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植物がDNAの傷ついた幹細胞を取り除く仕組みを発見

学校法人明治大学

植物がDNAの傷ついた幹細胞を取り除く仕組みを発見

~ 植物が健康に成長し続けるための新たな防御機構 ~


概要
明治大学農学部の高橋直紀准教授、同大学院農学研究科の和田俊樹(博士前期課程2年)らの研究グループは、量子科学技術研究開発機構の坂本綾子上席研究員、奈良先端科学技術大学院大学の梅田正明教授との共同研究により、DNAに損傷を受けた植物幹細胞を取り除く新たな仕組みを発見しました。
DNAは、生き物の体をつくり、維持するための設計図です。しかし植物は、太陽光に含まれる紫外線や、病原菌の感染などの環境ストレスによって、日常的にDNAに損傷を受けています。特に、植物の成長を支える幹細胞にDNA損傷が残ると、その後の成長に悪影響を及ぼす可能性があります。
本研究では、アブラナ科植物であるシロイヌナズナを用いて、DNAに損傷が生じた際にKRP6というタンパク質が根の幹細胞付近で蓄積し、損傷を受けた幹細胞の細胞死を促進することを明らかにしました。この成果は、植物が損傷を受けた幹細胞を取り除きながら、根の成長を維持する仕組みを理解するうえで重要な発見です。将来的には、環境ストレスに強い作物の作出や、植物の成長を安定化させる技術への応用が期待されます。
本研究成果は、2026年6月4日に国際学術誌『The Plant Journal』にオンライン掲載されました。本研究はJSPS科研費(22K06265、24K09509、25H00919、25K22331)の支援を受けて実施されました。

研究の背景
DNAは生物の遺伝情報を担う重要な分子であり、その損傷は細胞機能の破綻や個体の成長異常につながります。植物は動物のように移動して環境ストレスを避けることができないため、生涯にわたり、紫外線、酸化ストレス、化学物質など、DNA損傷を引き起こすさまざまなストレスにさらされています。DNA損傷の中でも、DNA二本鎖切断1)は特に深刻な損傷です。修復されない場合、染色体の不安定化や細胞死を引き起こす可能性があります。そのため植物は、DNAの損傷を感知し、DNA修復、細胞周期停止、細胞死を適切に制御するDNA損傷応答2)機構を発達させてきました。
植物のDNA損傷応答において中心的な役割を果たすのが、NAC型転写因子SOG13)タンパク質です。SOG1タンパク質はDNA損傷に応答して活性化され、DNA修復や細胞周期停止、幹細胞の細胞死に関わる遺伝子群の発現を制御します。根の幹細胞領域では、重度のDNA損傷を受けた細胞が選択的に細胞死を起こし、その後、周辺の細胞が失われた幹細胞を補うことで、根端の分裂組織の機能が維持されます。これまでに、SOG1タンパク質がDNA二本鎖切断時に誘導される幹細胞の選択的な細胞死に関与することは知られていました。しかし、SOG1タンパク質がどのような因子を介して幹細胞の細胞死を制御しているのかについては、十分に明らかになっていませんでした。

研究の手法と成果
本研究グループはまず、DNAが損傷した時に誘導される因子を探索するため、DNA二本鎖切断を誘導する薬剤ゼオシン4)で処理したシロイヌナズナの遺伝子発現データを解析しました。その結果、CDK5)阻害因子の一つであるKRP66)遺伝子の発現が、DNA損傷後に大きく上昇することを見出しました。次に、KRP6遺伝子の発現部位を調べたところ、通常条件下ではKRP6遺伝子の発現は弱い一方で、ゼオシン処理後には根端、特に幹細胞ニッチ7)や維管束始原細胞周辺で強い遺伝子発現が検出されました。また、KRP6タンパク質もDNA損傷後に幹細胞領域で蓄積し(図2A)、幹細胞の細胞死が観察される前の段階から検出されました。このことから、KRP6タンパク質の蓄積は細胞死の結果ではなく、細胞死に先立って起こることが示されました。さらに、KRP6遺伝子の発現制御にSOG1タンパク質が関与するかを調べたところ、KRP6遺伝子はSOG1タンパク質によって直接制御されるDNA損傷応答遺伝子であることが明らかになりました。
続いて、KRP6タンパク質がDNA損傷時の幹細胞の細胞死に関与するかを調べるため、KRP6遺伝子を欠損した変異体を解析しました。ゼオシン処理後、野生型の根では幹細胞領域に細胞死が観察されましたが、KRP6遺伝子欠損変異体では細胞死の範囲が野生型の約半分に低下しました(図2B)。一方、KRP6遺伝子を過剰に発現させた植物では、DNA損傷条件下において根端の細胞死が増加しました。これらの結果から、KRP6遺伝子はDNA損傷によって誘導される幹細胞の細胞死に必要な因子であることが示されました。
KRP6タンパク質はCDK阻害因子であることから、本研究グループはさらに、幹細胞領域におけるCDK活性と細胞死の関係を調べました。その結果、幹細胞領域でCDK活性を低下させると、DNA損傷後の幹細胞の細胞死が増加することが分かりました。これらの結果は、KRP6タンパク質によるCDK活性の低下が、DNA損傷を受けた幹細胞の細胞死を促進する可能性を示しています。
以上の結果から、DNA損傷に応答してSOG1タンパク質がKRP6遺伝子を直接誘導し、KRP6タンパク質が根の幹細胞領域で細胞死を促進するという、新たな分子機構が明らかになりました(図3)。

