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AIが導き出した「長寿のキーワード」:5,800人のデータから老化の分岐点を特定

学校法人 順天堂

AIが導き出した「長寿のキーワード」:5,800人のデー

― 日本のテストステロン医学の新展開:3指標の統合によるがんリスク予見 ―


順天堂大学大学院医学研究科の奥井伸雄 客員教授と堀江重郎 特任教授の研究グループは、17年間にわたる大規模調査に基づき、男性の「長寿」と「老化」を分かつメカニズムをAI(人工知能)を用いて解明しました。
本研究では、日本人男性5,854名の臨床データを解析した結果、テストステロン*¹、炎症(CRP)*²、腎機能(クレアチニン)*³の「3指標の組み合わせ」が老化の質を決定する鍵であることを突き止めました。この新指標を用いることで、従来の単独指標では見逃されていた「高リスクな老化パターン」の特定に成功しました。
さらに、この知見の有用性を検証するため米国の他施設大規模データを用いた解析を行ったところ、同パターンが前立腺がんや肺がん等の既往率と強く相関することが証明されました。これにより、本研究で見出された3指標の組み合わせが、人種を問わずがんリスクを予見する極めて重要なバイオマーカーであることが裏付けられました。
本成果は、今後のAIによる個別化長寿サポートにおいて重大な役割を果たします。
本論文は Nature Portfolio の Communications Medicine 誌に 2026年4月15日付で公開されました。

本研究成果のポイント
●17年間の日本人男性5,854名のデータをAI解析し、日本のテストステロン医学をデータサイエンス化
●テストステロン・炎症・腎機能の3指標を統合評価する、老化の正体を見抜く新しい手法を提唱
●50代前半に訪れる「老化の分岐点」を数学的に特定し、がんリスクと強く相関することを証明

背景
テストステロンは、生殖機能に加えて、筋肉・骨格・代謝・血管機能など、全身の臓器の機能を維持する上で重要な役割を担うホルモンです。さらに、身体的・精神的パフォーマンスとも密接に関連し、その低下は男性更年期症状として現れることが知られています。また、テストステロン値の低下は老化に伴うさまざまな臓器の機能の変化と関連することが報告されてきましたが、単一のホルモン値のみでは、体内で進行する複雑な老化プロセスを十分に捉えることは困難でした。
そこで本研究グループは、17年間にわたり蓄積された大規模臨床データに対して機械学習を適用し、テストステロンを単なる単一指標としてではなく、炎症、腎機能、代謝など複数の生体システムと連動する統合的バイオマーカー(systemic aging biomarker)として再定義しました。これにより、老化の進行を多次元的に評価する新たな診断アプローチの確立を目指しました。

内容
本研究グループは、2008年から17年間にわたり順天堂大学医学部附属順天堂医院を受診した日本人男性5,854名の匿名化された臨床ビッグデータを対象に、AI(機械学習)を用いた詳細な解析を実施しました。
研究手法としては、まず「k-means法」*⁴という機械学習モデルを用い、テストステロン、炎症(CRP)、腎機能(クレアチニン)などの指標に基づき、被験者を統計的に類似したグループ(クラスター)に分類しました。その結果、個々の数値が一般的な基準値内であっても、「低テストステロン」「微小な慢性炎症」「腎機能低下(排泄機能低下)」の3つの指標が重なり合った瞬間に、身体システム全体の老化が加速し、健康リスクが跳ね上がる特定のグループ(高リスク群)が明確に同定されました。
さらに、数学的な「折れ線回帰(piecewise regression)」*⁵分析を用いることで、これら3つの指標が負の連鎖を始め、老化の質が劇的に悪化する「決定的な分岐点」が50代前半に存在することを世界で初めて算出しました。この日本人データから得られた知見を、米国の国民健康栄養調査(NHANES)の大規模データに当てはめて外部検証を行ったところ、この「3指標の負の連鎖」パターンを持つグループは、通常群に比べて前立腺がん、肺がん、膀胱がんなどの既往率が顕著に高いことが証明されました。
本研究成果の意義は、これまで個別に評価されていたホルモン値を、炎症や臓器機能と連動する「生体システム」の一部として統合的に捉える新しい診断視点を提示した点にあります。この「3指標の組み合わせ」によるリスク判定は、今後、AIを活用した個別化医療において、特定の病気になる前の段階でシステムレベルの加齢プロファイルを把握し、一人ひとりに最適な予防介入や長寿サポートを提供する上で重大な役割を果たすことになります。
以上の解析から、テストステロン・炎症・腎機能の3指標が負の連鎖を始め、がんリスクが高まる「老化の分岐点」が50代前半に存在することが明らかになりました(図1)。

