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AI技術と融合するシミュレーションが未来の産業基盤に<東洋大学SDGs NewsLetter Vol.35>

学校法人東洋大学

AI技術と融合するシミュレーションが未来の産業utf-8

自然科学・工学などのさまざまな分野で、コンピューターによるシミュレーションは重要な役割を果たしてきました。近年はAI技術によってさらなる変化を遂げています。30年以上、シミュレーション科学を専門に研究してきた総合情報学部総合情報学科の中林靖教授に、同分野の進化とその最前線についてお聞きしました。

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科学のフロンティアを広げたデータ科学・AIブーム


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──コンピューターシミュレーションはどのように進化してきたのでしょうか。

科学のパラダイムを表す際に「第一の科学」「第二の科学」「第三の科学」「第四の科学」という言い方があります。第一の科学は、自然界の現象や法則を実験・観察を通じて明らかにしようとした実験の時代。第二の科学は、実験による知識の蓄積から根源的な原理・理論を発見しようとする理論の時代。そして第三の科学が計算科学、いわゆる計算機の力により理論を検証しようとするシミュレーション科学の時代です。

実はコンピューターシミュレーションは、第2次世界大戦において、大砲の弾の軌道を正確に計算して敵方に的中させるために使われ始めました。シミュレーションとは、ラテン語の“similis”(類似)を語源に持つように「あたかもやったように代用する」ことを指します。シミュレーション科学は、例えば原子炉の冷却水の流れであったり、自動車や航空機の空力設計・衝突実験であったり、宇宙の進化(ビッグバンや銀河の形成過程)であったりと、安全性やコスト面、時間的・法律的な制限などから実験による検証ができない分野で重要な役割を果たしています。

最後の第四の時代は、AIなどのデータ科学が該当します。データ科学の到来で科学のフロンティアがさらに広がりました。

──データ科学の発達が、シミュレーションにもたらした変化を教えてください。

第三の科学、いわゆるシミュレーションには理論式が不可欠です。しかし、データ科学が支えるAIは、理論式がなくてもシミュレーションが可能であり、この点が最大の違いと言えます。分かりやすい例はAI将棋で、AIは将棋の方程式を知らずとも過去のデータの蓄積から最善手を導けますが、計算科学では将棋の方程式がなければ勝つ手を考えられません。つまり、AIは、正解の理屈を分からなくても、入力と出力の組み合わせの学習だけで答えを出すことができるのです。しかしそれは同時にAIの弱さでもあります。理屈が分からずに出された結果には誤差が生じやすいからです。

この誤差を埋めるアプローチのひとつに、PINNs=Physics-Informed Neural Networksがあります。AIによる出力結果に、物理の方程式を加えて検算し、誤差を修正させ、機械学習を繰り返すことで精度を高めるというものです。同手法を用いて従来のシミュレーションにAIをハイブリッドすると、計算の速度や精度が格段に向上します。ものづくり工学においても実用性があり、近年は産業基盤として応用しても問題ないほどに研究が進みました。

シミュレーション分野における量子コンピューターへの期待

──シミュレーション技術の進化により、研究内容はどのように変化しましたか。

近年は従来のコンピューターシミュレーションとAIとデータサイエンスを組み合わせたアプローチが盛んです。以前に研究活動の一環で、サッカーのフリーキックが入る確率を上げるサポートシステムの開発に取り組みました。ボールの硬さや弾みなどの材料定数、空気抵抗・変化球の特性といった空力係数を踏まえて軌道をシミュレーションし、最後にAIを用いて誰がどのように蹴れば入る確率が高くなるのかを瞬時に計算するのです。この場合、軌道のシミュレーションまでが第三の科学である計算科学的手法です。すなわち、物理方程式からどのように蹴ればどこに飛ぶのかをシミュレーションしています。一方、実際のフリーキックで有益となる情報は、特定の場所に飛ばすためにはどのように蹴れば良いかという逆のものになります。サポートシステムでは、作成した大量のシミュレーション結果を第四の科学であるAIに学習させることによって、よりボールが入りやすい蹴り方を導いているのです。


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──今後の研究テーマについてお聞かせください。

次にシミュレーション分野で劇的な変化を起こすと目されているのが量子コンピューターです。従来のコンピューターは、「0」か「1」で情報を表すビットを用います。一方で量子コンピューターは、量子力学の「重ね合わせの原理」を利用することで、「0」と「1」の両方の状態を同時に取りながら計算を行えるといった特性があります。これにより、現代社会における複雑な問題のシミュレーションが可能になります。例えば気象予測は、温度・湿度・風速・大気圧など大量のデータをもとに大気の混沌とした変動を捉える必要があり、従来のコンピューターでは限界がありました。量子コンピューターの発展が進めば、より高速かつ正確な気象予測が可能になると期待されます。

今後は、コモディティ化するAIの具体的な利用法を模索するとともに、量子コンピューターを活用したシミュレーションも研究したいと考えています。













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中林 靖(なかばやし やすし)
東洋大学総合情報学部総合情報学科教授/博士(工学)
専門分野:応用物理学・工学基礎/情報学/情報学基礎
研究キーワード:計算力学/人工知能・最適化/モバイル/ネットワークコンピューティング/PINNs
著書・論文等:Accurate fluid-structure interaction computations using elements without mi-side nodes [Computational Mechanics,Vol.48, No.3]等


本件に関するお問合わせ先
東洋大学総務部広報課
mlkoho@toyo.jp
取材お申し込みフォーム
https://www.toyo.ac.jp/press/

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