原子力電池:長寿命と高エネルギー密度を両立させた独立電源技術 ~特許・論文・グラントから研究開発動向の分析~
アスタミューゼ株式会社

アスタミューゼ株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長 永井歩)は、原子力電池に関する技術領域において、弊社の所有するイノベーションデータベース(論文・特許・スタートアップ・グラントなどのイノベーション・研究開発情報)を網羅的に分析し、動向をレポートとしてまとめました。
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原子力電池とは
「原子力電池」とは、放射性同位体(ラジオアイソトープ)の発するエネルギーを電力に変換する小型電源デバイスです。近年、エネルギーや医療、軍事、宇宙などの領域で注目をあつめています。
原子力電池は、数年から数十年の長期間にわたって外部エネルギー供給なしに安定した電力を出力できます。その性質から、遠隔無人設備、深宇宙探査機、海底インフラ、埋込型医療機器など、従来の化学電池では対応がむずかしい用途での長期独立電源としての応用が期待されています。
原子力電池と原子炉は「核分裂の連鎖反応」を利用しているかどうかで区別されます。原子力電池は、放射性同位体の自発的崩壊によって放射されるα線(ヘリウム4の原子核)やβ線(高エネルギー電子)の運動エネルギーや崩壊熱などを利用しており、これらは核分裂連鎖反応とはまったくちがいます。原子炉は、おもにウランやプルトニウムなどの核燃料による核分裂連鎖反応で生じる多量の熱を制御し、大規模発電に利用しています。
スマートフォンや電気自動車にもちいられるリチウムイオン電池などの化学電池は、電極間の化学反応によってエネルギーを蓄積・放出するため、核反応のような高いエネルギー密度を達成することはむずかしく、定期的な充電と交換が不可欠です。一方、原子力電池は、放射性同位体が自発的に崩壊する核反応によって放出されたエネルギーを電力に直接変換するため、充電を必要とせず、放射線同位体の半減期におうじ、長期にわたる持続的な発電がおこなえます。
原子力電池の実用化研究は1950年代に米国ではじまり、1961年にはアメリカ航空宇宙局(NASA)が、史上はじめて放射性同位体熱電転換器(RTG)を人工衛星Transit 4Aに搭載しました。以降、ボイジャー、カッシーニ、ニューホライズンズなど、多数の深宇宙探査機の電源として原子力電池が搭載されました。1977年に打ちあげられたボイジャー1号は、地球からもっとも遠くに到達した人工物として、2026年3月現在も約250億km(およそ1光日、光が1日の間に通過する距離)からデータ送信を継続しています。
2010年代以降は、放射線耐性にすぐれたダイアモンド半導体などのワイドバンドギャップ半導体や、設計自由度の高いペロブスカイト半導体などのあらたな技術進展により、原子力電池の大幅な小型化・高効率化が進んでいます。宇宙用途以外にも、幅広い分野での展開にむけた研究開発が活発になっています。
高性能原子力電池の実用化には、使用済み核燃料由来の放射性同位体の回収と精製、高度な次世代半導体製造プロセス、そして核物質規制に適合した安全性の高い製造・輸送プロセスにくわえて、廃棄時の適切な回収・リサイクルプロセスまでふくめた専門性の高いサプライチェーン構築が不可欠です。これらを長期のタイムスパンで見すえ、確実に連携させることも重要です。
本レポートでは、アスタミューゼ独自のデータベースを活用し、特許・論文・グラント(研究プロジェクト)における「原子力電池」に関連する技術動向を分析しました。
原子力電池に関連する特許の動向分析
アスタミューゼの保有する特許データベースから、タイトルおよび要約に「原子力電池」「核電池」「アイソトープ電池」などのキーワードをふくむ特許母集団660件を抽出しました。抽出された母集団を対象に、キーワードの年次推移を抽出し「未来推定」分析を実行します。この分析によりキーワードの変遷を把握し、ブームが去った技術、これから脚光をあびる技術を定量的に評価し、要素技術の技術ステータス(黎明・萌芽・成長・実装)を予測します。
図1は、2011年以降に出願された原子力電池技術に関連する特許タイトルと要約にふくまれるキーワードの年次推移です。
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図1:原子力電池技術に関連する特許におけるキーワードの年次推移
キーワードごとの成長率(growth)は、2011年以降の出現回数と、2018年以降の出現回数の比です。値が1に近いほど、直近の出現頻度が高いとみなせます。
「radiation-volt(放射線照射起電)」「beta-radiovolt(β線照射起電)」「dual-effect(β線と光による二重起電効果)」など、放射性同位体由来の放射線を起電力に直接変換する技術に関連する語が、頻出しています。放射線耐性やエネルギー変換効率の高いワイドバンドギャップ半導体(ダイアモンド半導体など)や、軽量で柔軟性のあるペロブスカイト半導体などの技術進展を背景に、原子力電池の大幅な小型化と高効率化につながる技術開発が活発化していることを反映しています。
