マーガリンなどの品質を支える乳化剤の働きを分子レベルで解明 ~低脂肪タイプの開発に役立つ新知見~
雪印メグミルク株式会社

研究成果を2つの国際学術誌で発表
雪印メグミルク株式会社(本社:東京都港区、代表取締役社長:佐藤 雅俊)は、慶應義塾大学理工学部機械工学科 荒井規允教授らとの共同研究により、マーガリンやファットスプレッドなどの油脂食品の品質を支える「乳化」のしくみを、実験と分子動力学シミュレーション※1により分子レベルで明らかにしました。本研究では、飽和脂肪酸鎖※2を持つ乳化剤※3と不飽和脂肪酸鎖※4を持つ乳化剤を比較し、分子構造の違いが油と水の境界面での並びや乳化の安定性に影響することを示しました。本成果は、低脂肪でも安定した品質や好ましい食感を実現する油脂食品の設計に役立つ基盤知見であり、関連する研究成果は国際学術誌「Chemical Physics」および「Food Research International」に掲載されました。
●不飽和脂肪酸鎖を持つ乳化剤は、飽和脂肪酸鎖を持つ乳化剤に比べて、水と油をより安定に混合できることを明らかにした
●実験と分子動力学シミュレーションを組み合わせ、乳化剤が油と水の境界面でどのように働くかを分子レベルで可視化した
●本成果は、低脂肪でも品質や食感を維持した油脂食品の設計に役立つことが期待される
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図1 飽和脂肪酸鎖を持つ乳化剤(左)と不飽和脂肪酸鎖を持つ乳化剤(右)をそれぞれ含む油水界面の分子配列
水色は水、黄色は油、赤色は乳化剤の水になじみやすい部分、緑色は水になじみにくい部分を示す。
飽和脂肪酸鎖を持つ乳化剤はきれいに並んでしまうため動きが制限される構造だが、不飽和脂肪酸鎖を持つ乳化剤は、制限が少なく動きやすい構造となる。
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図2 飽和脂肪酸鎖を持つ乳化剤(赤色)と不飽和脂肪酸鎖を持つ乳化剤(青色)を混合した油水界面の分子分布
左は界面の断面、右は左図を上方向から見た図を示す。
両者は界面上で完全に均一に混ざるのではなく、飽和脂肪酸鎖を持つ乳化剤が局所的に偏って分布(それに伴い不飽和脂肪酸鎖を持つ乳化剤も偏って分布)しており、この構造がW/Oエマルションの安定性に影響する。
マーガリン、ファットスプレッド、チョコレートクリームなどの油脂食品では、乳化剤が品質や保存安定性に重要な役割を果たしています。特に低脂肪タイプでは、限られた油の中で多くの水を安定に分散させる必要があるため、乳化剤がどのように働くかを理解することが重要です。そこで本研究では、乳化剤に結合した脂肪酸鎖の飽和・不飽和の違いが、油と水の界面での挙動や乳化の安定性にどのように影響するかを明らかにし、経験的に行われてきた乳化剤配合を、分子構造や界面物性に基づいて設計するための知見を得ることを目的としました。
本研究では、飽和脂肪酸鎖を持つモノパルミチン※5と、不飽和脂肪酸鎖を持つモノオレイン※6を対象に、実験と分子動力学シミュレーションを組み合わせて解析しました。論文1報目(Sato, 2026※I)では、それぞれの乳化剤を単独で用いた場合の油と水の境界面の性質(界面張力)および分子の並び方(界面構造)を比較しました。論文2報目(Tsukagoshi, 2026※II)では、両者を混合した系について、水滴の合一や相分離のしやすさ、界面張力、界面の弾力性などを評価し、乳化安定性との関係を調べました。
モノオレインはモノパルミチンに比べて油と水の界面張力をより低下させることが確認されました。分子動力学シミュレーションにより、油と水の境界面における分子の並び方を可視化し、モノパルミチンを含む界面とモノオレインを含む界面では、乳化剤分子の配列や水とのなじみ方が異なることを示しました(図1)。モノオレインは、不飽和結合による分子の折れ曲がりにより界面上で密に並びにくく、水となじみやすい部分が界面で広がることで界面張力が低下し、乳化状態を保ちやすくなると考えられます。一方、モノパルミチンとモノオレインを混合した系では、乳化安定性は両者の中間的な性質を示したものの、界面上ではそれぞれの乳化剤が完全に均一に混ざるのではなく、局所的に偏って分布する構造が確認されました(図2)。つまり、飽和脂肪酸由来の乳化剤が局在する領域は界面膜の硬さの付与に寄与し、不飽和脂肪酸由来の乳化剤が局在する領域は乳化安定性の維持に寄与すると考えられます。このような界面構造を制御することで、硬さの付与と乳化安定性の維持を両立した低脂肪タイプの油脂食品が実現できることが示唆されました。
本研究により、乳化剤の機能は添加量だけでなく、脂肪酸鎖の構造や界面での分子の並び方によって大きく左右されることが明らかになりました。また、複数の乳化剤を組み合わせた場合には、単純な配合比だけでは予測できない界面構造が形成される可能性も示されました。これらの結果は、乳化剤配合を経験則だけでなく、分子レベルの理解に基づいて設計できる可能性を示すものです。
今後は、実際の食品に近い複雑な組成で検証を進めることで、低脂肪でありながら安定した品質や良好な食感を実現する油脂食品の開発や、品質保持技術の高度化への活用が期待されます。
【発表概要】
※I 論文1報目タイトル:Tail unsaturation controls monoglyceride monolayer organization and oil-water interfacial tension
掲載誌:Chemical Physics, 607 (2026) 113167
DOI:
https://doi.org/10.1016/j.chemphys.2026.113167
著者:Ryoichi Satoa、Shiori Tsukagoshib、Leo Tanakab、Noriyoshi Araia(a慶應義塾大学、b雪印メグミルク株式会社)
※II 論文2報目タイトル:Non-additive interfacial organization of mixed monoglycerides underlies the composition-dependent stability of water-in-oil emulsions
掲載誌:Food Research International, 243(2026)120209
DOI:
https://doi.org/10.1016/j.foodres.2026.120209
著者:Shiori Tsukagoshia、Ryoichi Satob、Leo Tanakaa、Noriyoshi Araib(a雪印メグミルク株式会社、b慶應義塾大学)
※1 分子動力学シミュレーション
原子や分子一つひとつの動きをコンピューター上で計算し、時間とともにどのように並び、動き、相互作用するかを調べる手法です。
※2 飽和脂肪酸鎖
脂肪酸を構成する炭素鎖に二重結合を含まない構造です。比較的まっすぐな形をとりやすく、分子が密に並びやすい性質があります。
※3 乳化剤
水と油のように混ざりにくい成分を均一に分散させ、その状態を安定に保つために用いられる物質です。油脂食品では、品質や保存安定性、食感の維持に重要な役割を果たします。
※4 不飽和脂肪酸鎖
脂肪酸を構成する炭素鎖に二重結合を含む構造です。途中に折れ曲がりを生じやすく、分子が密に並びにくい性質があります。
※5 モノパルミチン
グリセリンにパルミチン酸が1つ結合した乳化剤の一種です。飽和脂肪酸鎖を持つため、界面で比較的整列しやすい性質があります。
※6 モノオレイン
グリセリンにオレイン酸が1つ結合した乳化剤の一種です。不飽和脂肪酸鎖を持つため、分子が折れ曲がった形をとりやすく、界面での配列や界面張力に影響します。
プレスリリース提供:PR TIMES

記事提供:PRTimes