世界初、SAR衛星を用いた電波の反射成分により道路陥没の予兆を捉える手法を実証~現地作業なしに効率的かつ経済的に道路陥没のリスク把握が可能に~
NTT株式会社

発表のポイント:
合成開口レーダ衛星(SAR衛星)※1のデータを解析することで、道路の陥没予兆を捉える手法を実証しました。本手法により周回するSAR衛星のデータのみを用いて、電波から直接的に道路陥没予兆を捉えることが可能です。
現地作業なしに道路陥没リスクの高い箇所を絞り込むことができます。
今後、自治体との連携による実証実験を通して、さらなる信頼性の向上をめざします。
NTT株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:島田 明、以下「NTT」)は、合成開口レーダ衛星(SAR衛星)から道路陥没の予兆を捉える手法の実証に世界で初めて成功しました。これにより、現地作業なしに効率的、経済的に道路陥没のリスクが高い位置を絞り込むことができます。本技術は道路陥没の予兆を複数偏波※2の電波の散乱※3から把握することで実現しています。また、本技術は道路空洞の点検データとの突合による検証を通じて、技術の信頼性を確認しております。
今後は、本成果を踏まえ自治体との連携による実証実験を通して、さらなる信頼性の向上を図り、社会の安心安全に寄与します。引き続き、「NTT C89※4」ブランドのもとで衛星を活用した社会インフラ関連の課題解決を進めていきます。
なお、本研究成果の一部は、2025年11月19日~26日に開催されるNTT R&D FORUM 2025 IOWN∴Quantum Leap※5に展示予定です。
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図1. 概要
1. 背景
近年、社会インフラの老朽化が進行し、道路の陥没事故が社会問題となっています。一方で、社会インフラを管理する自治体が利用できる予算や人員は限られており、全国に広がる膨大なインフラ設備をくまなく維持管理することは困難な状況です。現在は、下水道等の陥没の原因となる地下構造物へ立ち入っての目視検査や地上からの地中レーダ探査が行われています。しかし、これらの方法は調査範囲が局所的であり、人的・費用的なコストが高く、広域を面的にカバーすることは現実的に困難です。また、地下構造物に起因する陥没は、地中で空洞が進展していきます。一方で衛星は主に地表の状態を観測するに留まっているため、道路陥没への衛星の活用には限界がありました。
また、これまでNTTでは土砂災害の予測に向けて衛星による土壌水分量の推定方法を研究していました。研究により電波は土壌へ浸透しており、電波の浸透量から土壌水分量を高精度に推定可能であることを明らかにしました。※6
2. 研究の成果
このような背景を踏まえ、NTTはアスファルトへの浸透性を有する電波による観測衛星であるSAR衛星で道路を観測し、複数の偏波を解析することで、道路陥没の予兆を捉える手法を実証しました。道路陥没に至る前には(i)地中空洞の形成、(ii)地盤の乱れ、(iii)地表面の凹凸が発生します(図1)。電波の方向や強度を解析することで、(i)~(iii)の状態を計測できます(図2)。さらに、2時期の衛星データの差分から(i)~(iii)の進展度合いを把握します。これらにより、道路陥没の予兆を電波から直接に捉えることができる手法を確立しました。この手法を道路下空洞の点検データと突合して検証を行った結果、衛星データのみを使用して道路下空洞を検出できることを確認しました。従来は車載型の地中レーダにより地中空洞がある位置を特定していましたが、それを本技術に代替することでコストを約85%削減可能となる見込みです。
先に発表した光ファイバーによる地盤モニタリング手法※7は、地下光ファイバーを用いて地中深くにおいて発生した空洞の進展を監視する技術です。道路陥没を引き起こす大規模な空洞をモニタリングし、道路陥没を早期に察知することが可能です。一方で、本技術は衛星の電波を使う特性上、浅い位置に発生している空洞が対象になります。衛星による広域データを用いて表層付近にまで進展した緊急度の高い空洞を検知することが可能です。NTTではこれら特性の異なる技術の相互補完によって、より確実に道路陥没の予兆を検出することをめざしていきます。
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図2. 衛星データで捉える散乱と道路陥没予兆の関係
3. 技術のポイント
(1)衛星データのみで陥没リスク箇所を抽出し、定期観測も可能
本技術は地下埋設物などの設備データ、環境データ、衛星データなどを組み合わせて間接的に道路陥没を予測する技術ではなく、SAR衛星の電波により直接的に状態を計測する技術です。したがって、地球を周回・観測している衛星データのみを入手することで、高い信頼性で道路陥没の予兆を捉えることが可能です。道路陥没のメカニズムは複雑であり、急に進展する可能性もあることから、数年ごとの点検では見逃しが発生するリスクがあります。一方でSAR衛星は定期的に周回しているため、従来の現地作業による点検に比べて高頻度に状態を把握することが容易です。本技術により道路の状態を継続的モニタリングすることで、道路陥没の進展を監視して重大な空洞の見逃しリスクが低減されます。
(2)電波の送受信情報から成分を分析
衛星から送受信された電波は、地表面に到達して反射する際に送信と同じ方向で受信するケースもあれば、方向が変化して受信するケースもあります。この送受信における電波の振動方向の成分を分析することで、図2に示す3種類の散乱成分を捉えることができます。本技術では道路陥没のプロセスと散乱成分に着目することで、道路陥没検知へ応用することに成功しました。
4. 今後の展開
道路陥没の防止に関する点検業務を省労力化・経済化するために事業会社、自治体などと協力体制を構築し、実証実験を通してさらなる信頼性の向上をめざします。自治体の課題を伺いながら、本手法を現場で実際に活用できる形へ発展させてまいります。インフラの老朽化、少子高齢化といった重要課題に対して、持続可能な維持管理技術を社会実装し、安心安全な社会の実現に貢献します。
【用語解説】
※1. 合成開口レーダ衛星(SAR衛星)
人工衛星に搭載されたレーダで電波を照射し、地表から戻ってくる電波を解析して画像化する衛星のことです。雲や夜間でも観測でき、災害状況の把握や森林・農地の監視などに活用されています。
※2. 偏波
電波の振動する向きのことです。電波は波として伝わる際に、揺れる方向が決まっており、それを偏波と呼びます。たとえば、地表面に対して上下に揺れる波は「垂直偏波」、左右に揺れる波は「水平偏波」と呼びます。本技術ではこの違いを利用して、道路の内部と表面の特性を捉えています。
※3. 散乱
電波が物体に当たったとき、様々な方向に飛び散って戻る現象です。SAR衛星はこの散乱の強さを解析して画像化しています。
※4. NTT C89
NTTグループ各社で取り組む宇宙ビジネスのブランド名です。宇宙ビジネス分野における事業拡大とさらなる市場開拓を促し、宇宙産業の発展に貢献していきます。
https://group.ntt/jp/aerospace/
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※5. NTT R&D FORUM 2025 IOWN∴Quantum Leap」公式サイト
https://www.rd.ntt/forum/2025/
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※6. 電波の浸透性を用いて高精度に土壌水分量を推定した論文、Kobayashi, D., Aoki, S., Sato,N. et al. Estimation of relative permittivity for measuring soil texture-dependent water content by GNSS-IR. GPS Solut 28, 210 (2024).
https://doi.org/10.1007/s10291-024-01747-y
※7. NTTニュースリリース:道路陥没リスクの早期発見に向けた光ファイバーによる地盤モニタリング手法を実証
~地中深部を常時モニタリングして安全な社会の実現に貢献~
https://group.ntt/jp/newsrelease/2025/10/21/251021a.html



記事提供:Digital PR Platform