10品目からなる食事パターンの年齢や性別による違いを二次元で可視化することに成功
学校法人藤田学園

藤田医科大学(愛知県豊明市)臨床栄養学講座 飯塚勝美教授と健康管理部 成瀬寛之部長らの研究グループは、20~60歳の男女を対象に、性別や年齢による食事パターンの違いを検証しました。10品目(肉、魚、卵、大豆、乳製品、野菜、海藻、果物、芋、油脂)の食品摂取頻度をもとに、食品の多様性を評価しました。シャノン指数※1では、年齢が高く、女性ほど多様性が高いことが示されました。さらに、NMDS※2およびRDA※3による解析では、男女ともに年代によって食事パターンが異なり、特に肉・卵が若年層、果物・海藻・乳製品が高齢層に寄与することが明らかになりました。性別では、魚が男性、果物・芋・野菜が女性のパターンに特徴的でした。本研究により、年代や性別ごとの食事パターンが可視化され、今後の個別化された栄養指導に役立つ知見が得られました。
本研究成果は、スイスの学術ジャーナル「Nutrients」(7月2日号)で発表され、併せてオンライン版が公開されました。
論文URL :
https://www.mdpi.com/2072-6643/17/13/2205
<研究成果のポイント>
年代、性別による日本人の食事パターンの違いを、3種類の解析を通じて、明確に可視化することができた。
個別の食品の摂取頻度で見られた傾向が、食事パターンとしても確認できた。
各グループの食事パターンは年齢と性別によって異なり、主に、肉、魚、卵、果物、海藻、野菜、乳製品の摂取頻度によることが示された。
特に、肉と果物が食事パターンに与える影響は大きかった。
今後、年代、性別ごとの食事パターンの違いを考慮した栄養指導が必要と考えられる。
<背 景>
個人の食事パターンを評価する際、これまでは、10品目の食事の頻度を点数にして、合算する方法が取られてきました。簡便である反面、それぞれの食品の比率は無視せざるを得ませんでした。
本研究では、生態系や腸内細菌叢の解析で使用される多様性を評価する指標に注目しました。α多様性は個人の多様性を反映し、β多様性は異なるグループ間の多様性の違いを表します。20~59歳の男女2,743人を対象とした食品摂取頻度の調査結果に基づき、α多様性およびβ多様性の解析を通じて、若年および中年の日本人における年齢層別・性別の食事パターンの違いを明らかにすることを目的としました。まず、α多様性指標を用いて同一グループ内の食事摂取の多様性を評価し、年齢と性別の相互作用を評価しました。次に、NMDSを用いて全体の食事パターンの分布を可視化することを試みました。さらに、年齢と性別で調整したRDAを実施し、10品目の食品がRDA軸に与える寄与を特定しました。
<研究手法・研究成果>
図1、図2、図3、図4は今回の解析による成果を図に表したものです。
図1は、各年代の男性、女性におけるα多様性(シャノン指数)を表したものです。
シャノン指数は年齢が上がるごとに男女ともに増加し、男女間の差は年齢が上がるにつれて縮小しています。
図2はNMDS解析で、類似したデータ同士は近く、類似していないデータは遠くなるように、2次元の図に落とし込みました。可視化された図からは、20代女性と30~50代女性、20~30代男性と40~50代男性、20代の男女、及び30代の男女が互いに目立って離れています。因果関係は不明ですが、年齢と性別でグループ分けした場合、食事パターンが異なる可能性があります。
図3と図4に示すRDAは、10品目(肉、魚、卵、大豆、乳製品、野菜、果物、海藻、芋、油脂)の摂取頻度からなる食事パターンと、年齢および性別のカテゴリーを組み合わせた解析手法です。
図3と図4にはグループの重心とその95%信頼区間も示されており、食事パターンにおけるグループ間の違いや重なりが明示されています。RDA1軸の寄与度は男性および高齢者で高く、RDA2軸の寄与度は女性および若年者で高いという結果になりました。シャノン指数の結果と一致し、同年齢層における男女間の距離は加齢とともに縮小しました。
次に、RDA1およびRDA2への食事の寄与について検討しました。RDA1軸(寄与率70.1%)では、「肉」と「卵」が非常に強い負の寄与を示したのに対し、「果物」「海藻」「乳製品」は中程度から強い正の寄与を示しました(図4)。一方、RDA2軸(寄与率29.9%)では、「魚」が圧倒的に強い負の寄与を示し、「果物」「緑黄色野菜」「芋類」は強い正の寄与を示しました。したがって、RDA1は「動物性食品中心(肉・卵)と果物・乳製品中心の食事パターン」の対立を強く反映していると解釈され、RDA2は「魚中心の食事パターン(果物・海藻・乳製品)」と「植物性食品中心の食事パターン(果物・芋類・野菜)」の軸とみなされました(図4)。肉・卵中心パターンと果物・海藻・乳製品中心パターンを反映するRDA1は、若年男性群で最も低く、高齢女性群で最も高い値を示しました。一方、魚・脂質主導の食品(負の方向)と主に植物性食品中心の伝統的パターン(果物/芋/野菜、正の方向)を反映するRDA2は、高齢男性群で最も高く、若年女性群で最も低くなっていました(図4)。このように食品群の中では、果物と肉がRDA軸に沿った食事パターンの分離に最も強く寄与していました。果物はRDA1とRDA2の両方で正の値を示し、肉はRDA1と強い負の関連を示していました。これらの方向性は年齢・性別群間で対立する食事傾向に対応しています(図4)。
