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世界初、通信状況に応じた光伝送レイヤの自動制御により、短時間で光波長パスを経路切替・追加する技術の実証に成功 ~激甚災害時に10分以内でトラヒック迂回が可能に~

NTT株式会社

世界初、通信状況に応じた光伝送レイヤの自動制utf-8

発表のポイント:

NII、NTT、NTT東日本は、激甚災害時のネットワーク維持を想定し、通信状況に応じて光伝送レイヤの制御・制御を自動化することで、波長変換を含む光波長パス※1における経路切替・追加を短時間で実現する技術の実証に世界で初めて※2成功しました。
本実験では、NIIのIPコントローラとNTTのAPN※3コントローラ※4が連携制御することで、トラヒックの迂回に最適な光信号レートと波長を自動で設計・設定し、機器追加や波長リソースの事前確保を行うことなく、トラヒック迂回が10分以内に実施できることを確認しました。
今後、本技術を光伝送ネットワークに適用することで、災害時の迅速なトラヒック迂回を可能とし、先端技術研究を支える高信頼な通信基盤の実現に貢献します。


 大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 国立情報学研究所(本所:東京都千代田区、所長:黒橋 禎夫、以下「NII」)、NTT株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:島田 明、以下「NTT」)、NTT東日本株式会社(本社:東京都新宿区、代表取締役社長:澁谷 直樹、以下「NTT東日本」)は、激甚災害時のネットワーク維持を想定し、通信状況に応じて光伝送レイヤの設計・制御を自動化することによって、波長変換を含む光波長パスにおける経路切替やオンデマンド追加設定を短時間で実現する技術の実証に世界で初めて成功しました。本成果により、迅速な光波長パスの経路切替・追加提供が可能となり、先端技術研究を支える高信頼な通信基盤の実現と、その利便性の向上が期待されます。

1.背景
 NIIが構築・運用する学術情報ネットワーク(SINET)※5は、日本全国の大学・研究機関に提供される学術情報基盤です。各地域のSINET拠点を介して全国の大学・研究機関が接続し、 400Gbpsの超高速回線により、日本の学術研究を支える全国規模の通信ネットワークを形成しています。 近年は、大型実験装置やビッグデータなど研究で扱うデータ量が急速に増加しており、それらの増大する大容量データを、途切れなく転送するための信頼性の強化が重要になっています。
 一方で、昨今激甚化する風水害や地震等の災害による光ファイバの切断等による通信障害が相次いでいます。激甚災害で光ファイバが障害を受けた場合のサービス復旧技術として、あらかじめ準備した予備経路への即時切替(プロテクション切替※6)があります。さらに、予備経路への切替後も障害が長期化するリスクに備え、新たな予備経路への切替(リストレーション切替※7)を行うことで、信頼性の向上が期待できます。しかし、予備経路を探索・確保するためには、波長リソースや設備の事前準備が必要であり、さらに伝送経路の評価・選定などの工程を手動で実施していることから、実際に予備経路を探索・確保してトラヒック迂回するまでに数時間かかることもあります。
 NTTでは、リストレーション切替を短時間で実現する技術や、その制御機能を応用したオンデマンド光波長パス設定を実現する技術の開発を推進しており、光信号レート、伝送方式※8、波長を自動で評価した上で最適設定するAPNコントローラ技術の開発を進めています。
 今回、NTT東日本の商用光ファイバケーブルと、NTTの伝送装置、APN コントローラ、波長変換器、光トランシーバを実装したスイッチ装置を用いて構築した光伝送ネットワークに、NIIのIPコントローラおよびデータ転送サーバ(MMCFTP※9)を組み合わせ、2つのコントローラによるマルチオペレーション連携を実現しました。この環境下で、光波長パスの経路切替とオンデマンド追加(増速)の2つのユースケースに関する実証実験を実施しました。
 



[画像1]https://digitalpr.jp/simg/2341/124942/700_259_2025121714391569424203a7cb2.jpg
  