今後の展望
植物は環境ストレスを避けて移動することができないため、DNAに損傷を受けても成長を維持する仕組みを備える必要があります。本研究により、植物がDNAに損傷を受けた幹細胞を取り除き、根の成長を守る仕組みの一端が明らかになりました。
今回の発見は、植物が損傷を受けた幹細胞を選択的に排除し、ゲノムの安定性を維持する仕組みを理解するうえで重要な手がかりとなります。今後は、KRP6遺伝子の働きが根の再生や成長維持にどのようにつながるのかを、さらに詳しく調べる必要があります。将来的には、ストレス環境下でも安定して成長する作物の開発や、植物の再生能力を活用した技術への応用につながることが期待されます。

用語説明
- DNA二本鎖切断:DNAを構成する二本の鎖が同時に切断される重篤なDNA損傷。修復されない場合、染色体異常や細胞死の原因となる。- DNA損傷応答:DNAに損傷が生じた際に、細胞がDNA修復、細胞周期停止、細胞死などを組み合わせて、ゲノムの安定性を維持する仕組み。- SOG1:SUPPRESSOR OF GAMMA RESPONSE 1の略。植物のDNA損傷応答を制御する中心的な転写因子。DNA損傷に応答して活性化され、DNA修復、細胞周期停止、幹細胞死に関わる遺伝子の発現を制御する。- ゼオシン:DNA二本鎖切断を誘導する薬剤。植物にDNA損傷を与える処理として用いられる。- CDK:Cyclin-dependent kinaseの略。サイクリンというタンパク質と結合することで活性化し、細胞周期の進行を制御するリン酸化酵素。- KRP6:KIP-RELATED PROTEIN 6の略。シロイヌナズナに存在するCDK阻害因子の一つ。- 幹細胞ニッチ:幹細胞が維持される微小環境。植物の根端では、幹細胞ニッチが根の成長と組織形成を支えている。

論文情報
題目:The cyclin-dependent kinase inhibitor KIP-RELATED PROTEIN 6 promotes stem cell death upon DNA damage in Arabidopsis roots
著者:Toshiki Wada, Ayako N Sakamoto, Masaaki Umeda, Naoki Takahashi
掲載誌:The Plant Journal
DOI:10.1111/tpj.70964


[画像1: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/119558/388/119558-388-c035764cd828e64bb7daba7e97df7887-408x224.png?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
図1. DNA損傷によって根の幹細胞領域で細胞死が誘導される

(A) DNA損傷の有無によるシロイヌナズナの表現型写真。DNA損傷を受けると、植物の成長が著しく抑制される。
(B) DNA損傷の有無による根端の観察像。DNA損傷により、幹細胞領域で特異的に細胞死が誘導される(四角)。


[画像2: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/119558/388/119558-388-ff6827a10825b98d0a5a7b5e9d1454d7-466x186.png?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
図2. KRP6はDNA損傷に応答して根の幹細胞ニッチで蓄積し、細胞死を誘導する

(A) DNA損傷の有無による根端でのKRP6-GFPタンパク質の発現。DNA損傷により、細胞死した幹細胞(マゼンタ)の領域でKRP6-GFPタンパク質(緑)が蓄積する。
(B) DNA損傷による幹細胞の細胞死の観察像。野生型と比較して、krp6変異体では細胞死を起こす細胞数が減少する。

[画像3: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/119558/388/119558-388-0fbcd7122c351853d09cfd03bbcacd64-370x183.png?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
図3. DNA損傷時における幹細胞の細胞死誘導モデル

DNA損傷を受けると、転写因子SOG1タンパク質が活性化され、根の幹細胞領域においてKRP6遺伝子の発現を増加させる。蓄積したKRP6タンパク質はCDK活性を低下させることで、幹細胞領域における細胞死を促進する。

プレスリリース提供:PR TIMES

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