AWaRe(アウェア)分類は抗菌薬適正使用支援ツールの1つ 最新のAMR対策と診療報酬加算
国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院、AMR臨床リファレンスセンター(厚生労働省委託事業)
AMR臨床リファレンスセンターは、今回、WHO(世界保健機関)が提唱する抗菌薬(抗生物質)分類法「AWaRe」についてのニュースレターを2024年10月30日に公開したことをお知らせいたします。
ここでは、Access、Watch、Reserveの3カテゴリーによる抗菌薬の分類システム、日本の現状と課題、さらに新設された診療報酬加算について、第一線の専門家が解説します。AWaRe分類の効果的な活用法と、AMR(薬剤耐性)対策の最新動向を含め、AWaRe分類とは何か、詳しく解説します。
【サマリー】
・AWaRe(アウェア)分類は、WHOが定めた医療に必須の医薬品※のうち、抗菌薬に関し、薬剤耐性の影響を考慮し、適正使用推進を目指したツールの1つ。この分類は、抗菌薬の使用を最適化するための目標を定めたり、モニタリングすることに役立つ
・AWaRe分類では、臨床的重要性と薬剤耐性化の危険性を考慮して抗菌薬をAccess(アクセス)、Watch(ウォッチ)、Reserve(リザーブ)に分類
・WHOでは、使用される抗菌薬全体のうち、Accessに分類される抗菌薬の割合を60%以上にすることを目標としているが、日本では23.23%に止まっている
・2024年4月、診療報酬改定により抗菌薬の使用実績に基づく新たな評価制度が導入、外来感染対策向上加算及び感染対策向上加算に、抗菌薬適正使用体制加算(5点)が新設された
※医薬の入手が困難な開発途上国における入手しやすさも考慮して選定された、基本的な医療に最小限必要な医薬品選定の際の指標
【国立国際医療研究センター AMR臨床リファレンスセンター】
松永 展明 臨床疫学室長
2003年順天堂大学医学部卒。順天堂大学小児科思春期科にて新生児、小児感染症の診療に従事し、公衆衛生学を学んだ後2019年より現職。医療機関・高齢者施設・ワンヘルス領域のサーベイランスやWebサイトを構築し、AMR関連情報の可視化に取り組んでいる。
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松永 展明 臨床疫学室長
都築 慎也 応用疫学研究室医長 薬剤疫学室長
2008年北海道大学医学部卒。国立国際医療研究センター小児科、厚生労働省IDES養成プログラムなどを経て2021年より現職。薬剤耐性(AMR)やCOVID-19などの感染症に関する疫学研究に従事している。
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都築 慎也 応用疫学研究室医長 薬剤疫学室長
小泉 龍士 主任研究員
2017年昭和薬科大学卒業。国立国際医療研究センター病院 薬剤師レジデントを修了後、2019年より現職。抗菌薬使用サーベイランスや適正使用に関する研究等に従事している。
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小泉 龍士 主任研究員
【抗菌薬の適正使用を評価するAWaRe分類とは】
WHOが2017年にAWaRe antibiotic book(プライマリケア、病院における一般的な感染症に対する抗菌薬の適正使用についてのガイダンス)を発表しました。この中で抗菌薬を「Access」「Watch」「Reserve」の3つのカテゴリー(AWaRe分類)に分けています。
下の図1は、それぞれのカテゴリーに分類された抗菌薬をまとめています。
同じ系統の抗菌薬でも、違うカテゴリーに属する場合があります。下の図1は、それぞれのカテゴリーに分類された抗菌薬をまとめています。
図1
【Access/Watch/Reserveそれぞれに分類される抗菌薬】
■Access(アクセス)
一般的な感染症に対して第一選択または第二選択として使用される抗菌薬の多くが含まれます。これらは多くの患者に安全かつ効果的に使用でき、高品質、低コストで利用できる他、耐性化したとしても他の選択肢があるので、耐性化した際の不利益が少ないとされています。
■Watch(ウォッチ)
耐性化した際に取り得る他の選択肢が少ないため、限られた疾患や適応にのみ使用が求められる抗菌薬です。これらの薬剤は重要な医療用途がある一方で、不適切な使用が臨床上重要な薬剤耐性菌の急速な拡大につながる可能性があります。
■Reserve(リザーブ)
耐性化した際に取り得る他の選択肢が非常に少ないため、他の手段が使えなくなった場合の最後の手段として使用すべき抗菌薬です。
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※World Health Organization, AWaRe classification of antibiotics for evaluation and monitoring of use, 2023より引用改変
AWaRe分類は抗菌薬の適正使用の考え方に基づいて、患者の命を救いつつ、薬剤耐性菌の出現及び拡大を遅らせることを目的としています。例えば肺炎のように、どの国でも普通にみられる一般的な感染症に対して、AWaRe分類は、適正な抗菌薬を決めやすくするための指針となっています。(都築)
一般的な疾病に対して、最も効果的な第一選択薬と、必要に応じて使用される第二選択薬などがWHOによって整理されており、その分類に基づいてどの抗菌薬をAccessに分類すべきかが検討されます。
このAWaRe分類に基づき、全ての抗菌薬の中でAccessに分類される薬の使用を増やし、Watch・Reserveに分類される薬の使用をなるべく減らすことが、WHOの方針です。WHOでは各国が、使用する抗菌薬全体のうち、Accessに分類される抗菌薬の割合を60%以上にすることを目標としています。
【AWaRe分類による抗菌薬選択の現状と課題】
