藻類が「いつ、どれだけCO2を吸収したか」を正確に捉える計測技術を確立
NTT株式会社

~培養条件の最適化を通じ、CO2吸収量向上とバイオマス生産効率化へ~
発表のポイント:
- 微細藻類(※1)培養中の溶存無機炭素(DIC)(※2)濃度を、センサを用いて簡便かつ高精度に算出する計測技術を確立しました。- センサデータに対する独自の補正技術により、従来の滴定法(※3)による測定値に対する相対誤差を、最大約3300%から最大約8%まで低減しました。- 本技術により、微細藻類によるCO2吸収の時間変化を連続的に把握できるようになり、CO2吸収量の向上につながる培養条件の探索・最適化が可能になります。
NTT株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:島田 明、以下「NTT」)は、微細藻類によるCO2吸収の時間変化を簡便かつ高精度にモニタリングできる技術を確立しました。従来の滴定法による測定値に対する相対誤差は最大約3300%でしたが、本技術により最大約8%まで低減しました。微細藻類によるCO2吸収量を計測・評価するには、水中でさまざまな形態の無機炭素として存在している溶存無機炭素(DIC)の変化を把握することが重要です。従来技術ではDICを正確に測定するには培養液を採取する必要があり、連続的な把握は困難でした。本技術では、CO2センサなどから得られる測定データを活用することで、測定のたびに培養液を採取することなく、DIC濃度を算出できます。これにより、微細藻類によるCO2吸収の時間変化を継続的に把握できるようになり、CO2吸収量の向上につながる培養条件の探索・最適化を通じて、環境負荷の低減に貢献することが期待されます。
本成果は、2026年8月12日に国際学術誌Algal Researchに掲載されました。
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図1. 従来法と本技術による微細藻類培養中のDIC動態の計測方法の比較
1.背景
微細藻類は、光合成によってCO2などの無機炭素を利用して増殖します。微細藻類から得られるバイオマス(※4)を、飼料、燃料、化学品などの原料として活用し、従来使用されてきた原料の一部を代替することで、持続可能な生産の実現や温室効果ガス排出量の削減に貢献することが期待されています。
培養液中では、CO2は水に溶けた状態だけでなく、重炭酸イオンや炭酸イオンなどの形でも存在しており、これらを総称して溶存無機炭素(DIC)と呼びます(図2)。微細藻類によるCO2吸収量を評価するうえでは、CO2が水中で形を変えて存在するDIC全体の動きを把握することが重要です。
NTTはこれまで、CO2を利用して増殖する微細藻類を魚介類のエサとして活用することで、環境問題の解決と食料生産の両立をめざすコンセプトを立案(※5)し、藻類によるCO2利用効率の向上に寄与する遺伝子の特定(※6)や、育種技術に関する研究開発(※7)を進めてきました。このコンセプトの有効性の検証や、微細藻類によるCO2吸収量の評価においては、培養中におけるDIC濃度の変化を正確に把握することが重要です。
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図2. 水溶液中におけるCO2の存在形態
従来技術の滴定法はDIC濃度を正確に測定できる一方で、測定のたびに培養液を採取する必要があり、さらに測定に手間と時間を要するため、連続的なデータ取得には適していませんでした。また、センサデータと炭酸平衡(※8)にもとづく既存の計算方法は、連続的な算出が可能であるものの、微細藻類の培養液にそのまま適用した場合、従来の滴定法による測定値に対する相対誤差が最大約3300%に達し、DIC濃度を正確に算出することが困難でした。そこで本技術では、センサを用いて培養中のDIC濃度を正確かつ連続的に算出し、その経時変化を追跡できる新たな計測技術の確立に取り組みました。
2.技術のポイント
1. 微細藻類の培養特有のpH変化に着目した補正技術を開発
センサを用いたDIC算出値に誤差が生じる原因を解析した結果、培養の進行に伴い、培養液のpH(※9)が約8.4から約10.0へ上昇していることが明らかとなりました(図3)。このpH上昇は、微細藻類が光合成によりDICを利用した結果、培養液中の炭酸平衡が変化したことを反映していると考えられます。このような短時間での大きなpH変化を伴う微細藻類の培養液では、センサ測定値にもとづく既存の炭酸平衡計算をそのまま適用すると、DIC濃度の算出値に大きな誤差が生じることが考えられました。
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図3. 藻類培養液中のpHの経時変化
そこで本技術では、滴定法によるDIC測定値と、センサ測定値から算出したDIC値との差に着目し、相対誤差とpHとの関係を解析しました。その結果にもとづき、pHに応じてDIC算出値を補正する補正式を構築しました(図4、左)。
2. 補正により相対誤差を最大約3300%から最大約8%まで低減
本補正式を適用した結果、DIC算出値の滴定法による測定値に対する相対誤差は、補正前の最大約3300%から、補正後には最大約8%まで低減しました(図4、右)。なお、本補正式は、5L培養瓶、25℃、pH 8~10の範囲における実験室環境で有効であることが確認されています。これにより、センサデータからDIC濃度を簡便かつ高精度に算出できることが確認されました。
