寛解導入率45.9%を達成 ―潰瘍性大腸炎に対する腸内細菌叢移植療法
学校法人 順天堂

― 先進医療B研究で有効性と安全性を確認 ―
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順天堂大学(東京都文京区、学長:代田浩之)とメタジェンセラピューティクス株式会社(山形県鶴岡市、代表取締役社長CEO:中原拓)は、産学連携による腸内細菌叢移植療法の臨床応用研究の一環として、厚生労働省承認の先進医療B「活動期潰瘍性大腸炎患者を対象とする抗菌薬併用腸内細菌叢移植療法」の多施設共同臨床研究(全37症例)を実施し、2025年8月20日をもって研究終了が承認されました。本研究では、寛解導入率*¹ 45.9%を達成し、主要評価項目を満たす有効性が確認されました。また、安全性評価においても重篤な有害事象は認められず、安全性が担保された治療法であることが示されました。本成果は、腸内細菌を活用した新規治療戦略が潰瘍性大腸炎の新たな治療選択肢として実用化の可能性を示す重要な成果です。
本研究成果のポイント
● 寛解導入率45.9%を達成 ― 潰瘍性大腸炎に対する治療効果を確認
● 重篤な有害事象なし ― 安全性が担保された新規治療法であることを確認
● 次のステップは保険診療へ ― 実装化に向けた研究・開発を推進
背景
潰瘍性大腸炎は大腸の粘膜に慢性的な炎症を起こす指定難病であり、国内の患者数は20万人以上と推定されています。腹痛や慢性下痢、血便などの症状によって生活の質が大きく損なわれ、患者数は年々増加しています (出典#¹)。
順天堂大学では2014年6月より、抗菌剤併用腸内細菌叢移植*²(以下「A-FMT」)に関する臨床研究を開始し、これまでに200名以上のドナーの方、240名以上の潰瘍性大腸炎患者が参加しました。安全で効果的な新規治療法の確立を目指し、便ドナーの感染症スクリーニングの適正化や、“良いドナーの条件”および“ドナーと患者の相性”に関する知見を報告するなど、基礎研究と臨床応用の両面から成果を積み重ねてきました。
近年は、順天堂大学大学院医学研究科に腸内細菌療法リサーチセンター(Gut-Link Lab)*³が設置され、腸内細菌療法に関する基礎研究と臨床研究の連携が推進されています。さらに、A-FMT療法の実装化に向けて産学連携が進められており、メタジェンセラピューティクス株式会社との協働により、安全かつ安定した腸内細菌叢溶液の作成・管理体制や臨床応用の基盤整備が進められています。
内容
― 寛解率45.9%、国内初治療効果を証明 ―
今回の「抗菌薬併用腸内細菌叢移植療法(A-FMT)」の多施設共同臨床研究は、2023年1月に承認され、同年3月には順天堂大学医学部附属静岡病院と金沢大学附属病院、6月には滋賀医科大学医学部附属病院が新たに研究参加施設として加わり、体制を拡充して進められました。メタジェンセラピューティクス株式会社は共同研究機関として、腸内細菌ドナーのリクルーティング、便検体の管理、腸内細菌叢溶液の調製・品質管理など、臨床研究を支える重要な役割を担いました。
2023年1月から2025年8月にかけて活動期潰瘍性大腸炎患者37例を対象に実施した結果、FMT開始8週後の内視鏡・症状評価にて排便回数、血便、内視鏡所見のいずれも有意に改善し、症状が改善する有効率は70.3%、寛解導入率は45.9%に達し、主要評価項目を達成しました。重篤な有害事象も認められず、安全性が確認されました。
今後の展開
本研究は、2014年から積み重ねてきた順天堂大学での臨床研究と、メタジェンセラピューティクス株式会社との産学連携の成果であり、活動期潰瘍性大腸炎に対するA-FMTの有効性と安全性を国内で初めて臨床的に証明するものです。2025年に設置された順天堂大学大学院医学研究科腸内細菌療法リサーチセンター(Gut-Link Lab)を拠点に、基礎研究と臨床研究の両輪でA-FMTのメカニズムの解明や患者とドナーの最適なマッチング指標の確立など腸内細菌サイエンスを根拠とした高い治療効果の医療技術を目指すとともに、標準治療化・保険診療での実装を視野に入れ、さらなる研究開発を推進してまいります。
用語解説
*1 寛解導入率
