日本初の質的研究が明らかにする 「人はなぜ大麻を吸うのか?」 ー英国の学術誌『Drug Science, Policy and Law』に論文掲載ー
一般社団法人日本臨床カンナビノイド学会
一般社団法人臨床カンナビノイド学会の理事である正高佑志(聖マリアンナ医科大学・一般社団法人Green Zone Japan)太組一朗(聖マリアンナ医科大学)、赤星栄志(日本大学)、松本俊彦(国立神経精神医療研究センター)らの研究チームが実施した研究論文「Why do you smoke cannabis? Qualitative Interviews of Japanese Cannabis Users」が、英国の学術誌『Drug Science, Policy and Law』に本年7月22日に掲載されました。
本研究は、日本の大麻使用者64名に対する質的インタビューをもとに、使用動機や実態を分析した日本初の学術的試みです。
【研究の背景と意義】
日本では近年、若年層を中心に大麻使用に関する逮捕者数が増加しており、2023年には大麻取締法が改正されるなど、大麻を巡る法制度と社会的議論が転換期を迎えています。しかしながら、国内における使用実態やその動機についての信頼できるデータはほとんど存在しませんでした。本研究では、SNSなどを通じて募った大麻使用者に対し、半構造化インタビューを実施し、その発話記録をもとに、使用開始のきっかけ、継続理由、有害事象の認識などをテーマ別に分析しました。
【主な研究結果】
・使用開始のきっかけは「信頼できる友人・知人からのすすめ」が大半で、背景には心理的困難や社会的孤立が存在。
・使用継続の動機としては、「不安・不眠・慢性痛」などの健康問題への対処や、自己治療、リラクゼーションが多く挙げられた。
・使用者の多くは、大麻を処方薬やアルコールの代替として用いており、いわばセルフメディケーションの手段として機能していた。
・有害事象の報告は限定的であり、「違法性」こそが最大のリスクと認識されていた。
・いわゆる「ゲートウェイ理論(大麻がより有害な薬物の入口になるという仮説)」を否定する声が多数であった。
【研究の意義と今後の展望】
本調査によって日本の薬物教育や政策が描く“依存症予備軍”としての大麻使用者像と、実際の使用者が語る体験の間には、大きなギャップが存在することが示されました。本成果は、医療・福祉・司法などの現場で、より実態に即した政策設計や教育の見直しを行う上で貴重なエビデンスとなることが期待されます。特に、医療的ニーズに基づく大麻使用を違法性ゆえに医師に相談できない現状は、医療安全の観点からも大きな課題であると考えられます。
一般社団法人臨床カンナビノイド学会は今後も、実態に即した科学的知見の蓄積と、エビデンスに基づく制度設計の推進に取り組んでまいります。
【論文情報】
タイトル:Why do you smoke cannabis? Qualitative Interviews of Japanese Cannabis Users
掲載誌:Drug Science, Policy and Law(SAGE Publishing)
著者:廣橋大、正高佑志、三木直子、赤星栄志、太組一朗、松本俊彦
掲載日:2025年7月22日
DOI:
https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/20503245251362489<用語集>
Δ9-THC:
デルタ9-テトラヒドロカンナビノール。THCとも表記される。144種類ある大麻草の独自成分カンナビノイドのうち、最も向精神作用のある成分。いわゆるマリファナの主成分として知られている。痛みの緩和、吐き気の抑制、けいれん抑制、食欲増進、アルツハイマー病への薬効があることが知られている。
CBD:
カンナビジオール。144種類ある大麻草の独自成分カンナビノイドのうち、向精神作用のない成分で、てんかんの他に、アルツハイマー病、パーキンソン病、多発性硬化症、神経性疼痛、統合失調症、社会不安、抑うつ、抗がん、吐き気抑制、炎症性疾患、関節リウマチ、感染症、クローン病、心血管疾患、糖尿病合併症などの治療効果を有する可能性があると報告されている。2018年6月に行われたWHO/ECDD(依存性薬物専門家委員会)の批判的審査では、純粋なCBDは国際薬物規制の対象外であると勧告された。
