【「Word of the Year 日本版」2025年大賞発表】
一般社団法人 日本英語コーチング協会
【「Word of the Year 日本版」2025年大賞発表】
Japanese-born English words that make the world a better place
主催:全国外国語教育振興協会/日本英語コーチング協会(JELCA)
全国外国語教育振興協会および日本英語コーチング協会(JELCA)は、日本発の英語表現のうち、社会をより良くする可能性をもつ言葉を顕彰する年次アワード「Word of the Year 日本版」の2025年大賞・入賞を発表いたします。
第1回となる今回は、公募により寄せられた多数の候補語の中から、7名の選考委員による厳正な審査を経て、大賞1語、入賞10語を選出いたしました。
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【選考結果】
■ 大賞(Word of the Year)
Kintsugi(金継ぎ)
■ 入賞(10語)
・ Omakase(お任せ)
・ Matcha(抹茶)
・ Ikigai(生きがい)
・ Mottainai(もったいない)
・ Iyashikei(癒し系)
・ Komorebi(木漏れ日)
・ Emoi(エモい)
・ Kanban(カンバン)
・ Shinrin-yoku(森林浴)
・ Gyaru(ギャル)
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【大賞・入賞語 選考委員コメント】
【大賞】Kintsugi(金継ぎ)
2024年にオックスフォード英語辞典(OED)に新語として追加された、まさに今年を象徴する言葉です。壊れた陶器を金で修復する日本の伝統技法であり、「傷を隠すのではなく、美として昇華させる」という哲学が海外で高く評価されています。
選考委員コメント:
極めて日本的な美意識であり、もったいない精神や、わび・さびをあわせたような技術が非常に魅力的に映っています。外国人にはとても魅力的な哲学であり、特にAIが完璧なものを作れる時代において、人間しか作れない「不完璧」に価値を見出す考え方として注目されています。金継ぎをものづくりだけでなく哲学としても注目されているのが興味深く、古くて新しい文化として今後さらに広がりを見せる可能性があります。海外で体験会も開催されており、技術の手ほどきを受けることを目的に来日する外国人も増えています。現代のサステナビリティの文脈でも再評価されており、世界をより良くする可能性を秘めた言葉として大賞に選出されました。
【入賞】Omakase(お任せ)
寿司店・料亭など主に高級店で料理人に献立を一任するスタイルを指す日本語であり、近年英語圏で急速に認知度が上昇しています。
選考委員コメント:
食文化の中で一番ポテンシャルのある言葉です。ただの食べ物を超えた文化を示しており、欲しいものをそのまま買うばかりの日常の中でフレッシュな刺激を与えてくれます。日本では当たり前にある「お任せ」という概念が、世界で注目されている日本食とともに流行り、さらにはステータスとなっているのは非常に興味深いことです。特にニューヨークやサンフランシスコなど感度の高い都市部において「Omakaseを食べに行く」ことが一種のステータスシンボルとなっており、鮨、フレンチ、割烹など主に高級店でのスタイルが、特に欧米で意外なほど受け入れられました。日本文化の特徴のひとつであり、その魅力を証明する言葉です。
【入賞】Matcha(抹茶)
2024-2025年において世界的に最も話題となった日本語由来の食文化用語です。
選考委員コメント:
英語圏のみならず欧米全体に浸透しており、新しさもある極めて有力な候補です。マッチャブームが「茶道」への関心を引き起こし、深い日本文化の理解を促すきっかけになりました。元々は日本の奥ゆかしさ、海外ではzen(禅)と呼ばれる精神とセットだった抹茶が、広く愛されるものになったことに驚きを感じます。今年も非常に話題になり、健康生活にもインパクトがありました。単なる飲料としてだけでなく、さまざまなデザートの味付けにも使われており、2025年の世界的な抹茶需要の高まりで改めてその人気の高さが実感されました。茶道・禅といった日本の精神文化との関連性も付与でき、日本文化の奥深さを伝える単語として適切です。
【入賞】Ikigai(生きがい)
「生きる意味・目的」を意味する日本語で、世界的ベストセラー書籍の影響もあり国際的に広く認知されています。
選考委員コメント:
沖縄県での調査に基づいて引き出されたキーワードで、日本人の人生哲学を反映しており、世界中の人々と共有できる可能性があります。生き甲斐が「ikigai」になることで、日本における「一つの事象に集中して取り組む」という文化が海外に伝わっています。ベストセラー本など話題性は依然として高く、哲学として評価が高い言葉です。日本語本来の日常的なニュアンスと異なり、海外では「より壮大な人生哲学」として解釈されているという意味の変容も含めて、日本語が世界に広まる際の興味深い現象を示しています。