潰瘍性大腸炎は「下痢や血便が続く」「腸に炎症がある」といった状態です。治療によって症状が落ち着き「ほとんど症状がなく、腸の中も炎症が改善した状態」を「寛解」と呼びます。今回の寛解導入率とは、参加した全ての方(途中で離脱した人も含める)の中の、寛解した人の割合を示します。本研究では治療開始から8週間後に、約46%の患者さんが寛解に達しました。従来の試験で報告されている「偽薬を使った場合の寛解率(約20%)」に比べて、明らかに高い効果が認められました。また、治療の効果は、症状の改善だけでなく、大腸内視鏡で大腸病変を観察・ビデオ撮影し、その映像は第三者の専門医による中央判定で評価されており、偏りのない客観的な判断が行われています。
*2 抗菌剤併用腸内細菌叢移植療法(Antibiotic Fecal Microbiota Transplantation療養:A-FMT療法)
1.~3.の3つのステップからなります。1.乱れた腸内細菌叢の状態:腸内細菌のバランスが乱れ、多様度が低下しています。2.3種類の抗菌薬(アモキシシリン、ホスホマイシン、メトロニダゾール:AFM療法)により腸内細菌量を極限まで減らし、乱れた腸内細菌叢をクリアにします。3.内視鏡や注腸による便移植:ドナー便から生成した腸内細菌溶液の注入により、バランスのとれた腸内細菌叢の構築を図ります。
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*3 順天堂大学大学院医学研究科腸内細菌療法リサーチセンター(Gut-Link Lab)
近年注目されている腸内細菌叢の乱れ(dysbiosis)を是正する治療法「腸内細菌療法」の基礎研究と臨床応用を推進するために2025年1月に設置されました。FMTを含む腸内細菌を利用した治療は消化器疾患だけでなく、他領域への応用可能性が広がっており、多分野の専門家が連携(Link)することで、効率的かつ高品質な臨床研究と基礎研究を横断的に展開しています。また、腸内細菌療法の国際的研究拠点としての地位確立を目指しており、国内外のアカデミア・企業との連携(Link)も強化しています。
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出典
#1 平成28年度 厚生労働科学研究費補助金難治性疾患等政策研究事業 難治性炎症性腸管障害に関する調査研究 総括研究報告書
関連プレスリリース
・2020年6月25日 順天堂大学「
兄弟、同世代のドナーが便移植療法の長期治療効果を高める」
・2023年1月4日 順天堂大学「
潰瘍性大腸炎を対象とした「抗菌薬併用腸内細菌叢移植療法」が先進医療Bとして承認、2023年1月より実施」
・2025年4月30日 順天堂大学「
潰瘍性大腸炎に対する腸内細菌移植療法“良いドナーの条件”と“ドナーと患者の相性”を解明~ 新規治療「腸内細菌療法」の確立に向けて ~」
研究者のコメント
潰瘍性大腸炎は患者さんの日常生活を大きく損なう難病です。私は「長期にわたる薬物治療に頼らず、根本的な治療法を確立できないか」という強い思いから、11年前に腸内細菌療法の研究を開始しました。研究を進める中で、ドナー条件の検討や適応の難しさなど、数多くの課題に直面しましたが、葛藤を抱えながらも試行錯誤を重ね、研究を継続してきました。
今回の先進医療B臨床研究において、寛解導入率45.9%という高い有効性と安全性を示すことができました。これは大きな達成であり、研究に関わった多くの方々のご協力と支えがあってこそ成し得た成果だと考えています。今後はこれまでの成果を土台に、さらなる治療効果の向上を目指すとともに、社会実装を進めていきたいと考えています。潰瘍性大腸炎の患者さんに新たな選択肢を届けられるよう、これからも真摯に研究を続けてまいります。
(順天堂大学大学院医学研究科腸内細菌療法リサーチセンター/消化器内科学講座 石川 大)
本研究は、メタジェンセラピューティクス株式会社共同研究講座研究費、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)JP25ae0121038、JSPS科研費 JP24K11138、順天堂大学次世代イノベーション創出基金 LEVEL3(RDB)の支援を受け実施されました。
なお、本研究にご協力いただいた皆様には深謝いたします。
プレスリリース提供:PR TIMES


記事提供:PRTimes