具体的な展開用途としては、太陽電池による対応が困難な深宇宙探査用途に関連する「deep-space(深宇宙)」「spacecraft(宇宙機)」「propulsion(推進)」などのキーワードが見られます。近未来の、月や火星および小惑星探査をめざす技術開発が進行している様子です。
つづいて、特許出願数の国別動向です。企業・研究機関の出願する特許は、社会実装が近い、あるいはすでに実装済みである技術と関連する短中期の様相が反映されます。原子力電池技術に関連する特許の国別出願件数の年次推移が図2です。特許データは出願から公開までのタイムラグがあるため、直近である2024年の集計値は参考値です。
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図2:原子力電池技術に関連する特許出願件数の国別年次推移
国別では中国の出願件数がもっとも多く、長期的な増加傾向がみられます。そのあとに、米国、韓国、欧州、日本がつづいています。中国では、五カ年計画で有人宇宙飛行および月探査事業が国家科学技術重大特定プロジェクト(国家科技重大専項)に指定され、継続的な事業展開が進んでいます。こうした方針により、孤立環境用の原子力電池といった高出力電源の技術開発に注力していると推測されます。中国の特許出願件数お2~3年周期での増減は、五カ年計画の中間評価や予算サイクルの間隔を反映している可能性があります。
注目の特許事例を紹介します。
- CN115331863B「一种柔性钙钛矿α型核电池及其制备方法(フレキシブルペロブスカイトα型原子力電池とその製造方法)」- - 機関/企業:西北核技術研究所- - 国:中国- - 公開年:2022年- - 概要:高効率・長寿命の小型原子力電池。α線源(アメリシウム241など)を固定した金属箔由来のα線をZnS薄膜シンチレータにより光子に変換しさらにFACs系ペロブスカイト薄膜で電子に変換する間接型二段変換機構を採用し、半導体素子の直接的な放射線損傷を回避する。放射線源層と蛍光層、光電変換層の柔軟なサンドイッチ構造を円柱状に巻いた設計により、電池の小型化と高出力密度化、長期安定動作を両立する。- 特開2022-181992「原子力電池」- - 機関/企業:株式会社東芝・東芝エネルギーシステムズ株式会社- - 国:日本- - 公開年:2022年- - 概要:調達コストの低減と放射線遮蔽を両立した、宇宙探査機向けの熱電変換型原子力電池(RTG)。高純度のアメリシウム241などを放射線遮蔽材および外側発熱体とし、使用済核燃料由来の高エネルギーγ線を放射する同位体(アメリシウム243など)の混合物を内側発熱体とする二重発熱体構造により、遮蔽体の軽量化および熱電素子の放射線損傷を回避し、長寿命化を実現する。
原子力電池に関連する論文の動向分析
企業や研究機関の発表する論文は、研究開発段階にあり、特許と比較して社会実装に時間を要する中長期の様相が反映されます。特許分析と同様に、原子力電池と関連するキーワードを概要にふくむ論文母集団1,139件を抽出し、未来推定分析をおこないました。2011年以降に出版された原子力電池技術に関連する論文の概要にふくまれるキーワードの年次推移が図3です。
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図3:原子力電池技術に関連する論文の概要に含まれるキーワードの年次推移
増加傾向にある出現頻度の高いキーワードとしては、放射線耐性とエネルギー変換効率にすぐれたワイドバンドギャップ半導体(ダイアモンド半導体など)と金属を接合させた「ショットキーダイオード」によってα線のエネルギーを起電力に直接変換する「alpha-voltaic(α線起電)」や、放射線遮蔽の容易なα線および低エネルギーγ線のみを放射するためコンパクトな原子力電池のα線源として有望視されている使用済み核燃料由来の放射性同位体「americium-241(アメリシウム241/241Am)」などがあります。
また、原子力電池の小型高出力化に関連する「stacking(積層)」「power-densities(電力密度)」などのキーワードも増加しており、特許分析の結果ともあわせると、放射線の直接電気変換にもとづく原子力電池の技術開発が活発化している傾向がうかがえます。
展開用途先に関するキーワードでは、「MiniPINS(Miniature Planetary In-situ Sensors:欧州宇宙機関ESAが開発中の超小型惑星現場観測センサ)」など、特許でも確認された宇宙領域のほか、「medical(医療用)」といった心臓ペースメーカなどの生体インプラント用途を示唆するキーワードが新規に出現しており、原子力電池の小型化により、体内埋めこみ型医療機器用途での利用拡大が見てとれます。
