温暖化は、大人にまかせてはいけない自分ごとーー【2025年度「⻘少年読書感想文全国コンクール」課題図書】『たった2℃で…』作者・キム・ファンさんインタビュー
株式会社 童心社

⻘少年読書感想文全国コンクール(小学校中学年の部)課題図書に選ばれた本作は、たった2℃の気温上昇がもたらす大きな影響を生き物たちを題材にわかりやすく描いた絵本。作者キム・ファンさんにお話を伺いました。
[画像1:
https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/90113/51/90113-51-d979010bc35bdc977967baa65d18d6ee-1500x883.jpg?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
『たった2℃で… 地球の気温上昇がもたらす環境災害』 作者・キム・ファンさん
[画像2:
https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/90113/51/90113-51-e4ca272ab88f7746a3af20b87dcb533e-1500x938.jpg?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
『たった2℃で… 地球の気温上昇がもたらす環境災害』 キム・ファン 文/チョン・ジンギョン 絵(童心社)
トピックス:
・『たった2℃で…』あらすじ
・ウミガメは生まれる砂浜の温度で、オスとメスが決まる!?――キム・ファンさんインタビュー
・書誌情報
・著者情報
絵本『たった2℃で… 地球の気温上昇がもたらす環境災害』
キム・ファン 文/チョン・ジンギョン 絵 (童心社)
人間の体温は概ね36.5℃。汗をかくなどして体温を調節できる人間でも、体温が2°Cあがってしまったら、ぐったりして何もできなくなってしまいます。
自分で体温を調節できない魚たちには、2°Cの上昇は人間が感じる20°Cぐらいの大きな違いです。だから、魚たちは海水温があがると、自分の生きられる海をさがして命がけで大移動をしなくてはなりません。たった2°Cの気温上昇がもたらす大きな影響を、魚やサンゴ礁、アザラシ、ウミガメ、パンダなど、さまざまな生き物たちを題材に、子どもたちに直感的に伝わる構成と絵でわかりやすく伝えます。
[画像3:
https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/90113/51/90113-51-6f602d91be3561fcbbae12ae5a4cae66-793x794.jpg?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
浜辺で熱中症で人が倒れる場面。『たった2℃で…』P4
――温暖化は難しくなりやすい科学的なテーマですが、登場するのは生き物たちなので、わかりやすいですね。順番やつながりもわかりやすい構成です。
まず「人間だって2℃体温が上がったら倒れてしまう」このアプローチが絶対に最初に来なくちゃいけないなと思いました。たくさんの生き物がいますので、どんな構成にするかいろいろ悩んだのですが、まず海から始めようと考えました。そして、海のウミガメが陸に上がる所から、陸の生き物たちが登場する流れを考えました。
人間だって2℃体温が上がったら倒れてしまうことからはじまり、海の生き物からウミガメで陸にあがり陸地に行くという流れになるよう、それで浜辺で、熱中症で人が倒れる場面から始まる展開になりました。
――どうやって登場する生き物たちは選ばれたのでしょう?
ここが一番悩んだところですが、コンセプトは身近な生き物にしたんです。
先ほど話したように日本の温暖化の本をほとんど読みましたが、同じように韓国の本も探して読んでみました。韓国ではアメリカやフランスからの翻訳作品も含めて、ホッキョクグマが登場する「温暖化=ホッキョクグマがかわいそう」というパターンの本が多く、20冊以上ありました。けれど、「ホッキョクグマがかわいそう」だと、温暖化を表現するにはどこか違う。それだと温暖化がどこか遠いところで起こってるような感じがするじゃないですか。もっと身近な動物で、自分たちの周りにいる動物で表現できないか。それなら逆にホッキョクグマに食べられるアザラシはどうだろうかと考えました。日本では北海道に流氷にのってアザラシがやってきますが、韓国ではアザラシは、北朝鮮と韓国の間の北緯38度線付近にある海上の軍事境界線、北方限界線近くの無人島で暮らしてるんです。だから韓国ではアザラシは平和のシンボルなんですね。それなら、アザラシは最後に入れてはどうか、最初はそんな感じで文書を作り始めました。
