指定難病・神経線維腫症1型における赤血球の異常を発見
東京慈恵会医科大学
〜赤血球の特徴的偏位を世界で初めて明示〜
東京慈恵会医科大学の延山嘉眞教授らの研究グループは、指定難病「神経線維腫症1型(NF1)」の患者を対象とした血液データ解析により、赤血球数が多く、大きい傾向にあることを突き止めました。さらに、赤血球中のヘモグロビン濃度が全身の神経線維腫の量と逆相関する特徴的偏位を世界で初めて明らかにしました。
NF1は全身に皮膚の色素斑(茶色いしみ)や神経線維腫(神経系の腫瘍)が現れるばかりでなく、自閉症や注意欠陥多動性障害のような脳の機能障害(発達障害)および血管のトラブルなどもしばしばみられる遺伝性の疾患です。現在まで、全身の臓器に酸素を運ぶ役割を担う赤血球について詳しく解析されていませんでした。そこで、NF1患者225名と非罹患者87名のデータを、年齢・性別を揃えて精密に比較解析しました。
その結果、NF1患者における以下の傾向が判明しました。
赤血球数が多い
赤血球が大きい
血液中のヘモグロビン(注1)濃度が高い
赤血球中のヘモグロビン濃度が低い
全身の神経線維腫の量が多いほど赤血球中のヘモグロビン濃度が低い
以上の結果から、NF1特有の赤血球の異常が微細な血管へ負担をかけ、出血を誘発する可能性が示されました。また、神経線維腫の総量が赤血球中のヘモグロビン濃度と逆相関することが発見されたことにより、このパラメーターを総腫瘍量の推定マーカーに応用することも視野に入ります。
注1:赤血球中にあり酸素の運搬に中心的な役割を担う赤色の色素
本研究の成果は、国際学術雑誌であるJID Innovations誌2026年11月号に掲載予定です。
メンバー:
東京慈恵会医科大学 皮膚科学講座 教授 延山嘉眞
東京慈恵会医科大学 皮膚科学講座 助教 今井聡子
東京慈恵会医科大学 皮膚科学講座 主任教授 朝比奈昭彦
研究の詳細
1.背景
神経線維腫症1型(neurofibromatosis type 1:NF1)は全身に皮膚の色素斑、神経線維腫が必発し、また高い頻度で、自閉症や注意欠陥多動性障害のような脳の機能障害(発達障害)および血管障害からの組織内出血などが生じる遺伝性疾患である。一般に、平均赤血球容積が認知機能障害や血管イベントに関連していることが知られているが、同様の合併症を有するNF1において赤血球の特徴について十分に検討されていない。そこで今回、成人NF1患者における赤血球の表現型について検討した。
2.手法
225例の成人NF1患者を対象とした。局所性の良性腫瘍を切除した患者(全身疾患を有さない、かつ、赤血球代謝に影響をあたえる薬剤を投与されていない患者)を基準とした偏位について後方視的にZ-スコアを用いて解析した。
3.成果
NF1では以下の傾向にあることが示唆された。
赤血球数、ヘモグロビン濃度、ヘマトクリット、平均赤血球容積が高い。
平均赤血球ヘモグロビン濃度が低い。
平均赤血球容積は赤血球数と逆相関する。
神経線維腫の負荷量は平均赤血球ヘモグロビン濃度と逆相関する。
個々のパラメーターの変化は小さいが、複合的にみると中等度の変化量になる(Cohen's d = 0.43)。
以上の結果から、NF1特有の赤血球数・サイズ、細胞内ヘモグロビン濃度の偏位が微小血管へ負荷をかけ、微小循環血流の阻害や血管イベントを誘発する可能性が示された。また、平均赤血球ヘモグロビン濃度が神経線維腫の負荷量と逆相関することから、従来は煩雑な精密画像検査を要した腫瘍の存在や病変を捉える、簡便な血液マーカーとして利用できる可能性が出てきた。
4.今後の展開
本成果は多臓器に異常をきたすNF1の病態解明の重要な手がかりとなる。また、赤血球中ヘモグロビン濃度の神経線維腫総負荷量測定への応用や、循環障害予防に向けた循環環境へのアプローチといった今後の展開が期待される。
5.用語説明
Z-スコア:標準化得点とも呼ばれる。あるデータが平均値から離れている程度について標準偏差(データのばらつき)を基準に表した指標
神経線維腫:末梢神経に生じる神経を構成する細胞からなる腫瘍。NF1患者では全身に生じるため、総量を調べるために煩雑な精密画像検査が必要
ヘモグロビン:赤血球中にあり酸素の運搬に重要な役割を有する赤色の色素
ヘマトクリット:血液全体の中で赤血球が占める割合
平均赤血球容積:ヘマトクリット(%)÷赤血球数(106/μL)×10
平均赤血球ヘモグロビン濃度:血中ヘモグロビン濃度(g/dL)÷ヘマトクリット(%)×100
本件に関するお問合わせ先
学校法人慈恵大学 広報課
メール:koho@jikei.ac.jp
電話:03-5400-1280
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