ブラシで塗って、筆で描いて作れる非破壊検査センサ カーボンナノチューブと無機粉末との混合で高感度光ペーストを生成
中央大学
要点
○ 液体ペースト状で扱いやすく、かつ光学素子としての機能性も兼ね備えた非破壊検査向け光センサを創出
○ 光センサの動作原理として光エネルギーから熱エネルギーを、熱エネルギーから電気エネルギーを生み出す光熱起電力効果に着目
○ 従来の光熱起電力効果型センサ設計の課題であった、単一種類材料の採用・限られた材料特性のみの活用に対して、光から熱へのエネルギー変換効率に秀でるカーボンナノチューブ・熱から電気へのエネルギー変換効率に秀でるビスマス化合物を同一デバイス構造とする結合を試み、成功
○ 硬く角張り扱いにくいビスマス化合物をパウダー状に粉砕し、均一・頑強な液体ペーストにするアプローチで、カーボンナノチューブ分散液と併せることで自在にコーティング可能なセンサへと昇華
概要
中央大学 理工学部 電気電子情報通信工学科の李 恒 助教、松﨑 勇斗 大学院生(理工学研究科 電気電子情報通信工学専攻・博士前期課程2年)、河野 行雄 教授、蓼沼 怜士 学部4年生(研究当時)、青嶋 祐斗 学部4年生(研究当時)らを中心とする研究チームは、「ブラシで塗る」「筆で描く」といった簡便さを持つと同時に、非破壊検査デバイスとしての高感度動作・広汎用性を発揮する光学センサ素子の創出に成功しました。この素子は、カーボンナノチューブ(CNT)の高効率な吸光特性と、ビスマス化合物(Bicom)の高効率な熱電変換特性を兼ね備え、相乗効果により、画像計測性能の観点で非破壊検査技術分野での更なる発展に貢献します。
非接触で大面積な解析性能を有する「光-電磁波撮像」は、非破壊検査技術の中心的役割を担っています。特に、亀裂等に対する単純な透視に加え、材質の同定(対象が何で出来ているか?)は、代表的な検査項目です。これらを実現するには、可視光と電波の中間周波数に位置する電磁波(ミリ波:MMW、テラヘルツ波:THz、赤外光:IR)を用いた広帯域・多波長で高感度な画像計測が有効とされています。材質同定を志向する非破壊検査の実現という観点において、画像計測に欠かせないセンサの設計・作製に対して、「光吸収による発熱」「その後の"熱電変換(用語1)"」という2つの異なるエネルギー現象を融合した光熱起電力効果(PTE)が、動作原理として徐々に定着し始めています。センサ材料による高い吸光率(A)・ゼーベック係数(S:熱電変換信号強度に比例する物理パラメータ)の両立が求められる中、従来型PTE設計ではAまたはSというどちらか片一方にのみ高い物理特性を示す単一素材の採用が主流です。この傾向は、PTEセンサに対して頭打ちな動作感度・限定的な撮像帯域といった非破壊検査素子応用への致命的な課題を残しています。
そこで本研究ではPTE素子設計における新展開として、既存材料の中でも卓越した光学特性を持つCNT膜(A: MMW-IR、更には可視光にわたり一貫した90 %以上)と、廃熱利用の観点で再生可能エネルギー技術としての実用化も進むBicom(S: 金属、半導体、化合物の中で室温帯では最高レベル)が一体化結合したセンサを創出しました。また、李助教らはPTE素子としての性能改善に加えて、素子自体の作り易さにも着目し、上記センサを所望箇所に塗って描けるペーストとして展開しました。これらの取り組みは、検査性・操作性の両面において、モノつくり現場での安全品質保証をより確実なものとする位置付けと言え、材料組み合わせにおける高い自由度から、今後の更なる基礎研究としての探求により革新的産業技術への進展が見込めます。
本研究成果は、2025年2月20日付で国際科学誌Small Scienceにオンライン公開されました。
詳細は大学Webサイト(
https://www.chuo-u.ac.jp/aboutus/communication/press/2025/02/79006/)をご覧ください。
(用語1)熱電変換
単一材料または異種材料同士の接合箇所における、温度差➡電位差や、電位差➡温度差といったエネルギー変換現象のこと。上記のエネルギー変換において、前者をゼーベック効果、後者をペルチェ効果と呼ぶ。省エネルギー・カーボンニュートラル社会では廃熱の積極的な再利用に向けたキーテクノロジーとして位置付けられており、工場・自動車類が活用現場のターゲットとして注目されている。
▼本件に関する問い合わせ先
中央大学広報室
住所:東京都八王子市東中野742-1
TEL:042-674-2047
【リリース発信元】 大学プレスセンター
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