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海辺は、まだ知らない昆虫の宝箱!伊豆の磯から新種「ナギサガガンボ」を発見

名古屋大学

海辺は、まだ知らない昆虫の宝箱!伊豆の磯からutf-8

【本研究のポイント】
・昆虫採集といえば山や川―そんなイメージを覆し、伊豆半島の磯で、波しぶきが届く岩の上を歩く新種を発見。「ナギサガガンボ注1」」と命名した。
・研究のきっかけは、菅島での臨海実習。学生と海辺の生きものを集めて名前を調べたことから始まり、「海にもガガンボがいる」という小さな発見を追いかけた。
・同じ海岸でもイソガガンボ亜属注2)の2種は少し違う高さの場所にすみ、灯りへの集まり方も異なった。海辺のわずかな環境の違いに、まだ知られていない昆虫の多様性が隠れていることを示した。


【研究概要】

 昆虫採集と聞くと、森や草むら、川辺を思い浮かべる人が多いでしょう。ところが、海の波しぶきが届く岩の上にも、少数ながら昆虫は暮らしています。名古屋大学大学院理学研究科附属臨海実験所の自見 直人 講師と下岡 敏士 博士後期課程学生は、三重県と静岡県の海岸を調べ、伊豆半島・八幡野からイソガガンボ亜属(Idioglossia)の新種を発見し、ナギサガガンボ Dicranomyia (Idioglochina) nagisa と命名しました。
 ナギサガガンボの体長は1 cmにも満たず、成虫は、干潮時は潮が引くが波しぶきが届き、満潮時には海の底に沈んでしまう、「潮間帯」という海と陸の境界部で見つかりました。また、既知種ヒトエグサガガンボ(D. monostromia)についても、菅島と伊豆の標本を元に触角の特徴と海岸での暮らし方を調べ直し、海岸性種のみからなるイソガガンボ亜属へ移しました。翅(はね)や触角などを見比べる形の観察とDNA解析を組み合わせ、海辺に隠れていた生物多様性を明らかにしました。
 本種を含むイソガガンボ亜属は卵〜幼虫期は海の中で過ごし、成虫は陸上に出て飛翔する非常に変わった昆虫です。イソガガンボがどのように進化してきたのかを今後解析することで、昆虫の海への適応過程を理解できる可能性があります。
 本研究成果は、2026年10月1日午前0時(日本時間)付で日本動物分類学会が発行する国際査読付き雑誌「Species Diversity」に掲載されました。



図1. ナギサガガンボの生息地。白い枠線で囲ったような干潮時に露出する海藻の周りに生息する。
海に住む昆虫は珍しい。

【研究背景と内容―臨海実習から始まった「海のガガンボ」探し】

 この研究の出発点は、三重県・菅島で行われた臨海実習でした。学生たちは海岸で集めた生きものを顕微鏡で観察し、図鑑やオンラインの自然観察記録を使って名前を調べました。その中にいたのが、海辺に暮らすガガンボの仲間です。海に暮らす変なガガンボがいる、と気づいてから楽しくなり海岸での昆虫調査を広げました。
 ガガンボの多くは、山地や川、田んぼなど湿った場所で見つかり、幼虫も淡水や湿った土等で育ちます。一方、潮の干満や波しぶきの影響を受ける海岸には、塩分、乾燥、強い波、周期的な水没といった厳しい条件があります。海辺だけに暮らす種類を調べることは、昆虫がどのように海へ進出したのかを考える手がかりになります。
 ガガンボの仲間であるイソガガンボ亜属(Idioglochina)は、知られているすべての種が海岸に関連し、幼虫期も海岸環境に依存すると考えられる珍しいグループです。インド洋・太平洋に面した地域から約30種が知られています。
 日本ではこれまで5種が記録されていました。しかし、成虫が出現する時期が限られ、海と陸の境界にある潮間帯は一般的には昆虫がほとんど生息しないことから昆虫調査においては対象になりにくく、その種多様性や生活史には不明な点が多く残されていました。
 そこで研究グループは、三重県の菅島・二見と静岡県伊豆半島の八幡野で、岩の上を歩く個体を探す手採りと、夜の灯りに集まる昆虫を調べるライトトラップを使いました。持ち帰った標本は、翅の脈、触角、雄の交尾器を既知種の図や標本と一つずつ比較し、DNAも解析しました。

【研究成果】

1.伊豆の磯から新種 ナギサガガンボ を発見
 八幡野の海岸で採集した雄2個体・雌1個体を詳しく調べた結果、既知種とは異なる特徴をもつことが分かりました。体長は約6~7 mm。翅に模様がないこと、翅脈の一部が退化して特定の翅室(ししつ)が開いていること、雄の交尾器の形など、いくつもの特徴を組み合わせることで、他のイソガガンボ亜属の種から区別できます。
 成虫は、波がかぶるぎりぎりの岩場にある乾いた海藻や岩の上を、長い脚で歩いていました。夜のライトトラップには1個体も集まりませんでした。ただし、ナギサガガンボは今回3個体しか確認できておらず、活動する時間や幼虫の暮らしの詳細はまだ追加での調査が必要です。
 種小名の「nagisa」は、日本語の「渚」に由来し、本種が海岸の波打ち際に近い環境に生息することにちなみます。和名は「ナギサガガンボ」としました。現時点では伊豆の八幡野(タイプ産地)のみから知られています。