図1.APNコントローラおよびIPコントローラを用いた連携制御による
光波長パスの経路切替(リストレーション切替)の概要図
 
2.研究の成果
 東京都内の3つのデータセンタ(A、B、C)を光ファイバで接続した光伝送ネットワーク環境において、以下の2つのユースケース検証を実施しました。

実験1:光波長パスの経路切替(図2)
 本実験では、激甚災害により、先端研究用トラヒックが流れる伝送経路が寸断された場合を想定し、リストレーションによる経路切替を自動で実行してトラヒックの転送を復旧させるような、以下シナリオを検証しました。
①光伝送ネットワークの経路障害(A-C間)を模擬
②迂回経路のルートを自動設計し、伝送特性・光信号レートを事前診断
③診断結果に基づき、光信号レートを200Gbps(A→C)から100Gbps(A→B→C)に変更した光波長パスを迂回経路として自動設定し、伝送経路を切替
④変更後の光信号レートに合わせ、IPコントローラがスイッチ装置へのトラヒック制御を実施し、一部のトラヒックを回復
⑤光信号レートを下げた分を補うために、経路上で波長変換を行った100Gbpsの光波長パス(A→B→C)を追加で自動設定
⑥IPコントローラがスイッチ装置へのトラヒック制御を解除
上記実験の結果、経路切替の操作開始から10分以内に全トラヒックの転送が回復したことを確認しました。
 

[画像2]https://digitalpr.jp/simg/2341/124942/700_344_2025121714391569424203bb71c.jpg


図2.実験1における構成
  
実験2:オンデマンド増速(図3) 
 本実験では、先端研究の実施状況に応じて通信基盤の利用帯域を拡張する場合を想定し、実験1で検証した経路切替の自動化機能を応用することで、オンデマンドで回線を増速する設定を自動で行うような、以下シナリオを検証しました。
①IPコントローラが100Gbpsから200Gbpsへの増速要求を送出
②APNコントローラが100Gbpsの光波長パスを追加で自動設定
③IPコントローラがスイッチ装置にトラヒック分散制御を実施
上記実験の結果、増速した光波長パスにより全トラヒックが転送できたことを確認しました。
 

[画像3]https://digitalpr.jp/simg/2341/124942/700_301_2025121714391569424203b90ae.jpg


図3.実験2における構成
 
3.技術のポイント
(1)オンデマンドでの光波長パス設定を可能にするAPNコントローラ
 現状、光波長パスの開通や増速には、設備情報や波長リソースの確認、伝送経路の選定、光ファイバ条件を踏まえた伝送到達性の評価など、複数の工程を手動で行う必要があります。エンドツーエンドで波長リソースや伝送到達性が確保できない場合には、伝送経路や伝送方式(変調方式など)を見直す必要もあり、光波長パスの提供までに数時間以上かかることもあります。
 今回開発したAPNコントローラ技術は、エンドツーエンドで波長リソースが確保できない場合でも、波長変換器を含む最適なルート、波長、伝送方式などを自動かつ一元的に設計し、光波長パスの迅速な開通や経路切替を実現します。

(2)波長変換技術
 光波長パスの設定では、エンドツーエンドで同一波長を確保する必要があります。しかし、激甚災害発生時などのオンデマンドな迂回経路の設定をする必要がある場合には、同一波長が確保できないことがあります。従来は、経路上に高価なトランスポンダを配置し、光信号を電気デジタル信号へ変換した後に波長を変換することで光波長パスを設定していましたが、電気デジタル信号処理に伴う遅延や消費電力の増加が課題でした。
 本技術により、波長変換に伴う遅延や消費電力の増加を最小限に抑えた光波長パスの設定が可能となります。

(3)多様なサービス提供形態を実現する制御分離技術※10
 光トランシーバ※11の小型化により、これを収容可能なルータやスイッチ装置が登場し始めています。これにより、ルータやスイッチ装置から直接APN網に接続することができ、省スペース化や装置コストの低減が期待されます。一方で、光トランシーバに対する波長やレーザパワーの指定、光レイヤの監視など、APN接続に必要な設定が求められ、管理が複雑化する懸念があります。
 本技術では、ルータやスイッチ装置が本来有するレイヤ2/3機能と、APN接続に必要な光レイヤ機能の制御権限を分離し、APNサービス提供事業者が保有するAPNコントローラから光トランシーバを制御します。これにより、サービスネットワーク事業者やユーザは光レイヤを意識することなく、高速・低遅延な伝送サービスを利用することが可能となります。
 

[画像4]https://digitalpr.jp/simg/2341/124942/700_346_2025121714391569424203ba87b.jpg


図4.要素技術の実装概要 
 
4.各組織の役割
 

[画像5]https://digitalpr.jp/simg/2341/124942/600_321_2025121714391569424203b3bcc.jpg


