海馬アストロサイトの分化開始を制御する仕組みを解明―正常グリア発生と脳腫瘍形成が共有する分子機構―
東京医科大学

東京医科大学(学長:宮澤啓介/東京都新宿区)組織・神経解剖学分野(髙橋宗春主任教授)の大山恭司准教授、大村捷一郎(同大学社会人博士課程3年、精神医学分野専攻医)、高山夏海(同大学医学科第6学年、自由な学び系科目「リサーチ・コース」所属)らの研究グループは、学習・記憶を支える海馬歯状回においてTGFβシグナルが転写因子Sox4を介してアストロサイト前駆細胞を未分化な状態に維持し、分化開始のタイミングを制御していることを明らかにした。
アストロサイトは脳の神経回路を支えるグリア細胞の一種であり、神経細胞のシナプス形成や情報伝達に不可欠な役割を果たす。本研究では、海馬歯状回のアストロサイト前駆細胞が生後1日目に増殖のピークを迎え、その後、細胞周期を離脱して分化を開始するという明確な時間的スイッチを示した。さらに、この前駆細胞にはTGFβシグナルが働いており、これを阻害すると分化が急速に進むことを明らかにした。
TGFβ–Sox4はこれまで悪性脳腫瘍(グリオブラストーマ)の幹細胞維持機構として知られていたが、本研究により、この経路が正常な脳発生においてもアストロサイト前駆細胞の運命を制御することが示された。これらの知見は、脳のグリア細胞がどのように作られるかについての基礎的理解を深めるとともに、将来的な脳腫瘍治療への応用に向けた基盤情報を提供するものである。
この研究成果は、2026年7月1日(日本時間)、国際神経科学誌「Frontiers in Cellular Neuroscience」(IF 4.4) に掲載された。
【概要】
東京医科大学(学長:宮澤啓介/東京都新宿区)組織・神経解剖学分野(髙橋宗春主任教授)の大山恭司准教授、大村捷一郎(同大学社会人博士課程3年、精神医学分野専攻医)、高山夏海(同大学医学科第6学年、自由な学び系科目「リサーチ・コース」所属)らの研究グループは、学習・記憶を支える海馬歯状回においてTGFβシグナルが転写因子Sox4を介してアストロサイト前駆細胞を未分化な状態に維持し、分化開始のタイミングを制御していることを明らかにした。
アストロサイトは脳の神経回路を支えるグリア細胞の一種であり、神経細胞のシナプス形成や情報伝達に不可欠な役割を果たす。本研究では、海馬歯状回のアストロサイト前駆細胞が生後1日目に増殖のピークを迎え、その後、細胞周期を離脱して分化を開始するという明確な時間的スイッチを示した。さらに、この前駆細胞にはTGFβシグナルが働いており、これを阻害すると分化が急速に進むことを明らかにした。
TGFβ–Sox4はこれまで悪性脳腫瘍(グリオブラストーマ)の幹細胞維持機構として知られていたが、本研究により、この経路が正常な脳発生においてもアストロサイト前駆細胞の運命を制御することが示された。これらの知見は、脳のグリア細胞がどのように作られるかについての基礎的理解を深めるとともに、将来的な脳腫瘍治療への応用に向けた基盤情報を提供するものである。
この研究成果は、2026年7月1日(日本時間)、国際神経科学誌「Frontiers in Cellular Neuroscience」(IF 4.4) に掲載された。
【本研究のポイント】
BLBP陽性アストロサイト前駆細胞が生後1日目(P1)に増殖のピークを迎え、その後(P3-P6)分化を開始するという時間的な切り替えを明らかにした。
転写因子Sox4がアストロサイト前駆細胞を選択的に標識する新たなマーカーであることを発見した。Sox4は未分化な前駆細胞のみに発現し、分化を開始した細胞や神経細胞前駆細胞には発現しない。
TGFβシグナルがSox4軸を介してアストロサイト前駆細胞の未分化状態を維持していることを、薬剤による機能阻害実験によって示した。
このTGFβ-Sox4経路は悪性脳腫瘍(グリオブラストーマ)のがん幹細胞維持機構と共通しており、正常なグリア細胞発生と脳腫瘍形成が同じ分子機構を共有していることが示唆された。
【研究の背景】
