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静止気象衛星「ひまわり」で熱帯雨林での“健康診断”-新手法で精度の高い観測が可能に-

国立大学法人千葉大学

静止気象衛星「ひまわり」で熱帯雨林での“健康診断”-


 千葉大学環境リモートセンシング研究センターの市井和仁教授、同大大学院融合理工学府博士前期課程2年生の長谷美咲氏、東京大学大学院農学生命科学研究科の熊谷朝臣教授、愛知県立大学情報科学部の吉岡博貴教授、大阪公立大学大学院農学研究科の植山雅仁准教授らの研究グループは、日本の静止気象衛星「ひまわり8/9号」を用いて、東南アジアの熱帯雨林を正確かつ一貫して監視するための新たな観測幾何条件(注1)「S-CSA(Spatially-Constant Scattering Angle:空間的統一散乱角(注2))」を提案し、衛星・地表・太陽の相対的な位置関係に起因するバイアスを大幅に低減することに成功しました。S-CSA条件のもとで算出した植生指数(注3)は、従来の手法よりも地上観測の光合成によるCO2吸収量との相関が最も高く、これまで困難だった季節変動の正確な把握を可能にしました。本研究成果は、宇宙からの「定点観測」という静止衛星の強みを最大限に引き出し、地球の肺とも言われる熱帯地域における炭素循環の理解や、森林管理・気候変動対策に大きく寄与することが期待されます。
 本研究成果は、2025年11月21日に、国際誌Environmental Research Lettersにオンライン掲載されました。
[画像: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/15177/1105/15177-1105-e74a23cac6fd9a01b9cb2cbbf1bec451-950x480.jpg?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
図:新手法(S-CSA)による観測幾何条件の違いの補正と植生指数データの安定化効果。左図は従来手法(上段)、S-CSA手法(下段)の概念図。従来の静止衛星観測では、観測方向(直下視、斜め視)の違いから、場所によって見え方が変わりバイアスが生じる問題があった。S-CSA手法では、一定の観測幾何条件を採用し、どこでもできるだけ同じ条件で観測するように調整が可能(図中〇印)。右図は植生指数(EVI2)の季節変動の幅を示したもので、新手法の適用により(下段)、特定の地域(衛星直下(★)地域付近など)で見られる不自然な変動を抑え、植生の実際の変化をより安定して捉えられることが分かる。

■研究の背景
 東南アジアの熱帯雨林は、地球規模の炭素循環を支える重要な生態系ですが、エルニーニョ現象や急速な森林減少により、その炭素循環の収支には大きな変化が生じています。また、この地域は雲が発生しやすく、従来の衛星による観測では十分な評価をすることが困難でした。
 日本の静止気象衛星「ひまわり8/9号」は10分間隔の高頻度観測が可能で、雲の多い熱帯地域における新たな植生モニタリング手段として期待されてきました。しかし、静止気象衛星では衛星からの観測角が地点毎に異なる角度で固定される一方、観察される側の地表面では、太陽の角度が時間や季節によって変化します。このため、観測幾何条件の不一致により反射率の角度依存性に起因するバイアスが発生し、植生活動の変動を正しく捉えることが難しいという課題がありました。

■研究の成果
 研究グループは、ひまわりデータに最適化した新しい観測幾何条件「S-CSA」を考案しました。S-CSAは、空間的に一定の散乱角(本研究では140°)となる観測条件であり、この条件のもとでは、衛星が常に「太陽入射角に対して同じ角度から見た状態」で地表面を観測する状況が成立します。本研究では、東南アジア全域において、衛星・地表・太陽の相対的な位置関係が一定となる観測タイミングが、年間を通して存在することを発見しました。本研究のS-CSA条件を満たす観測データを選択して解析する方法を含め、4種類の観測幾何条件による解析手法を比較・評価した結果、S-CSA条件に基づく解析が、反射率の角度依存性に起因するバイアスを最も効果的に低減できることを実証しました。
 そしてその結果、以下の点が明らかになりました。
- S-CSA条件のもとで算出した植生指数が、地上観測の光合成によるCO2吸収量と最も高い相関を示し、季節変動を最も正確に捉えました。- 地域ごとの植生指数の偏りや、データ上に現れる不自然なパターンが抑制され、空間的に一貫した植生モニタリングが可能になりました。これにより、東南アジアの広域にわたって高頻度かつバイアスの少ない植生活動の把握が可能になります。
■今後の展望
 今回考案したS-CSAは、「ひまわり8/9号」の課題であった観測幾何条件の空間的なバイアスを効果的に克服するもので、高精度な植生活動モニタリングを可能にします。さらに、この手法はFY-4A(中国)、GK-2A(韓国)、GOES-16(米国)、など、他国の静止気象衛星にも適用できる汎用性を有しており、アマゾンや中央アフリカなど世界の熱帯地域への展開も期待されます。
 得られる高信頼な観測データは、森林減少・劣化に伴う温室効果ガス排出削減をはじめとした、国際的な炭素監視・森林管理フレームワークに貢献し、持続可能な環境政策の基盤情報として活用されることが見込まれます。

■用語解説
注1)観測幾何条件:観測を行う際の対象物、観測センサー、光源(太陽など)の相対的な位置関係を指す言葉。特にリモートセンシング(人工衛星や航空機からの遠隔観測)の分野で重要な概念。
注2)散乱角 (Scattering Angle):太陽から地面に届く光の向きと、地面から衛星へ向かう(衛星が見る)向きの間の角度。衛星・地表・太陽がどのような位置関係にあるかを表す。この散乱角が大きいほど太陽と衛星の相対的な位置が近いことを示す。
注3)植生指数:植物が赤い光を吸収し、近赤外光を強く反射する性質を利用して、植物の葉の量や光合成活動の活発さを表した指標。本研究では、赤色と近赤外の 2種類の光のみから算出でき、植生の密な地域でも感度の高さを保てる「EVI2 (2-band Enhanced Vegetation Index; 2バンド拡張植生指数)」を利用した。

■研究プロジェクト
 本研究は以下の支援を受け実施されました。日本学術振興会(JSPS)科学研究費(JP22H05004, JP20K20487, JP23KJ0304)、研究拠点形成事業(JPJSCCA20220008)、文部科学省VLプロジェクト。

■論文情報
タイトル:Exploring the optimal geometry of satellites Himawari-8/9 to monitor seasonal variation in vegetation dynamics across Southeast Asia
著者:Misaki Hase, Kazuhito Ichii, Yuhei Yamamoto, Wei Li, Beichen Zhang, Wei Yang, Tomo’omi Kumagai, Yoshiaki Hata, Naoya Takamura, Chandra S Deshmukh, Masahito Ueyama, Hiroki Yoshioka and Tomoaki Miura
雑誌名:Environmental Research Letters
DOI:10.1088/1748-9326/ae0f42

プレスリリース提供:PR TIMES

記事提供:PRTimes

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