胃を切らずに肥満症を治療するB-Clamp®手術をアジアで初めて実施
学校法人慈恵大学

―可逆的・低侵襲な新しい減量・代謝改善手術へ期待―
東京慈恵会医科大学外科学講座上部消化管外科の大城崇司准教授(研究統括管理者)らの研究グループは、2026年6月19日、東京慈恵会医科大学の特定臨床研究計画の共同研究施設である東京Dタワーホスピタルにおいて、肥満症に対する新たな減量・代謝改善手術B-Clamp®を用いた腹腔鏡下胃クリップ手術をアジアで初めて実施しました。
【概要】
B-Clamp®は、胃を切除することなく、胃の外側から専用のクリップを装着して胃容量を制限することで減量効果を得ることを目的とした新しい医療機器です(図1、2)。従来の減量・代謝改善手術の多くは、胃の切除や腸管の再建を伴う不可逆的な術式ですが、B-Clamp®は必要に応じてクリップを取り外すことが可能な“可逆的(リバーシブル)”な治療法であり、患者さんに新たな治療選択肢を提供することが期待されています。
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図1.文献1より引用
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図2.B-Clamp®装着後
今回の手術は、本術式の開発・普及に携わるフランスのDr. Patrick Noelをプロクターとして招聘し、肥満症患者3名に対して腹腔鏡下手術で実施しました(図3、4)。3例とも手術は安全に終了し、術後経過は良好で、全員が予定どおり術翌日に退院しています。
なお、B-Clamp®は日本の医薬品医療機器等法(薬機法)上の未承認医療機器であるため、本研究は臨床研究法に基づき、東京慈恵会医科大学認定臨床研究審査委員会による厳格な審査・承認を経た特定臨床研究として実施しています。
本研究では、BMI30以上の肥満症患者を対象に、術後1年間にわたり、安全性、合併症、体重減少効果、血液検査データ、および糖尿病、高血圧、脂質異常症など肥満関連疾患の改善効果について前向きに評価します。日本人におけるB-Clamp®手術の安全性および有効性が確認されれば、胃を切除しない可逆的な減量・代謝改善手術として、より低侵襲で患者負担の少ない新たな治療選択肢となることが期待されます。
さらに、本研究を通じて日本発のエビデンスを構築するとともに、その成果をアジア地域へ発信することで、近年急速に増加する肥満症に対する新たな外科治療の普及に貢献することを目指しています。東京慈恵会医科大学は、B-Clamp®手術のアジアにおける臨床研究および教育・普及の拠点として、その役割を担っていくことが期待されます。
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図3.Dr. Patrick Noel指導の下、手術を実施
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図4.手術メンバー
右:大城崇司
中央:プロクターのDr. Patrick Noel
左:宇野耕平
【研究の詳細】
1.背景
肥満症は、糖尿病、高血圧症、脂質異常症、脂肪肝、睡眠時無呼吸症候群などのさまざまな健康障害を合併しやすく、心血管疾患や脳血管疾患の発症リスクを高める重要な疾患です。治療の基本は食事療法、運動療法、薬物療法ですが、十分な減量効果が得られない場合や、減量後の体重維持が困難な患者さんも少なくありません。
減量・代謝改善手術(Metabolic and Bariatric Surgery:MBS)は、持続的な体重減少に加え、糖尿病をはじめとする肥満関連代謝疾患の改善を目的として世界的に広く実施されている治療法です。一方で、従来の術式では胃の切除や腸管再建を伴うため、不可逆性、栄養障害、逆流症状、縫合不全などの合併症が課題となる場合があります。
B-Clamp®(ビー・クランプ)は、胃を切除することなく、胃の外側から医療用クリップを装着して胃容量を制限する新しい医療機器です。胃や腸管の解剖学的連続性を維持したまま減量効果が期待でき、必要に応じてクリップを摘出し、胃をほぼ元の状態へ戻すことが可能な可逆性を有する点が特徴です。
欧州を中心としたこれまでの臨床報告では、術後1年の総体重減少率(Total Weight Loss:TWL)は約20~30%と報告されており、腹腔鏡下スリーブ状胃切除術(LSG)に匹敵する減量効果が示されています。また、体重減少に伴い、2型糖尿病、高血圧症、脂質異常症、閉塞性睡眠時無呼吸症候群など肥満関連疾患の改善も報告されています(文献2、3)。
一方、日本人を含むアジア人における安全性および有効性に関するエビデンスは十分ではなく、本研究ではこれらを前向きに検証することを目的としています。
2.研究方法
本研究は、「B-Clamp®を用いた肥満症に対する減量・代謝改善手術の安全性に関する多施設共同探索的単群非盲検試験」として実施しています。
東京慈恵会医科大学外科学講座上部消化管外科准教授・大城崇司を研究統括管理者とし、東京Dタワーホスピタル、メディカルトピア草加病院、東京慈恵会医科大学附属病院の3施設による多施設共同特定臨床研究です。
