【東芝】高低差がナノスケールの極微小な欠陥をワンショットで3D形状に可視化する光学検査技術を開発 -独自の光学機器とアルゴリズムで、半導体製造における極微小な欠陥を1枚の撮像画像から瞬時に識別-
株式会社 東芝
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2025年2月26日
株式会社 東芝
東芝情報システム株式会社
高低差がナノスケールの極微小な欠陥をワンショットで3D形状に可視化する光学検査技術を開発
-独自の光学機器とアルゴリズムで、半導体製造における極微小な欠陥を1枚の撮像画像から瞬時に識別-
概要
株式会社東芝(以下、東芝)と東芝情報システム株式会社(以下、東芝情報システム)は、生産現場における外観検査において、製品の表面の極微小なナノスケール(*1)の高低差を持つ欠陥(キズなど)を1枚の撮像画像から3D形状に瞬時に可視化する新たなワンショット光学検査技術を開発しました。東芝グループが開発したワンショット光学検査技術はマイクロスケール(*2)の微小な欠陥を検出し、現在、さまざまな検査装置に適用されています。今般新たに開発した技術は、数十ナノメートルの高低差を持つ欠陥に対応します。極微小な欠陥を瞬時に検出することが求められる半導体製造における検査に適しており、検査工程の効率化と歩留まり向上に貢献します。
新技術はカラーフィルターを用いた独自の撮像光学系技術をベースとしています。対象物に入射された照明の反射光の方向情報を色の分布画像として撮像する技術ですが、今般、カラーフィルターを従来の同心円状(*3)からマルチカラーのストライプ状に変更し、ワンショット画像から数十mm角の視野にわたり、対象物の傾斜角に応じた反射光の角度分布を取得できるようにしました。さらに、取得した角度分布から高低差がナノスケールの極微小な欠陥を3Dで出力する独自のアルゴリズムを開発しました。本アルゴリズムは事前学習が不要な独自の教師なしディープニューラルネットワーク(以下、DNN)を用いており、効率的に表面の極微小な欠陥を3D形状で再構築します。
本技術を半導体製造に用いるシリコンウエハーに適用した結果、従来技術では検出できなかった高低差がナノスケールの極微小な欠陥を瞬時に3D形状で可視化できることを確認しました。
東芝と東芝情報システムは、本技術に関する論文を光学とフォトニクスの分野で世界的権威のある学会OPTICAの論文誌「Optics Continuum」に投稿し、オープンアクセスジャーナルとして掲載される予定です(*4)。
開発の背景
デジタル化の進展、生成AIや電気自動車(EV)の普及に伴い世界的に半導体需要が拡大する中、半導体の生産効率や歩留まりの向上に加え、欠陥の早期検出による材料・エネルギーの削減(不良品ロスの低減)といった持続可能性の向上が求められています。
東芝は、従来より、微小な欠陥を可視化するワンショット光学検査技術の開発に取り組んできました。カメラによる撮像画像を用いる検査手法においては、対象を「面」で捉える「エリアカメラ」と、「線」で捉える「ラインカメラ」があります。エリアカメラは面が広い対象物の検査、ラインカメラは製品が連続的に高速に流れるライン上での外観検査にそれぞれ適しています。東芝は、反射光分布をBRDF(Bidirectional Reflectance Distribution Function)と呼ばれる分布関数として取得するワンショットBRDF (OneShotBRDF™)の開発を進め、2019年にはエリアカメラ向け(*3)、2022年にはラインカメラ向け(*5)の技術開発に成功し、東芝情報システムが販売推進を行っています(*6)。
双方の技術とも高低差がマイクロスケールの微小な欠陥を検出しますが、半導体ウエハーのように、より高い精度の検出が求められる半導体分野においては、欠陥有無の判定だけでなく、深さ・大きさ・形状に応じた修復作業を実施するためにも、高低差がナノスケールの極微小な欠陥を含めて高精度かつ高速に3Dで検出する技術が求められていました。
極微小な欠陥を検出する手法として、白色干渉を用いた測定手法がありますが、光軸方向に対物レンズをスキャンしながら複数枚の画像を取得する必要があります。さらに3D形状に再構築するのに複雑な画像処理が必要で、膨大な時間がかかります。