内因性カンナビノイド系:
内因性カンナビノイド系(ECS)は、内因性リガンド(アナンダミド、2-AG等)、それらのカンナビノイド受容体(CB1,CB2等)、および内因性カンナビノイドの形成と分解を触媒する酵素(FAAH、MAGL等)を含む脂質の複雑なネットワークである。内因性カンナビノイド系は、学習と記憶、感情処理、睡眠、体温制御、痛みの制御、炎症と免疫応答、食欲など、私たちの最も重要な身体機能の調節および制御を担っている。
2018年米国農業法による「ヘンプ」の定義:
「ヘンプ」という用語は、「大麻(学名Cannabis sativa L.)」の植物および、その植物のいずれかの部位(種子と全ての派生物、抽出物、カンナビノイド、異性体、酸、塩、異性体の塩を含む)であり、成長しているか否かにかかわらず、デルタ-9-テトラヒドロカンナビノール(delta-9 tetrahydrocannabinol)の濃度が乾燥重量ベースで0.3%以下であるもの」を指す。
(一社)日本臨床カンナビノイド学会
2015年9月に設立し、学会編著「カンナビノドの科学」(築地書館)を同時に刊行した。同年12月末には、一般社団法人化し、それ以降、毎年、春の学術セミナーと秋の学術集会の年2回の学会を開催している。2016年からは、国際カンナビノイド医療学会; International Association for Cannabinoid Medicines (IACM)の正式な日本支部となっている。E-ラーニングによる専門家育成(登録医/登録師)、研究支援等を行い、世界的に権威のある"Cannabis and Cannabinoid Research"(大麻&カンナビノイド研究)を公式ジャーナルとしている。2023年10月段階で、正会員(医療従事者、研究者)113名、賛助法人会員13名、 賛助個人会員11名、合計137名を有する。
http://cannabis.kenkyuukai.jp/日本の大麻取締法
我が国における大麻は、昭和5年(1930年)に施行された旧麻薬取締規則において、印度大麻草が≪麻薬≫として規制されてきた。第二次世界大戦後、GHQ(連合国軍最高司令官総司令部)により印度大麻草と国内の大麻草は同一だと指摘を受け、一旦は、大麻草の栽培等の全面禁止が命じられた。ところが、当時の漁網や縄などの生活資材に必要不可欠であり、国内の農家を保護するために大麻取締法(1948年7月10日制定、法律第124号)を制定した。医師の取り扱う麻薬は、麻薬取締法(1948年7月10日制定、法律第123号)となり、農家が扱う大麻は、大麻取締法の管轄となった。その後、化学繊維の普及と生活様式の変化により、大麻繊維の需要が激減し、1950年代に3万人いた栽培者が1970年代に1000人まで激減した。欧米のヒッピー文化が流入し、マリファナ事犯が1970年代に1000人を超えると、それらを取り締まるための法律へと性格が変わった。つまり、戦後、70年間で農家保護のための法律から、マリファナ規制のための法律へと変貌した。2020年の時点で、全国作付面積7ha、大麻栽培者30名、大麻研究者450名。この法律では、大麻植物の花と葉が規制対象であり、茎(繊維)と種子は、取締の対象外である。栽培には、都道府県知事の免許が必要となるが、マリファナ事犯の増加傾向の中、新規の栽培免許はほとんど交付されていない。また、医療用大麻については、法律制定当初から医師が施用することも、患者が交付を受けることも両方で禁止されたままであった。
国内外の情勢の変化を受け、厚生労働省による21年大麻等の薬物対策のあり方検討会(全8回)、22年大麻規制検討小委員会(全4回)を経て、23年1月12日の厚生科学審議会 (医薬品医療機器制度部会)にて法改正の方向性が示された。その後、第212回臨時国会にて大麻取締法及び麻薬及び向精神薬取締法の一部を改正する法律(2023年12月6日制定、法律第84号)が成立した。新法によって大麻由来医薬品の利用の道が開かれた。
配信元企業:一般社団法人日本臨床カンナビノイド学会
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記事提供:DreamNews