日常の「軽い身体活動」と高齢期の脳の健康との関連を明らかにした論文を発表
公益財団法人 明治安田厚生事業団

公益財団法人 明治安田厚生事業団 体力医学研究所の須藤 みず紀 副主任研究員らの研究グループによる論文が、老化研究の国際学術雑誌「Experimental Gerontology」に掲載されました(2026年10月15日発行号)。
本研究では、福岡アイランドシティ研究のデータを活用し、地域在住高齢者の日常生活における身体活動と脳容積との関係を調べました。具体的には、二重標識水(DLW)法と加速度計を用いて身体活動を客観的に評価するとともに、MRIで脳容積を測定しました。その結果、加速度計で測定した身体活動量、特に低強度身体活動の時間が長い人ほど、前頭皮質と背外側前頭前野の容積が大きい傾向が認められました。この結果から、日常の軽い身体活動が高齢期の脳容積の維持に好影響を与える可能性が示されました。
▼論文リンク
https://doi.org/10.1016/j.exger.2026.113284
画像1:
https://www.atpress.ne.jp/releases/641356/LL_img_641356_1.jpg
研究の概要
■ポイント
◎地域在住高齢者を対象に、二重標識水(DLW)法*1と加速度計*2という2つの客観的な方法を用いて日常の身体活動を評価し、MRI*3で撮影した脳容積との関係を検討しました。
◎加速度計で測定した身体活動量が多い人ほど、前頭皮質、特に背外側前頭前野*3の容積が大きい傾向が認められました。特に、低強度身体活動*4を行う時間が長いことが、前頭皮質・背外側前頭前野*5の容積と関連していました。
◎日常生活でこまめに身体を動かすことが、高齢期の脳容積の維持に好影響を与える可能性が示されました。
■背景
加齢に伴い脳容積は減少します。特に前頭皮質は高齢期の認知機能や生活機能に関わる重要な領域です。身体活動はこうした脳の変化を緩和する可能性がありますが、測定方法によって得られる情報は異なります。そこで本研究では、総エネルギー消費量を高精度に測定できる二重標識水(DLW)法と加速度計を組み合わせ、身体活動と脳容積との関係を検討しました。
■対象と方法
地域在住高齢者49名(平均71.1歳、女性35名)を対象としました。二重標識水(DLW)法を用いて16日間の日常生活における総エネルギー消費量を測定し、基礎代謝量で補正した身体活動レベルを算出しました。また、3軸加速度計により、歩数、座位時間、低強度・中高強度身体活動時間などを測定しました。さらにMRI5で前頭皮質、側頭皮質、海馬などの脳容積を測定しました。
■結果
加速度計で評価した身体活動レベルが高い人ほど、前頭皮質の容積が大きい傾向が認められ、特に情報の整理や計画、判断などの高次認知機能に関わる背外側前頭前野で明確な関連がみられました。一方、身体運動の実行に関わる一次運動野では、身体活動量との関連は認められませんでした。また、身体活動を強度別にみると、低強度身体活動の時間が長い人ほど前頭皮質および背外側前頭前野の容積が大きい傾向を示しましたが、中高強度身体活動では同様の関連は認められませんでした。さらに、歩数や二重標識水(DLW)法で評価した身体活動レベルと脳容積との明確な関連も認められませんでした。
これらの結果から、高齢期の脳の健康を考えるうえでは、総エネルギー消費量や歩数だけでなく、日常生活の中でどのような強度の活動をどの程度行っているかという身体活動の内容に着目することが重要である可能性が示されました。
画像2:
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前頭葉の容積と低強度身体活動レベルの関連
■著者のコメント
「脳の健康のための運動」というと、ウォーキングやスポーツなど、まとまった時間の運動をイメージする方が多いかもしれません。
今回の研究で興味深かったのは、中高強度の身体活動ではなく、日常生活の中で行われる低強度の身体活動の時間が、前頭皮質、特に高次の認知機能に関わる背外側前頭前野の容積と関連していたことです。
この結果は、「今日は何歩歩いたか」「どれだけカロリーを消費したか」という量だけではなく、一日の生活の中でどのような強度で身体を動かして過ごしているかという視点から健康を捉えることの重要性を示す知見だと考えています。
本研究は一時点で身体活動と脳容積の関係を調べた横断研究であるため、低強度身体活動を増やすことで脳の萎縮を防げると結論づけることはできません。今後、長期的な追跡研究や介入研究によってその関係をさらに検証し、年齢を重ねても日常生活の中で無理なく続けられる身体活動によって脳の健康を支えるための科学的根拠につなげていきたいと考えています。
■発表論文
掲載誌 : Experimental Gerontology
論文タイトル: The association between doubly labeled water- and accelerometer-measured physical activity, brain volume, and cognitive function in older adults with cardiometabolic or functional risks.
著者 : Mizuki Sudo, Soichi Ando, Rie Tomiga-Takae, Yujiro Kose, Takaaki Komiyama, Kota Anjiki, Yosuke Yamada, Naoyuki Ebine, Yutaka Shigemori, Yasuki Higaki, Yoichi Hatamoto; The Fukuoka Island City Study Group
DOI番号 : 10.1016/j.exger.2026.113284
URL :
https://doi.org/10.1016/j.exger.2026.113284
■用語解説
1.二重標識水法(DLW法:Doubly Labeled Water Method)
水素と酸素の安定同位体を含む水を摂取し、その後の体内からの排出速度を測定することで、普段の生活を送りながら一定期間の総エネルギー消費量を高精度に評価する方法。自由生活下のエネルギー消費量を測定する代表的な方法として国際的に用いられている。
2.加速度計
三軸加速度センサーを搭載し、身体活動や座位行動を客観的かつ詳細に評価できる機器。
3.MRI
磁気を利用して身体内部の構造を画像化する検査。本研究ではMRI画像を解析することで、前頭皮質、海馬など、複数の脳領域の容積を評価した。
4.低強度身体活動(LPA:Light-intensity Physical Activity)
本研究では、1.5 METs以上3.0 METs未満の身体活動を低強度身体活動として評価した(家事や歩行など)。
5.背外側前頭前野(DLPFC:Dorsolateral Prefrontal Cortex)
前頭葉の一部で、注意、計画、判断、情報の保持や切り替えなど、高次の認知機能に関係する脳領域。
■利益相反
著者には開示すべき利益相反はありません。
■財源情報
本研究は、JSPS科研費(25242065、23K24750)および福岡大学社会連携センターの支援を受けて実施されました。記して深謝いたします。
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記事提供:@Press