脳の神経回路を支えるグリア細胞のうち、アストロサイトは神経細胞のシナプス形成や情報伝達、血液脳関門の維持など多彩な役割を担うことが知られている。従来、アストロサイトはGFAPと呼ばれるタンパク質を発現する均一な細胞集団と考えられてきたが、近年のシングルセル解析により、アストロサイトが多様なサブタイプから構成される不均一な細胞集団であることが明らかになってきた。学習・記憶を担う海馬の歯状回においても、BLBP(Brain Lipid-Binding Protein)陽性細胞がアストロサイト前駆細胞として重要な役割を果たすことが示唆されてきたが、これらの細胞がいつ、どのようにして分化を開始するのか、その制御機構は明らかでなかった。そこで本研究では、マウス海馬歯状回においてアストロサイトの前駆細胞の増殖から分化への切り替えがどのように制御されているかを明らかにすることを目指した。
【本研究で得られた結果・知見】
BLBP陽性アストロサイト前駆細胞のうち、増殖状態にある細胞(Ki67陽性)は出生直後(P1)にピークを迎え、その後、細胞周期を離脱して分化を開始したアストロサイト(p57陽性)が生後3-6日にかけて蓄積する。すなわち増殖から分化への明確な時間的スイッチが存在する。
転写因子Sox4は、この増殖性前駆細胞に選択的に発現しており、分化を開始した細胞や神経細胞系列には発現しない。すなわちSox4はアストロサイト前駆細胞の新規マーカーとして機能する。
増殖性前駆細胞にはTGFβ1が発現しており、TGFβシグナル阻害剤(SB431542) を用いて機能を阻害すると、Sox4陽性の増殖性前駆細胞が著しく減少し、代わりにp57陽性/BLBP陽性の分化初期アストロサイトが急激に増加した。
これらの結果は、TGFβシグナルがSox4を介してアストロサイト前駆細胞の未分化状態を維持し、分化開始のタイミングを制御していることを示している。
【今後の研究展開および波及効果】
本研究で明らかになったTGFβ-Sox4経路は、悪性脳腫瘍であるグリオブラストーマの幹細胞維持機構として知られてきた分子経路と共通している。したがって、正常な脳発生におけるアストロサイト前駆細胞の制御機構を理解することは、脳腫瘍の発生・進展メカニズムの解明にもつながる可能性がある。
今後、TGFβ-Sox4経路の遺伝子改変マウスを用いた解析や、他のアストロサイト系譜との関係の解明を進めることで、脳のグリア細胞の多様性がどのように生み出されるかについてのさらなる理解が期待される。
また、アストロサイト前駆細胞の増殖と分化のバランスを制御する分子機構の解明は、将来的に脳腫瘍治療における分化誘導療法や、神経疾患におけるアストロサイト機能修復への応用に向けた基盤情報を提供するものと期待される。
【掲載誌名・DOI】
掲載誌名:Front. Cell. Neurosci. 20:1882016
DOI:10.3389/fncel.2026.1882016
【論文タイトル】
TGFβ signalling maintains Sox4+ astrocyte progenitors and restricts the early differentiation of BLBP+ astrocytes in the mouse dentate gyrus
【著者】
*Kyoji Ohyama, Shoichiro Omura, Natsumi Takayama, Tokiharu Takahashi
(*:責任著者)
【主な競争的研究資金】
本研究は、日本学術振興会科研費:23 K05995、26K09532 (to KO)、三井住友海上福祉財団 (to KO)、東京医科大学・学長裁量研究費(to KO)の支援を受けて行われた。
【補足資料:図解・表等 添付】
〇研究内容に関するお問い合わせ先
東京医科大学 組織・神経解剖学分野
准教授 大山恭司
TEL:03-3351-6141 ext. 232
E-mail:kyohyama@tokyo-med.ac.jp
分野HP:
https://www.tokyo-med.ac.jp/med/course/10.html
〇取材に関するお問い合わせ先
学校法人東京医科大学 企画部 広報・社会連携推進室
TEL:03-3351-6141(代表)
E-mail:d-koho@tokyo-med.ac.jp
大学HP:
https://www.tokyo-med.ac.jp/
▼本件に関する問い合わせ先
企画部 広報・社会連携推進室
住所:〒160-8402 東京都新宿区新宿6-1-1
TEL:03-3351-6141(代)
メール:d-koho@tokyo-med.ac.jp
【リリース発信元】 大学プレスセンター
https://www.u-presscenter.jp/


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