資生堂、汗や湿度などの日常ストレスから解放する新発想のウォーターベース日焼け止め技術を開発 ～高い耐水性と紫外線防御力を保ち、外部環境の湿度変化に応じて肌表面の水分量を調整～
株式会社資生堂
資生堂は、ウォーターベース（Oil in Water型）※1でありながら、高い耐水性と紫外線防御力が持続し、かつ過酷な蒸し暑さや冷房による乾燥など外部環境の湿度変化に応じて肌表面の水分量を調整する新しい日焼け止め技術を開発しました。
本技術は、汗や海水に含まれる金属イオンと反応する石鹸由来の成分を利用し、肌表面の塗布膜に特殊な構造を形成させることで撥水性と密着性を向上させます。ウォーターベースの日焼け止めは、軽い使用感で肌に馴染みやすくベタつきが少ないのが特徴ですが、汗や水に触れると落ちやすいため、これまでは耐水性を高めるために紫外線散乱剤や被膜剤が必要でした。今回はそれらを使用せず、水より軽く、柔軟でヨレにくい膜を形成することが可能になり、高い耐水性と紫外線防御力を持続しつつ、白浮きや黒い服への白移りが少ない透明な仕上がりを実現しました。
加えて、これまでの資生堂の研究では、急激な湿度変化（環境ショック）により、シミの原因となる炎症因子IL-1αが活性化されることが明らかになっています。今回、外部環境の湿度変化に応じて自発的に水分透過をコントロールする技術※2を応用し、乾燥下では肌表面の水分を逃さずに留め、湿潤下では過剰な水分を放出することで常に肌表面の水分バランスを一定に保ち、IL-1αの活性化を抑制させることが期待されます。
なお、今回使用した石鹸成分は、洗い流さない製品に最適化したものであり、肌に石鹸成分が残ることによる懸念はありません。また、紫外線散乱剤を配合しないことで洗浄性も向上し、しっとりとした洗い上がりの感触になります。
本研究の成果の一部は、2025年12月8日～10日に開催された「第3回日本化粧品技術者会(SCCJ)学術大会」にて発表されました。
※1 ウォーターベース（Oil in Water型）は、軽い使用感で肌に馴染みやすく、ベタつきが少ないのが特徴です。ただし、一般的には、耐水性が低く、汗や水に弱いとされてきました。一方、オイルベース（Water in Oil型）は、耐水性が高く、汗や水に強い上に保湿力も優れていますが、重たいテクスチャーであることが特徴です。
※2 外部環境の湿度変化に応じて自発的に水分透過をコントロールする技術を開発（2022年）
https://corp.shiseido.com/jp/newsimg/3507_d7h51_jp.pdf?rt_pr=trt97
[画像1:
https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/5794/3004/5794-3004-d8143cb8f33658ca52c95c2ce07153c9-1639x457.png?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
図1 新基剤（イメージ）
《研究の背景》
従来、ウォーターベース日焼け止めは軽い使用性のため、日常使いとして人気がある一方で、汗や水に弱く、紫外線防御膜が崩れやすいとされてきました。そのため、日焼け止め製剤開発においては、耐水性を高めるために紫外線散乱剤や被膜剤を多く配合することが一般的な手法となっており、白浮きやべたつき、衣類への色移りを引き起こす要因となっていました。また、紫外線から肌を守るためには、日焼け止めの機能性はもちろん、毎日継続して使いたくなる使用性も同様に重要と考え、環境ショックなど日常のストレスを軽減する新しい製剤開発に取り組みました。
《新発想のウォーターベース日焼け止め技術の特長》
1.石鹸で乳化した紫外線防御膜に高い耐水性を発見
石鹸がマグネシウムなどの金属イオン（カルシウムやマグネシウムなど）と反応すると水に溶けにくくなる事象に着想を得て、日焼け止めの塗布膜の撥水性向上を目指しました。脂肪酸※3をアルカリで中和することで作られる「石鹸」は、水に溶けると界面活性剤の性能を発揮し、紫外線吸収剤などの油性成分と水性成分を乳化させ、製品の安定性を保つことができます。このメカニズムを活用し、塗布後に、これらの成分が汗や海水に含まれる金属イオンと反応（結合）することで、塗布膜表面に特殊な構造を形成させ、撥水性を向上させました（図2）。今回、比較的鎖長の長い飽和脂肪酸と中和剤として適切な有機塩基を特定の比率で用いることで、安定した基剤を開発することに成功しました。なお、塗布膜の表面のみが反応すれば耐水性が得られるため、必要な金属イオンは微量でよく、汗をかきにくい冬に使用しても問題ないと考えています。
※3 脂肪酸は、炭素、水素、酸素からなる有機化合物であり、脂質を構成する基本的な成分です。炭素が鎖状につながった構造を持ち、その炭素鎖の長さによって「短鎖脂肪酸」「中鎖脂肪酸」「長鎖脂肪酸」に分類されます。また、炭素と炭素の間に二重結合が全くない脂肪酸（例：パルミチン酸、ステアリン酸など）を「飽和脂肪酸」、二重結合がある脂肪酸を「不飽和脂肪酸」といいます。
[画像2:
https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/5794/3004/5794-3004-2e0fdfb4fd0e977b92831f1cd2fdc625-1520x424.png?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
図2 接触角測定の様子
2.サンケアにおける石鹸成分の最適化
