顕微鏡(AFM)と赤外吸収分光法(IR)※2とを組み合わせた方法(AFM-IR)で解析する新しい手法を提案しました。
今後、この手法をさらに発展させることで、環境中のナノプラスチックの化学的特性をより深く理解できるようになり、ナノプラスチックに関する研究が進展することが期待されます。
※本研究成果は、2025年1月15日19時(英国時間10時)にナノスケールの材料と環境におけるプロセスに焦点をあてた学術誌Environmental Science: Nanoに掲載されます。
ポイント
◎水中の極めて微量のナノ粒子をマイクロバブルを用いて凝集することによって濃縮し、その局所的な化学的特性をAFM-IRで解析する新しい手法を提案
◎ナノ粒子の化学的特性を高精度に測定でき、環境中のナノプラスチック(NPs)の化学的特性を評価するための重要なツールとなることに期待
◎NPsと物質との相互作用に関する新しい知見を提供し、環境問題の理解に向けた貴重なデータを提示
研究の背景
海洋環境に浮遊するマイクロプラスチック(MPs)は、生物に摂取されることで食物連鎖に影響を与え、最終的に人間にも害を及ぼす可能性があります。特に、ナノプラスチック(NPs)はその小さなサイズにより、MPsよりも生物への影響や環境中での挙動などが十分に解明されていません。NPsはサイズが小さく、極めて微量であるため、その化学的特性の評価は非常に困難です。このため、NPsの化学的特性を測定する新たな手法が求められています。
本研究では、ナノ秒レーザーアブレーション※3によって低密度ポリエチレン※4(LDPE)フィルムから生成されたナノ粒子を使用し、水中の極めて微量のナノ粒子をマイクロバブルにより濃縮し、局所的にAFM-IRで測定する新しい手法を提案しました。この手法では、ナノ粒子の化学的特性を詳細に分析することができ、環境中のNPsの化学的特性に関する研究の進展が期待されます。
研究方法とアプローチ
本研究で開発した手法では、ナノ粒子をマイクロバブルによって濃縮させ、原子間力顕微鏡(AFM)を基盤にしたAFM-IRを用いて、その局所的な特性を測定しました。本研究チームは、ナノ秒レーザーアブレーションにより、LDPEフィルムからサイズが数十nmから数百nmのナノ粒子を得ることに成功しました。得られたナノ粒子は水中で極めて微量ですが、マイクロバブルを用いて凝集させることによって回収され、セレン化亜鉛(ZnSe)基板上に配置できます。
この基板上に配置されたナノ粒子を、AFM-IRによって詳細に分析しました。AFM-IRは、ナノスケールでの局所的な化学的特性を解析できる技術であり、ナノ粒子の分子構造の情報が高精度に測定できます。本研究で提案するこれらのプロセス(図1)により、NPsの酸化反応の進行状況を追跡し、NPsと物質との相互作用を理解することが可能となります。
具体的には、ナノ粒子のサイズ分布は50 nm〜500 nmの範囲にあり、最も多くの粒子が約200 nmの大きさを持っていることが判明しました。しかし、粒子の濃度が極めて低いため、マイクロバブルを使って粒子を濃縮する必要があることを確認できました。この手法により、粒子は水中からZnSe基板上に効率よく回収、配置され、AFM-IRによって詳細な赤外吸収スペクトルが取得できました。
AFM測定において、LDPEナノ粒子が球状であるものもあり、またいくつかの粒子が凝集したり、形状が歪んだりしていることが確認されました。さらに、赤外吸収スペクトルの解析において、サイズが小さい粒子において酸化反応がより進行している傾向を確認しました。このように、ナノ粒子の化学的特性の変化について新たな知見を得ることができます。
今後の展開
本研究で確立した手法を用いることにより、環境中のNPsの化学的特性をより深く理解できるようになります。これにより、NPsに関する研究が進展することが期待されます。
語句解説
※1 マイクロバブル
1~100マイクロメートル(μm)の大きさの泡のこと。
※2 赤外吸収分光法(IR)
物質を構成する分子による赤外線の吸収現象に基づき、分子構造の情報を取得する方法。
※3 レーザーアブレーション
固体表面にレーザーを照射した際に、固体表面の構成物質が爆発的に放出される現象のこと。固体試料の分析や材料加工、医療分野等に応用されている。
※4 低密度ポリエチレン
繰り返し単位であるエチレンがランダムに分岐をもって結合した結晶性の熱可塑性樹脂。他のポリエチレンと比較して軟質であり、成型加工しやすい。透明なポリ袋や食品用フィルムなどの原料として使用されている。
論文情報
論文名:
Local Infrared Spectral Measurement System for the Inspection of Independent Nano-plastic Particles in Water-based Solutions
著者:
金原 生奈 (芝浦工業大学機械工学専攻 修士2年)
長坂 龍洋 ((株)東レリサーチセンター構造化学研究部 構造化学第2研究室)
関 洋文 ((株)東レリサーチセンター構造化学研究部 部長)
藤井 翔 (山形大学学術研究院 准教授(理学))
木村 剛 (東洋大学生命科学部生体医工学科 教授)
山本 雅哉 (東北大学大学院工学研究科 教授)
田邉 匡生 (芝浦工業大学デザイン工学部デザイン工学科 教授)
掲載誌:Environmental Science: Nano
DOI:10.1039/d4en00379a
URL:
https://doi.org/10.1039/D4EN00379A
研究助成
本研究は、JST CREST「分解・劣化・安定化の精密材料科学」研究領域の「生命循環と共生する分解・劣化ナノ材料の統合理解」(研究代表者:東北大学大学院工学研究科材料システム工学専攻 山本雅哉教授)(JPMJCR21L6)の助成を受けたものです。
<配信先>
@Press、大学プレスセンター、文部科学記者会、山形県政記者クラブ、科学記者会、宮城県政記者会、東北電力記者クラブ、化学工業日報、日刊工業新聞、PHARM TECH JAPAN、日経バイオテク、石油化学新聞、EE Times Japan、EDN Japan
▼本件に関する問い合わせ先
芝浦工業大学 入試・広報連携推進部企画広報課 担当:横溝
〒135-8548 東京都江東区豊洲3-7-5
TEL: 03-5859-7070
E-mail: koho@ow.shibaura-it.ac.jp
【リリース発信元】 大学プレスセンター
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