♦福井工業大学♦柏山祐一郎教授(福井工大)・中澤昌美講師(大阪公大)らの研究が、世界的に権威ある科学雑誌「Nature Communications」に掲載
福井工業大学
福井工業大学 柏山祐一郎教授と大阪公立大学 中澤昌美講師らを中心とした6研究機関の共同研究の成果が、Natureの姉妹誌であり、世界トップクラスの科学雑誌である、ネイチャーコミュニケーションズ誌(Nature Communications)に掲載されることになりました(3月24日午後7時(日本時間)報道解禁)。
奪った葉緑体に自前の部品を送り込んで光合成する~宿主タンパク質が外来オルガネラ内で機能する「分子キメラ」の実証~
ラパザは、緑藻から奪った借り物の葉緑体で光合成して生きる、単細胞の真核生物です。葉緑体のはたらきには多くのタンパク質の「部品」が必要で、多くは核の遺伝情報から作られます。福井工業大学の柏山祐一郎教授と大阪公立大学の中澤昌美講師らを中心とした共同研究チームは、外来葉緑体の内部に宿主(ラパザ)のタンパク質が送り込まれてはたらくことを、生化学的検出と細胞内観察で実証しました。さらに遺伝子操作により宿主の光合成関連タンパク質遺伝子をノックアウトすると、光合成機能が低下し、宿主タンパク質が実際に外来の葉緑体を動かす「部品」になっていることが裏づけられました。これは、外来葉緑体の取込みによる「構造レベルのキメラ化」に加え、それを構成するタンパク質でも「分子レベルのキメラ化」が進行する実例で、既存の生物学の常識にない現象です。新しい実験モデルとしてのラパザは、真核細胞の未知のしくみを解明する突破口になることが期待されます。
本研究の成果は、2026年3月24日付でスプリンガー・ネイチャーから刊行される国際学術誌『ネイチャーコミュニケーションズ(Nature communications)』オンライン版に掲載されます。
【背景】
植物の光合成は、葉緑体*1という細胞内の装置で行われます。葉緑体のはたらきには多くの「部品(=タンパク質)」が必要で、その大半は細胞の核にある遺伝子から作られ、葉緑体の内部へ運び込まれます。
自然界には、藻類(広義の植物)から葉緑体だけを取り込み、一時的に利用する『盗葉緑体現象*2』が知られています。この現象は、異種生物由来の葉緑体が細胞内に入る時点で、細胞が「構造レベルのキメラ」になる現象とも言えます。では、その借り物の葉緑体がはたらき続けるために、宿主(ラパザ*3)細胞はどこまで有効な「部品」を供給できるのでしょうか。これまでは、遺伝情報などからの推定はあっても、実際に宿主タンパク質が外来葉緑体*4の内部へ入り込み、機能しているかどうかは確かめられていませんでした。
【本研究の成果】
宿主タンパク質が外来葉緑体の内部に運ばれることを実証
盗葉緑体生物ラパザにおいて、宿主核の遺伝情報から作られたタンパク質が、取り込んだ外来葉緑体の内部へ運び込まれることを実証しました。すなわち、遺伝情報からの推定だけではなく、生化学的な検出や蛍光顕微鏡観察*5により、細胞内で実際に起きている現象として確認しました。これは、盗葉緑体という「構造レベルのキメラ化」に加えて、分子レベルでも宿主由来の要素が外来オルガネラへ流入する「一時的な分子レベルのキメラ化」が進行することを示しています。
そのタンパク質が『部品』として光合成機能を支えることを機能面から確認
光合成に関わる宿主タンパク質に注目し、ゲノム編集*6などの遺伝子操作により働きを弱めたり失わせたりしたところ、盗葉緑体の光合成機能が低下しました。つまり、宿主が作るタンパク質が、外来葉緑体の光合成機能を支える『部品』になっていることを、機能の面からも裏づけました。
真核細胞の未知のしくみを切り拓く手がかり
本研究は、盗葉緑体現象という謎の多い現象を、非モデル生物*7であるラパザの遺伝子操作によって「原因まで検証できる」段階へ押し上げました。ラパザは、既存のモデル生物にはない、真核細胞が外来のオルガネラを使いこなす未知のしくみを秘めています。真核細胞*8の最大の特徴は、ミトコンドリアや葉緑体など異種生物起源のオルガネラの存在です。ラパザの盗葉緑体現象は、過去にこれらオルガネラが成立した進化の過程を明らかにする重要な手がかりになると期待されます。
