鹿児島大学・山中特任助教ら、宇宙のチリに隠された超新星を赤外線で観測、ブラックホール誕生プロセスの解明に迫る研究成果を発表
国立大学法人鹿児島大学

鹿児島大学特任助教 山中 雅之を中心とするグループは、鹿児島大学の望遠鏡を使った観測による研究成果をまとめた論文を出版いたしました。本研究では、チリに隠された超新星「SN 2023dbc」を赤外線で観測し、爆発が「ゆがんだ形」であったことと、ブラックホール誕生の可能性を初めて明らかにしました。
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https://www.atpress.ne.jp/releases/603245/LL_img_603245_1.png
図1:チリの向こう側にある「ゆがんだ形」の超新星爆発のイメージ図。可視光線はチリによって暗くなり、赤外線は影響が少なく透過しやすい。また、「ゆがんだ形」の中心では、ガスが中心に落ち込み、ブラックホールが誕生している可能性がある。本画像は山中が対話型生成AI ChatGPTを用いて作成。
■研究のポイント
・「超新星」とは星の最期の大爆発です。時に宇宙の「チリ(塵)」にさえぎられます。赤外線はチリを見通すことができます。研究グループは独自に開発した装置kSIRIUS(ケーシリウス)を用いて赤外線を観測しました。そして、チリに隠された超新星の性質を解明することに成功しました。
・超新星はとても遠く、爆発の「形」を画像上に分解することができません。そこで、私たちは理論的なモデルでデータを検証しました。その結果、この爆発が綺麗な球形ではなく、「ゆがんだ形」をしていたことを突き止めました。
・さらに、ガスを温める熱源が、想定をはるかに下回る量(通常の10分の1程度)であったことも明らかにしました。これは、爆発が起こったと同時に星の一部のガスが、中心に落ち込み、「ブラックホール」が誕生した可能性を示すものです。
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図2 鹿児島大学望遠鏡(入来観測所)に搭載した赤外カメラkSIRIUSで撮影された超新星の赤外写真。矢印の先にあるのが超新星 SN2023dbc。右に見える明るいコアから左斜め上に伸びているのは、銀河 M108(メシエ108)。
■背景:穏やかな夜空の向こうで、秘かに起こる星の爆発
夜空の星々はずっと穏やかに光り輝き続けるでしょうか。それとも、ある日突然まぶしく輝き出すでしょうか。実は宇宙には、突如として華々しく輝き出す現象が知られています。「超新星爆発」です。世間では、スポーツや芸能界で突如現れた期待の新人に対して「超新星のごとく現れた」という表現が使われることがあります。しかし実際には、新しく星が生まれる現象ではありません。星の爆発にともなって、宇宙空間へとガスを激しく吹き飛ばす「星の断末魔」なのです。
その爆発エネルギーは凄まじく、数千億個もの星が集まる「銀河」一つ分に匹敵する明るさで輝きます。ところが、私たちの住む天の川銀河の中では、過去400年もの間、一度も見つかっていません。そのため、現代の天文学者が研究対象とする超新星は、すべて非常に遠方にある「外の銀河」で発見されます。
■課題:遠すぎて見えない「形」と、光をさえぎる「チリ」
天文学の世界において、超新星にはまだ多くの謎が残されています。特に「星はどんな形で爆発しているのか?」という点です。美しい球形か、それとも歪んでいるのか、これまで明らかにはなっていませんでした。爆発の形が分かれば、星の爆発メカニズムが分かります。しかし、超新星までの距離はあまりに遠すぎ、どんなに高性能な望遠鏡を使っても、その形を直接拡大して撮影することはできません。
さらに天文学者を悩ませるのが、銀河の中を漂う「チリ(塵)」の存在です。超新星の手前に厚いチリが存在していると、光が遮られてしまい、暗くなってしまいます。2023年3月におおぐま座の銀河(M108)で発見された超新星「SN 2023dbc」も、まさにそんな厚いチリのベールに隠された爆発でした。
■方法:チリを見通す「赤外線」と、形を読み解く「分析」
鹿児島大学の山中 雅之 特任助教を中心とする研究チームは、このチリの向こう側の超新星の真実を暴くため、独自のアイディアで観測と研究を行いました。