そこで東芝と東芝情報システムは、エリアカメラ方式を用いて、高精度な欠陥の検出が求められる半導体ウエハーの検査などへも適用可能な、ナノスケールの凹凸を瞬時に3D形状で可視化する技術の開発に取り組みました。
本技術の特長
東芝と東芝情報システムは、カラーフィルターを従来の同心円状からマルチカラーのストライプ状に変更し、対象物表面の3D形状を数十ミリ角の視野で1枚撮像し、その画像から高低差がナノスケールの極微小欠陥を検出する光学検査技術を開発しました。
新技術では、数十ミリ角の視野を1回で撮像(ワンショット)する光学系と、マルチカラーのストライプ状カラーフィルターで構成しており、検査対象からの反射光の方向分布を色の分布画像として取得します。反射光分布はBRDFと呼ばれる関数によって記述しますが、ストライプ状カラーフィルター(図1)を採用することで、反射光の角度と色の種類が直接対応できる関係となり、反射光の角度分布をより高精度に得られるようになりました(図2)。
さらに、得られた反射光角度分布を入力し、対象物表面の3D形状(高さ分布)を出力とする独自の計算アルゴリズムを開発し、DNNを用いて新規に実装しました(図3)。これは訓練データを不要とする独自のアルゴリズムで、対象物表面の傾斜角度と高さ分布の関係を、物理式を利用して学習します。これにより、検査対象の表面形状が複雑でも、欠陥検査には充分な誤差数ナノメートル以内で表面の3D形状を再構築することが出来るようになりました(図4)。
[画像1]https://digitalpr.jp/simg/1398/104725/700_444_2025022611033267be7674682f7.png
図1:今回開発した光学検査技術の概要図 (a)試作機CAD図 (b)光学系概略、(c)新規のカラーフィルターと(d)反射光角度の説明図
[画像2]https://digitalpr.jp/simg/1398/104725/600_407_2025022611033767be767958fcf.png
図2:(a)本光学技術により撮像したシリコンウエハー表面の画像(視野12mm×8mm)、(b)撮像画像から変換された反射光角度分布の欠陥周辺を拡大した画像
[画像3]https://digitalpr.jp/simg/1398/104725/700_507_2025022611053667be76f0c248c.png
[画像4]https://digitalpr.jp/simg/1398/104725/500_452_2025022611032867be76709309f.png
図4:DNNにより再構築された微小欠陥の3D形状(12mm×8mm視野の一部を拡大)
従来の白色干渉を用いた検査手法では、表面の3D形状を測定するために複数枚の画像を取得する必要がありましたが、本技術では、ワンショットの撮像画像1枚だけでナノスケールの3D形状を瞬時に再構築できます。従来手法よりもプロセスが単純化され、画像処理の負荷低減にも貢献します。検査時間の大幅な短縮が見込まれ、半導体製造における検査工程の効率化と、歩留まり向上に寄与します。
今後の展望
今後は、本技術のシステム全体としての有効性を高め、半導体製造工程への早期の導入を目指します。
*1 1ナノメートルは1ミリメートルの100万分の1の長さ
*2 1マイクロメートルは1ミリメートルの1000分の1の長さ(1ナノメートルは1マイクロメートルの1000分の1の長さ)
*3
https://www.global.toshiba/jp/technology/corporate/rdc/rd/topics/19/1911-01.html
*4
https://doi.org/10.1364/OPTCON.541291
*5
https://www.global.toshiba/jp/technology/corporate/rdc/rd/topics/22/2208-01.html
*6 東芝情報システム
https://www.tjsys.co.jp/digitalwave/oneshotbrdf.htm
https://www.tjsys.co.jp/embedded/esb-oneshotbrdf/index_j.htm
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