対象は、BMI30 kg/m²以上で、糖尿病、高血圧症、脂質異常症、脂肪肝、睡眠時無呼吸症候群などの肥満関連疾患を有する成人患者さんです。適格基準を満たし、研究内容について十分な説明を受け文書同意を取得した患者さんに対してB-Clamp®手術を施行します。
手術は全身麻酔下の腹腔鏡手術で行い、胃の外側へB-Clamp®を装着します。胃の切除は行わず、胃容量を制限することで摂取量を減少させます。
術後は1年間にわたり、外来診療、血液検査、画像検査、栄養評価、体重測定などを行い、安全性、有害事象、体重変化ならびに代謝指標の変化を前向きに評価します。
3.結果・成果
2026年6月19日、東京慈恵会医科大学の特定臨床研究計画の共同研究施設である東京Dタワーホスピタルにおいて、アジアで初めてB-Clamp®を用いた減量・代謝改善手術を実施しました。
初回はBMI 35~45kg/m² の肥満症患者さん3名に対して手術を施行しました。手術時間は 1.5~2時間 で、全例において周術期合併症は認めませんでした。
術後約4時間で飲水および歩行を開始し、翌日に上部消化管造影検査で異常がないことを確認した後、流動食を開始しました。全例とも術後経過は良好で、予定どおり術翌日に退院しています。
本手術では、B-Clamp®の開発および普及に携わるフランスの Dr. Patrick Noel をプロクターとして招聘し、安全管理および手術手技について指導を受けながら実施しました。
今後は術後1年間にわたり、安全性、有害事象、体重減少効果ならびに糖代謝・脂質代謝などの代謝改善効果について前向きに評価する予定です。
4.今後の応用、展開
B-Clamp®手術は、従来の胃切除や腸管バイパスを伴う減量・代謝改善手術と、食事・運動療法や薬物療法との中間に位置づけられる、新しい可逆的な治療選択肢となる可能性があります。
現在、日本ではウゴービ®やゼップバウンド®などの抗肥満症薬が使用可能となっていますが、副作用、費用負担、投与期間の制限などから、すべての患者さんに十分な治療効果が得られるわけではありません。
B-Clamp®手術と抗肥満症薬を組み合わせた治療戦略により、薬剤使用期間の短縮や医療費負担の軽減、さらには長期的な体重維持につながる可能性があり、今後検証すべき重要な課題と考えられます。
さらに、変形性膝・股関節症、睡眠時無呼吸症候群、婦人科手術など、減量により治療成績の向上が期待される疾患に対する術前減量手段としても応用が期待されます。また、高齢となり減量治療が不要となった場合には、腹腔鏡下にクリップを摘出し、胃の解剖学的構造をほぼ元の状態へ戻すことが可能である点も、本術式の特徴の一つです。
本研究を通じて日本人における安全性および有効性に関するエビデンスを構築するとともに、日本のみならずアジア地域における肥満症治療の発展に貢献することを目指します。
5.脚注、用語説明
・B-Clamp®:医療用チタンを芯材とし、表面を医療グレードのシリコンで覆った特殊なクリップです。腹腔鏡手術で胃の外側に装着し、胃容量を制限することで減量効果を期待します。
・減量・代謝改善手術:肥満症に対して、体重減少だけでなく、糖尿病、高血圧症、脂質異常症、脂肪肝、睡眠時無呼吸症候群などの改善を目的として行う手術です。日本では高度肥満症患者さんに対して、腹腔鏡下スリーブ状胃切除術やスリーブバイパス術が保険適応となっています。
・特定臨床研究:未承認医療機器を用いる研究など、臨床研究法に基づき、認定臨床研究審査委員会の審査・承認を受けて実施される臨床研究です。
・プロクター:新しい医療機器や術式を導入する際に、手術手技や安全管理について指導を行う経験豊富な医師です。
【参考文献】
Bonaldi M, Uccelli M, Lee YH, et al. BariClip: Outcomes and Complications from a Single-Center Experience. Obes Surg. 2024;34(11):4220-4227.
Navarrete EB, Garza MG, Treviño DI, Garza GEA, Noel P, et al. Laparoscopic Vertical Clip Gastroplasty with BariClip Experience, Complications, Literature Review, and Proposal of Modification of the Original Technique. Obes Surg. 2025;35(1):322-328.
Noel P, Nedelcu M, Olmi S, et al. Evolving Technique of Laparoscopic Vertical Gastric Clip Placement. Obes Surg. 2023;33(4):1012-1016.
本件に関するお問合わせ先
・問い合わせ先
学校法人慈恵大学 広報課
メール:koho@jikei.ac.jp
電話:03-5400-1280
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