花王、細菌由来の多様なリゾチームの高効率生産技術を開発
花王株式会社 ケミカル事業部門

―「細菌を溶かす酵素を、細菌 で高生産する」二段階生産法―
花王のケミカル事業部門は、細菌由来のリゾチームを高効率に生産する独自の発酵生産技術*1を確立しました。リゾチームは、細菌の細胞壁を分解する酵素で、食品や飼料、バイオテクノロジーなどの産業分野で活用されています。これまでは、細菌由来のリゾチームを工業的に生産することは技術的に困難とされていましたが、今回、リゾチームを一時的に働きが抑えられた状態で生産し、培養後に働きを持つ状態へと変換する二段階の生産技術を開発しました。この技術を応用することで、動物由来原料に依存することなく、さまざまな特長をもつリゾチームを安定的に生産できるようになると考えられます。
今後、量産に向けた製造条件の検討や用途ごとの性能評価および高機能酵素の開発を進め、事業化をめざします。
*1 発酵生産とは、細菌を含む微生物の力を利用して有用物質を生産すること
[画像1:
https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/179075/2/179075-2-787f7c35bad6c4c9c8269348de45544e-3900x1412.png?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
図1.細菌由来のリゾチームの二段階生産方法
リゾチームは、多くの生物が細菌から身を守るために持っている天然の抗菌酵素です。外部から侵入する細菌の細胞壁を分解することで、細菌の増殖を抑える働きがあります。この性質を利用し、食品では品質保持や保存性の向上、飼料分野では家畜の腸内環境の改善、バイオ分野では細菌が生産した有用物質の抽出や精製など、幅広い産業で活用されています。現在、市場に流通するリゾチームの多くは、ニワトリの卵白に含まれるものが利用されていますが、動物由来原料に依存することに加え、使用環境のpHなど、適用できる条件が限られる場合があることや、用途に合わせた改良が難しいといった課題があります。こうした背景から、卵白由来のリゾチームに代わる選択肢として、細菌を利用して発酵生産される細菌由来リゾチームが期待されています。
しかし、リゾチームには細菌の細胞壁を分解する働きがあるため、細菌にリゾチームを作らせようとすると、生産されたリゾチームが生産菌自身の細胞壁を分解してその生育を妨げ、十分な生産量を確保しにくいという課題がありました。
このため、細菌由来リゾチームの生産では、「細菌を溶かす酵素を、細菌でいかに安定的かつ高効率に生産するか」が大きな技術課題となっていました。
花王は、一部の細菌由来リゾチームが持つ「プロペプチド」と呼ばれるタンパク質の一部分に着目しました。このプロペプチドの役割や働きは十分に分かっていませんでしたが、タンパク質の構造予測手法を用いることで、プロペプチドは、リゾチームが細菌の細胞壁を分解する働きを抑える役割があり、これが取り除かれるとその働きが活性化するという仮説を立てました。
この仮説をもとに、プロペプチドを持った状態(リゾチーム前駆体)として活性を一時的に抑えて生産し、培養後にプロペプチドを取り除いてリゾチームを活性型へ変換することで、細菌由来リゾチームを安定的に生産できる二段階生産法を考案しました。
花王は、細菌の一種である枯草菌*2を用いた酵素や抗体などの生産技術を開発しており、独自の枯草菌株を保有しています。この枯草菌を用いて二段階生産法の有効性を検証した結果、活性を一時的に抑えたリゾチーム前駆体を安定的に生産できることを確認しました。これにより、枯草菌への影響を低減し、従来方法よりも高い生産性を示すことを確認しました。さらに、培養後の処理により、前駆体を活性型のリゾチームへ変換できることも確認しました。
この結果より、リゾチームを最初は働きを抑えた前駆体として生産し、培養後に活性化する二段階生産技術を応用することで、細菌由来のリゾチームを高効率かつ安定的に生産できるようになると考えられます。
*2 枯草菌(Bacillus subtilis)は納豆菌の近縁種。古くよりプロテアーゼなどの酵素を多く分泌することが知られており、研究や産業利用が行なわれてきました。
https://www.kao.com/jp/newsroom/news/release/2020/20201021-002/
今回の生産技術を、さまざまな細菌由来リゾチームへ応用するため、花王は広範のリゾチームのアミノ酸配列情報とタンパク質の予測構造を解析しました。
その結果、プロペプチドを持ち、今回の二段階生産法を適用できる可能性があると推定されるリゾチームの候補を多数見いだしました。さらに、系統や配列の異なる複数のリゾチーム候補を検証し、今回の二段階生産法を多様なリゾチームに適用できることを確認しました。
これにより、本技術は、食品や飼料、バイオ分野など用途に応じたさまざまな細菌由来リゾチームを開発・生産するための共通の技術基盤になることが期待されます。
花王は、本技術を活用し、従来の卵白由来リゾチームとは異なる特長を持つ高機能リゾチームの開発を進めています。
現在開発中のリゾチームでは、評価した範囲において、卵白由来リゾチームでは分解しにくい細菌に対しても作用し、より幅広い細菌種の細胞壁に対して効果を示すことを確認しています。
また、弱アルカリ性を含む幅広いpH条件で活性を示し、プロテアーゼ(タンパク質分解酵素)が存在する条件でも高い安定性を維持することを確認しています。
[画像2:
https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/179075/2/179075-2-15f64126e3458b9722d06be1bfcda16c-3643x2378.png?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
図2. 花王開発中のリゾチームの各細菌への作用
今回開発した生産技術によって、動物由来原料に依存しない細菌由来リゾチームの安定供給が可能になるだけでなく、従来の卵白由来リゾチームでは難しかった条件でも使用できる新しいリゾチームの開発も期待されます。
花王のケミカル事業部門は、今回確立した生産技術を活用し、細菌由来の高機能リゾチームの量産化に向けて、製造条件の最適化や用途に適したリゾチームの選定・性能評価を進めます。さらに、市場ニーズを踏まえながら、新たな産業用途への展開と事業化をめざします。
本技術に関する研究成果を、2026年9月15~17日に開催された「第78回日本生物工学会大会」で発表しました。
関連情報:花王リゾチームサイト URL:
https://chemical.kao.com/jp/bio/Product/lysozymes/プレスリリース提供:PR TIMES

記事提供:PRTimes