夜間の人工光がハエの繁殖を後押し? ~都市の明るさはハエの成長や繁殖に多様な影響を与える~
国立大学法人千葉大学
■研究の概要:
千葉大学大学院理学研究院の高橋佑磨准教授と同大学融合理工学府2年の佐藤あやめ氏(当時)は、果樹害虫のオウトウショウジョウバエ(Drosophila suzukii)(注1)を研究対象に、夜間人工光が繁殖行動に与える影響を評価しました。その結果、夜間人工光は、雄の求愛行動を減衰させる一方で、雌の産卵数を増加させることが明らかとなりました。また、都市に生息する個体は、夜間人工光の影響を受けにくい進化を遂げていることもわかりました。これらの成果は、都市化が生物の個体数や生物多様性に与える影響の予測に貢献すると期待されます。
本成果は2024年12月10日に国際学術誌のBiological Journal of Linnean Societyに公開されました。
■研究の背景:
現在、地球上では都市の面積が拡大しつづけています。これにより、都市では森林や草原などの生物の生息地が減少するとともに、人間活動に起因する環境ストレスが増大しています。街灯や住宅、工場の照明に由来する夜間の人工光(光害)は、都市における環境ストレスの代表例です(図1)。夜間の光は、活動リズムを狂わせるなどして、生物に多大な影響を及ぼす可能性が示唆されています。一方で、都市化によってどの生物も数を減らしているわけではなく、害虫のように数を増やしているものもいるのです。都市化が生物やその多様性に与える影響を理解するためには、都市ストレスが生物に与える影響や、それに対する生物の適応進化を明らかにする必要がありますが、その理解は十分ではありません。
[画像1:
https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/15177/926/15177-926-47e540e33342ff1eae22cc6c5e777bad-415x375.jpg?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
図1.郊外と都市の比較。都市では街灯などの影響で夜になっても明るい。
■研究の成果:
本研究では、都市から郊外まで幅広い環境に生息するオウトウショウジョウバエを対象に夜間の微弱な光の本種の成長や繁殖に与える影響を調べました。関東地方の都市と郊外に由来する系統(注2)を「夜間照明のない環境」と「微弱な夜間照明(10 Lux(注3))のある環境」で卵から成虫まで飼育し、成虫のサイズや雄や雌の繁殖行動を調べました。その結果、都市と郊外のどちらに由来する系統でも、夜間照明のある環境で飼育された個体は、体が数%小さくなることがわかりました。さらに、オスは求愛行動が弱くなる一方で、メスの産卵数は、夜間照明への曝露によって2倍以上に増えることもわかりました(図2)。これらの結果は、夜間の光がオウトウショウジョウバエの成長や繁殖に影響を与えることを意味しています。夜間人工光によるメスの産卵数の増加は、オウトウショウジョウバエが都市部への定着を成功させたことや、害虫として繁栄したことの一因となった可能性があります。一方、都市系統の個体は郊外系統に比べ、夜間照明の影響を一貫して受けにくい傾向が見られました。これは、近代化により夜が明るくなって以降に、都市に定着した集団において都市ストレスへの耐性が急速に進化していることを示唆する証拠となります。
[画像2:
https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/15177/926/15177-926-32995d06c522d24887be40a9e73bf980-731x382.jpg?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
図2.夜間光にさらされて育つと雌雄の繁殖活性が変化した。
■今後の展望
本研究は、都市化が引き起こす各生物種の個体数の変動や、生物多様性や生態系サービスの変化を予測する大きな手がかりとなることが予想されます。今後は、害虫管理や生物多様性の保全策に役立つ応用研究の進展が期待されます。
■用語解説
注1)オウトウショウジョウバエ(Drosophila suzukii):都市と郊外に幅広く生息するショウジョウバエ。桜の果実やさくらんぼ(桜桃[オウトウ])、ブルーベリー、ラズベリーなどの果実に寄生する害虫。
注2)系統:野外で採集された1個体(雌)の子孫同士で交配を繰り返して維持された交配集団のこと。各系統は1個体の雌に由来しているため、その雌の遺伝的特徴(表現型)を維持していると考えられる。すなわち、都市に由来する系統と郊外に由来する系統の間で見られる表現型の違いは、生息地間での表現型の遺伝的な違いを反映しているものと考えられる。
注3)Lux(ルクス):光の明るさの単位。勉強や読書には500-1000 Luxが適しているとされている。満月の明かりの照度は1 Lux未満であるのに対して、住宅街や公園の街灯の近くでは、1~15 Luxとされている。
■研究プロジェクトについて
本研究は、下記の事業の支援を受けて実施しました。
・ 環境研究総合推進費「都市化による昆虫への遺伝的・エピ遺伝的影響と汚染的遺伝子流動の評価」(4RF-2103)
・ 住友財団「光害に対する昆虫類の遺伝的変化と継承性・非継承性のエピジェネティック変化」
・ 大林財団「都市化がもたらす生物の形質へのインパクトの評価」
・ 国際科学技術財団「都市化に対するショウジョウバエ類の迅速な適応進化の検証」
・ アサヒグループ学術振興財団「都市化による温度と光環境の変化がショウジョウバエに与える影響と対抗的適応進化」
■論文情報
タイトル:Urban-rural diversification in response to nighttime dim light stress in Drosophila suzukii
著者:Ayame Sato and Yuma Takahashi
雑誌名:Biological Journal of Linnean Society
出版日時:2024年12月10日(火)午前9時(JST)
DOI:
10.1093/biolinnean/blae109
■参考情報
2022年12月13日公開 プレスリリース
『夜間の人工光は昆虫の活動を一変させる 都市のハエは都市環境に適応して進化していた!』
https://www.chiba-u.ac.jp/about/files/pdf/20221213_1.pdfプレスリリース提供:PR TIMES
記事提供:PRTimes