順天堂大学発「EBウイルス関連リンパ腫および慢性活動性EBウイルス病に対するiPS細胞由来EBウイルス特異的キラーT細胞療法の医師主導第I相治験」開始のお知らせ
学校法人 順天堂

ポイント
● iPS細胞由来抗原特異的キラーT細胞(細胞傷害性T細胞:CTL)療法の安全性評価を目的とした医師主導第I相治験*¹を開始
● 使用するCTLは、iPS細胞技術および遺伝子編集技術を用いて、健常人キラーT細胞由来iPS細胞から作製
● エプスタイン・バールウイルス(EBウイルス)*²感染細胞を標的としたウイルス特異的キラーT細胞療法
● HLA-A*2402を持ったEBウイルス関連リンパ腫および慢性活動性EBウイルス病の患者を対象
■概要
順天堂大学大学院医学研究科 血液内科学 安藤美樹教授、細胞療法・輸血学 安藤純教授、東京科学大学 中内啓光教授らの研究グループは、再発・難治性のEBウイルス関連リンパ腫および慢性活動性EBウイルス病の患者を対象に、iPS細胞由来EBウイルス特異的キラーT細胞療法の医師主導第I相治験を、2025年8月より順天堂大学医学部附属順天堂医院で開始します。
■背景
対象疾患について
EBウイルス関連リンパ腫は、EBウイルスに感染したリンパ球が活性化し増殖する疾患の総称で、アジアに多く、概して予後不良です。中でも節外性NK/T細胞リンパ腫, 鼻型(ENKL)は、通常のリンパ腫の抗がん剤治療に耐性で、進行すると急速に全身に浸潤して死に至る、極めて予後不良のリンパ腫です。また、EBウイルス陽性びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)は、高齢発症であり、通常のDLBCLに比較して有意に予後不良で難治性です。その他にもEBウイルス陽性ホジキンリンパ腫、移植後リンパ増殖性疾患、メソトレキセート関連リンパ増殖性疾患など、EBウイルス感染が原因で発症するリンパ増殖性疾患が複数存在します。
また、慢性活動性EBウイルス病は若年発症でEBウイルスに感染したT/NK細胞が腫瘍性に増殖する難治性の希少疾患であり、造血幹細胞移植のみが唯一完治を望める治療です。劇症な経過を辿ることも多く、有効な新規治療法の開発が待たれています。標準治療に不応性もしくは再発例では、現時点で有効な救援療法がなく治療に難渋するため、新規治療法開発が切望されています。
順天堂大学医学部附属順天堂医院血液内科では、進行期ENKLに対するL-アスパラギネースを含む化学療法の考案など、開局以来これらの難治性EBウイルス関連リンパ腫に対する新規治療開発を継続して進めてきました。今回、研究チームは2015年より開発を進めてきたiPS細胞由来EBウイルス特異的キラーT細胞療法の医師主導治験を開始します。
iPS細胞由来EBウイルス特異的キラーT細胞について
抗原特異的キラーT細胞は、我々の体内にある抗原を標的として攻撃しますが、がん患者の体内では、抗原特異的キラーT細胞が疲弊することにより、治療に使用する十分量の細胞数を得ることができず、また、T細胞機能の低下により期待した効果を得られないことも少なくありません。そこで研究チームは、iPS細胞技術を用い、機能的に若返らせることでT細胞の疲弊を軽減し、細胞傷害性が増し、潤沢な細胞数のEBウイルス特異的キラーT細胞を確保することを目指しました。さらに、健常人由来T細胞を用いても患者由来免疫細胞からの攻撃を抑制できるよう、HLAクラスI遺伝子のゲノム編集をしています。この画期的なキラーT細胞を用いて、EBウイルス関連リンパ腫と慢性活動性EBウイルス病の治療を目指します(図1)。この治療法は、既存の治療法にはない新しい治療を提供する可能性があります。
図1 本治験の免疫細胞療法の概念図
[画像1:
https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/21495/778/21495-778-a9b680edae8eacd7c2420ff9c44533a8-917x467.png?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
■内容
2025年7月24日付けで、「EBウイルス関連リンパ腫および慢性活動性EBウイルス病に対するiPS細胞由来EBウイルス特異的CTL療法の医師主導治験」の治験届が受理され、2025年8月より順天堂大学医学部附属順天堂医院 血液内科において医師主導治験を開始します。本治験は、EBウイルス関連リンパ腫および慢性活動性EBウイルス病の患者で再発後に既存の治療による効果が見込めない患者を対象とし、本剤(rejT-E01)の安全性を非盲検非対照試験で検討します。スケジュールは、本品投与の2日前までシクロホスファミド水和物500 mg/m2及びフルダラビンリン酸エステル30 mg/m2によるリンパ球除去療法を1日1回3日間点滴静注します。リンパ球除去療法の翌々日を0日目としrejT-E01を投与します。コホート0は単回投与とし、Day21までの安全性を確認後、コホート1~3の反復投与に移行します。反復投与ではrejT-E01を3週間に1回の間隔で投与します(図2)。
なお本医師主導治験は、令和7年度AMED橋渡し研究プログラム シーズC(b)に採択され、東京大学橋渡し研究支援拠点の支援を受けて実施されます。
図2 本治験におけるコホート概略図
[画像2:
https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/21495/778/21495-778-968aff67af31252e989d5090099d1a4f-969x146.png?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
■今後の展開
本治験は、EBウイルス関連リンパ腫および慢性活動性EBウイルス病の患者で再発後に既存の治療による効果が見込めない患者を対象としており、本治験で安全性を証明し、今後の第II-III相試験で有効性が証明できれば、これまで有効な手立てのなかった再発・難治性EBウイルス関連リンパ腫および慢性活動性EBウイルス病の患者に対して、新たな治療法となる可能性があります。
■用語解説
*1 医師主導治験
治験のうち、製薬企業が主体となって行う治験と、治験を行う医師が自ら計画を立て行う治験があり、後者を「医師主導治験」といいます。治験は治療の効果と副作用が確認される前に実施されますので、通常の治療と異なり、研究的な側面が伴います。医師主導治験も企業治験と同様の基準の下で行われ、参加される患者さんの安全や倫理面に十分配慮して行われます。
*2 エプスタイン・バールウイルス(EBウイルス)
EBウイルスは、ヘルペスウイルス4型と呼ばれるヘルペスウイルスの一種です。大部分の日本人は、乳幼児期に感染し、多くは症状が出ないため感染に気付きません。思春期以降に初めて感染すると、伝染性単核球症と呼ばれる発熱やのどの痛み、リンパ節の腫れなどの症状が一時的にみられることがあります。また、EBウイルスはヒトがんウイルスとしても重要で、バーキットリンパ腫など一部の悪性リンパ腫や、上咽頭がんの発生と関連があることが明らかになっています。
プレスリリース提供:PR TIMES

記事提供:PRTimes