買い時を待つ人ほど損をする? データが示す「買ってはいけないマンション」マンション市場にはびこる買い時が存在するという誤った認識
マンションリサーチ株式会社

【調査概要】
対象期間:2020年1月期~2026年7月期
実施主体:マンションリサーチ株式会社
分析範囲:東京23区に所在する売出価格平均8000万円以上のマンション
抽出データ数:170,792件
集計手法:市場に流通している既存住宅の売り出しデータを系統的に取得・解析し、統計的調整を経て算出。
マンション購入を検討する際、「買い時はいつなのか」という議論が頻繁に行われますが、実際にはこの「買い時」という言葉が、「マンション価格がいつ下落するのか」という問いとほぼ同義で使われているケースが少なくありません。現在は価格が高いからもう少し待った方がよい、金利が上昇しているため今後価格が下落する可能性がある、あるいは景気が悪化すれば価格が下がるため、そのタイミングを待って購入すべきだといった考え方です。しかし、こうした「時期」を中心としたマンション購入の判断は、現在の市場環境を考えると、必ずしも適切とは言えません。なぜなら、マンション価格は単純に一方向へ動くものではなく、価格を押し下げる要因と押し上げる要因が同時に存在しており、そのバランスによって形成されるためです。そのため、「いつ価格が下がるのか」を一点で予測するよりも、現在の価格水準に対して、そのマンションが実際に市場からどのように評価されているのかを見ることの方が、購入判断において重要になっていると考えられます。
そもそも「マンション価格はいつ下がるのか」という問いに正確に答えることは非常に難しいものです。例えば、金利が上昇すれば住宅ローンの返済負担が増加するため、同じ年収の購入者であっても借入可能額が小さくなり、結果として購入できるマンション価格の上限が低下することから、住宅価格には下落圧力がかかります。また、景気が悪化して所得や雇用環境が悪化すれば住宅需要そのものが弱くなり、さらに中古マンションの在庫が増加すれば、売主間の競争が激しくなることで、売却を進めるための価格調整が発生しやすくなります。このように考えると、金利上昇、景気悪化、所得環境の悪化、在庫増加などは、いずれもマンション価格を押し下げる方向に作用する要因として捉えることができます。
一方で、現在の日本の住宅市場には、これとは逆方向に価格を押し上げる要因も存在しています。その代表的なものが、名目賃金の上昇、物価上昇、土地価格の上昇、建築資材価格や人件費の上昇などです。特にマンション市場を考えるうえで重要なのが、住宅を新たに供給するためのコストが上昇しているという点です。マンションを供給するためには、土地の取得費用だけでなく、建築資材、設備、人件費、設計費、各種諸経費など、多くのコストが発生します。これらのコストが上昇している状況では、デベロッパーが過去と同じ価格水準で新築マンションを供給することは難しくなり、結果として新築価格そのものが高い水準に維持される可能性があります。そして、新築マンションの価格が高止まりすれば、その価格水準は中古マンションの価格形成にも影響を及ぼします。新築と中古は完全に代替関係にあるわけではありませんが、新築価格が上昇することで「新築では予算が合わないため中古を選択する」という需要が生まれ、中古マンション価格を下支えする要因となるためです。
さらに、名目賃金の上昇についても無視することはできません。もちろん、賃金が上昇すれば必ずマンション価格が上昇するという単純な関係ではなく、金利上昇によって住宅ローンの借入可能額が低下すれば、賃金上昇による購入力の改善が相殺される可能性もあります。しかし、物価や賃金が上昇する経済環境においては、住宅価格についても上昇圧力が生じるため、金利上昇だけを理由として「将来的にマンション価格が大きく下落する」と判断することには注意が必要です。現在の市場では、金利上昇による需要抑制という価格下落要因と、賃金上昇、インフレ、建築費上昇、新築価格の高止まりといった価格上昇要因が同時に存在しており、これらが複雑に作用することで市場価格が形成されています。
ここで重要になるのが、「名目価格」と「実質価格」を分けて考えるという視点です。例えば、マンション価格が現在の水準から大きく下落しなかったとしても、その間に物価や賃金が上昇していれば、マンション価格の実質的な負担感は相対的に低下する可能性があります。反対に、マンション価格が10%下落したとしても、同じ期間に物価がそれ以上に上昇していれば、実質的な価格水準は必ずしも低下しているとは限りません。つまり、住宅市場における「価格調整」は、必ずしもマンション価格そのものが大きく下落するという形でしか発生しないわけではなく、物価や賃金が上昇する一方でマンション価格の上昇率がそれを下回ることによって、実質的な価格調整が進むケースも考えられます。
したがって、今後のマンション市場を考える際には、「マンション価格がいつ下がるのか」という一点だけを見るのではなく、「マンション価格の上昇率が物価や賃金の上昇率を上回るのか、それとも下回るのか」という相対的な視点を持つことが重要になります。インフレと名目賃金の上昇が続く環境であれば、マンション価格が名目ベースでは下落しないまま、実質ベースでは調整が進むという可能性も十分に考えられます。このことを踏まえると、「価格が下落するタイミングを待ってから購入する」という考え方には一定の限界があり、特定の時期を「買い時」として予測することそのものが難しいと言えるでしょう。
