【横浜市立大学】仕事と生活の「自律と調和」の力を見える化
横浜市立大学

―働く人のウェルビーイングを支える新尺度を開発―
横浜市立大学医学部看護学科 三浦武助教(同大学大学院データサイエンス研究科ヘルスデータサイエンス専攻博士後期課程3年)、同大学大学院ヘルスデータサイエンス専攻修了生 金子真人氏らの研究グループは、株式会社NTTデータグループとの共同研究を通し、働く人が仕事と生活を自律的に調整・調和を図る力を測定する新たな尺度「ワーク・ライフ・エフィカシースケール(Work–Life Efficacy Scale:WLES)*1」を開発しました。
本研究では、企業従業員へのインタビューと文献レビューをもとに尺度項目を作成し、日本全国の20~49歳の就業者1,412名を対象としたオンライン調査により、尺度の信頼性と妥当性を検証しました。その結果、WLESは「生活の自律」「キャリア形成」「調和する能力」の3因子から構成され、良好な信頼性と妥当性を有することが確認されました。また、WLESの得点は、労働生産性、ワーク・エンゲージメント、離職意向などの仕事関連指標のような企業側が重要視するアウトカムおよび、生活満足度、主観的幸福感のような行政が重要視するアウトカムの両方と関連しており、働く人の仕事と生活の自律と調和の力を把握する指標として活用できる可能性が示されました。
本研究成果は、「Scientific Reports」でオンライン公開されました(2026年5月4日)。
研究成果のポイント
仕事と生活の自律と調和の力を見える化する新尺度WLESを開発
1,412名の調査において高水準での信頼性・妥当性を確認
WLESは労働生産性、離職意向などの仕事関連指標、ウェルビーイングなどの生活関連指標と強く関連
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図1 仕事と生活を横断的に捉えるWLE(Work-Life Efficacy)指標の概念図
仕事と生活の自律と調和を実現するために、自分にはできると信じられる程度を示す自己効力感指標です。本指標は、Bandura(1970)の自己効力感理論を基盤として、現代の働く世代が直面する役割の多重化、働き方の多様化、時間貧困などの課題を踏まえ設計しました
研究背景
働き方の多様化、共働き世帯の増加、育児・介護と仕事の両立などを背景に、働く人が仕事と生活のバランスをどのように保つかは、個人の健康や幸福感だけでなく、企業の生産性や人材定着にも関わる重要な課題となっています。ワーク・ライフ・バランス*2の低下は、心理的ストレス、仕事への関与の低下、職務満足度の低下、さらには離職意向の高まりと関連することが報告されています。一方で、従来のワーク・ライフ・バランス評価は、現在の仕事と家庭の葛藤や満足度を測定するものが中心であり、働く人自身が仕事と生活を調整し、望ましい状態に近づける「力」や「自信」を十分に捉える尺度は限られていました。特に、ライフステージや家庭内役割、職場環境が変化する中で、長期的に仕事と生活を調和させるための自己効力感*3を測定する指標が求められていました。そこで本研究では、働く人が仕事と生活を自律的に調整し、調和を図る力を測定する新たな尺度として、Work–Life Efficacy Scale(WLES)を開発し、その信頼性と妥当性を検証しました。
研究内容
本研究は、WLESの開発と信頼性・妥当性の検証を目的とした横断研究として実施しました。尺度開発は、主に3つの段階で行いました。
第1段階では、企業で管理職またはそれに相当する立場にある従業員10名を対象に、仕事と生活の調和に関するインタビューを実施しました。得られた発言内容について形態素解析とトピックモデルを用いた分析を行い、仕事と生活の両立に関わる概念を整理しました。さらに、ワーク・ライフ・バランスと自己効力感に関する文献レビューを行い、理論的基盤を確認しました。
第2段階では、インタビューと文献レビューの結果をもとに、WLESの初期項目を作成しました。本学の専門家(医学、看護学、経営学)による検討を経て、仕事と生活の調和に関する自己効力感を測定する尺度案を作成しました。WLESは、最終的に「生活の自律」「キャリア形成」「調和する能力」の3因子、16項目で構成されました。
