JMDC・オムロン・筑波大学、レセプト・健康診断・ライフログデータを活用した睡眠時無呼吸症候群(SAS)リスクの高精度予測モデルを開発
株式会社JMDC、オムロン株式会社、国立大学法人筑波大学

株式会社JMDC(本社:東京都港区、代表取締役社長兼CEO:野口 亮、以下「JMDC」)、オムロン株式会社(本社:京都市下京区、代表取締役社長CEO:辻永 順太、以下「オムロン」)、および国立大学法人筑波大学(茨城県つくば市、学長:永田 恭介、以下「筑波大学」)の医学医療系 教授 岩上 将夫、国際統合睡眠医科学研究機構 機構長・教授 柳沢 正史らによる共同研究グループは、JMDCが有する国内最大規模の医療データに、PHR(パーソナルヘルスレコード)サービス「Pep Up(ペップアップ)」に記録された日々のライフログデータを組み合わせ、治療が必要なレベルの睡眠時無呼吸症候群(SAS)のリスクを高精度に予測するAIモデルを開発しました。
また、当該研究に関する学術論文が、国際学術誌「Sleep and Breathing」に掲載されましたので、以下のとおりお知らせいたします。
■ 背景:なぜこの研究が必要なのか
睡眠時無呼吸症候群(SAS、「サス」)は、睡眠中に呼吸が止まったり浅くなったりを繰り返す病気で、高血圧や脳卒中、心疾患などの重大なリスク要因となることが知られています。一方で、多くの患者は自覚症状が乏しく、確定診断には専門施設での精密検査(PSG:ポリソムノグラフィー等)が必要なことから、社会には未診断・未治療の「隠れSAS」が数多く存在すると考えられています。
実際、国内のSAS潜在患者は約940万人にのぼる一方、代表的な治療法である持続陽圧呼吸療法(CPAP、「シーパップ」)を受けている患者は約64万人程度にとどまるとされ、多くの患者が治療のチャンスを失っている可能性があります。
従来のSASリスクの把握は、医療機関を受診して精密検査を受ける、あるいは専用のウェアラブルデバイスを通じた診断検査やリスク判定サービスを利用するなど、いずれのアプローチでも、自覚症状のある人が主体的に選択し、手間とコストを投じて実施する手法に限られていました。
そこで本研究では、「無自覚な人も含め、ほとんど手間や追加のコストをかけずにSASリスクの高い人を見つけ出し、適切な検査・治療につなげられないか」という課題に対し、大規模ヘルスデータとAIを活用したアプローチに取り組みました。
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SASの潜在患者とCPAP治療者の人数
■ 研究概要:約186万人規模のデータ×AI
本研究では、JMDCが保有する仮名加工されたレセプト(診療報酬明細書)データおよび健康診断データに加え、PHRサービス「Pep Up」(注)に記録された日々のライフログデータ(家庭血圧、体重、睡眠時間、歩数など)(注)を活用しました。
・対象:約186万人のPep Upユーザーから収集された大規模データ(2022年1月~2024年7月の3か月毎の11時点における延べ約1,869万レコード)
・手法:機械学習(LightGBM)を用いて、SASの治療(CPAP治療)を受けている人の特徴を学習し、合計279のデータ項目から治療が必要なレベルのSASを予測
・新規性の高い点:レセプトや健康診断のデータだけでなく、血圧計・体組成計・ウェアラブルデバイス等から得られる「日常の健康データ(PHR)」を予測に組み込み、またPHR情報がある時とない時で予測精度を比較した点
(注)PHR(パーソナルヘルスレコード)とは、健康診断の結果や服薬の履歴、家庭で測った血圧・体重・歩数・睡眠などの日々の健康データを、本人がスマートフォンアプリなどでまとめて記録・管理できる仕組み
(注)ライフログとは、家庭血圧計・体組成計・ウェアラブルデバイスなどによって日々記録される、血圧・体重・歩数・睡眠時間といった生活・健康の記録データ
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AIモデルの概要
■ 3者の役割
・JMDC :臨床データ整備と予測モデルの構築・解析
・オムロン:血圧計等のデバイスデータの連携と臨床的助言
・筑波大学:研究全体の監修と臨床疫学/睡眠医学の観点からの指導
■ 主な成果:高い予測精度を実現
開発したAIモデルは、治療が必要なレベルのSASの有無を非常に高い精度で予測できることが確認されました。
・高い予測精度:予測性能を示すAUROC(注)は0.898(95%信頼区間:0.895-0.901)でした
・効率的なハイリスク者の抽出:予測スコアが上位1%に入った人のうち約3割(28.3%)、予測スコアが上位10%に入った人のうち約1割(10.3%)が、実際にCPAP治療を受けているSAS患者に該当しました。これは、無作為に検査する場合(本研究対象集団における有病率1.6%)と比べ、はるかに効率的にハイリスク者を見つけられることを意味します
・主要な予測因子:重要な予測因子として男性であること、年齢、BMI、腹囲などが上位にあがり、過去の研究と矛盾しない結果でした。加えて、健康診断の採血結果や、日々のライフログ(睡眠時間など)も予測に寄与していました