本研究は、JSPS科研費18H03743、21H02273、24K09042(福井工大柏山)、21K19240、23K17996(柏山・大阪公大中澤)、24K02048(柏山・神戸大蘆田・大阪公大稲田)、24H00579(遺伝研宮城島)などによって実施されました。
用語解説
*1葉緑体:光合成の仕組みは、原始におけるシアノバクテリアなど細菌の仲間から誕生したと考えられる。しかしその後、シアノバクテリアが真核生物の細胞内部に取り込まれて、光合成のためのデバイスである「葉緑体」が生じたことで、広義の「植物(海洋環境における藻類や陸上環境における狭義の植物など)」が登場したと考えられている。よって光合成をする真核生物は共通して葉緑体をもっている。
*2盗葉緑体現象:藻類の細胞から葉緑体だけを奪って取り込み、宿主の細胞内で一定期間、光合成装置として利用する現象。海産動物のウミウシの仲間や、様々な単細胞生物で報告され、近年、海や湖沼などの水圏環境では比較的ありふれた現象であることが分かってきた。葉緑体は本来、藻類(=植物)の核にある遺伝子から作られる多数のタンパク質(部品)の供給を必要とするため、別の細胞内に移った葉緑体の機能がどのように保たれるのかが重要な研究課題となっている。
*3ラパザ:2012年にカナダ西海岸の潮溜りで発見されたラパザ(Rapaza viridis)は、当初、葉緑体を持つユーグレナに近縁な藻類(単細胞の光合成生物で、多くは鞭毛で遊泳する)そのものと考えられていた。ただし、別の藻類を捕食するという特異な性質も併せ持っていた。しかしその後の研究により、ラパザの細胞内の葉緑体様の構造は、別の藻類から取り込んだ「他人の」葉緑体であること、核にあるゲノムDNAに水平転移によって他の光合成生物から獲得された葉緑体関連遺伝子が多数見つかることなどが報告された。
*4外来葉緑体:葉緑体は独自のゲノムをもち、ふつうは植物や藻類の細胞内で細胞分裂と同調して分裂し、数を増やす。また、葉緑体を形づくり機能させるために必要なタンパク質の遺伝情報は、ほとんどが細胞核にあり、一部が葉緑体ゲノムにあるため、葉緑体はそれぞれの細胞内で増幅して維持される。したがって通常、葉緑体が細胞から別の細胞へ移動することはない。盗葉緑体は、少なくとも獲得時点では100%別の細胞で作られたものであり、取り込む側の細胞(本研究ではラパザ)にとっては外来の「異物」に相当する。
*5蛍光顕微鏡観察:本研究では、「目的のタンパク質だけを見分ける抗体」を使って、タンパク質がどれだけあるかを調べた(ウエスタンブロット)。これにより、ラパザ由来のタンパク質と緑藻由来のタンパク質を区別して検出し、それぞれが時間とともにどう増減するかも定量した。さらに、抗体に光る目印(蛍光色素)を付け、顕微鏡で細胞の中のどこに目的タンパク質があるかを「見える化」した(共焦点レーザー顕微鏡を用いた免疫蛍光観察)。ラパザ側のタンパク質には、ゲノム編集で付けた目印(HAタグ)も利用し、葉緑体を示すサイン(葉緑体独自のタンパク質やクロロフィルの自家蛍光など)と重ね合わせることで、宿主タンパク質が外来の葉緑体の内部にまで届いているかを確認した。
*6ゲノム編集:生物の設計図であるDNA(ゲノム)の決まった場所を、ねらって書き換える技術。本研究ではCRISPR/Cas9を用い、ガイドRNAで標的の遺伝子配列を指定し、Cas9という酵素でその場所を切断して修復させることで、特定の遺伝子の働きを弱めたり失わせたり(ノックアウト)、あるいはタンパク質に目印(タグ)を付けたりして、その役割や細胞内での位置を調べた。
*7非モデル生物:現代生物学、とくに細胞の仕組みに関する知識は、遺伝子操作や顕微鏡観察など様々な実験や解析が容易な、ごく限られた生物種である「モデル生物」に大きく依存している。非モデル生物とは、そのような標準的な実験系がまだ十分に整っておらず、研究例や道具立てが少ない生物を指す。だからこそ、非モデル生物を研究できるようになると、モデル生物だけでは見えにくかった新しい細胞のしくみや多様性が明らかになる可能性がある。
*8真核細胞:細胞の中に「核」という区画をもち、DNA(遺伝情報)がその核の中に収められている細胞。私たちヒトを含む動物、植物、菌類、そして多くの単細胞生物が真核細胞からなる。葉緑体やミトコンドリアのような「オルガネラ(細胞内の装置)」をもつ点が大きな特徴である。
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