これまで、スキンケア研究においては、石鹸乳化を活用した例は広く知られていましたが、それを日焼け止めに応用した研究はさほど進んでおらず、耐水性向上のために活用した例はありませんでした。
高い紫外線防御力を実現するためには、多くの油分を配合する必要があり、それらを安定して配合できる石鹸成分の組み合わせを探索する必要がありました。
スキンケア研究のアプローチでは、石鹸成分とは別の乳化剤を助剤として配合し、安定化向上を図っていますが、サンケアに応用すると、石鹸形成に必要な脂肪酸と油分量の関係で、脂肪酸が結晶化し、不安定な状態になります。これらの課題に対し、比較的鎖長の長い飽和脂肪酸と、適切な有機塩基を特定の比率で用いて石鹸成分を構築し、石鹸成分のみで乳化を行うことで、脂肪酸の結晶化を抑制し、安定してサンケアに必要な油分を乳化できることが分かりました。これにより、高い紫外線防御力と耐水性を発揮しながらも、紫外線散乱剤や被膜剤を配合していないため、きしみや肌負担感の無い、これまでにない軽い使用感と透明な仕上がりを実現し、黒い服への白移り抑制も期待できます（図3）。※4
※4 特許出願中
[画像3:
https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/5794/3004/5794-3004-fce44f04a8b852f0b850f4a542957ff4-991x527.png?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
図3 黒布への白移りが少ない透明な仕上がり
3.外部環境の湿度変化に対応し、シミの原因となるIL-1αの活性化を抑制
これまでの資生堂の研究では、急激な湿度変化（環境ショック）により、シミの原因となる炎症因子IL-1αが活性化されることが明らかになっています。IL-1αによってメラノサイトが刺激を受け、メラニンを過剰に生成し、それらが肌内部に蓄積されることでシミが発生します。また同時に、このような環境ショック下では、角層の収縮やキメの乱れ、バリア機能や保水機能の低下などが起こり、紫外線ダメージを受けやすくなることも分かっています。今回、外部の湿度変化に応じて肌表面の水分量を調整することで、快適な肌環境をつくるだけでなく、IL-1αの活性化を抑制させることが期待されます。
《今後の展望》
これまでの日焼け止め開発では、「高い紫外線防御力」と「快適性」を両立させることは困難とされてきました。また、肌表面を覆って紫外線を防ぐだけでなく、日常のストレスや不快感、さらには環境にも配慮した製品は、まだ限られています。これからも資生堂は、生活者の日常に寄り添い、人と環境にやさしい技術開発を通じて、誰もが太陽の下で自由に、自信を持って過ごせる社会の実現を目指します。
《R＆D戦略について》
資生堂は、イノベーションを加速させるためのアプローチとしてR&D理念「DYNAMIC HARMONY」のもと、「Skin Beauty Innovation：ブランドの価値向上」「Sustainability Innovation：循環型の価値づくり」「Future Beauty Innovation：新領域への挑戦」の3つの柱を立てています。また、オープンイノベーションを推進し、さまざまな外部機関との研究アライアンスを通じて、新しい価値創造を進めています。資生堂の先進サイエンスと世界トップレベルの研究機関の知と技術の融合から創出された革新的な研究成果は、化粧品技術に関する世界最大の権威ある研究発表会IFSCCなどグローバルにおいて学術的にも高く評価されています。
R&D理念「DYNAMIC HARMONY」とは
https://corp.shiseido.com/jp/rd/dynamicharmony/?rt_pr=trt97
《参考情報》
・資生堂、世界初“水・汗に触れても紫外線防御効果が落ちずに高まる”革新の日やけ止めの新技術「WetForce」の開発に成功！（2014年）
https://corp.shiseido.com/jp/newsimg/archive/00000000001735/1735_b5z78_jp.pdf?rt_pr=trt97
・資生堂、世界初”熱で紫外線防御効果が高まる技術”を開発 (2019年)
https://corp.shiseido.com/jp/newsimg/2772_f2r76_jp.pdf?rt_pr=trt97
・資生堂、紫外線を肌に良い作用をもたらす光へと変換する革新技術を開発（2021年）
https://corp.shiseido.com/jp/newsimg/3256_l6j22_jp.pdf?rt_pr=trt97
・資生堂、自動でミクロレベルの傷やよれを修復する 日焼け止めの新技術「オートリペア技術TM」を開発（2024年）
https://corp.shiseido.com/jp/newsimg/3740_g0t75_jp.pdf?rt_pr=trt97
・資生堂、高い紫外線防御力と透明な仕上がりを両立した次世代ミネラルサンスクリーン技術を開発（2025年）
https://corp.shiseido.com/jp/newsimg/3991_c1m92_jp.pdf?rt_pr=trt97
▼ ニュースリリース
https://corp.shiseido.com/jp/news/detail.html?n=00000000004108&rt_pr=trt97
▼ 資生堂 企業情報
https://corp.shiseido.com/?rt_pr=trt97プレスリリース提供：PR TIMES
記事提供：PRTimes