【入賞】Mottainai(もったいない)
無駄を惜しむ日本人の精神性を表す言葉で、ノーベル平和賞受賞者ワンガリ・マータイ氏による国連での紹介で世界的に知られるようになりました。
選考委員コメント:
マータイ氏は2005年に来日し、「もったいない」という言葉を知り「MOTTAINAIキャンペーン」を提唱しました。環境保護への関心が低下しつつある今、もう一度世界に広めたい言葉です。SDGs時代によく似合う概念で、これからのインパクトが強いと考えられます。勿体無い精神がSDGs時代にマッチしており、再認識されているのはとても嬉しいことです。10年以上前から知られているものの、現代的意義を持って再注目されている日本語として評価されます。環境の文脈でさらに広まってほしいという思いを込めて入選となりました。
【入賞】Iyashikei(癒し系)
心を穏やかにする・癒すという日本独自の美学的概念を表す言葉です。アニメ・マンガのジャンルとしても確立しています。
選考委員コメント:
いわゆる「日常系(英語:slice of life)」のアニメや漫画が海外で流行しました。良い意味で大きな事件が少なく、日常の些細なことに悲喜交々するこのジャンルは英語圏で新鮮とされ、21世紀的な心意気を広める言葉として非常に良いと思います。ビジネスやカルチャーの面からウェルネスやヒーリングなどが注目されている昨今、需要が今後高まるかもしれません。景気の先行きが不安定でストレスの多い現代社会において、小さな贅沢、小さな癒しとして流行の可能性を秘めています。
【入賞】Komorebi(木漏れ日)
木々の葉の間から差し込む日光を意味する日本語で、英語には直訳できない概念として注目されています。
選考委員コメント:
マインドフルネスと健康生活は最近大きなブームであり、木漏れ日はまだよく知られていないものの、これから海外で普及する可能性が高いと考えます。情報過多が問題となる現代社会の中で、自然にある日常の景色に敢えて目を向けるところがマインドフルネスに繋がり、大変良い言葉です。「当てはまる英語がない」という翻訳不可能性が話題を呼び、「自然の微細な美に意識を向ける」日本人の感性として評価されています。日本語の繊細な自然表現が世界に発信された好例です。
【入賞】Emoi(エモい)
感情を揺さぶられる・懐かしさや切なさを感じる状態を表す日本の若者言葉です。英語の"Emotional"を語源としながらも、日本独自のニュアンスを持って発展しました。
選考委員コメント:
「エモい」は比較的新しい表現であり、かなり普及しています。英語の影響でできた表現として面白く、良い意味の言葉なので日本語学習者に共有したいと考えました。英語のemotionalが英語圏でemoに変化し、音楽のジャンルとなりました。そこがさらに発展して、感情を揺さぶられ尚且つ懐かしさや切なさを感じる「エモい」になり、それが海外へ再び知られるようになる。この言葉の旅路は非常に日本文化らしく、日本語の造語力と感性を示す好例です。
【入賞】Kanban(カンバン)
トヨタ生産方式における生産管理手法として生まれ、現在ではビジネス分野全般、特にソフトウェア開発のアジャイル手法として世界的に普及しています。
選考委員コメント:
時代を代表する業界と言えるIT業界。その世界に日本の管理手法を表す「カンバン」が用いられていることは評価すべきです。非常に優れた生産システムで、一時は海外の自動車メーカーからトヨタへの視察団が絶えませんでした。製造業の枠を超えてIT業界でも標準的な用語となっており、プロジェクトマネージャーがよく使っている表現となっています。日本発の経営手法が世界のビジネス言語となった代表例として高く評価されます。ビジネスの効率化などに役立つ可能性を秘めています。
【入賞】Shinrin-yoku(森林浴)
森林の中を歩きながら心身の健康を回復させる日本発の健康法です。
選考委員コメント:
森林浴も木漏れ日と共にマインドフルネスブームで知られていくのではないでしょうか。木漏れ日が自然の美しさへの気づきを表すのに対し、こちらは能動的に自然と過ごすことを指す言葉です。健康法として実践や応用が広まってほしいと思います。自然との調和を重視する日本的価値観が、ストレス社会における癒しの手法として世界的に受容された例です。エビデンスに基づく健康効果も研究されており、科学と伝統の融合を示す概念として評価されます。
【入賞】Gyaru(ギャル)
2000年代の日本のストリートファッション文化を代表する言葉であり、現在は海外で「平成レトロ」として再評価されています。
選考委員コメント:
ギャルは強い。どんな状況でもポジティブで自由な精神を保つことができるギャルたちのファッションが、2000年代ファッションの再流行とともに世界で評価されているのはとても嬉しいことです。Galが日本語Gyaruになり、全く違うものとなって世界に舞い戻ったことも評価されるべきポイントです。欧米ではY2K(90年代~2000年代)ファッションなどが再びブームになっているのでギャルも復活する可能性があり、フェミニズムの文脈にも繋がるかもしれません。日本でもギャルファッションの復活が見られつつあります。「ファッションであり、スラングであり、哲学でもある」と評され、単なるファッションを超えた「ギャルマインド」(ポジティブで自由な精神性)として深い意味を持つ言葉です。
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【選考委員総評】
選考委員 大杉正明
(清泉女子大学名誉教授)
【大賞「Kintsugi(金継ぎ)」に対する選評コメント】
今回の大賞の選考は数量的データに基づくものではない。金継ぎのファンの数は世界中の抹茶ファンの数には遠く及ばないかもしれないが、金継ぎには日本人の美意識と技術が見事に凝縮されている。
傷ついたものや壊れたものを「元通りに」復元するのではなく、新たな美しさを見出し、「創造物」とするところに多くの外国人が惹かれたのではないか。
外国でも金継ぎ教室が開かれ、また技術を学ぶために来日する外国人も増えている。今回の大賞は、このように優れた日本文化に目を向けてほしいという、審査員諸氏の願いの表れでもあるように思える。
【結果全体に対する総評】
概観すると、予想された語はほぼ出揃った感がある。
Omakase(お任せ)は、日本の鮨屋、割烹あるいはフレンチの店などでお馴染みだが、海外でも拡がり始めている。若い客が得意げにOmakaseの「kaか」にアクセントをおいて発音する場面に遭遇したことがある。
Ikigai(生きがい)は日本的な要素があり、翻訳しにくいが、Ikigaiとして静かに知識人を中心に浸透しつつあり、注目すべき語である。
Komorebi(木洩れ日)は翻訳や文学に親しんでいる人々にはよく知られた語だが、一般の外国人の間での認知度は高くないと思われる。
Mottainai(もったいない)やGyaru(ギャル)などは再評価されているとはいえ、新鮮味に欠けると言わざるを得ない。
今回入選した語は、どれも今後注目していきたい語である。
選考委員 新崎隆子
(会議・放送通訳者)
【大賞「Kintsugi(金継ぎ)」に対する選評コメント及び結果全体に対する総評】
大賞の決定おめでとうございます。
大賞の「金継ぎ」は日本の誇るべき伝統工芸技術であり、ものを大切にする日本人の心にも通じる、大賞にふさわしい言葉です。
今回の第一回Word of the Year は、多岐にわたる分野からの応募があり、日本のことばが世界に広まるという夢を抱く多くの人々の熱意を感じました。
その年に流行した言葉にこだわると、アニメなどのエンターテインメントやSNSに取り上げられたものが多くなり、若者層に受ける言葉になりがちですが、今回の大賞はすべての年代に支持され、一過性の流行にとどまらないものが選ばれて大変良かったと思います。
選考委員会の皆様のご努力に敬意を表します。
選考委員 門田修平
(関西学院大学・大学院名誉教授/高野山大学特任教授)
【大賞「Kintsugi(金継ぎ)」に対する選評コメント】
OEDにも新語として入っている注目単語であるこの語は、私達人類に必要なsustainabilityを代表する技であり、日本発のことばとしてWord of the Year日本版にふさわしい語であると思います。
【結果全体に対する総評】
大賞には入らなかったものの、Omakase(お任せ)は、近年英語圏、特に米国のニューヨークやサンフランシスコなどにおいて、高級和食店で料理人に献立を一任することが、ステータスシンボルとなっている語で私としては、「金継ぎ」に勝るとも劣らない印象をもっています。またその他の、Matcha(抹茶)、Ikigai(生きがい)、Mottainai(もったいない)、Iyashikei(癒し系)、Komorebi(木漏れ日)、Emoi(エモい)、Kanban(カンバン)、Shinrin-yoku(森林浴)、Gyaru(ギャル)なども入賞したことは非常に喜ばしい限りです。
選考委員 クルーク・アントニウス
(ハイデルベルク大学教育学院/大阪大学国際機構留学/ドイツ語・英語講師)
【大賞「Kintsugi(金継ぎ)」に対する選評コメント】
消費が速く、商品や人間関係の寿命が短いこの時代において、「金継ぎ」という言葉は、小さな傷を修復するだけでなく、不完全さの美しさや、大切なものに対して絶えず努力を続ける姿勢を尊重するという、素晴らしい哲学を表しています。このような考え方は、世界中に広まることが望ましいです。