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図4. pHにもとづくDIC算出値の補正と補正効果
3.本技術適用例
補正後のDIC濃度から培養液中のDICに含まれる炭素量を算出し、培養容器内の空気中のCO2に含まれる炭素量と合計しました。さらに、12時間ずつ明期と暗期(※10)を繰り返す条件で微細藻類培養区と藻類を含まない対照区を比較することで、微細藻類のCO2利用に伴う培養系内の炭素量の変化を評価しました(図5)。その結果、光を照射する明期には、微細藻類の光合成によるCO2吸収と整合する炭素量の減少が確認されました。一方、暗期には光合成が停止し、呼吸などの影響により明期とは異なる変化が観察されました。
これらの結果から、本技術により、光条件に応じた微細藻類のCO2吸収に伴う炭素量の時間変化を、継続的かつ高精度に捉えられることが確認されました。
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図5. 明暗周期下における培養系内の炭素量の経時変化負の値は、培養系内の炭素量が、藻類培養区で対照区より少ないことを示す。
4.今後の展開
今後は、藻類種の違いや実生産を想定した培養条件など、より多様な条件での検証を進めることで、本技術の適用可能性をさらに高めていきます。
本技術により得られるDIC濃度の時間変化データを活用することで、微細藻類がCO2を活発に吸収する条件や、CO2吸収が低下するタイミングを把握できるようになります。これらの情報をもとに培養条件を最適化することで、微細藻類によるCO2吸収量の向上やバイオマス生産の効率化が期待されます。さらに、培養装置に搭載された環境制御技術や藻類培養事業者の培養ノウハウと組み合わせることで、より高度な培養管理や生産性向上につなげ、藻類バイオマスの産業利用への貢献をめざします。
5.関連する過去の報道発表
・2021年11月12日「海洋の二酸化炭素減少をめざしNTTとリージョナルフィッシュが実証開始~世界初、生態系への影響がない環境下でゲノム編集技術を藻類と魚介類の炭素循環に応用~」
(
https://group.ntt/jp/newsrelease/2021/11/12/211112a.html )
・2022年9月13日「気候変動問題を解決する藻類育種技術の実証実験を開始~中性子線照射による遺伝子変異導入で世界初となる有用藻類育種技術の確立をめざす~」
(
https://group.ntt/jp/newsrelease/2022/09/13/220913a.html )
・2023年2月9日「藻類の二酸化炭素吸収量を画期的に向上させる遺伝子を特定」
(
https://group.ntt/jp/newsrelease/2023/02/09/230209c.html )
・2024年7月4日「世界初、中性子線照射による藻類の品種改良技術を確立~バイオ燃料原料の油脂生成量を最大1.3倍に増加させることに成功~」
(
https://group.ntt/jp/newsrelease/2024/07/04/240704a.html )
・2026年7月7日「DHAやEPAなど5種の機能性脂肪酸量を同時に高めた珪藻の育種に成功~天然資源由来の魚粉・魚油に頼らないサステナブルな次世代養殖飼料の開発を加速~」
(
https://group.ntt/jp/newsrelease/2026/07/07/260707a.html )
【用語解説】
※1 微細藻類: 肉眼では一つひとつの細胞を確認することが難しい、微小な藻類の総称です。多くは植物と同様に、光合成によってCO2などの無機炭素を利用して増殖します。
※2 溶存無機炭素(DIC:Dissolved Inorganic Carbon): 水中に溶けている無機炭素の総称です。主に、溶存CO2、重炭酸イオン、炭酸イオンなどの形で存在します。
※3 滴定法: 試料に濃度が分かっている試薬を加え、反応に必要となった試薬の量から、試料中の成分量を求める化学分析法です。
※4 バイオマス: 生物に由来する資源の総称です。本資料では、主に微細藻類の細胞と、そこから得られるタンパク質、脂質、糖質などの有用成分をさします。
※5
https://group.ntt/jp/newsrelease/2021/11/12/211112a.html
※6
https://group.ntt/jp/newsrelease/2023/02/09/230209c.html
※7
https://group.ntt/jp/newsrelease/2026/07/07/260707a.html
※8 炭酸平衡: 水中で、溶存CO2、重炭酸イオン、炭酸イオンなどが、相互に変化しながら共存する状態です。それぞれの割合は、主にpHによって変化し、温度や塩分などの影響も受けます。
※9 pH: 水溶液の酸性またはアルカリ性の程度を表す指標です。pH7付近が中性で、それより値が大きいほどアルカリ性が、小さいほど酸性が強くなります。
※10 明期・暗期: 明期は光を照射している時間帯、暗期は光を照射していない時間帯をさします。本研究では、12時間の明期と12時間の暗期を繰り返しました。
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記事提供:PRTimes