人間の目に見える「可視光線」だけでなく、チリをすり抜けて進むことができる「近赤外線」に着目したのです。当時、鹿児島大学の永山研究室は「kSIRIUS(ケーシリウス)」と呼ばれる赤外線カメラの開発を完了したところでした。3色の赤外線を同時に撮影することができ、超新星のように明るさを時々刻々変化させる現象の研究にはうってつけの性能を有します。
今回の研究ではインド天体物理学研究所との共同観測体制を敷きました。インド側で「可視光線」、鹿児島側で「赤外線」という役割分担で観測を実施しました。そして、約4か月間にわたり継続的に観測を実施しました。
■結果:「ゆがんだ爆発」と「少量の熱源」:ブラックホール誕生の可能性
私たちはまず、チリによってどの程度光がさえぎられているのか調査しました。この超新星の「可視光線」はチリによって、本来の明るさのわずか2%程度にまで暗くなっていたことが判明しました。一方で、「赤外線」はそれほど暗くはなっておらず、60%程度を保っていました。これらの影響を正しく評価することで、超新星が放った「真の明るさ」を復元することに成功したのです(図1参照)。
そして、次に私たちは「真の明るさ」を支える熱源の量を計算しました。その結果、驚くべき事実が浮かび上がりました。熱源の質量はわずか「太陽の4%程度」であるとわかりました。通常の超新星では太陽の30%程度の重さの熱源を持つことが知られています。これに比べると、なんと10分の1程度しか存在しないことが分かったのです。
さらに、理論モデルを用いて、時々刻々と変わる明るさを検討しました。超新星は爆発にともないガスが外側に向かって飛び出しますが、それらのうち、特に外側では密度が低く、内側がとても濃い(密度が高い)ことが判明しました。これは、超新星がボールのような綺麗な球形ではなく、ある方向へガスが大きく噴き出す「ゆがんだ爆発」を起こしていたことを意味します。星が爆発した瞬間に、ガスの一部が中心に向かって軌道を描きながら落ち込み、ブラックホールが誕生した可能性を強く示すものです。
■波及効果と将来への期待
今回の研究で、たとえ宇宙のチリにさえぎられた暗い爆発であっても、赤外線を用いれば正しく「真の明るさ」を推定できることを立証できました。推定された熱源の量は、とても少ないという奇妙な性質を持っていました。もしかすると、これまでに「数々の奇妙な超新星」がチリに隠されて見過ごされてきたのかもしれません。当研究グループは今後も、鹿児島の望遠鏡を使って赤外線観測を続ける予定です。これにより、チリに隠された超新星の謎をさらに突き止めていきます。
また、本研究で対象となった超新星「SN 2023dbc」は、中心に物質が落ち込み、ブラックホールを形成した可能性があります。近年、重力波などの宇宙を視る「新しい眼」によって、ブラックホール同士の合体の証拠が突き止められるなど、その存在は立証されつつあります。星の一生の成れの果てにブラックホールが形成されるプロセスがあることは間違いありません。本研究はその謎に満ちた形成プロセスの理解を大きく進める一助になるものと期待されます。
掲載誌情報
【発表雑誌】 Publications of the Astronomical Society of Japan
【論文名】 SN 2023dbc in M108: Optical and Near-Infrared Observations of a Highly-Obscured, Moderately Energetic Stripped-Envelope Supernova
【著者】 Masayuki Yamanaka, Takahiro Nagayama, Akari Kumano, Devendra Kumar Sahu, Avinash Singh, Hrishav Das, G. C. Anupama
【DOI】
https://doi.org/10.1093/pasj/psag068
【掲載 URL】
https://academic.oup.com/pasj/article-lookup/doi/10.1093/pasj/psag068
■鹿児島大学について
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