他に身近な生き物なら、花はどうだろう、蝶は、虫はどうだろうと考えて、やっぱりまず魚は外せないと考えました。魚たちは国を超えて移動しますし、食卓にものぼるのでやっぱり一番身近ですよね。
ただ、絵本にした時に地味かなとも心配したんですが、この場面のチョン・ジンギョンさんの絵をみて「この絵ならいける、自信をもって魚を前にしよう」と思いましたね。
[画像4:
https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/90113/51/90113-51-a580d9d7bcc33d5c30a06b2567c9d207-2000x921.jpg?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
海流とあわせて、サケ、ニシン、スケソウダラなどつめたい海でくらす魚たちと、マサバ、ブリ、サワラ、マイワシなどあたたかい海でくらす魚たちが、ダイナミックで色鮮やかに描かれている。『たった2℃で…』P6-7
――文章と絵のラフが同時にすすんでいたんですね。
この本は「作家の文章が出来上がってから、画家が絵を描く」という作り方ではなかったです。ラフがある程度上がってきたら、絵ではここを空けてくださいとか、背景は何色で、だからこの女の子は何色で、といった所までつめていきます。
ぼくは韓国でも20年近く子どもの本の仕事をしていますが、韓国と日本の大きな違いは、打ち合わせにデザイナーが入ることです。韓国ではちいさい出版社もデザイナーを抱えていて、作家と画家、編集者とデザイナーがみんなで「どう見せるか」という共通イメージを持って制作に入ります。また「この本は売れるぞ」となると、社内デザイナーじゃなくて有名なデザイナーに外注するケースもあります。
この本では「見開きで身近な生き物で温暖化を表すこと」「海から始まって最後は一番身近な虫でおわる」そういった基本コンセプトをみんなで共有して制作しました。
ところが制作中に画家のチョン・ジンギョンさんが体調を崩され、直接には会えませんでしたが、デザイナーが画家さんの意向を受けて参加して作っていく場合もありました。
韓国は絵に対するこだわりが強いお国柄なんですね。だからたとえば写真絵本はなかなか韓国では販売が伸びにくいと言われています。生き物の写真絵本だと、例えばカワセミが口を開きながら獲物を捕っている、なんて写真は本当になかなか撮れないんです。水の中やいろいろな所にカメラを設置して、アングルや光も工夫して撮影しなくてはなりません。写真を見せると「すごいな」と驚かれますが、韓国では写真は「たくさん撮影した写真の中の1枚」という感覚がどこかにあるからか、どんなに写真がすごくても残念ながらあまり売れないんです。だからその写真を写生して絵で表現しようとする。日本は反対で、細かいところまで文章にこだわりますよね。
[画像5:
https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/90113/51/90113-51-3836b65ab8dbb3efaadadca0755d0bc6-1302x866.jpg?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
サンゴ礁には海の生き物の種の25%が集まっている。『たった2℃で…』P10-11
――『たった2℃で…』の絵も、生き物の豊かさが色鮮やかに表現されていますね。
この絵本で、キムさんが特に思い入れのある絵や場面はありますでしょうか。
このサンゴ礁の場面には、画家のチョン・ジンギョンさんにご相談してクマノミなどの生き物を入れてもらいました。最初はきれいなサンゴ礁だけが描かれ、生き物が少ししかいなかったのです。「この場面は、きれいなサンゴ礁が汚くなるのではなく、たくさんの生き物でにぎわっていたサンゴ礁が、海水温があがり生き物がいなくなってしまう場面だから、もっといろんな生き物を入れてほしい」とお願いして、それでこうしていろいろな生き物が入ったんですね。
それから、やっぱりこのウミガメのところですね。このウミガメはヒメウミガメという一番小さな種類です。以前に鼻にプラスチックのストローが刺さったかわいそうなウミガメがコスタリカで発見され、世界中で写真や動画が拡散されて使い捨てプラスチックを見直す動きのきっかけになりましたが、あれもヒメウミガメでした。この子たちはこうやって集団で卵を産むんです。最初はアカウミガメ一匹だけで考えていましたが、この場面では、チョン・ジンギョンさんから集団のウミガメを描きたいと相談があり、ヒメウミガメたちの産卵の場面になりました。