さらに、仮に将来的にマンション価格が下落するとしても、「価格が下落するまで待つこと」が必ずしも購入者にとって有利になるとは限りません。例えば、マンション価格が下落したとしても、その間に住宅ローン金利が上昇すれば、購入価格の低下によるメリットがローン負担の増加によって相殺される可能性があります。また、物価や建築費が上昇し続ければ、新築マンションの価格が大きく下落しないまま中古市場の価格が横ばいで推移する可能性もあります。さらに、賃金が上昇すれば購入者の所得環境も変化するため、「現在より価格が安くなった時点が必ず最も購入しやすい時期になる」とも限りません。こうした複数の変数を考慮すると、マンションの買い時を市場全体の価格だけから判断することは極めて難しいと考えられます。
そこで、マンション購入を考える際には、「いつ買うか」という時間軸から、「何を買うか」という対象そのものに視点を移す必要があります。つまり、市場全体の価格が上昇するのか下落するのかを予測すること以上に、購入しようとしている個別のマンションが現在の価格水準で実際に購入者から選ばれているのかどうかを確認することが重要になります。ここで注目したいのが、マンションごとの「在庫の流動性」です。
マンション市場では、同じエリア、同じ価格帯、場合によっては同じような築年数のマンションであっても、在庫の動きが大きく異なることがあります。あるマンションでは売り出された物件が比較的早く成約し、在庫が減少している一方で、別のマンションでは新たな売り出しが積み上がり、在庫が継続的に増加しているという状況が発生します。この違いは非常に重要です。なぜなら、在庫が増加しているということは、少なくとも現在の価格水準において、供給されている物件を購入者が十分に吸収できていない可能性を示しているからです。
もちろん、在庫が増加したからといって、それだけで価格が下落すると断定することはできません。売り出し件数が一時的に増加しただけという可能性もありますし、相続や住み替えなど、価格とは直接関係しない事情によって売却物件が増える場合もあります。しかし、一定期間にわたって在庫が増加し続けているのであれば、その背景には「現在の価格と購入者が感じている価値との間に乖離が生じている」という可能性があります。売主は希望価格で売りたいものの、その価格では購入者が現れず、次の売り出しが追加されることで在庫が積み上がり、最終的には売却を進めるために価格調整が行われるという流れです。
逆に、在庫が一定、あるいは継続的に減少しているマンションについては、現在の価格水準に対して購入者が一定の価値を認めている可能性が高いと考えられます。価格を大きく下げなくても売却できるのであれば、売主が値下げをする必要性は低くなり、その結果として価格水準が維持されやすくなります。さらに、需要に対して供給が限られているマンションであれば、売り出し物件が市場に出るたびに購入希望者が現れることで、価格が維持されるだけでなく、条件によっては上昇する可能性もあります。この意味で、在庫の増減は単なる「売り出し物件数」の変化ではなく、そのマンションが市場からどの程度受け入れられているのかを判断するための一つの重要な指標と考えることができます。
以下の地図では、シンボリックな高価格帯マンションについて、在庫の推移をマンション単位で可視化しています。
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出典:google MAPを福嶋総研が加工
赤プロットは在庫減少傾向、すなわち流動性が高いマンション、黄プロットは在庫が概ね横ばいで流動性が標準的なマンション、青プロットは在庫増加傾向にあり、流動性が低下しているマンションを示しています。これをマンション単位で確認することで、同じエリアや同じ価格帯に属しているマンションであっても、実際の市場における売れ行きには明確な違いがあることが分かります。
[画像2:
https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/13438/243/13438-243-739729e90d57e9586e129f7b137e1591-1920x1080.png?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
出典:福嶋総研
さらに、赤、黄、青の各プロットについて販売終了までの値下げ率を比較すると、より明確な傾向が確認できます。特に青プロット、つまり在庫が増加傾向にあるマンションでは、販売終了までに行われる値下げ率が相対的に高くなっており、在庫の積み上がりと価格調整が同時に発生していることが分かります。一方、赤プロットや黄プロットでは一定のばらつきがあるものの、値下げ率は比較的小さく、概ね横ばい、あるいは微増という傾向が確認されます。これは、在庫が増加しているマンションほど「現在の価格では売れない」という市場からのシグナルを受けやすく、その結果として成約に至るまでに価格調整を必要とする傾向があることを示唆しています。
この結果から重要なのは、マンション購入において「市場全体が上がるのか下がるのか」を予測することだけが重要なのではなく、むしろ市場全体の中で「どのマンションが選ばれているのか」を見極めることが重要だということです。市場全体が上昇している局面であっても、すべてのマンションが同じように上昇するわけではなく、逆に市場全体が停滞あるいは下落する局面でも、流動性の高いマンションは価格を維持する可能性があります。つまり、今後のマンション市場では「市場全体の方向性」と「個別マンションの強さ」を分けて考える必要があります。
