基礎医学医療研究に向けた助成金 「第9回 生体の科学賞」の授賞式が3月6日(木)に開催。授賞者は中尾光善氏(熊本大学 発生医学研究所 細胞医学分野 教授)
公益財団法人金原一郎記念医学医療振興財団
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受賞者の中尾光善博士(熊本大学発生医学研究所 教授)
公益財団法人金原一郎記念医学医療振興財団(代表理事:澁谷正史)は2025年2月14日(金)、第9回 生体の科学賞を熊本大学 発生医学研究所の中尾光善氏に授与することを決定しました。授賞金額は500万円。授賞テーマは「エピゲノム機構による細胞制御と病態の分子基盤(Molecular basis of cell regulation and pathophysiology by epigenetic mechanisms)」です。
生体の科学賞とは
生体の科学賞は、1949年創刊の雑誌「生体の科学」の理念に基づき、基礎医学医療研究領域における「独自性」と「発展性」のあるテーマに対し、毎年1件の対象研究に500万円を助成しています。長年に渡り研究に専念される研究者を応援し、持続的で、卓越した、日本の基礎医学・生命科学の発展を目指し、助成を行っています。若手研究者への研究費助成が増加し、中堅以降のキャリアを持つ研究者の助成金取得が困難さを増している昨今で、生体の科学賞は年々その価値を高めています。
受賞者紹介
中尾 光善(なかお みつよし)
1959年8月24日
所属 熊本大学発生医学研究所
役職 教授
授賞理由(選考委員著)
エピジェネティクスはゲノム上の遺伝子発現を調節する仕組みであり、DNAメチル化、ヒストン修飾、クロマチン形成で特徴づけられるエピゲノムとして機能しています。中尾光善博士はエピジェネティクス研究の黎明期からエピゲノムと遺伝子制御の分子基盤の解明研究に取り組まれてきました。DNAメチル化からH3K9トリメチル化への経路やインスレーター結合因子とコヒーシン複合体の共局在など、エピジェネティクスの基本概念の確立に貢献されています。リジン特異的脱メチル化酵素LSD1のエネルギー代謝調節やミトコンドリア呼吸への関わり、がんと炎症へのエピジェネティクスによる乳がんの治療抵抗性の獲得機序、細胞分化老化、健康と病気の発生期起源説DoHaD説におけるエピゲノム形成など、エピジェネティクスをめぐる生命現象やヒトの疾患との関りについて重要な発見をされてきました。中尾博士が今後もエピジェネティクスの基礎・応用研究を通して我が国の医学生命科学の発展に貢献し続けることを祈念し、第9回「生体の科学賞」を授与いたします。
研究目的
「エピジェネティクス」は、ゲノムDNA上の遺伝子発現の調節とその生物学的な意義を明らかにする学術分野である。DNAの塩基配列で説明されるメンデル型遺伝学に対して、非メンデル型遺伝学に位置づけられる。例えば、ひとつの受精卵から200種類以上の細胞が生じて体が形成されることは、同じゲノムをもつ細胞が異なる性質の細胞に変わることを示している。また、同じゲノムをもって生まれた一卵性双生児が加齢とともに表現型を変えていくことも知られている。つまり、DNAの塩基配列の変化を伴わない生命現象の仕組みがあり、遺伝情報を制御することによって、これらの特性を創っている。近年、DNAのメチル化、ヒストンタンパク質の化学修飾、クロマチンの形成によって修飾されたゲノムを「エピゲノム」とよんでいる。
環境因子が生体に繰り返し働くと、そのシグナルが細胞核内に伝達されて、エピゲノムの修飾が固定化していく。このため、特定の遺伝子が恒常的に活性化されたり、逆に不活性化されることで、環境適応による個体差を生じると考えられる。本研究では、これを「環境応答性のエピゲノム制御」(エピゲノム記憶)と捉えて、その結果として、健康・体質、生活習慣病、慢性疾患、老化、がんなどに繋がる可能性が高い。生物学的には、生物と環境の相互作用によって、「表現型バリエーション」の分子基盤が形成されている。
