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【徳島大学】口腔がん発生の初期に「遺伝子異常の組み合わせ」が免疫を呼び起こす仕組みを解明-p53-RB シグナルの不均衡が cGAS-STING 経路を活性化し、がんの悪性化を遅らせる可能性 -

国立大学法人徳島大学

【徳島大学】口腔がん発生の初期に「遺伝子異常の組み


令和8年9月3日
国立大学法人徳島大学
https://www.tokushima-u.ac.jp/

■ポイント

・頭頸部がんで高頻度にみられる TP53(※1)と CDKN2A(※2)の遺伝子異常の組み合わせが、口腔がんの発生にどのように影響するかを、独自の遺伝子改変マウスで解析しました。

・TP53 によって作られるタンパク質である p53 の機能が低下する一方で RB経路(※3)の機能が保たれると、発がん初期の上皮層における cGAS-STING 経路(※4)が選択的に活性化し、その結果、抗腫瘍免疫が高まりました。

・この免疫活性化は口腔がんの悪性化の遅延と関連していました。また、ヒト頭頸部がんでも TP53/CDKN2A の異常パターンによって生存期間に違いがみられました。これらの遺伝子異常の組み合わせに応じた予防・治療戦略につながる知見です。

■概要

 大学院医歯薬学研究部歯学域口腔科学部門口腔生命科学分野の工藤保誠教授、毛利安宏准教授らの研究グループは、口腔がんで高頻度に認められる TP53 と CDKN2A の遺伝子異常が、発がん初期の免疫環境を変化させる仕組みを明らかにしました。
 研究グループは、ヒト頭頸部がんの CDKN2A 遺伝子変異を再現したマウスと Trp53 機能欠失マウスを作製し、発がん物質 4NQO(※5)で誘導される口腔発がん過程を解析しました。その結果、Trp53 の片方アリル(※6)の機能が失われ、Cdkn2a の片方アリルに変異がある状態では、p53-RB シグナルのバランスが崩れ、cGAS-STING 経路が活性化しました。これに伴い、免疫反応を活性化する情報伝達物質である炎症性サイトカインやケモカインが増加し、細胞傷害性 T 細胞や NK 細胞を含む免疫細胞が口腔上皮へ集積しました。さらに、STING(※7)阻害薬を投与すると関連遺伝子の発現と T 細胞浸潤が低下したことから、この免疫応答に STING が機能的に関与することが確認されました。また、この遺伝子型のマウスでは浸潤がんへの進展が相対的に遅れる傾向がみられました。ヒト頭頸部がん症例の遺伝子発現データを解析したところ、TP53 と CDKN2A の遺伝子異常の組み合わせにより全生存期間が有意に層別化されました。
 本成果は、がん抑制遺伝子の異常が単純にがんを促進するだけでなく、その組み合わせ(機能変化のパターン)によっては、発がん初期に抗腫瘍免疫を誘導し得ることを示したものです。本研究成果は、2026年8月15日に、学術誌「Oncogene」のオンライン版に掲載されました。

1 研究の背景

 頭頸部扁平上皮がんでは、がん抑制遺伝子TP53 と CDKN2A の異常が高頻度にみられ、両者の異常が同じ腫瘍に存在する例も少なくありません。TP53 は細胞のDNA損傷応答を担うp53を、CDKN2A は細胞周期を抑える p16INK4A と p14ARF(マウスではp19Arf)をコードし、p53 経路とRB 経路を介して異常細胞の増殖を防いでいます。
 しかし、TP53 と CDKN2A の両方の機能を失わせた従来のマウスモデルでは、口腔がんが十分に再現されず、両遺伝子異常の組み合わせが口腔発がんの初期段階でどのような影響を与えるかは不明でした。また、ヒトのがんでは TP53 や CDKN2A の機能が部分的に保たれている場合も多く、こうした状態を再現したモデルが必要でした。

2 研究の内容と主な成果

(1)ヒトの遺伝子異常を再現した新しい口腔発がんモデルを構築
 ヒト頭頸部がんで認められる CDKN2A のナンセンス変異(※8)を再現した Cdkn2a 変異マウスと、Trp53 の機能欠失変異マウスを作製しました。これらを交配し、飲水中に変異原 4NQO を加えて口腔発がんを誘導することで、遺伝子異常の組み合わせ(機能変化のパターン)と口腔発がんの関係を比較できるモデルを確立しました。

(2)発がん初期に cGAS-STING 経路が選択的に活性化
 発がん刺激後、早期の口腔上皮について RNA シーケンスによる網羅的な遺伝子発現解析から、Trp53 と Cdkn2a の両方がヘテロ接合性変異(同じ遺伝子の 2 つのアリルのうち、片方だけに生じる変異)をもつマウスでは、DNA 感知に関わる Sting1 や Aim2、I 型インターフェロン応答遺伝子、炎症性サイトカイン・ケモカインが増加していました。これは、p53 経路の機能が低下する一方で RB 経路の機能が部分的に保たれるという、p53-RB シグナルの不均衡が、cGAS-STING 経路を活性化することを示します。

(3)STING 依存的に抗腫瘍免疫細胞が口腔上皮へ集積
 遺伝子発現解析から、細胞傷害性 T 細胞や NK 細胞など、抗腫瘍免疫を担う細胞の優先的な浸潤が示されました。STING 阻害薬 H-151 を投与すると、cGAS-STING 経路の下流遺伝子の発現と CD4 陰性 T 細胞の浸潤が低下したため、この免疫細胞集積にSTINGシグナルが関与することが確認されました。