以上を踏まえると、マンション購入においては「買い時を探す」という発想そのものを少し変える必要があります。将来の価格が下がる時期を正確に予測することは難しく、仮に価格が下落する局面が訪れたとしても、その時点で金利や物価、賃金などがどのような状況になっているかによって、購入者にとってのメリットは変わります。それよりも重要なのは、購入した後も次の購入者から選ばれる可能性が高いマンションを選択することです。
言い換えれば、これからのマンション購入において重要なのは、「買い時を探す」のではなく、「買ってはいけないマンションを避ける」ことです。その判断材料として、マンションごとの在庫推移は非常に有効な指標になります。在庫が継続的に増加しているマンションは、現在の価格と市場が評価する価値との間に乖離が存在している可能性があり、将来的に価格調整を受けるリスクについて慎重に検討する必要があります。一方で、在庫が安定している、あるいは減少しているマンションは、少なくとも現在の価格水準において一定の需要が存在しており、価格の維持や将来的な流動性という観点から相対的に評価しやすいと考えられます。
もちろん、マンションの価値は在庫だけで決まるものではありません。立地、駅距離、築年数、管理状態、眺望、間取り、専有面積、管理費・修繕積立金、周辺の供給計画など、さまざまな要素を総合的に評価する必要があります。しかし、これらの条件がある程度似通ったマンションを比較するのであれば、「実際に市場で売れているのか」「在庫が積み上がっているのか」という流動性の違いは、購入判断において非常に重要な情報になります。
マンション市場が今後上昇するのか、下落するのかを正確に予測することは困難です。しかし、個別マンションの在庫が増えているのか、減っているのか、そしてその在庫の動きが実際の値下げ率とどのように結びついているのかを分析することはできます。だからこそ、マンション購入を考える際には、「今は高いから待つ」「価格が下がったら買う」という単純な時間軸だけで判断するのではなく、「そのマンションは現在の価格で市場から選ばれているのか」という視点を持つことが重要です。
マンションの「買い時」を当てることよりも、購入後も市場から選ばれ続けるマンションを見極めること。そのためには、マンションごとの在庫推移と流動性を継続的に観察し、価格だけでは見えない「市場からの評価」を読み取ることが、今後のマンション購入においてますます重要になっていくと考えられます。
最後に今後のマンション市場を考えるうえでは、流通の中心がより一層「中古マンション」へ移っていくことも重要なポイントです。新築マンションについては、土地価格や建築費、人件費などの上昇に加え、供給できる土地にも限りがあるため、今後も大量の新築供給を続けることは容易ではありません。一方、すでに市場には大量の中古マンションストックが存在しており、今後はこれらの既存ストックが住宅市場における重要な流通資産となっていくと考えられます。
そのため、マンションの資産価値を維持するうえでは、立地や築年数だけでなく、「どのように維持管理されているか」がこれまで以上に重要になります。適切な長期修繕計画が策定されているか、修繕積立金が十分に確保されているか、必要な修繕が適切に実施されているか、管理組合が適切に機能しているかといった点は、将来的な建物の状態だけでなく、売却時の流動性にも影響する可能性があります。
中古マンションを購入する際には、一般社団法人マンション管理業協会が公表している「マンション管理適正評価」なども参考情報の一つとして活用することをおすすめします。
参考) マンション管理適正評価サイト
https://www.mansion-evaluationsystem.org/
[画像3:
https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/13438/243/13438-243-504effd7b377abcbd54c5b7b10bbf6c9-1792x2400.png?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
福嶋 真司(ふくしましんじ)
マンションリサーチ株式会社
データ事業開発室
不動産データ分析責任者
福嶋総研
代表研究員
福嶋総研代表研究員。早稲田大学理工学部卒。大手不動産会社にてマーケティング調査を担当後、
建築設計事務所にて法務・労務を担当。現在はマンションリサーチ株式会社にて不動産市場調査・評価指標の研究・開発等を行う一方で、顧客企業の不動産事業における意思決定等のサポートを行う。また大手メディア・学術機関等にもデータ及び分析結果を提供する。
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会社名: マンションリサーチ株式会社
代表取締役社長: 山田力
所在地: 東京都千代田区神田美土代町5-2 第2日成ビル5階
設立年月日: 2011年4月
資本金 : 1億円
プレスリリース提供:PR TIMES


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