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図1:α多様性(シャノン指数)の年齢、性別による違い
年代が上がるほど、同年代では女性の方が食事のα多様性(シャノン指数)が高い。すなわち、年代が高く、女性ほどいろんな種類の食品を食べていることがわかる。点とエラーバーは平均と95%信頼区間を表す。
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図2 :若年及び中年日本人における食事パターンのNMDS(非計量的多次元尺度構成法)による解析結果
20~30代男性と40~50代男性、20代女性と30~50代女性の食事パターンに違いがあることがわかる。また、同年代における男女の差は20代で最も大きいこともわかる。
[画像3]https://digitalpr.jp/simg/2299/113999/400_238_20250714131309687483d5c1b74.jpg
図3:RDA解析による、年代、性別ごとの食事パターンの違いと年齢・性別の寄与
20~30代男性と40~50代男性、20代女性と30~50代女性の食事パターンに違いがあることがわかる。年齢(高齢)、性別(女性)ほどRDA1の正の方向に、性別(女性)、年齢(若年)ほどRDA2の正の方向に分布する。点は各群の重心、エラーバーは95%CIを示す。
[画像4]https://digitalpr.jp/simg/2299/113999/400_240_20250714131309687483d5c13a8.jpg
図4:RDA解析による、年代、性別ごとの食事パターンの違いと各食品の寄与
四角で囲まれた食品は特に貢献度の高いものを示す。肉と果物の貢献度が特に高いのがわかる。
<今後の展開>
本研究では、これまで食品摂取量の違いとして大まかに認識されてきた食事パターンの年齢および性別による差異を、統計的に明確に捉えることができました。年齢および性別を一致させたうえで、糖尿病やがんなどの疾患を発症した方とそうでない方の食事パターンの比較も行うことで、疾患の発症予測にも活用できる可能性があります。
まとめとして、日本人集団における食事パターンに関連する要因(年齢および性別)の役割を明らかにする上で、α多様性およびβ多様性の解析は有意義であると考えられました。栄養指導を行う際には、年齢や性別による食事パターンの違いを十分に考慮する必要があります。
<用語解説>
●※1 シャノン指数
“種類の多さ”と“バランスの良さ”の両方を考慮して、多様性を表現する手法。
●※2 NMDS(非計量的多次元尺度構成法、Nonmetric multidimensional scaling)
数字では表しにくい“感覚の違い”を、地図のように描き出す技術のこと。すなわち、「似てる・違う」をもとに、似ている人や物を近くに、違うものを遠くに配置する「見える化」の方法。
●※3 RDA(冗長性解析)
「ある傾向が、どんな要因に影響されているか」を探るための手法。
RDAの結果は“矢印つきの地図”で示されます。
今回の場合、
点:人や食品のパターン
矢印:年齢や性別などの影響の方向と強さで示されます。
<文献情報>
●論文タイトル
The Alpha and Beta Diversities of Dietary Patterns Differed by Age and Sex in Young and Middle-Aged Japanese Participants
●著者
飯塚勝美1,2,*, 柳ことね3, 出口香菜子1, 後田ちひろ1, 和田理紗子1,
石原拓磨4、成瀬寛之3
●所属
1:藤田医科大学 医学部 臨床栄養学講座
2:藤田医科大学病院 食養部
3:藤田学園 法人本部健康管理部
4:岐阜大学医学部附属病院 先端医療・臨床研究推進センター *責任著者
●DOI
10.3390/nu17132205
本件に関するお問合わせ先
学校法人 藤田学園 広報部 TEL:0562-93-2868 e-mail:koho-pr@fujita-hu.ac.jp



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