[画像6:
https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/90113/51/90113-51-de8adf18ee413ed067484d400ca240a2-3900x2925.jpg?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
ヒメウミガメたちの産卵『たった2℃で…』P16-17
――筆づかいが残されていて、ウミガメたちの勢いを感じさせる絵ですね。
ウミガメは「うまれるまでのすなの温度によって、オスとメスが決まる」「温度が高すぎるとメスばかり、低すぎるとオスばかりうまれてしまう」「アメリカのフロリダ州の海岸では、この数年間にメスのウミガメだけがうまれた」
この作品への感想では、特にこのウミガメの「温度依存性決定」のエピソードに驚く方が多いようです。
以前にぼくは韓国で一度、ウミガメの科学読み物を出そうとしてあきらめたことがありました。名古屋に、名古屋港水族館というぼくが大好きな水族館があります。館内に人工の砂浜を作って、ウミガメの孵化をうながす実践を行っている水族館なんですが、そこに通いながらウミガメについて調べていると、なんと韓国では、ウミガメの産卵は2007年の済州島での記録が最後になっていることがわかりました。ウミガメの本を書くなら、赤ちゃんが生まれて、1万キロ向こうのアメリカ西海岸まで行きそこから大きくなって、また戻ってきて産卵するという大冒険がどうしてもメインストーリーになります。でも「韓国でウミガメの産卵がなくなってしまったのなら、もう韓国でウミガメの 科学読み物を出すのは無理だ」そう思ってその後あきらめていたんです。
それから何年かたって、ウミガメとゴミ問題をテーマにした科学読み物なら刊行したい、といってくれる韓国の出版社が出てきたので、改めてウミガメについて調べているうちに、『ウミガメの自然誌』(東京大学出版会)というウミガメの研究者たちの論文がまとまった本を知りました。
この本を読んで、ウミガメの「温度依存性決定」を初めて知りました。ちょうどその年(2018年)に出た雑誌、「ナショナルジオグラフィック」には、世界最大のサンゴ礁・グレートバリアリーフでアオウミガメの性別を調べた実験が掲載されていて、なんと116対1でメスばかりだったという記事がありました。ウミガメの科学読み物にはこのとこも書きましたが、あくまでもごみ問題が主なテーマです。いつかこのウミガメの温度依存性決定をメインにした本を書きたいと思っていたのですが、この『たった2℃で…』で、温暖化をテーマにどんな動物にするか悩んでいたときに、ウミガメの温度依存性決定のことを思い出したのです。ウミガメは必ず入れないとだめだと。
――気候変動など、科学的なテーマへの関心や意識は日本と韓国で違うのでしょうか?
PM 2.5の問題など、環境の問題がマスコミなどで取り上げられることは韓国の方が多いかもしれませんが、子どもたちの関心や、出版物の科学的なテーマへの関心は日本と韓国でさほど大きな違いはないように思います。
けれど、韓国では日本のような、学校や図書館でしかほとんど読まれない学校図書館向けというジャンルはありません。日本では、元々、柳生弦一郎さん、堀内誠一さんらの作品など、すぐれた科学絵本がたくさん出ていました。韓国でもこれらの絵本は今もよく読まれています。
ところが日本では2002年頃から以前の「ゆとり教育」から「確かな学力」へと変わり、生徒が主体的に学習に取組むことをめざした「総合的学習の時間」が始まります。すると、児童書の世界でも一般家庭向けよりも、総合的学習の時間に使われるような、学校図書館向けの「科学読み物らしいもの」や「写真科学絵本」の方が、図書館向けの本作りで価格が多少高くても売れるとされ、そういった企画しか出版されにくくなっていきました。
ぼくが日本でデビューした2007年頃は、本屋さんで手にとりやすい、芸術性やストーリー性のある科学絵本の企画をいくら日本の出版社に提案しても、なかなか認めてもらえませんでした。「学校図書館向けにすれば出せるけど」とよく言われました。それはぼくが日本ではなく、韓国の出版社に目をむけるきっかけにもなりました。
日本にも科学分野でたくさんの熱心な研究者がいますが、なぜ科学絵本はあまり多く出版されていないのか、その思いが最初この本を書くきっかけにもなりました。
今はまた日本でも少しずつ芸術性やストーリー性のある科学絵本が出版されるようになってきて、うれしく思っています。
――科学絵本だからできることは、なんでしょうか?
