提言書「新薬のイノベーションを適切に評価しない日本だけのガラパゴスルール『原価計算方式』の暫定的見直し」を発表
一般社団法人 日本パブリックアフェアーズ協会

一般社団法人日本パブリックアフェアーズ協会は2025年12月25日、政策提言書「新薬のイノベーションを適切に評価しない日本だけのガラパゴスルール『原価計算方式』の暫定的な見直し」を発表しました。このレポートは、中村洋教授(慶應義塾大学大学院経営管理研究科)監修の下、弊協会アドバイザーの武藤正樹 日本医療伝道会衣笠病院グループ理事、印南一路名誉教授(慶應義塾大学総合政策学部)の助言を得て、日本パブリックアフェアーズ協会において作成したものです。
弊協会では、本年3月に「新薬のイノベーション向上のための創薬エコシステム構築と医療保険財政の健全性確保の両立に向けた提言」を発表いたしました。本提言は、その各論編の第一弾として、日本の薬価制度の問題点の一つである「原価計算方式」に焦点を当て、抜本的改革の前の暫定的な対策として、具体的な改善策を提言するものです。
《背景と問題意識》
我が国では、画期的な新薬の薬価算定において、比較薬がない場合に「原価計算方式」が用いられている。しかし近年、原価の開示率が低いことを理由に、本来評価されるべきイノベーションに対しての新薬創出の加算が帳消し(加算0)にされる事例が頻出している。現代の創薬は、オープンイノベーションや水平分業が主流であり、ベンチャー企業や大学発シーズなどの研究開発主体からの導入がグローバル規模で増加し、製薬企業が原価を開示することが構造的にますます困難になってきている。
それにもかかわらず、日本独自のルールである原価計算方式により、加算を0にされていることは、「日本はイノベーションを評価しない国である」という誤ったメッセージを世界に発信することになり、ドラッグ・ラグ/ロスの拡大(日本で創薬しても海外のみで販売される事態)を招く深刻な要因となる。
《提言》
根本的には、医薬品は「原価」ではなく「価値」によって価格が決定されるべきであり、現行制度の抜本的な見直しが必要だ。しかし、新薬の価値に基づく新たな算定方式の検討には時間を要するため、抜本的改革の前の暫定的な対策として、喫緊の課題である創薬イノベーションの評価を維持すべく、以下の4点について原価計算方式の早急な改善を提言する。
1.原価の開示率50%未満における加算係数ゼロを、2021年までの「0.2」に戻すこと
2021年までは、開示率が低い場合でも係数は「0.2」とされていたが、現在は「0」とされ、イノベーション評価が完全に否定されている。これを直ちに戻すべきである。
2.海外における研究費等の計上を認めること
現在の制度では、日本国内で発生した費用のみが対象とされており、グローバルでの創薬の研究費の計上は認められていない。
3.労務費単価(3,634円)を創薬研究の実態に即した単価へ是正すること
現行の計算式で用いられる労務費単価「3,634円」は、事務職等も含めた平均値であり、高度な専門性を要する創薬研究の実態(約2万~3万円程度)とあまりに乖離している。
4.販管費率の上限を開示率に関係なく実際にかかった適切な費用の計上を認めること
開示率によって販管費率にキャップ(上限)がかけられる現行ルールを改め、実際にかかった適切な費用の計上を認めるべき。
■本レポート全文のダウンロード
以下リンクから、本レポート全文(PDF)をダウンロードできます。
(
https://www.j-paa.or.jp/policyproposal/1023/)
■アカデミアプロフィール
監修:中村洋 慶應義塾大学大学院経営管理研究科教授
1988年一橋大学経済学部卒業、1996年スタンフォード大学経済学研究科博士課程修了(Ph.D.)、1996年慶應義塾大学大学院経営管理研究科専任講師、1998年同助教授、2005年より現職。慶應義塾インフォメーションテクノロジーセンター所長兼任。専攻、経済学・産業組織論(特に、バイオ・医薬品産業)。主要業績に「製薬産業の構造変化および新しいアライアンスおよびM&Aへの展望」(『臨床医薬』 2008年)、「医療用医薬品産業における構造変化と新たなM&A・アライアンスへの展望」(『医療と社会』2007年)、「診療報酬点数設定の透明化・適正化と医療機関の経営・オペレーション効率化に向けた長期的な診療報酬制度改革への一考察」(『社会保険旬報』2006年〔医療経済賞受賞〕)など多数。
助言:武藤正樹 日本医療伝道会衣笠病院グループ理事
1974年新潟大学医学部卒業、1978年新潟大学大学院医科研究科修了後、国立横浜病院にて外科医師として勤務。同病院在籍中厚生省から1986年~1988年までニューヨーク州立大学家庭医療学科に留学。1990年国立療養所村松病院副院長。1994年国立医療・病院管理研究所医療政策研究部長。1995年国立長野病院副院長。2006年より国際医療福祉大学三田病院副院長・同大学大学院医療経営福祉専攻教授、2018年4月より同大学院医学研究科公衆衛生学分野教授、2020年7月より社会福祉法人日本医療伝道会衣笠病院グループ相談役、2023年7月より現職で現在に至る。医療計画見直し等検討会座長(厚労省2010年~2011年)、中医協入院医療等の調査評価分科会会長(厚労省2012年~2018年)。規制改革推進会議医療・介護ワーキンググループ専門委員(内閣府2019~2021年)。著作としては、「医療介護の岩盤規制をぶっとばせ!コロナ渦中の規制改革推進会議、2年間の記録」(篠原出版新社 2021年)、「コロナで変わる『かかりつけ医』制度」(ぱる出版 2022年)、「医療介護DX~コロナデジタル敗戦からAIまで~」(日本医学出版社 2023年)など多数。2024年5月、「日本から薬が消える日」(ぱる出版)を上梓。
助言:印南一路 慶應義塾大学総合政策学部 教授
東京大学法学部を卒業後、富士銀行に入行、1984年に厚生省保健局企画課への出向を経て1986年にハーバード大学行政大学院にてフルブライト奨学生として医療政策を学び、1992年にシカゴ大学経営大学院で博士号を取得。1994年には慶應義塾大学総合政策学部に着任、現在に至る。主な著書は、「社会的入院の研究」(日経・経済図書文化賞、政策分析ネットワーク賞受賞)、「生命と自由を守る医療政策」「再考・医療費適正化」。2011年4月から中央社会保険医療協議会(中医協)の公益委員を務めた後、現在は健康・医療・介護情報利活用検討会構成員、規制改革推進会議医療・介護WG専門委員、経済財政諮問会議一体改革推進委員会社会保障WG特別委員、高齢者医薬品適正使用検討会委員(座長)、政策評価にかかる有識者会議委員(医療・公衆衛生WG座長)を務める。一般財団法人医療経済研究・社会保険福祉協会医療経済研究機構副所長兼研究部長を兼任。
弊協会では、今後も、市民、学者、政治家、行政が参加するオープンな議論と政策検討の場を用意する「パブリックアフェアーズ活動」の概念普及を推進し、政府機関だけでは解決策を考察・実行することが困難な社会課題に対し、民間の活力と叡智を取り入れた解決策を提供していくための議論や研究を行ってまいります。
プレスリリース提供:PR TIMES
記事提供:PRTimes