NTTとOptQC、スケーラブルで信頼性の高い実用的な光量子コンピュータの実現に向けた連携協定を締結~光技術が切り拓く量子の未来 ― 100万量子ビットの光量子コンピュータ実現に向けて~
NTT株式会社
NTT株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:島田 明、以下「NTT」)とOptQC株式会社(本社:東京都豊島区、代表取締役CEO:高瀬 寛、以下「OptQC」)は、スケーラブルで信頼性の高い光量子コンピュータの実現に向けた連携協定を締結しました。本協定では、量子コンピュータの実用化に不可欠な「スケーラビリティ」と「信頼性」を確保するために、光増幅技術や光多重化技術などの光通信技術を光量子コンピュータの開発に応用し、大規模かつ複雑な社会課題の解決に貢献する光量子コンピュータの早期実用化を目指します。
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光量子コンピュータの実用化に向けて
1. 背景
近年、新薬の開発や新材料の設計、金融の最適化や気候変動の予測など、従来のコンピュータでは計算に膨大な時間を要する複雑な課題に対して、量子コンピュータの活用が期待されています。しかし、現在の量子コンピュータは非常に繊細で、わずかなノイズや揺らぎによって量子状態が乱れ、正しい結果が得られなくなることがあります。実用化に向けては、100万量子ビットの生成と、誤り訂正技術を用いた数千の論理量子ビットの安定的な生成・制御が必要となります。
現在、世界各国でさまざまな方式の量子コンピュータが研究開発されていますが、多くは低温や真空といった特殊な環境を必要としており、実用化には高い技術的ハードルがあります。こうした中、光の特性を活用する「光量子コンピュータ」は、消費電力が低く、常温・常圧で動作可能な新しいアプローチとして注目されています。
NTTは、光の技術を軸としたIOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想のもと、光通信分野において、量子光源としても活用可能な光増幅技術や光多重化技術、量子分野への応用が期待される誤り訂正技術の研究開発を進めてきました。また、いくつかの技術については、光量子コンピュータへの応用を開始しています。例えば、光増幅技術を活用した量子光源をすることで、世界に先駆けて従来の1000倍以上もの高速な量子の生成を実現しました。
OptQCは、東京大学における25年にわたる光量子コンピュータの基礎研究を土台として設立されたスタータップ企業です。常温・常圧で動作する新型光量子コンピュータの世界初の実現や、光増幅器を用いた超広帯域量子測定、誤り訂正のための量子ビット生成など、光量子コンピュータの根幹をなす様々な技術を実現してきたメンバーが、その中心となっています。現在は、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業」で1万量子ビット光量子コンピュータの開発を進めています。
2. 取り組み概要
NTTとOptQCは、NTTが有する光通信技術と、OptQCが有する光量子コンピュータ開発技術を融合し、スケーラブルで信頼性の高い実用的な光量子コンピュータの実現をめざします。具体的には、量子コンピュータの実用性の指標となる100万量子ビット規模のスケーラビリティと、信頼性を担保する誤り耐性技術の確立を、2030年までに達成することを目標としています。
本連携では、下記についての共同検討を開始します。
(1)光量子コンピュータに活用可能な多重化技術や誤り訂正技術の創出
(2)光量子コンピュータを用いたユースケース創出やアルゴリズム・ソフトウェアの開発
(3)光量子コンピュータのサプライチェーン
(4)光量子コンピュータやユースケースの社会実装
3. 今後の展開
NTTおよびOptQCは、今後5年間にわたり共同検討を実施します。初年度は、技術検討に着手するとともに、ユースケース創出に向けて、本取り組みに賛同いただけるパートナーとの連携を進めてまいります。2年目には、開発環境を構築し、3年目にはユースケースの検証を実施します。NTTとOptQCは、2030年までに、100万量子ビットの光量子コンピュータを実現し、社会課題の解決に貢献するアプリケーションの開発を目指して、取り組みを進めてまいります。
4. 関連する過去の報道発表
・2024年11月8日「新方式の量子コンピュータを実現-世界に先駆けて汎用型光量子計算プラットフォームが始動-」(
https://group.ntt/jp/newsrelease/2024/11/08/241108a.html)
・2025年1月29日「高速でリアルタイムな光量子もつれ生成--従来の1000倍以上の高速量子相関が開拓する新時代--」(
https://group.ntt/jp/newsrelease/2025/01/29/250129a.html)
【用語解説】
※1. 量子コンピュータ
量子力学の原理を利用した、現在の(古典)コンピュータとは異なる方式で動くコンピュータ。特定の問題を高速で解けることが知られている。例えば、量子系の効率的なシミュレーションや素因数分解などの問題が高速に解けると期待されている。
※2. 光量子コンピュータ
従来の古典コンピュータでは、電気信号によって表される情報が半導体プロセッサによって処理される。光方式では、光が情報の担い手となる。光の光子数、偏光、振幅などさまざまな光の物理量を用いる方式がある。
※3. 論理量子ビット
複数の量子ビットを組み合わせて訂正を行い、安定した計算を可能にする量子ビットの単位。実用的な量子計算には、物理的な量子ビットではなく論理量子ビットが重要な指標となる。
※4. 光増幅技術
光信号を強める技術。通信分野では、遠距離伝送で弱くなった光を増幅して情報を正確に届けるために使われる。量子コンピュータでは、この技術を応用し、量子状態を担う光を安定的に供給することで、大規模な計算に必要な量子光源を実現する。
※5. 光多重化技術
複数の光信号を一つの伝送路で同時に送信する技術。異なる波長の光に異なるデータを割り当てる波長分割多重、時間を分割して異なる時間に異なるデータを割り当てる時間分割多重などがある。
※6. 誤り訂正技術
計算中に生じる誤りを検出し、正しい状態に戻す技術。量子コンピュータは非常に繊細で、わずかなノイズでも結果が乱れるため、誤り訂正は不可欠。通信分野で培われた誤り訂正の仕組みを応用し、量子計算の信頼性を高める。
※7. 量子もつれ
量子力学的な現象であり、物理量の間に生じる特殊な相関となっている。この相関のもとで、量子もつれを有する2者がたとえ離れた場所に位置していても互いに影響を及ぼしあうことが知られている。この現象は古典物理学の範囲では説明することができず、アインシュタインも「不気味な遠隔作用」と呼び、その奇妙さを指摘していた。現在、多くの先行実験によって、量子もつれの存在は実証されており、2022年には量子もつれの実証に貢献した3名にノーベル賞が授与されている。
記事提供:Digital PR Platform