科学的な正確さはしっかり詰めていく必要がありますが、大切なのは、読み終わった後に「情」が残ることだと思っています。「ウミガメがかわいそう。なんとかしなきゃ」と。
科学知識絵本だけど、絵がきれいでストーリーが楽しくてはらはらするような、ストーリー性と芸術性を兼ね備えた科学知識絵本が自分にとって理想なんです。それには、やっぱり芸術の力が必要なんですね。芸術の力が合わさって伝えたいことが心にストンと落ちるように持っていきたいんです。
この本では、絵を描いてくださるチョン・ジンギョンさんに科学的な知識が伝わるように、最初はひとつの生き物についてだけでも原稿をA4に1~2枚びっしりになるくらい書きました。それを読んでもらってラフにしてもらい、そこから文章だけを何度も何度も削っていきました。そして、最終的に4行から多くても6行くらいにまで削りました。それは、絵で内容が伝わる、絵で訴えるものにしたかったからなんです。
韓国でもこの本が出た時、1年生向けにこの本について講演してほしいと言われて、最初は難しいかなと思ったんですが、そのうち幼稚園まで入れたイベントでも頼まれるようになりました。講演の内容はちょっと分かりやすくしましたけど、小さな子どもたちにも大切なことが伝わる絵本になったように思います。
――「これ以上、地球の気温を上げないために、私たちにどんなことができるのか、危機感を感じているが、どうしたらいいのかわからない」そんな感想を多くいただいています。
温暖化を止めるために、わたしたちにどんなことができるでしょうか。子どもたちへのメッセージをお願いします。
講演でもこういった質問をされることがよくあって、じつは一番困る質問なんです。伝えたいことは本の中で表現しているのですが、あえてそれでも子どもたちに言うならば、大人にまかせてはいけないということです。
こんなに地球が大変なのに、戦争は止むことがなく、一番影響力があり、二酸化炭素の排出量も多いアメリカが地球温暖化対策の国際ルールであるパリ協定からも抜けようとしています。
大人がいうことをそのままにするのじゃなくて、君たちがこの本を読んで感じたことを大人に言って、むしろ大人の教育をしてほしい。せめて大人の一人としてぼくができることは、温暖化の現実を絵本で見せて、きみたちが大人になる時代はこうなってますと、はっきり伝えてあげることだけです。
だから子どもたちには、温暖化はよそごとじゃなくて、自分ごととして今から考えておいてほしいのです。大人になってからじゃなくて、今から自分たちの生きる世の中を頭に入れて生きて、ああしたらいい、こうしたらいい、とみんなで考えて、自分ごととして捉えていってほしいというのが、この本に込めた最大のメッセージですね。
――ありがとうございます。子どもたちには、温暖化について、ぜひこの本の感想だけにとどめず、自分の生活にむすびつけて、自分なりの考えや答えをさがしてほしいですね。
(キム・ファンさんのインタビューより抜粋)
インタビュー全文はこちら
https://www.doshinsha.co.jp/news/detail.php?id=3466
[画像7:
https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/90113/51/90113-51-f875263c483f167e6a7ac1a5b9f206f0-1500x938.jpg?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
2025年度「⻘少年読書感想文全国コンクール」(小学校中学年の部)課題図書
『たった2℃で… 地球の気温上昇がもたらす環境災害』
キム・ファン 文/チョン・ジンギョン 絵 (童心社)
書名:たった2℃で… 地球の気温上昇がもたらす環境災害
文:キム・ファン
絵:チョン・ジンギョン
定価1,980円 (本体1,800円+税10%)
サイズ:28.7×23.7cm
ページ数:33ページ
ISBNコード:978-4-494-01256-5
発売日:2024年5月15日
対象:小学校1・2年生から
童心社ホームページ:
https://www.doshinsha.co.jp/search/info.php?isbn=9784494012565
【作者プロフィール】
キム・ファン
1960年京都市生まれ。『サクラ 日本から韓国へ渡ったゾウたちの物語』(Gakken)で第1回子どものためのノンフィクション大賞最優秀賞、紙芝居『カヤネズミのおかあさん』(童心社)で第54回五山賞を受賞。おもな絵本に『すばこ』『ひとがつくったどうぶつの道』(共にほるぷ出版)『ねこはわたしのまねばかり』(あかね書房)など。日韓で自然科学分野の著書が多数ある。
【画家プロフィール】
チョン・ジンギョン
絵本『空き工場のギターの音』『脈を取ってみましょうか?』『ねこちゃん、ぼくだよ』『イ・デヨル先生が教えてくれる脳科学と人工知能』『ふたつの顔を持つエネルギー、原子力』『本を作るはなし、聞いてみる?』『アンニョン くねくね』『わたしのミヌおじさん』(以上すべて未邦訳)がある。
プレスリリース提供:PR TIMES





記事提供:PRTimes