図5.各組織の役割
 
5.今後の展開
 本実験ではマルチレイヤでのオペレーション連携により、激甚災害時を想定した予備経路の自動探索・確保によるトラヒック迂回を10分以内で実施できることを確認しました。本成果の適用により、光伝送ネットワークのさらなる信頼性向上が期待されます。
 NIIは、世界最高性能のネットワーク基盤SINETの整備を通じ、日本の研究・教育の発展を引き続き支えていきます。また、今後も高速・大容量性、高信頼・安定性向上をめざします。
 NTTは、IOWN APNのさらなる普及拡大に向け、光伝送ネットワークの信頼性向上とオンデマンド回線提供を可能とする高度化技術の開発やユースケース検討を推進してまいります。
 NTT東日本は、大容量・高信頼な光伝送ネットワークを活用したサービスの実現にむけて、検討を進めてまいります。

6.関連する過去の報道発表
・2024年11月12日「エンドツーエンド光接続時の波長を有効活用する長距離光伝送技術を確立~光と電気アナログ信号による波長変換技術を活用した光ノードシステムを開発~」https://group.ntt/jp/newsrelease/2024/11/12/241112b.html
・2025年3月31日「オープン仕様に基づくIOWN APNにおいて1Tbps級光ネットワークの自動設定を実現 ~光波長回線をオンデマンドに即時に提供する技術をOFC2025で実演~」https://group.ntt/jp/newsrelease/2025/03/31/250331a.html

【用語解説】
(※1)
光波長パス
光伝送ネットワークにおいて、送信機から受信機まで光信号が伝送される経路をさします。

(※2)
世界で初めて
2025年12月18日現在、NTT調べ

(※3)
APN
APN(All-Photonics Network)とは、ネットワークから端末まで、すべてにフォトニクス(光)ベースの技術を導入し、これにより現在のエレクトロニクス(電子)ベースの技術では困難な、圧倒的な低消費電力、高品質・大容量、低遅延の伝送を実現します。詳しくは以下ホームページを参照ください。
■オールフォトニクス・ネットワークとは
https://www.rd.ntt/iown/0002.html

(※4)
APNコントローラ
APNコントローラ(APN-C)は、APNを構成する光伝送装置や光トランシーバ(およびトランスポンダ)を制御し、エンドツーエンドの光波長パス設定、開通・保守、各種情報収集など、APN運用に必要な機能を備えた、APNを実現する上で重要な要素の1つです。

(※5)
SINET
大型実験施設等の共同利用、各研究分野での連携力強化、世界各国との国際連携、学術情報の発信やビッグデータの共有、大学教育の質的向上、地方創生や地方大学の知識集約型拠点化・産学連携等のための学術専用のネットワークです。全都道府県にノード(ネットワークの接続拠点)を設置して400Gbps回線(沖縄は2本の100G回線)で結び、1000以上の大学、研究機関等に対してサービスを提供しています。

(※6)
プロテクション切替
光伝送ネットワークの障害発生時に、あらかじめ準備した予備経路へ即時に切替を行うことで、サービス停止時間を最小限に抑えるための障害回復(冗長化)技術です。即時切替を可能とするため、予備経路には光信号を常時導通させておくのが一般的です。

(※7)
リストレーション切替
光伝送ネットワークの障害発生時に、既設の光トランシーバの波長や経路を遠隔制御で切り替えて迂回経路を復旧させる技術です。これは、CDC-ROADM(Colorless, Directionless, Contentionless - Reconfigurable Optical Add/Drop Multiplexer)という、光伝送装置における信号の自由度を最大限に高める技術を基盤としています。

(※8)
伝送方式
伝送方式とは、ボーレート(1秒あたりの変復調回数)と変復調方式(QPSK、16QAMなどの光変復調方式)の組み合わせをさします。同じ信号速度であっても、ボーレートと変復調方式の組み合わせによって、伝送距離は大きく異なります。そのため、信号速度や伝送距離の要件に応じて、適切な伝送方式を選択することが重要です。

(※9)
MMCFTP
遅延の大きさやパケットロス率などのネットワーク状況に応じて、TCPコネクション数を動的に調整することで、安定した超高速データ転送を実現するファイル転送プロトコルです。ビッグデータの転送時には、多数のTCPコネクションを同時に使用する点が特徴です。

(※10)
制御権限分離技術
制御権限分離技術の詳細については、以下ホームページを参照ください。https://www.rd.ntt/iown_tech/post_68.html

(※11)
光トランシーバ
光信号を送信・受信する機能を有する装置です。

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