今後の展開
本研究で特定された生体ネットワークの負の連鎖に基づくリスク判定は、私たちが提唱する「診療支援AI」の中核を担います。これまで培ってきた【患者の声(主観的症状)のNLP解析】と【最適な治療へのナビゲーション技術】、そして今回の【生体システム(客観的データ)の統合解析】。いわば、創造長寿医学講座の三銃士。これら三つのAI技術を融合させることで、一人ひとりの暦年齢(実年齢)ではなく【真の生体年齢】に基づいた究極の個別化長寿サポートが可能になります。今後は、老化を「不可逆な現象」から「制御可能なシステム」へと再定義し、誰もが健やかに年齢を重ねる社会の実現に貢献します。

[画像: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/21495/860/21495-860-34ed84fc83ad455ea5ae80d1d8c78eb4-1472x981.png?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]


図1:AI解析が解明した、男性の「長寿の設計図」と「老化の分岐点」
本図は、17年間にわたる日本人男性5,854名のビッグデータをAI(機械学習)で解析し、男性の健康長寿を左右する決定的なメカニズムを可視化したものです。
1. 17年間の日本人大規模調査&AI解析
2008年から蓄積された膨大な臨床データに対し、AI(k-meansクラスタリング、折れ線回帰)を用いることで、これまで個別に評価されていたバイオマーカーを「生体システム」の一部として統合的に捉え、老化の質を分ける「加齢の分岐点」を特定しました。
2. 【発見】『3指標の組み合わせ』が老化の鍵
テストステロン(内分泌)、炎症(CRP)、腎機能(クレアチニン)という異なる生体システムが、相互に影響し合う「負の連鎖」が老化の本質であることを突き止めました。
テストステロン低下(活力低下)、慢性炎症の上昇、腎機能低下(排泄機能低下)の3つが重なり合った時、個々の数値が基準値内であっても、身体システム全体の老化が加速します。
3. 高リスクな老化パターン&がんリスク予見
AI解析により、これら3つの指標が負の連鎖を始め、老化の質が劇的に悪化する「決定的な分岐点」が50代前半に存在することを算出しました。
この「負の連鎖」パターンを持つグループ(高リスク群)は、米国の大規模データ(NHANES)においても、通常群に比べて前立腺がんや肺がん等の既往率が顕著に高いことが証明されました。
【社会性・信頼性】AIによる個別化長寿サポートへ
本研究成果は、特定の病気になる前の段階でシステムレベルの加齢プロファイルを把握し、一人ひとりに最適な予防医療や長寿サポートを提供する上で重大な役割を果たします。
(熊本先生のイラストは、奥井自作AIによる)

用語解説
*1 テストステロン: 代表的な男性ホルモン。筋肉や骨格の維持、脂質代謝、血管の健康、認知機能など、全身の健康維持に重要な役割を果たす。低下すると男性更年期症状を呈する。
*2 炎症(CRP: C反応性タンパク): 体内で炎症や組織の破壊が起きているときに、血液中に増えるタンパク質。慢性的な微小炎症は、老化や動脈硬化、がんのリスク要因となる。
*3 腎機能(クレアチニン): 筋肉内の物質が代謝されてできる老廃物。通常は腎臓でろ過されて尿中に排出されるため、血液中の濃度は腎臓の機能(排泄機能)を示す指標となる。
*4  k-means法(クラスタリング): AI(機械学習)の手法の一つ。正解(病名など)を与えずに、データの類似性のみに基づいて、対象を自動的にいくつかのグループ(クラスター)に分類する手法。
*5 折れ線回帰 piecewise regression: 統計解析の手法の一つ。データの傾向が大きく変わる点(分岐点)を境にして、複数の直線に分けて回帰分析を行う手法。老化のように、ある時期を境に急激に変化する現象の解析に適している。

研究者のコメント
本研究は、故・熊本悦明先生(日本メンズヘルス医学会名誉理事長)が情熱を注がれた男性学の精神を継承し、最新のAI技術によってその理論を可視化したものです。歴代の同学会理事長・会長を務めてきた私たちが、データサイエンスの力で日本のテストステロン医学を今、大きく花開かせることができました。
私たちが17年かけて見出したのは、単なる病気の予兆ではなく、いかにして健やかに年齢を重ねるかという「長寿の設計図」です。この成果が、多くの男性の健康長寿に寄与することを確信しています。  (堀江 重郎、奥井 伸雄)


原著論文
本研究はNature PortfolioのCommunications Medicine誌のオンライン版に2026年4月15日付で公開されました。
タイトル: System-level clustering of testosterone-related biomarkers identifies high-risk aging profiles linked to inflammation and renal function
タイトル(日本語訳): テストステロン関連バイオマーカーのシステムレベルのクラスタリングによる、炎症および腎機能に関連する高リスク加齢プロファイルの同定
著者: Nobuo Okui, Shigeo Horie
著者(日本語表記): 奥井 伸雄1), 堀江 重郎1,2,3)
著者所属: 1)順天堂大学大学院医学研究科 創造長寿医学講座、2)順天堂大学大学院医学研究科 遺伝子疾患先端情報学講座 3) 順天堂大学大学院医学研究科 泌尿器科学講座
DOI: 10.1038/s43856-026-01556-z

プレスリリース提供:PR TIMES

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