・PHRの有用性:「Pep Up」を通じて血圧・睡眠時間・体重などを日常的に記録しているユーザーほど、PHRが予測に貢献する度合いが高いことが分かりました
(注)AUROC(ROC曲線下の面積)とは予測性能を示す指標で、0.5(コインを投げてランダムに表裏が出る時と同じ)から1(完璧に予測)までの値をとり、値が大きいほど予測性能が高いことを示す
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SAS予測モデルの精度
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予測因子の上位15位(SHAP値)
■ 今後の展望:
(1) 日常生活の中で「隠れSAS」をスクリーニング
このAIモデルを活用することで、以下のような未来が期待されます。
・「隠れSAS」の早期発見:特別な検査機器を使わなくても、すでにある健診データや個人のライフログから「SASリスクが高いグループに該当するため、精密検査をお勧めします」とアラートを出すことが可能になります
・医療への適切な誘導:リスクが高いと判定された方に精密検査を推奨し、治療適応がある場合には、早期治療につなげることで、健康寿命の延伸に寄与します
・労働生産性の向上:未治療のSASによる日中の強い眠気や集中力の低下は、出勤していても本来のパフォーマンスを発揮できない「プレゼンティズム(疾病就業)」や、体調不良による欠勤・休職を意味する「アブセンティズム(疾病休業)」を招き、労働生産性の低下につながることが知られています。ハイリスク者を早期に発見して適切な治療につなげることで、従業員の健康度の向上とともに、企業にとっての生産性損失の抑制にも寄与することが期待されます
(2) 本成果を活かした予測サービスの社会実装
・定常的なバイタル測定の促進:本研究を通じて、日々の健康記録がSASのような病気の予兆発見に役立つことが科学的に示されました。今後オムロンは、家庭血圧計・体組成計・ウェアラブルデバイス等のデータが、病気の予兆を予測する際に有用な情報として使われていく、そうした健康管理と予防の新たな時代の実現を目指していきます
・更なるAIモデルの展開:本取組みは、SASを皮切りとして脳心血管イベントやその他の生活習慣病、メンタル疾患等への発展が可能です。今後もJMDCは、独自のレセプト・健康診断・ライフログデータから多様なAIモデルを構築するプラットフォーマーとして、オムロンやその他企業との予防医療ソリューションなどの事業共創を視野に予測サービスを社会に還元していきます
■ 研究者コメント
<筑波大学 医学医療系 教授 岩上 将夫>
「SASは高血圧や脳卒中などの重大な病気の引き金となるにもかかわらず、自覚しにくく見逃されやすい病気で、内科医としても『もっと早く気づけていれば』と感じる場面が少なくありませんでした。今回のモデルが、特別な検査をしなくても既存の健診データや日々の記録からリスクの高い方を見つけ出し、適切な受診・治療につなげる一助となり、一人でも多くの患者さんを救うことにつながればと願っています。」
<筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構 機構長・教授 柳沢 正史>
「睡眠は健康の土台ですが、睡眠時無呼吸症候群は、本人が気づかないうちに全身をむしばむ代表的な『見逃されやすい病気』です。実際、自分の睡眠に問題はないと思っている人の中にも少なからずSASは隠れており、主観的な自覚に頼っていては見つけられません。だからこそ客観的なデータから気づきを得ることが重要で、今回のように既にあるデータからリスクを拾い上げる仕組みには大きな意義があります。近年は在宅で手軽に睡眠の状態を測れる民間サービスや保険診療も広がってきましたので、こうした選択肢も上手に活用し、一人でも多くの方がご自身の睡眠と向き合うきっかけになることを期待しています。」
■ JMDC コメント
<デジタル&データ新規事業本部 データイノベーション部 部長 上田 剛>
「大規模なリアルワールドデータとAIによって、見逃されやすい『隠れSAS』のリスクを追加の検査なく高い精度で捉えられることを示せました。この成果を論文で終わらせず、オムロンをはじめとするパートナーと事業共創を進め、誰もが負担なく自身の健康に気づける仕組みを社会へ届けていきたいと考えています。」
■ オムロン コメント
<データソリューション事業本部 プロアクティブヘルス事業部 マネージャー 林 達也>
「今回の取り組みは、オムロンの中期ロードマップ『SF 2nd Stage』において注力するデータサービス事業を加速する重要な取り組みの一つです。今回の成果によって実現した睡眠時無呼吸症候群(SAS)リスクの高精度予測モデルと、血圧計などのオムロンのデバイスから得られるライフログデータを組み合わせることで、SASの早期発見・早期介入を実現し、予防医療サービスの社会実装を目指してまいります。」
■ 論文概要
<タイトル>
Development and internal validation of a prediction model for sleep apnea syndrome treated with continuous positive airway pressure based on claims and health checkup data linked to personal health records
