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「データスペース」が実現する安全なデータ共有基盤と分野を越えた社会・産業の連携<東洋大学SDGs NewsLetter Vol.43>

学校法人東洋大学

「データスペース」が実現する安全なデータ共有utf-8

無数のデジタルデータがあふれる現代において、データはかつてない大きな価値を持つようになりました。一方で、巨大企業のプラットフォームにデータが集中する状況も顕在化しています。課題の解決策として注目されているのが、さまざまな組織が安全にデータを共有できる「データスペース」という仕組みです。その社会実装に向けた研究を進める経営学部経営学科の高梨千賀子教授に話をお聞きしました。

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国や組織を超えた新たな情報共有のあり方


──「データスペース」とはどのような仕組みなのでしょうか。

データスペースは、組織や国を超えて、データを安全かつ自由に共有するための新しい仕組みです。特定の組織がデータを集約するのではなく、各データの提供者が自らのデータの扱い方を決定できる「データ主権」を保持したまま、定められたルールの下で共有する点に特徴があります。これにより、イノベーションやサステナビリティに関わる新たな価値を生み出すと期待されています。現在、欧州を中心に標準化、すなわちルール整備が進められており、社会実装も段階的に進んでいます。

──データスペースの概念はどのようにして生まれたのでしょうか

インターネットの普及に伴い、アメリカではGAFAに代表される巨大IT企業が台頭し、プラットフォーム型ビジネスモデルによって急成長を遂げてきました。一方で、特定企業のプラットフォームにデータが集中してしまい、データの提供者が情報の利用目的や範囲を十分に制御できないという課題も顕在化しました。こうした問題意識から生まれたのが「データ主権」という考え方でした。 
現代の複雑な社会課題は、一企業が保有するデータのみでは解決が困難であり、組織の枠を超えた情報の連携が不可欠です。しかし、自社データの共有には、権利侵害や競争力の低下などのリスクが伴います。そこで2015年前後にドイツで提唱されたのが、データを保持する企業や団体の「データ主権」を保証しつつ、安全に情報を共有・活用できるデータ共有基盤「データスペース」の概念です。

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ビジネス分野にとどまらない大きな可能性



──データスペースが実現すると、具体的に何が可能になるのでしょうか。


データスペースは中小企業にとって、新たなビジネス参入の機会を広げる基盤となります。これまでアクセスが難しかった産業データを一定のルールの下で活用できるようになれば、規模に依存しない競争が可能になります。一方で大企業にとっても、サプライチェーン全体の最適化や外部企業との協創を通じたイノベーション創出につながり、エコシステム全体の価値向上が期待されます。このように、データスペースは単なる「データ共有の仕組み」ではなく、競争環境そのものを再設計する基盤と捉えることもできます。

──データスペースはビジネス以外の分野でも活用できるのでしょうか。

データスペースの活用範囲はビジネスにとどまりません。行政サービスや政策の高度化など、公共分野での活用も期待されています。例えば、国が持つ地形データと産業データを連携させることで、インフラを最適化したり、防災機能を強化したりと、スマートシティの実現に寄与する可能性があります。また、診察や健康診断で得られた個人の健康状態のデータを安全に共有できれば、医療機関を問わず適切な治療を提供しやすい環境が整うでしょう。大学をはじめとする研究機関にとっても、データスペースは有効な研究基盤となります。従来は扱いにくかった産業データを学術データと組み合わせることも可能となるため、産学連携によるイノベーションがより一層加速すると期待します。

欧州、そして日本でも加速する社会実装の動き

──現在、社会実装はどの程度進んでいるのでしょうか。


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欧州では2020年前後にドイツとフランスの主導により「Gaia-X」というデータスペースのプラットフォームが設立されました(構想は2019年、法人化は2021年)。これと連携する形で、自動車産業に特化したエコシステム「Catena-X」の実装も進んでいます。「Catena-X」では、製造プロセスにおけるCO2排出量データを共有するなど、サステナビリティに貢献する取り組みが行われており、サプライチェーン全体で脱炭素を目指す仕組みが運用されています。また、2016年に立ち上がったIDSA(International Data Spaces Association)という組織では、ルールブック作成や認証フレームワーク構築などデータスペースの標準化に向けた取り組みが進行中です。日本は社会実装の遅れが指摘されてきましたが、経済産業省が推進するウラノス・エコシステムをはじめとする取り組みが進展しています。これらを技術面から支える共通コンセプトとして、情報処理推進機構IPAは「Open Data Spaces(ODS)」というリファレンス仕様を提示しており、国内における相互運用性確保の基盤づくりが進められています。


──今後のビジョンについてお聞かせください。

データスペースの真価は、産業やプロジェクトの枠を超えて多様な組織が参画する「エコシステム(生態系)」を構築できる点にあります。解決すべき社会課題に応じて最適なプレイヤーを配置し、分散していたデータが安全に共有されることで、新たな価値の共創が可能となるのです。例えば交通インフラを整備する場合、高齢者を取り残さないモビリティ・サービスを構築するためには、自動車メーカーだけでなく、鉄道会社やタクシー会社など、さまざまな主体の参画が求められるでしょう。
社会実装にあたっては、国や組織ごとに異なる文化や法制度への対応が不可欠です。現在、IDSAなどの国際標準策定の場では、互いの違いを認め合いながら、最低限の共通ルールを定める方向で議論が進んでいます。データ共有を通じて産業構造そのものを変革し得るデータスペースの動向を注視しながら、新たな価値創造に貢献していきたいと考えています。


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高梨 千賀子(たかなし ちかこ)
東洋大学経営学部経営学科教授/博士(商学) 専門分野:人文・社会/経営学 研究キーワード:イノベーション/国際標準化と知財/ビジネスモデル  著書・論文等:DXと企業成長に関する一考察:生産現場のDXを企業成長に結びつけるプロセスとその阻害要因[『研究 技術 計画』Vol.39, No.2]/デジタル・プラットフォーム解体新書(共著)[近代科学社]





本件に関するお問合わせ先
東洋大学総務部広報課
mlkoho@toyo.jp
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