真珠腫性中耳炎に対する新たな薬物治療の可能性を発見
東京慈恵会医科大学
世界初、メニン–MLL阻害剤による治療戦略を提示
東京慈恵会医科大学 耳鼻咽喉科学講座の福田智美 講師、穐山直太郎 講師、小島博己 教授らの研究グループは、これまで手術以外に有効な治療法がなかった真珠腫性中耳炎に対し、新たな薬物治療の可能性を示す重要な知見を世界で初めて明らかにしました。
本研究では、真珠腫性中耳炎モデルマウスに複数のメニン–MLL阻害剤を局所投与し、その効果を解析した結果、すべてのメニン–MLL阻害剤が真珠腫の進行を抑制することを確認しました。
本研究成果は、2026年1月26日付で国際科学誌「Scientific Reports」に掲載されました。
【概要】
真珠腫性中耳炎は慢性中耳炎の一種であり、進行すると骨破壊を伴い、不可逆的な難聴を引き起こす難治性の疾患です。主に外科的治療が行われ、現在に至るまで、根治的な薬物治療は確立されていません。
本研究では、真珠腫に特異的な後天的遺伝子発現制御機構に着目し、エピジェネティック制御因子であるメニン–MLL阻害剤の治療効果を検討しました。研究グループは真珠腫性中耳炎マウスモデルに複数のメニン–MLL阻害剤を局所投与し、その効果を解析しました。投与したすべてのメニン–MLL阻害剤は真珠腫抑制効果が認められ、なかでも、「共有結合型メニン阻害剤」が最も強い真珠腫抑制効果を示すことが明らかになりました(特許出願済み)。本研究で示した治療戦略は、真珠腫性中耳炎に対する薬物治療として世界で初めての報告です。
本成果は、これまで有効な薬物治療が存在しなかった真珠腫性中耳炎に対し、新たな治療標的と治療戦略を提示するものであり、将来的な臨床応用に向けた大きな一歩となることが期待されます。現在、本研究成果をもとに多施設連携プロジェクトを立ち上げ、真珠腫性中耳炎の新規治療薬開発を進めており、臨床実用化を目指しています。
【研究の詳細】
1. 背景
我々は以前、ケラチノサイト成長因子(KGF)誘導マウス真珠腫において、ヒストンH3リジン4トリメチル化(H3K4me3)の誘導とp63陽性真珠腫上皮幹/前駆細胞の増殖促進をin vivoで実証しました。メニンはmixed lineage leukemia 1(MLL)と結合し、エピジェネティックな調節因子として標的遺伝子のプロモーター領域におけるH3K4me3を触媒します。すなわち、メニン–MLL複合体は真珠腫上皮幹/前駆細胞の転写調節に不可欠と考えられます。我々はメニン-MLL相互作用を阻害することでH3K4メチル化を減少させ、疾患特異的遺伝子発現を抑制できると仮説を立て、先行研究ではメニン-MLL相互作用阻害がH3K4メチル化を減少させ、疾患特異的遺伝子発現を抑制することを実証しました。今回は複数のメニン–MLL阻害剤の中からより効果の高い化合物を特定することを目的に研究を行いました。
2. 研究方法
鼓膜上皮培養細胞(TMEC)にメニン–MLL阻害剤を添加し、細胞増殖を解析しました。次に、マウス耳局所にKGF発現ベクターを導入し、真珠腫性中耳炎を発症させ(真珠腫性中耳炎モデルマウス)、全例に真珠腫の形成を確認したのち、メニン–MLL阻害剤を外耳道経由でマウス真珠腫に局所投与しました。真珠腫性中耳炎モデルマウスに対する真珠腫抑制効果は内視鏡検査、マイクロCT解析、組織形態学的解析および免疫組織化学で評価しました。
3. 結果・成果
TMECにメニン–MLL阻害剤を添加すると使用したすべてのメニン–MLL阻害剤において細胞増殖が低下しました。マウス真珠腫にメニン–MLL阻害剤を局所投与すると内視鏡所見、CT所見とも真珠腫の顕著な消退を認めました。組織形態学的においても鼓膜形態は限りなく正常に近づきました。特筆すべきは共有結合型メニン–MLL阻害剤投与群で鼓膜形態が正常化したことであり、免疫組織学的解析でもH3K4me3および細胞増殖活性の低下は最も高度で、疾患特異的遺伝子の一つであるcMYC※3の下流因子サイクリンD1※4の発現は最も最も高度でした。今回の結果から、真珠腫性中耳炎に対して、今回解析したすべてのメニン–MLL阻害剤の有効性が示され、共有結合型メニン–MLL阻害剤の最も高度な真珠腫抑制作用が重要な成果として得られました。
4. 今後の応用、展開
今回の研究では真珠腫性中耳炎マウスモデルに複数のメニン–MLL阻害剤を局所投与し、投与したすべてのメニン–MLL阻害剤で真珠腫抑制効果が得られ、そのなかでも共有結合型メニン阻害剤において最も高い真珠腫効果が認められました。今回の研究成果をもとに多施設連携プロジェクトに着手しており、真珠腫性中耳炎の新規治療薬開発を進めるとともに、臨床への実用化を進める予定です。
5. 脚注、用語説明
※1 真珠腫性中耳炎
慢性中耳炎の一種。鼓膜表面の皮膚の成分が鼓膜の裏側(中耳)に入り込んで、真珠腫という固まりを形成する病気。真珠腫には骨を溶かす性質があり、非常にやっかいな中耳炎と考えられている。
※2 メニン–MLL阻害剤
メニンタンパク質とMLLタンパク質の相互作用を阻害することで細胞増殖を抑制する。
※3 cMYC
細胞の増殖、分化、代謝、アポトーシス(細胞死)などを制御する重要な転写因子であり、正常な生体機能に不可欠ですが、その過剰発現はがん化に関与すると考えられており、真珠腫での発現上昇も報告されています。
※4 サイクリンD1
細胞周期の進行を制御するタンパク質。
【メンバー】
・東京慈恵会医科大学 耳鼻咽喉科学講座 福田智美
・東京慈恵会医科大学 耳鼻咽喉科学講座 穐山直太郎
・東京慈恵会医科大学 耳鼻咽喉科学講座 小島博己
【論文情報】
タイトル:Menin-MLL inhibitors as a new therapeutic target for middle ear
cholesteatoma
著者名:Tomomi Yamamoto-Fukuda, Naotaro Akiyama, Hiromi Kojima
掲載誌:Scientific Reports
DOI:10.1038/s41598-025-34922-3
URL:
https://doi.org/10.1038/s41598-025-34922-3
【研究支援】
本研究は、JSPS科研費JP25K12821、JP22K09753の助成を受け行われました。
本件に関するお問合わせ先
学校法人慈恵大学 広報課
メール:koho@jikei.ac.jp
電話:03-5400-1280
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