図2.新種ナギサガガンボ。上 A:雄の全身、B:雄の翅。下 A:雄の生殖器。



2.ヒトエグサガガンボをイソガガンボ亜属へ移籍
 ヒトエグサガガンボ(Dicranomyia monostromia)は1930年に紀伊半島から記載され、その後、本州・四国などの海岸から記録されてきました。これまでは別の亜属に置かれていましたが、1953年にはすでに、触角の形態と海岸性の生態からイソガガンボ亜属に近い可能性が指摘されていました。
 今回、菅島・二見・八幡野から得た新鮮な標本を調べたところ、触角の各節の腹側が張り出して、のこぎりの歯のように見えるというイソガガンボ亜属の特徴が確認されました。加えて、本種が潮間帯の海岸環境に強く結びついて生活することから、ヒトエグサガガンボをイソガガンボ亜属へ移しました。同じ八幡野の小さな海岸でも、ヒトエグサガガンボはナギサガガンボより少し高い場所で見つかっており、2種には別々の好みの生息環境があるようです。
 菅島では多くの成虫がライトトラップに飛来し、海岸を歩く個体、交尾中の個体、産卵場所を探す雌も観察されました。雌は、和名の由来となった海藻ヒトエグサだけでなく、褐藻の間や、ゴカイ類が作る石灰質の棲管の隙間でも探索行動を示しました。このことは、産卵に利用する微小環境がヒトエグサだけに限られない可能性を示します。

図3.菅島で観察されたヒトエグサガガンボ。
A:交尾中の成虫、B:ゴカイ類の石灰質の棲管上にいる成虫(矢印)。

3.2種のDNAバーコードを公開
 ナギサガガンボ1個体とヒトエグサガガンボ2個体から、生物[CE1] の種類を見分けるための目印となる遺伝子(COI領域遺伝子と16S rRNA領域遺伝子)の塩基配列を解析し、国際塩基配列データベースに登録しました。今回の配列は、形態だけでは識別が難しい海岸性ガガンボの同定、幼虫と成虫の対応づけ、地域間比較、将来の系統解析に利用できる基盤情報となります。



【成果の意義】

 新種は、遠い熱帯雨林や深海だけで見つかるわけではありません。本研究は、日本の身近な海岸にも、一般的な昆虫採集では見落とされてきた小さな生きものがいることを示しました。数メートルの場所の違いや、昼と夜、季節の違いに目を向けると、海辺はまだ知らない昆虫に出会える野外の研究室になります。特定の時期や時間帯にしかいない種もいることから、見つかっていない海のガガンボは沢山いると考えられます。皆さんも海岸で昆虫の新種を探してみてください。
 ナギサガガンボは、現在のところ限られた産地の狭い場所からしか見つかっていません。海岸整備や踏みつけなどの影響を受ける可能性があるため、分布域と生活史を明らかにし、生息地を含む海岸環境を守ることが重要です。
 幼虫・蛹を探し、季節ごとの姿を観察し、仲間の系統関係を調べることで、「淡水や陸で暮らしていた昆虫は、どうやって海辺の塩分や水没に適応したのか」という大きな謎に近づけると期待されます。
 
本研究は文部科学省「教育関係共同利用拠点」事業支援のもとで行われたものです。

【用語説明】
注1)ガガンボ:
ハエ目(双翅目)に属する昆虫の一群。細長い体と長い脚をもち、多くの種の幼虫は水辺や湿った環境に生息する。成虫は数週間から数カ月しか生きられず、人を刺すことはない。

注2)イソガガンボ亜属:
ヒメガガンボ科ナミヒメガガンボ属に含まれる亜属 Dicranomyia (Idioglochina)。知られている種はすべて海岸に関連し、インド洋・太平洋沿岸を中心に分布する。本研究では新和名として「イソガガンボ亜属」を提唱した。

【論文情報】
雑誌名:Species Diversity
論文タイトル:Two littoral species of Dicranomyia (Idioglochina) (Diptera: Limoniidae) from Japan: a new species and transfer of D. monostromia with notes on ecology
著者:Naoto Jimi, Satoshi Shimooka (名古屋大学)
DOI: 10.12782/specdiv.31.271
URL: https://doi.org/10.12782/specdiv.31.271

▼本件に関する問い合わせ先
名古屋大学総務部広報課
TEL:052-558-9735
FAX:052-788-6272
メール:nu_research@t.mail.nagoya-u.ac.jp

【リリース発信元】 大学プレスセンター https://www.u-presscenter.jp/

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