第3段階では、20~49歳の就業者1,412名を対象としたオンライン調査を実施し、尺度の構造、信頼性、妥当性を検証しました。探索的因子分析では3因子構造が確認され、確認的因子分析*4でも良好な適合度が示されました。信頼性については、尺度全体のCronbach’s α*5が0.85、McDonald’s ω*5が0.90であり、高い内的一貫性が確認されました。確認的因子分析では、CFI 0.943、TLI 0.932、RMSEA 0.062、SRMR 0.052と、良好なモデル適合が示されています。また、WLESの得点は、生活満足度、主観的幸福感、労働生産性、パフォーマンスと正の関連を示し、離職意図とは負の関連を示しました。仕事側のアウトカムと生活側のアウトカムの双方に、1つの指標で接続できる尺度は限られており、WLESが働く人の仕事・生活に関わる状態を横断的に反映する指標である可能性が示されました(図2)。
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図2 WLE(Work-Life Efficacy)指標と仕事・生活関連アウトカムとの関連
図2は、WLEと、仕事関連指標および生活関連指標との関連を示したものです。WLE総合スコアは、仕事関連指標であるパフォーマンスと正の相関を示し(r=0.54)、生産性損失とも関連を認めました(r=0.48)。一方、離職意図とは負の相関を示しました(r=−0.30)。また、生活関連指標では、生活満足度(r=0.40)および幸福度(r=0.42)と正の相関が確認されました。さらに、「調和する能力」は生活満足度や幸福度との関連を示し、「生活の自律」は生産性やパフォーマンスとの関連を示した。また、「キャリア形成」は離職意図との関連を示しており、WLEが仕事と生活を横断して多面的な状態を把握できる指標であることが示唆された。
今後の展開
WLESは、働く人が仕事と生活をどの程度自律的に調整できているか、また、どのような側面に課題を抱えているかを可視化する指標として活用できる可能性があります。特に、働き方や将来像を模索するキャリア初期層、育児や介護などの家庭内役割を担いながら働く層、仕事と生活の負荷が重なり悩みや葛藤を抱えやすいミッドライフクライシス層*6などに対して、状態に応じた支援やフィードバックを行う際の基盤となることが期待されます。また、企業や組織においては、従業員支援、人的資本経営、健康経営、離職予防、働き方施策の設計・評価などへの応用が期待されます。今後は、多様な年齢層、家族構成、職種、企業規模の集団を対象に検証を進めるとともに、縦断研究や介入研究を通じて、WLESが働く人の健康、幸福感、生産性、離職意向の変化をどのように捉えられるかを明らかにしていきます。
今後は、企業・行政と連携したPoCを通して、現場での有用性と実装可能性を検証し、将来的にはスタートアップ創設も視野に入れながら、働く人一人ひとりの仕事と生活の調和を支える仕組みとして社会実装につなげていくことを目指します。
研究費
本研究は、株式会社NTTデータグループおよび横浜市立大学 戦略的研究推進事業の支援を受けて実施されました。
論文情報
タイトル:Development of the Work−Life Efficacy Scale to Measure Work−Life Balance in the Working Population
著者:Masato Kaneko, Akiko Nagai, Masaya Abe, Takeshi Miura, Jun Haraguchi, Daisuke Kubo, Makoto Kuroki
掲載雑誌:Scientific Reports
DOI:
https://doi.org/10.1038/s41598-026-51360-x
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用語説明
*1 Work–Life Efficacy Scale(WLES):仕事と生活の調和に関する自己効力感を測定する尺度。本研究では、「生活の自律」「キャリア形成」「調和する能力」の3因子、16項目から構成される。
*2 ワーク・ライフ・バランス:仕事と生活の役割を調整し、両者の葛藤を抑えながら、双方に積極的に関わる状態。
*3 自己効力感:ある状況において、必要な行動を自分がうまく実行できると感じる信念や自信のこと。
*4 確認的因子分析:作成した尺度が想定した構造に合っているかを統計的に検証する分析方法。
*5 Cronbach’s α / McDonald’s ω:尺度の項目同士が、一貫して同じ概念を測定しているかを示す信頼性の指標。
*6 ミッドライフクライシス層:主に40~60歳頃の働く世代のうち、人生の半ばに差し掛かる中でこれまでの生き方を振り返り、自己の価値や目的、将来への不安に加え、仕事上の責任や家庭での役割が重なることで、仕事と生活の調和に悩みや葛藤を抱えやすい層を指します。


記事提供:Digital PR Platform