高機能より“現場で使える最小限”を追求。福祉現場で進む「ロボットの社会実装」
NPO法人クオーレ

就労支援施設で“面接練習”と“見守り”を支える実証実験--愛知県豊橋市の就労支援施設「NPO法人クオーレ」がロボット社会実装の先駆的モデルを提示
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人手不足が続く福祉現場では、支援の質を保ちながら、職員の負担をどう減らすかが大きな課題になっています。一方で、ロボットやAIの技術が進んでも「現場では使いにくい」「高価で維持が難しい」「衛生面や運用の手間で導入できない」といった理由から、導入が進まないケースも少なくありません。
こうした“技術と現場のギャップ”を埋める取り組みとして、国立大学法人 豊橋技術科学大学(愛知県豊橋市)の情報・知能工学系助教 林宏太郎氏(以下 林助教)は、愛知県の「2025年度ロボット未活用領域導入検証補助金」の支援を受け、愛知県豊橋市の就労支援施設「NPO法人クオーレ」において、福祉現場支援ロボットの実証実験を開始。
福祉現場ではこれまで、支援者一人ひとりのカンや経験が、利用者を支える大きな力となってきました。本研究が目指すのは、それらを否定することではありません。
むしろ、現場で培われた経験値に「見える根拠」や「再現性」を重ねることで、誰が関わっても一定の質を保てる支援の未来をつくること。
ロボットは人に代わる存在ではなく、支援の質を支える“もう一つの目”として位置づけられています。
そこで本研究では、あえて機能を「最小限」に絞り込み、面接練習やバイタル見守りなど、福祉現場が真に求める要素を形にした「本当に使えるロボット技術」の普及を目指します。
実証実験を行う3つのソリューション
本研究で検証しているのは、福祉現場に必要な機能を「新規導入する」のではなく、“本当に必要な要素だけ”を統合・簡素化して普及可能な形にするというアプローチ。
対象となる機能は、以下の3系統です。
- うなずき可視化(相手の反応・会話の受け渡しに関わる非言語情報の取得)- 会話(面接練習や自己PR練習の相手となる対話)- バイタル測定(薬の開閉や扉の開閉など、日常の行動から状態を把握)
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「現場に合わせて、シンプルに」--7年の研究が向かった先
本研究を主導するのは、コミュニケーションロボット研究に約20年前から取り組む林助教。大阪大学や奈良先端科学技術大学院大学での研究環境や、ATR(国際電気通信基礎技術研究所)での経験を背景に、人とロボットの関係性やコミュニケーションに関する研究を続けてきました。
林先生は今回の実証について、次のように語ります。
「技術的に“できる”ことは増えているのに、導入が進まないのは、現場の運用や衛生、教育コスト、保守の現実まで含めた設計になっていないからだと思います。だからこそ、過度な機能追加ではなく、必要最小限で現場に適合することを優先しています。」
現在、深刻な人手不足に悩む福祉現場ではロボット導入への期待が高まっています。
しかし、市販のコミュニケーションロボットの多くは「高価で維持が難しい」「現場の衛生基準(拭き取り等)に合わない」「多機能すぎて操作が複雑」といった理由から、導入後に形骸化してしまうケースが少なくありません。
実際、本研究では、現場での使い勝手を重視しながら、ロボットを複雑にしない設計方針が共有されています。
さらに、福祉現場で必須となる「洗える・拭ける」などの衛生要件も重要なテーマとして扱っています。
「NPO法人クオーレ」がロボット導入の先駆けとして果たす意義
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福祉業界において、ロボット導入は「コストが高い」「操作が難しい」と敬遠されがちです。その中で、豊橋市のNPO法人クオーレが実証実験のパートナーとして名乗りを上げたことには、以下の大きな意義があります。
1.「ユーザー」ではなく「開発パートナー」としての参画
NPO法人クオーレは、ロボットを単に買い入れる「ユーザー」ではなく、現場のニーズを技術者にフィードバックし、仕様を共に作り上げる「共創パートナー」としての役割を担っています。これにより、研究室レベルでは気づけない「衛生面(拭き取りやすさ)」や「長期保守の重要性」を設計に反映させています。
2.就労支援における「心理的ハードル」の解消
障害のある方々にとって、対人での面接練習は大きな緊張を伴います。NPO法人クオーレは「まずロボット相手に練習する」というワンクッションを設けることで、利用者の心理的安全性を確保し、スムーズな社会進出を支援する新しい就労支援モデルを構築しています。
3.地域発「産学官連携(+emCAMPUS STUDIO様の伴走支援)」の先駆的モデル
豊橋技術科学大学の技術を、地元のNPO法人が社会実装し、それを愛知県が支援する。この「豊橋モデル」は、全国の人手不足に悩む福祉施設の希望となる先駆的事例になることでしょう。
このように本研究は、単なる技術検証に留まらず、NPO法人という「現場の最前線」が主導となり、大学(研究機関)との協働により進められています。行政(愛知県)については、必要に応じた情報共有を行いながら、「本当に現場で定着する福祉ロボットのあり方」を地域ないし全国に先駆けて提示することを目指しています。
実証実験の核心:現場の課題から逆算した「3系統の引き算設計」
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1.会話ロボット「HUSK T(ハスクティー)」:面接練習の相手として、対人不安をやわらげる