<著者>
Tatsuya Muraki, Tsuyoshi Ueda, Chihiro Hasegawa, Hiroshi Usui, Hiroshi Koshimizu, Kenichi Ariyada, Kunio Kusajima, Yasuhiro Tomita, Masashi Yanagisawa, Masao Iwagami
(株式会社JMDC、オムロン ヘルスケア株式会社、筑波大学 ほか)
<掲載誌>
Sleep and Breathing(Springer Nature)
URL:
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/42262410/
Sleep and Breathing は、睡眠呼吸障害に関する研究を扱う査読付き国際学術誌です。
<公開日>
2026年6月9日
<DOI>
10.1007/s11325-026-03725-9
■ 用語解説
・SAS(睡眠時無呼吸症候群、「サス」):睡眠中に呼吸が止まったり浅くなったりを繰り返す病気。
・CPAP(持続陽圧呼吸療法、「シーパップ」):鼻に装着したマスクから空気を送り込み、気道を確保するSASの代表的な治療法。本研究では、この治療が必要な重症度のSAS患者を予測の対象とした。
・PHR(パーソナルヘルスレコード):健康診断の結果や服薬の履歴、家庭で測った血圧・体重・歩数・睡眠などの日々の健康データを、本人がスマートフォンアプリなどでまとめて記録・管理できる仕組み。
・ライフログ:家庭血圧計・体組成計・ウェアラブルデバイスなどによって日々記録される、血圧・体重・歩数・睡眠時間といった生活・健康の記録データ。本研究では、PHRサービス「Pep Up」に蓄積されたこれらのデータを予測に活用した。
・AUROC(ROC曲線下面積):予測モデルの性能を示す指標。0~1の値をとり、1に近いほど予測性能が高い。
【株式会社JMDCについて】
医療ビッグデータ業界のパイオニアとして2002年に設立。独自の匿名化処理技術とデータ分析集計技術を有しています。26億件以上のレセプトデータと9,400万件以上の健診データ(2026年3月時点)の分析に基づく保険者向け保健事業支援、医薬品の安全性評価や医療経済分析などの情報サービスを展開しています。また、健康度の単一指標(健康年齢)や健康増進を目的としたWebサービス(Pep Up)など、医療データと解析力で健康社会の実現に取り組んでいます。
URL:
https://www.jmdc.co.jp/
【Pep Upについて】
Pep Up(ペップアップ)は、JMDCが開発・提供し、保険者を中心にご利用いただいているPHRサービスです。Pep Upユーザーにおいては、スマートフォンアプリ等の手元の健康診断の結果や医療費のデータから自らの健康状態に関する気づきをご提供することができ、活動量計や様々な健康増進メニューによる意識変容や行動変容を促進しております。また、保険者においては、紙や対面で実施してきた業務の負荷軽減に貢献しています。
URL:
https://stories.jmdc.co.jp/pepup
【オムロン株式会社について】
オムロン株式会社は、独自の「センシング&コントロール+Think」技術を中核としたオートメーションのリーディングカンパニーとして、制御機器、ヘルスケア、社会システム、電子部品、そしてこれらの事業をつうじて取得した多種多様なデータを活用したデータソリューション事業を展開しています。1933年に創業したオムロンは、現在では全世界で約2.6万人の社員を擁し、130ヶ国以上で商品・サービスを提供し、よりよい社会づくりに貢献しています。詳細については、
https://www.omron.com/jp/ja/ をご参照ください。
【国立大学法人筑波大学について】
筑波大学は、東京教育大学の移転を契機に、そのよき伝統と特色を生かしながらも、大学に対する内外からのいろいろな要請にこたえるため、わが国ではじめて抜本的な大学改革を行い、1973年(昭和48年)10月に「開かれた大学」「教育と研究の新しい仕組み」「新しい大学自治」を特色とした総合大学として発足しました。本学は大学改革の先導的役割を果たしつつ、教育研究の高度化、大学の個性化、大学運営の活性化など、活力に富み、国際競争力のある大学づくりを推進しています。
URL:
https://www.tsukuba.ac.jp/
本研究は、国立大学法人筑波大学と株式会社JMDCとの間の共同研究契約「日本の新しい医療リアルワールドデータを用いた臨床疫学研究」(2025年4月1日~)に基づいて実施されました。また、筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構(機構長:柳沢 正史)がAMEDより受託しているムーンショット型研究開発事業(JP21zf0127005)によって行われました。
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