このエピゲノム記憶は、その後の環境因子に対して、速やかに適合して有益な場合もあれば、逆に適切な応答ができず不利益にもなり得る。この分子レベルの実体には不明な点が多いが、ヒストンの化学修飾やクロマチンの形成が有力な機序とされている。リジンのアセチル化は即時的でダイナミックに変化する修飾であり、他方、リジンのメチル化は比較的に安定に持続する修飾として位置づけられる。ともにその修飾様式で異なる機能を担い、修飾酵素と脱修飾酵素、さらに修飾基に対する結合タンパク質によって選択的に制御されている。
本研究では、環境因子に応答するエピゲノムの化学修飾によって、細胞・組織の特性が変換されて、個体レベルの表現型が形成される基本メカニズムと医学的な意義を明らかにする。とりわけ、それぞれ標的遺伝子座のヒストン修飾とクロマチンの形成に着目する。具体的には、1.栄養応答性のホルモン(グルココルチコイド、インスリン)の下でLSD1リジン脱メチル化酵素が代謝型筋分化(速筋・遅筋のバランス)という「代謝メモリー」を形成すること、2.炎症記憶細胞を可視化して除去できる遺伝子改変マウスを開発し、反復炎症の下でKDM7リジン脱メチル化酵素が自然免疫応答の増強又は減弱という「炎症メモリー」を形成すること、を実証する。また、3.ATPとクエン酸を用いたアセチルCoA合成酵素ACLYの役割とそのアセチル化の標的遺伝子を決定するパイオニア転写因子が「老化細胞関連性分泌表現型」を形成する機序解明に挑む。4.遺伝子発現とエピゲノムの各種データの統合解析プラットフォームを用いて、エピゲノム記憶が表現型バリエーション、さらに健康・疾患パス(サルコペニア、慢性炎症、老化、がん)につながる評価・制御法の創出を目指す。
これまで蓄積してきた、エピゲノムの3階層(DNAメチル化とヒストン修飾、クロマチンループの形成、核内ドメインの形成)の研究基盤を活かして、本研究によって、外的環境(栄養)、内的環境(炎症)に対してエピゲノム記憶(リジンメチル化)が形成される分子機序、それによって生じる細胞~個体レベルの表現型バリエーションについて理解する。また、細胞老化に特徴的な炎症性タンパク質の分泌表現型のアセチル化制御の解明を行う。エピゲノムの化学修飾の観点から、健康と病気の表現型を生じるメカニズムを明らかにし、エピゲノムの医学応用について取り組む。
生体の科学賞 授賞式
第9回生体の科学賞 授賞式は2025年3月6日(木)に株式会社医学書院(所在地:東京都文京区本郷1-28-23)にて開催されます。ご参加希望の方は、下記財団事務局までご連絡ください。
近年の生体の科学賞 授賞者
※所属先、役職は授賞当時
第6回 2022年3月3日
氏名 坂野 仁(さかの ひとし)
所属 福井大学学術研究院医学系部門 及び 子どものこころの発達研究センター
役職 特命教授
賞金 500万円
研究テーマ 新生仔の臨界期に於ける神経回路形成の可塑的な環境適応とその障害
第7回 2023年3月8日
氏名 須田 年生(すだ としお)
所属 熊本大学国際先端医学研究拠点
役職 拠点長・卓越教授
賞金 500万円
研究テーマ 造血幹細胞の自己複製機構に関する解析
第8回 2024年3月8日
氏名 月田 早智子(つきた さちこ)
所属 帝京大学 先端総合研究機構
役職 教授
賞金 500万円
研究テーマ 生体機能システム構築基盤としての上皮バリア研究の新展開
公益財団法人金原一郎記念医学医療振興財団について
・所在地:東京都文京区本郷1-28-24 IS弓町ビル10階
・代表者:澁谷正史(代表理事)
・創立:1986年12月2日
・主な活動内容:基礎医学医療に関する研究に対する助成、基礎医学医療に関する学会や研究会の海外派遣に対する助成、基礎医学医療に関する研究を行う外国人留学生に対する助成、基礎医学医療に関する研究成果の出版に対する助成 等
・公式サイト:
https://www.kanehara-zaidan.or.jp/
・問い合わせ:info@kanehara-zaidan.or.jp または 03-3815-7801
プレスリリース提供:PR TIMES
記事提供:PRTimes