会話ロボットは、就労支援施設での面接練習(自己PR・受け答え練習)を主な用途に設計されています。
対人で緊張しやすい利用者にとって、いきなり人相手の面接練習は心理的ハードルが高い場合があります。そこで「まずロボット相手に練習する」段階を設けることで、負担を軽減しながら練習を重ねられる可能性があります。
本機には以下の特徴があります。
対話を通じた面接練習用途
目の開閉によるターンテイキング(話す・聞くの切り替え)支援
1分30秒スピーチの評価機能(継続改善中)
また名称「HUSK T」は、日本の古語で“力強い目”を表す「赤酸漿(ほおずき)」を英語名(Husk Tomato)に置き換えたものに由来します。
2.うなずき可視化:反応を“見える化”して、練習に活かす
人の会話では、言葉だけでなく、うなずきや視線といった非言語情報がコミュニケーションを支えています。しかし、音声認識だけで会話の切れ目を正確に捉えるのは難しく、実際の会話の「受け渡し」は視線や相づちで成り立っている部分が大きいと言われます。
そこで本研究では、頭部の上下動をセンサーで計測し、うなずき回数や動作量を可視化する仕組みを試作しました。
加速度+磁気センサーを統合した小型デバイス
頭部の上下動や動作量を計測し、うなずきをカウント
「1オフ=1カウント」(連続したうなずきも1カウント扱い)
閾値・評価基準は現場が設定(平均把握後に適用)
“相手が反応してくれているか”が見えづらい状況でも、データとして把握できることで、練習や支援の質を高める狙いがあります。
3.バイタル測定・見守り:薬の開閉や扉の開閉を“現場負担なく”検知
うなずき可視化システムを応用する形で、日常動作の検知による見守りが可能に。
バイタル測定といっても、重装備な医療機器ではなく、薬ケースや扉の開閉といった“現場で起きる重要な行動”を確実に拾うことを狙っています。
薬ケースの開閉回数で服薬状況を把握(開いていない=未服薬の可能性)
深夜の不審な扉の開閉を検知
小型センサーで利用者の負担を抑える
“高価で多機能な見守り”ではなく、運用が回る形での実装を志向しています。
「長期保守」が普及の壁に--現場とメーカーの時間軸ギャップ
福祉現場では、導入機器に対して「10年、できれば20年使いたい」という要望が強くあります。一方で、制御基板やAI関連の機器はモデル更新が早く、旧型のサポートが限定的になることも珍しくありません。林助教はこの点を、普及における現実的な課題として挙げています。
「福祉現場は長期保守が前提。でも部品供給や修理体制は短期更新の思想が強い。ここにギャップがある限り、いくら性能が高くても現場は導入しにくい」
本研究では、耐久性や供給継続性の観点から部品選定も行い、現場での長期運用を見据えた検証を進めています。
導入成功のカギは「現場起点」と「コーディネーター」
ロボット導入は、施設長や経営層の判断だけで進めても、現場が回らなければ定着しません。本プロジェクトでは、トップダウンではなく、現場担当者の協力と実機試用(POC)を重視しています。
加えて、現場と技術者の間に立って仕様を整理し、課題を切り分ける“橋渡し役”として、コーディネーターの存在が重要である点も共有されました。分野ごとの専門性を持つコーディネーター育成は、普及のボトルネック解消につながる可能性があります。
現場テストの実施:実利用者の動線に合わせた「リアル」な検証
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今回の現場テストでは、実際の利用者が活動する時間帯(9:30~15:30)に合わせ検証を行いました。
実施内容: 実際の利用者が活動する時間帯のうち11:00~12:00の1時間、利用者が大葉の仕分け作業を行っている際、作業している空間に設置し、頭部の上下動(うなずき)を測定。
検証の狙い: 作業中のうなずき回数や動作量を可視化することで、利用者の集中度やリズム、スタッフとのコミュニケーションの質を客観的に把握できるかを検証しました。
結果: 「1動作=1カウント」という独自のアルゴリズムにより、連続した動きの中でも正確にうなずきを捉えることに成功。現場スタッフが独自の評価基準(閾値)を設定し、データに基づいた的確なフィードバックを行える手応えを得ました。
今後の展望:さらなる「現場の知恵」を求めて
現場テストの結果を踏まえ、本研究は社会実装の第2フェーズへと移行します。
実証パートナーの追加募集: 現在、就労支援施設だけでなく、高齢者施設、教育現場、あるいは対話による販促を行うキッチンカーなど、本システムを試用いただける現場を広く募集しています。「トップダウンの導入」ではなく、現場の担当者が実際に使ってみて課題を抽出する「POC(概念実証)」を重視しています。
取材・掲載をご検討のメディア関係者の方へ
本件は、次の観点で取材テーマとして成立しやすい内容です。
- 福祉×ロボットの社会実装(研究室ではなく“現場で使う”実証)- 面接練習というユニークな用途(対人不安・就労支援との接点)- 見守りの“最小限・低負担”設計(服薬・扉開閉など現場のリアル課題)- 長期保守という普及課題(導入の壁を正面から扱う)- 現場と技術の橋渡し=コーディネーター論(制度・地域連携の視点)
【本件に関するお問い合わせ・取材お申し込み先】
実際に本ロボットを用いた仕分け作業中の測定風景、面接練習テストの様子などを取材いただけます。
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NPO法人クオーレ
担当:松原
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記事提供:PRTimes