出版論文の国別動向を示します。原子力電池技術に関連する論文出版件数の国別年次推移が図4です。
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図4:原子力電池技術に関連する論文出版件数の国別年次推移
論文出版件数では米国が全体ではもっとも多くなっています。つづいて近年件数をのばしつづけて2024年には米国を上回った中国、その他には英国、ロシア、フランスが続いています。
米国の出版件数は長期的に減少傾向ですが、次世代原子力電池に関する研究がすでに成熟・技術移転のフェーズに到達し、学術論文よりも民間企業主導の実用化や市場投入にむけた研究が主導的になりつつあると考えられます。また安全保障や輸出管理上の観点から、軍事・宇宙応用に近い研究成果の公開が制限されていることも一因としてあります。
一方、中国の論文件数増加の要因は、特許と同様に、国策にもとづく積極的な研究開発投資のほか、米中新冷戦を背景とした、西側諸国に対する独立性の高い研究コミュニティによる集中的な原子力研究の進展などが考えられます。
つぎに注目の論文事例を紹介します。
- Design and evaluation of a high-performance betavoltaic battery utilizing vertically stacked diamond matched 90Sr source / 90Sr放射線源と組み合わせられた垂直積層ダイアモンドを用いた高性能β線起電力(ベータボルタ)電池の設計と評価- - 雑誌名:AIP Advances- - DOI:10.1063/5.0264660- - 出版年:2025年- - 機関名:西北師範大学(中国)など- - 概要:高エネルギーβ線源90SrTiO3とエネルギー変換素子(垂直積層ダイアモンドショットキーダイオード)を組み合わせた高性能ベータボルタ電池を設計・評価する。90SrTiO3の自己吸収効果とダイアモンド内のエネルギー分布を数値解析し、線源両側のダイオードユニット積層構造を最適化。IoTセンサや航空宇宙用マイクロ電源、埋込型医療機器などへの適用に向けたエネルギー密度と変換効率の向上可能性を検証する。- Identification of Radioactivity in Ambon Banana (Musa Paradisiaca) and Kepok Banana Peel (Musa Acuminata Balbisiana) for Nuclear Battery Applications / 原子力電池応用のためのアンボンバナナ(Musa Paradisiaca)およびケポックバナナ(Musa Acuminata Balbisiana)の皮の放射能同定- - 雑誌名:SPECTA Journal of Technology- - DOI:10.35718/specta.v8i2.1045- - 出版年:2024年- - 機関名:カリマンタン工科大学(インドネシア)- - 概要:バナナの廃棄物にふくまれる放射性カリウム(40K)を天然のβ線源とするベータボルタ電池の実現可能性を実験的に検討する。カリマンタン島産のケポックとアンボン両品種の皮を乾燥粉末化し蛍光X線分析やガイガーカウンタをもちいて評価し、原子力電池に必要な1mCi活性の達成には1トン強のバナナの皮が必要と推定。天然放射性物質の利用可能性をしめす一方で、実用化にむけた効率的なカリウム抽出法の確立を課題として提起した。
(以降、原子力電池に関するグラントの事例、および全体の動向分析とまとめについては、
弊社コーポレートサイトの該当ページでご確認ください)
著者:アスタミューゼ株式会社 池田 龍 博士(理学)
さらなる分析は……
アスタミューゼでは「原子力電池」に関する技術に限らず、様々な先端技術/先進領域における分析を日々おこない、さまざまな企業や投資家にご提供しております。
本レポートでは分析結果の一部を公表しました。分析にもちいるデータソースとしては、最新の政府動向から先端的な研究動向を掴むための各国の研究開発グラントデータをはじめ、最新のビジネスモデルを把握するためのスタートアップ/ベンチャーデータ、そういった最新トレンドを裏付けるための特許/論文データなどがあります。
それら分析結果にもとづき、さまざまな時間軸とプレイヤーの視点から俯瞰的・複合的に組合せて深掘った分析をすることで、R&D戦略、M&A戦略、事業戦略を構築するために必要な、精度の高い中長期の将来予測や、それが自社にもたらす機会と脅威をバックキャストで把握する事が可能です。
また、各領域/テーマ単位で、技術単位や課題/価値単位の分析だけではなく、企業レベルでのプレイヤー分析、さらに具体的かつ現場で活用しやすいアウトプットとしてイノベータとしてのキーパーソン/Key Opinion Leader(KOL)をグローバルで分析・探索することも可能です。ご興味、関心を持っていただいたかたは、お問い合わせ下さい。
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