(4)免疫活性化と口腔がんの悪性化遅延が関連
 Trp53 と Cdkn2a の両方にヘテロ接合性変異をもつマウスでは、他の遺伝子型と比べて浸潤がんへの進展が相対的に遅れる傾向がみられました。この悪性化の遅延は、細胞増殖やアポトーシス(※9)だけでは説明できず、発がん初期に形成された免疫活性的な環境が悪性化を抑えた可能性が示されました。一方、進行がんでは遺伝子型にかかわらず T 細胞浸潤が減少しており、免疫活性化は病期とともに変化することも示唆されました。

(5)ヒト頭頸部がんでも遺伝子異常の組み合わせが臨床像と関連
 TCGA(The Cancer Genome Atlas)(※10)データベースにある頭頸部がん患者の遺伝子発現データを用い、症例を TP53 と CDKN2A の遺伝子異常の組み合わせで分類したところ、全生存期間は 6 群間で有意に異なりました(globallog-rank P=0.0027)。また、一部の複合異常群では partial-EMT(部分的上皮間葉移行)関連遺伝子の発現が高く、抗腫瘍免疫細胞の CD8 陽性 T 細胞や樹状細胞の浸潤スコアが低下していました。これらの結果は、TP53/CDKN2A の異常パターンが発がん初期の免疫反応だけでなく、進行したがんにおける免疫細胞などの周囲の環境や、病気の進行・患者さんの予後にも関係する可能性を示しています。
[画像: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/169076/32/169076-32-10e99e1e6aee2a07e0fb3a718a3d2e71-864x646.png?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]


3 研究成果の意義と今後の展望

 本研究は、がん抑制遺伝子の異常を単純な「機能あり/なし」として捉えるのではなく、遺伝子異常の組み合わせ(機能変化のパターン)が、発がん初期の免疫応答を決定することを示しました。とりわけ、p53-RB シグナルの不均衡がcGAS-STING経路を介して免疫監視を作動させるという知見は、口腔がんの発生・進展を理解する新たな枠組みとなります。
 将来的には、TP53 及び CDKN2A の遺伝子状態と免疫状態を組み合わせることで、口腔前がん病変の進展リスク評価や、cGAS-STING 経路・免疫チェックポイントを標的とした治療選択に役立つ可能性があります。ただし、本研究は特定の時点におけるマウス及び患者データに基づくものであるため、ヒトにおける時系列での免疫変化、STING 活性化の適切な時期とその効果、治療効果について、今後さらに検証する必要があります。

4 論文情報

論文名:Imbalanced p53-RB signaling triggers cGAS-STING-mediated immune activation in early oral cancer development
和訳:p53-RB シグナルの不均衡は、口腔がん発生初期に cGAS-STING を介した免疫活性化を誘導する
著者:Zichao Lu, Yasuhiro Mouri, Wenhua Shao, Akihiro Yasue, Chunhua Wang,
Hiroko Hagita, Kiyotake Yamamoto, Naoko Matsumoto, Minoru Matsumoto, Takeshi Oya,
Yasusei Kudo.
掲載誌:Oncogene
掲載日時:2026年8月15日にオンライン版に掲載
DOI:10.1038/s41388-026-03962-y
研究機関:徳島大学大学院医歯薬学研究部、徳島大学フォトニクス健康フロンティア研究院 ほか

5 用語解説

※1) TP53/p53:
DNA 損傷などの異常を検知し、細胞周期の停止、修復、細胞死を誘導する代表的ながん抑制遺伝子(TP53)/タンパク質(p53)。ヒト遺伝子は TP53、マウス遺伝子は Trp53。

※2) CDKN2A:
p16INK4Aと p14ARF(マウスでは p19Arf)という 2 種類のがん抑制タンパク質をコードし、RB 経路と p53 経路を調節する遺伝子。ヒト遺伝子は CDKN2A、マウス遺伝子は Cdkn2a。

※3)RB 経路:
細胞周期を制御し、細胞が無秩序に増殖することを防ぐ仕組み。p16INK4Aは細胞周期を進める酵素であるサイクリン依存性キナーゼ(CDK)4/6 を阻害して RB の働きを保つ。

※4)cGAS-STING 経路:
本来あるはずのない細胞質内の異常な DNA を察知し、I 型インターフェロンや炎症性サイトカインの産生を誘導する自然免疫系の経路。

※5) 4NQO:
4-nitroquinoline-1-oxide。喫煙関連のヒト口腔がんに似た遺伝子変化を誘導するため、口腔発がんモデルに用いられる化学物質。

※6) 片方アリル:
人間の体細胞は、父親から 1 つ、母親から 1 つ、同じ遺伝子を 2 つペアで持っている。このペアの片方の遺伝子変化や状態に注目するときに「片方のアリル」という表現が使われる。

※7) STING(Stimulator of Interferon Genes):
細胞質に異常な DNA があることを cGAS から伝えられると、下流のシグナルを活性化し、インターフェロンなどの免疫応答を引き起こすタンパク質。

※8) ナンセンス変異:
本来ない場所に終止コドンができてタンパク質が途中で切れてしまう変異。

※9) アポトーシス:
細胞が自らの働きによって、周囲の細胞に大きな影響を与えずに死ぬ「プログラムされた細胞死」のこと。

※10) TCGA(The Cancer Genome Atlas):
多数のがん患者について、遺伝子・発現・臨床情報を統合した公開データベース。

6 研究体制

 本研究は、徳島大学大学院医歯薬学研究部歯学域口腔科学部門口腔生命科学分野、同研究部医学域医科学部門分子病理学分野、同研究部歯学域口腔科学部門口腔顎顔面矯正学分野及び徳島大学フォトニクス健康フロンティア研究院の共同研究として実施されました。

■徳島大学に関する情報

・徳島大学×J-PEAKS
https://www.iphf.tokushima-u.ac.jp/

プレスリリース提供:PR TIMES

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