暮らしの中の生鮮食料品店が、高齢者のウェルビーイングに重要―約3万人の追跡データから検証―
国立大学法人千葉大学

千葉大学予防医学センターの小林周平特任研究員、中込敦士准教授、井手一茂特任助教、花里真道准教授らの研究チームは、日常生活が自立している高齢者を追跡したデータを用いて、住まいの近くに生鮮食料品店(野菜・果物・肉・魚などを買える店)があるかどうかと、健康・ウェルビーイングとの関連を幅広い指標で検証しました。その結果、徒歩1km圏内に生鮮食料品店が少ないと回答した高齢者では、主観的健康感、手段的日常生活動作(注1)、外出頻度が低く、うつ傾向と絶望感が高く、幸福感、生活満足度、地域への愛着が低いことと関連していました。生鮮食料品店は、単なる買い物の場にとどまらず、暮らしの中にある生活の場として、高齢者の健康・ウェルビーイングを高める可能性が示唆されます。
本研究成果は、2026年2月25日に学術誌Archives of Gerontology and Geriatricsで公開されました。
(論文はこちら:10.1016/j.archger.2026.106186)
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図:生鮮食料品店と高齢者のウェルビーイングについての研究概要
■研究の背景
食料品店へのアクセスは、食生活だけでなく健康に影響を及ぼす重要な要因であることが知られています。特に高齢者では、生鮮食料品店が多い地域に暮らしているだけで死亡や認知症発症の割合が低いことも示唆されています(参考文献1、2)。一方で、ファストフード店の利用しやすさはBMI増加や心疾患リスクと関連するという報告もあり(参考文献3)、健康への影響は一様ではありません。しかし、これまで食料品店へのアクセスと、身体・心理・社会面を含むウェルビーイングを包括的に検証した研究はありませんでした。
そこで本研究では、日常生活が自立している65歳以上の高齢者を対象に、3時点(2013年、2016年、2019年)で測定した健康・ウェルビーイングに関する事前取得データ等を用いて、近隣の生鮮食料品店の多さと健康・ウェルビーイングとの関連をアウトカムワイド・スタディ(注2)と呼ばれる手法で多面的に検証しました。
■研究成果のポイント
本研究では、3時点の追跡調査に回答した高齢者34,181人を対象に分析を行いました。アンケート調査では、「あなたの家から徒歩圏内(おおむね1キロ以内)に生鮮食料品(肉、魚、野菜、果物など)が手に入る商店・施設・移動販売はどのくらいありますか」という設問に、「たくさんある、ある程度ある、あまりない、まったくない、わからない」の中から回答していただきました。その結果、生鮮食料品店がたくさんあると回答した者と比較して、少ないと回答した者では、健康・ウェルビーイングに関する7領域40指標のうち、5領域8指標に負の関連が認められました。具体的には、主観的健康感、手段的日常生活動作、外出頻度が低いこと、うつ傾向や絶望感が高く、幸福感、生活満足度、地域への愛着が低いことが示されました。
■今後の展望
高齢者にとって暮らしの中にある生鮮食料品店の存在は、単なる食品購入の場にとどまらず、高齢者の健康・ウェルビーイングの醸成につながる生活の場である可能性が示されました。これは、健康増進法に基づく国民健康づくりのための基本的方針「健康日本21」にて示された「暮らしているだけで自然に健康になれる環境づくり」の1つとして、生鮮食料品店に注目する根拠となる新たな知見です。そのため、食料品店が単に「食べ物を買う場」以上の役割を果たしていると考えられます。今後、食料品店が不足している地域では、移動販売車や定期的な青空市場、地域バザーなどその地域にあった「食品を手に入れ、人がつながる場所」を作ることが重要かもしれません。
また、店舗の数や規模、店舗までの距離といった客観的なデータを活用した分析の実施が期待されます。さらに、誰かと買い物に行くのか、他の用事と組み合わせているのかといった買い物行動パターンにも着目し、健康・ウェルビーイングへとつながるプロセスを検証(因果媒介分析)することで、より具体的な政策提言につなげていきたいと考えています。
■用語解説
注1)手段的日常生活動作:買い物、金銭管理、社会的な活動を伴う複雑な動作を指す。
注2)アウトカムワイド・スタディ:1つの要因が、複数の結果にどのような影響を与えるかを網羅的に検証する新しい手法。さらに3時点の調査データを用いることで逆の因果(原因A→結果Bという考えが、実際には原因B→結果Aという逆の関連)を考慮することができる。
■論文情報
タイトル:Neighborhood food store and subsequent health and well-being of older adults in Japan: an outcome-wide study
著者:Shuhei Kobayashi, Atsushi Nakagomi, Kazushige Ide, Yu-Ru Chen, Masamichi Hanazato, Katsunori Kondo, Koichiro Shiba
雑誌名:Archives of Gerontology and Geriatrics
DOI:10.1016/j.archger.2026.106186
■参考文献1
タイトル:Neighborhood Food Environment and Dementia Incidence: the Japan GerontologicalEvaluation Study Cohort Survey
雑誌名:Am J Prev Med
DOI:10.1016/j.amepre.2018.10.028
■参考文献2
タイトル:Neighborhood food environment and mortality among older Japanese adults: results from the JAGES cohort study
雑誌名:Int J Behav Nutr Phys Act
DOI:10.1186/s12966-018-0732-y
■参考文献3
タイトル:Cardiometabolic Profiles and Change in Neighborhood Food and Built Environment Among Older Adults: A Natural Experiment
雑誌名:A Natural Experiment. Epidemiology
DOI:10.1097/ede.0000000000001243
■研究プロジェクトについて
本研究は、以下の支援によって実施されました。
・日本学術振興会 科学研究費助成事業 研究活動スタート支援(課題番号: 23K19765)
・厚生労働科学研究費(課題番号: 24LA1002) など
■参考資料 7領域40指標の健康・ウェルビーイング
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プレスリリース提供:PR TIMES

記事提供:PRTimes