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■全国抗菌薬販売量推移 2013-2023(AMR対策アクションプラン2023-2027成果指標)による集計
2016年に日本でAMR(薬剤耐性)対策アクションプランが打ち出されたことをきっかけに、それまで横ばいだった日本の抗菌薬使用量(販売量ベース)は減少傾向が見られます。
COVID-19による行動制限が解除された2023年に、抗菌薬の使用量は2022年と比べて増加しましたが、COVID-19流行以前の使用量よりも増加ということは見られません。
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■全国抗菌薬販売量推移 2013-2023(抗菌薬種類:AWaRE分類別)
一方で、年々Accessは増加、Watchは減少傾向ではありますが、AWaRe分類別に見る抗菌薬の使用は、2023年時点でAccessの割合が23.23%、Watchの割合が75.68%と、Accessを60%以上にするという目標には達していません。
日本でWatchに分類される抗菌薬が多く使われる理由の一つに、感冒など本来抗菌薬が不要な疾患に対してWatchに分類される抗菌薬が投与されていることが挙げられます。また、そもそも結核をはじめAccessの薬剤では治療できない疾患もありますので、常にAccessの抗菌薬を使用することが適切という訳でもありません。(都築)
加えて、AWaRe分類を使った指標は、抗菌薬の選択を反映していますが、使用量そのものは反映されていないことには注意が必要です。例えば、抗菌薬の選択に関してはAccessの使用率が60%を超えており、AWaRe分類的には非常に優秀に見えますが、抗菌薬の全体使用量は、日本の3-4倍に達しているという国もあります。抗菌薬の使用状況は、販売量やAWaRe分類の使用内訳に加え、抗菌薬治療が必要となった疾患の背景要因・診断なども考慮して総合的に解釈することが重要です。(小泉)
このことから、AMR対策としては、抗菌薬治療の必要性のある感染症の診断の適正化、AWaRe分類を用いた抗菌薬選択の適正化と、使用量減少の全てに取り組む必要があると考えられます。
日本における抗菌薬の使用量減少は、不適切な処方が減っていると考えられる一方で、依然として問題点もあります。例えば風邪や胃腸炎など、抗菌薬を必要としない病気に対して処方されたり、患者さんの希望に応じて抗菌薬が処方されたりしているなどがあります。AWaRe分類を適切に利用して、抗菌薬の適正使用につなげることが重要です。(都築)
【抗菌薬の適正使用、医師が心がけるべきポイント】
AWaRe分類は、抗菌薬の適正使用を促進するための重要なツールですが、その活用には注意が必要です。最も大切なことは、AWaRe分類のリストを見て、そこから単純に抗菌薬を選択しないことです。リストに添って治療を行なおうとすると、無理が生じることがあります。また、医薬品の供給が困難な状況では、Accessの抗菌薬が手に入らないこともあるでしょう。その際には、Watchに分類される抗菌薬を使うことが必要になることもあります。あくまでも感染症診療の原則に基づいて、抗菌薬を選択する必要があります。(小泉)
その他、以下の点も抗菌薬の適正使用において重要です。
・不適切な抗菌薬の処方を避ける
・日々の診療での患者さんへの適切な説明
・感染症のリスク対策の実施
望ましいのは、標準治療を継続的に選択した結果として、Accessに分類される薬の使用割合が増えることです。(都築) AWaRe分類には課題もありますが、Watchを減らしてAccessを増やすことで、抗菌薬の適正使用とAMR対策の両立が期待できます。
【抗菌薬適正使用体制加算が新設】
今年度の診療報酬改定により、2024年4月、抗菌薬の使用実績に基づく新たな評価制度が導入されました。日本におけるAccessの使用率が低い現状を踏まえ、適正使用を促進するため、外来感染対策向上加算及び感染対策向上加算に、抗菌薬適正使用体制加算(5点)が新設されました。
https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001224802.pdf
加算のためには、まずはAccessの使用率が数値化可能なサーベイランスへの参加が条件です。その上で、直近6カ月に使用した抗菌薬のうち、Accessに分類される抗菌薬の使用率が60%以上であれば加算を受けることができます。もし60%未満の場合でも、サーベイランスに参加している医療機関全体で、Accessの使用率が上位30%以内であれば、加算の対象となります。(松永)
AMR関連のデータを集約し、医療機関や地域ネットワークで活用する感染対策連携共通プラットフォーム「J-SIPHE(ジェイサイフ)」でも、すでに加算のための対応が始まっています。病院版「J-SIPHE」と、診療所版J-SIPHE「OASCIS(オアシス)」では、集計データに基づいて、各々上位30%の医療機関に、加算を満たしているという証明書を発行します。これにより、該当医療機関は、抗菌薬適正使用体制加算を受けることができます。
J-SIPHE
https://j-siphe.ncgm.go.jp/
OASCIS
https://oascis.ncgm.go.jp/
2024年8月時点で、病院は1,765施設、診療所は1,711施設が参加しており、そのうち各々400ー500施設程度が加算の対象となっています。今後、対象となる施設が増え、適正使用の輪が広がることを期待しています。抗菌薬の分類は複雑で、課題もありますが、AWaRe分類はシンプルな指標であるといえます。AWaRe分類を意識して活用することで、抗菌薬の適正使用に結び付けていくことが重要です。(松永)
本制度の導入は、抗菌薬適正使用の重要性に対する認識を高め、AMR対策を推進する重要な一歩となります。適切な抗菌薬使用は、患者の治療効果を高めるだけでなく、将来的な薬剤耐性菌の発生リスクを低減させる取り組みにつながることを期待しています。
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記事提供:@Press