【東京農業大学(共同研究)】国外外来種カラドジョウの「系統」をDNAで見分ける ~カラドジョウの2つのミトコンドリア系統を簡便に判別する方法を開発~
学校法人東京農業大学

ポイント
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研究の概要
東京農業大学 生物産業学部 海洋水産学科の黒田 真道 准教授、同 生物産業学部 東 典子 博士、愛媛県農林水産研究所の清水 孝昭 博士、北海道大学大学院 水産科学研究院の藤本 貴史 教授、荒井 克俊 名誉教授らの研究グループは、国外外来種カラドジョウ(Paramisgurnus dabryanus)の2つのミトコンドリア系統を簡便に判別するDNAマーカー(1)を開発しました。
カラドジョウは海外から日本に持ち込まれた淡水魚で、在来のドジョウ(Misgurnus anguillicaudatus)と同じ場所に生息することがあります。両種は近縁で、交雑によって在来ドジョウの遺伝的な特徴が失われることが懸念されています。
これまでの研究から、日本に侵入したカラドジョウにはミトコンドリアDNA(2)が異なるグループ1とグループ2が存在することが分かっていました。一方で、核DNA(3)遺伝子であるRAG1領域を対象とした塩基配列解析では、2つのグループの間に違いは見つかっていませんでした。そこで本研究では、cyt b領域(4)を用いた新しいPCR-RFLP法(5)を開発し、配列解析なしで2系統を識別できるか調べました。
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背景:なぜ「系統」を見分ける必要があるのか
在来種と近縁な外来種が同じ場所に生息するようになると、すみかや餌をめぐる競争だけでなく、交雑による遺伝子汚染などが問題になります。もし外来種に複数の種内系統がある場合、各系統を判別できれば、侵入先での分布や拡散の状況を追跡するのに有効な手掛かりを得られます。先行研究では、母親から子へ受け継がれるミトコンドリアDNAについて、カラドジョウではグループ1とグループ2の2系統があること、グループ2は愛媛県のみで確認されていることが示されていました。この2系統を判別できれば、カラドジョウを追跡する有効なツールのひとつになると考えられます。
DNAを用いた系統の判別は再現性が高く確実です。しかし、DNAの塩基配列を一つ一つ読む方法は手間と時間がかかるため、多くの個体を調べる分布調査では、より簡単で速い判別法が必要です。本研究では、カラドジョウの2つのグループを迅速かつ正確に見分ける方法の開発を目指しました。
研究手法
本研究では、愛媛県、栃木県、長野県で採集されたカラドジョウ40個体(グループ1が25個体、グループ2が15個体)と、日本各地11地点のドジョウ54個体を解析しました。
まず、ミトコンドリアDNAの調節領域(CR)とcyt b領域の配列を調べ、カラドジョウとドジョウの系統関係を確認しました。次に、カラドジョウのcyt b領域のうち1,115塩基対の部分をPCRで増やし、制限酵素(6)AvrIIとNcoIで切断しました。制限酵素は、DNAの特定の配列を見つけて切る「はさみ」の役割をもつ酵素です。
切断されたDNA断片を電気泳動で調べると、DNA断片の長さの違いをバンドとして見ることができます。このバンドの違いを利用して、グループ1とグループ2を見分けました。さらに、ManDra-A、ManDra-B、PdaDra、RAG1-RFLPという既存の核DNAマーカーを用いて、2つのグループの核DNAに違いがあるかも調べました。
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研究成果
ミトコンドリアDNA調節領域の解析では、カラドジョウ40個体から5種類のハプロタイプ(7)が見つかりました。愛媛県では2種類、長野県では2種類、栃木県では1種類が確認され、地域をまたいで共有されるハプロタイプはありませんでした。
cyt b領域の解析では、カラドジョウから15種類のハプロタイプが検出されました。系統樹解析の結果、これらのハプロタイプはカラドジョウのグループ1かグループ2に属していました。グループ1は愛媛県、栃木県、長野県で確認され、グループ2は愛媛県で確認されました。愛媛県では2つのグループが同じ地域に存在していることが示されました。
新しく開発したcyt b-RFLP法では、AvrIIを用いた場合、グループ1は741 bpと374 bpの2本の断片に分かれ、グループ2は切断されず1,115 bpの1本として検出されました。反対に、NcoIを用いた場合、グループ1は切断されず1,115 bpの1本として検出され、グループ2は617 bpと498 bpの2本の断片に分かれました。
このように、2種類の制限酵素のどちらを用いても、グループ1とグループ2を明確に判別できました。一方、核DNAマーカーであるManDra-A、ManDra-B、PdaDra、RAG1-RFLPの解析では、グループ1とグループ2の間に違いは検出されませんでした。これは、日本に持ち込まれたカラドジョウの核DNAが共通性を持つという先行研究の考えを支持する結果です。
今後への期待
今回開発した方法を使うことで、塩基配列を毎回調べることなく、多くのカラドジョウ個体のグループを知ることができます。これにより、グループ2が現在報告されている地域以外にも存在するのか、またグループ1とグループ2がどのような経路で日本に侵入したのか調べる手がかりになります。
さらに、中国や韓国など、カラドジョウの原産国の集団と比較することで、国内に生息するカラドジョウの導入元の推定が進むと考えられます。カラドジョウの系統を正確に把握することは、在来ドジョウの遺伝的な多様性を守るためのとても大切な基礎情報になります。
論文情報
論文名
Identification of two mitochondrial lineages in the large-scale loach (Paramisgurnus dabryanus) using cyt b-RFLP: evidence for nuclear genome similarity
(日本語)Cyt b–RFLPを用いた国外外来種カラドジョウのミトコンドリア2系統の識別
掲載誌
Fisheries Science
著者名
黒田真道1、東典子1、清水孝昭2、藤本貴史3、荒井克俊3,4
所属
1東京農業大学 生物産業学部 海洋水産学科、2愛媛県農林水産研究所、3北海道大学大学院 水産科学研究院、4華中農業大学
DOI
10.1007/s12562-026-01990-x
研究助成
日本学術振興会科学研究費助成事業(JSPS KAKENHI JP23K14011)
用語解説
(1) DNAマーカー:DNAの違いを利用して、種・系統・個体などを識別するための目印。
(2) ミトコンドリアDNA:細胞の中でエネルギーづくりに関わるミトコンドリアが持つDNA。系統の違いを調べる手がかりになる。
(3) 核DNA:細胞の核にあるDNA。ミトコンドリアDNAとは別の遺伝情報を持つ。
(4) cytochrome b(cyt b):ミトコンドリアDNA上にある遺伝子領域の一つ。本研究ではカラドジョウの2系統を見分けるために利用した。
(5) PCR-RFLP:PCRで増やしたDNAを制限酵素で切り、断片の長さの違いからDNA型を判別する方法。
(6) 制限酵素:特定の塩基配列を認識してDNAを切断する酵素。本研究ではAvrIIとNcoIを用いた。
(7) ハプロタイプ:DNA配列の違いによって区別される型。
本件に関するお問合わせ先
東京農業大学 学長室 企画広報課
TEL: 03-5477-2650 / FAX: 03-5477-2804 / Email: info@nodai.ac.jp
関連リンク
水圏生産科学研究室
https://www.nodai.ac.jp/academics/bio/o_aqua/lab/2104/

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