【結果全体に対する総評】
今回の選考過程を通して、全体的に大変有意義で楽しい時間を過ごすことができました。
多くのカテゴリーから数多くの応募語が寄せられ、その中には特に言及に値するものが多数ありました。そのため、いくつかの言葉が入賞として発表されたことを大変喜ばしく思っております。
次回の選考においては、日本が現在関心を寄せているテーマをより深く知る手がかりとして、トップカテゴリーを3つ選出することも興味深い試みではないかと考えております。
多くのご応募に心より感謝申し上げますとともに、来年はさらに多くの方々にご参加いただけることを願っております。
選考委員 キニマンス塚本ニキ
(英語翻訳者・通訳/コラムニスト/ラジオパーソナリティ)
【大賞「Kintsugi(金継ぎ)」に対する選評コメント】
物を大切にする精神だけでなく、不完全の中に美しさを見出す価値観は世界の人に感銘を与え、生き様の哲学となっています。金継ぎの技術と美学がさらに世界に広まってほしい。私も実はいま、小皿の金継ぎに挑戦中です。
【結果全体に対する総評】
日本の言葉や文化がこれからさらに世界に羽ばたくと同時に、日本で暮らす私たちがその背景にある思想や価値観に触れ直す機会になればと願っています。
選考委員 デイビッド・セイン
(通訳・翻訳家/日経LissN監修者/AtoZ English代表取締役)
【大賞「Kintsugi(金継ぎ)」に対する選評コメント】
「Kintsugi(金継ぎ)」は、単に日本文化を表す言葉というだけでなく、現代社会の価値観を象徴する言葉として、非常に説得力のある選出だと感じました。
壊れたものを元どおりに戻すのではなく、壊れた履歴そのものを受け入れ、それを価値として可視化するという金継ぎの考え方は、分断や不確実性が増している今の時代に、強く響くものがあります。
近年、AIによって、短時間で本物に近い作品を作ることが可能になりました。しかし、偶然や不完全さを受け止め、それを意味のある美へと昇華させることができるのは、人間だけだと思います。
その意味で、金継ぎの思想は、人間ならではの創造性や価値のあり方を象徴しており、AIには簡単に真似できないものだと感じました。
また、「Kintsugi」はすでに英語圏でも比喩表現として使われ始めており、日本語が世界の思考や感情の枠組みに影響を与え始めている好例だとも言えるでしょう。
傷、失敗、回復といった普遍的なテーマを、これほど簡潔で、しかも美しく表現できる言葉は多くありません。
そうした点から見ても、本年度の大賞にふさわしい言葉だと考えます。
【結果全体に対する総評】
今回の入賞語全体を通して見ると、日本語が持つ生活感、感情、哲学、そして実践的な知恵が、世界の中でどのように受け取られているかが、よく表れていると感じました。
「Omakase」「Matcha」「Kanban」のように、実用や文化と結びついた言葉がある一方で、「Ikigai」「Mottainai」「Shinrin-yoku」のように、価値観や生き方そのものを表す言葉も含まれており、非常にバランスの取れた選考結果だと思います。
また、「Komorebi」「Emoi」「Iyashikei」など、感情や空気感を一語で伝える日本語特有の表現が含まれている点も印象的でした。
これらは翻訳しにくいからこそ、そのままの形で世界に広がっていく力を持っている言葉だと感じます。
全体として、日本語が「珍しい言葉」ではなく、世界が自然に借りて使いたくなる言葉として認識されつつあることを実感させる、非常に意義深い選考結果だったと思います。
選考委員(五十音順)
・大杉正明(清泉女子大学名誉教授)
・門田修平(関西学院大学・大学院名誉教授/高野山大学特任教授)
・キニマンス塚本ニキ(英語翻訳者・通訳/コラムニスト/ラジオパーソナリティ)
・クルーク・アントニウス(ハイデルベルク大学教育学院/大阪大学国際機構留学/ドイツ語・英語講師)
・新崎隆子(会議・放送通訳者)
・デイビッド・セイン(通訳・翻訳家/日経LissN監修者/AtoZ English代表取締役)
・フォーンクルック幹治【ミッキー】(ラジオDJ/俳優/作家/翻訳家)
「Word of the Year 日本版」について
「Word of the Year 日本版」は、日本発の新たな英語表現(語)のうち、社会をより良くする可能性をもつ言葉を顕彰し、広く紹介する年次アワードです。日本の世相を象徴する英語表現を選び、英語学習や教育現場への関心・認知度を高めることを目的としています。
【選出基準】
・アルファベット表記で今年の語であること
・日本発で、一部に浸透し始めている/今後の拡散が見込まれること
・世の中を良くする概念であること
本件に関するお問い合わせ先
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記事提供:DreamNews