ルチル型二酸化ゲルマニウムのバルク結晶の合成に成功
Patentix株式会社

Patentix株式会社は、新世代のパワー半導体材料として注目されている、ルチル型二酸化ゲルマニウム(r-GeO2)バルク結晶の合成に成功しました。今回合成に成功したバルク結晶を種結晶として用いて、引き上げ法等の結晶育成装置で大口径化、高品質化を目指すことができるようになるため、r-GeO2のバルク基板の実現に向けた重要な一歩です。
[背景]
現在、私たちが使用している家電製品や電気自動車のモーターには、パワー半導体を用いた様々な電力変換回路で変換された電力が用いられています。電力を変換する際に発生する熱は電気エネルギーの損失です。発電所から送られた電力は私たちが使うまでに、何度も電力変換が行われるため、パワー半導体の損失を低減することは脱炭素社会の実現において重要な課題となっています。
従来パワー半導体に広く使われていたシリコン(バンドギャップ1.12eV)は物理的な限界に達しており、バンドギャップが3.3eVと大きなシリコンカーバイド(SiC)や3.4eVの窒化ガリウム(GaN)を用いたパワー半導体デバイスへの置き換えが進んでいます。近年、急速に普及が進んでいるSiCはSiに比べて約40%の省エネ効果があるとされていますが、バンドギャップが4.68eVとさらに広いr-GeO2を用いることで、SiCを上回る省エネ効果を得られると期待されています。また、r-GeO2と同程度のバンドギャップを持つ半導体として、酸化ガリウム(Ga2O3)の研究が広く行われていますが、r-GeO2は酸化ガリウムでは困難とされる不純物ドーピングによるp型の発現が理論的に予測されており、より幅広いデバイス応用が期待されます。
r-GeO2の性能を最大限に発揮するためには、結晶欠陥(転位)の少ないr-GeO2バルク結晶基板上に高品質なr-GeO2結晶薄膜をホモエピタキシャル成長させる技術の開発が重要となります。しかし、r-GeO2のバルク結晶は融液を用いた合成が困難であるため、これまでr-GeO2バルク結晶の合成に成功したという報告例は少ないです[1]。r-GeO2のバルク結晶合成を実現することは、当社がr-GeO2による超高耐圧パワー半導体デバイスの開発を行う上で必須条件といえます。
[成果]
今回、Patentix株式会社は約15 mmのr-GeO2のバルク結晶の合成に成功しました(図1)。
[画像1:
https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/128234/15/128234-15-2f9941d7abc93f4e3fbc5fb0770a570a-3314x1880.png?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
図1 r-GeO2バルク結晶の写真
結晶を粉末状にし、X線回折法で構造評価したところほとんどのピークがr-GeO2に由来するものであると確認されました。r-GeO2の結晶のファセット面をX線回折法で評価したところ、ファセット面は(110)面であることが確認されました(図2)。
[画像2:
https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/128234/15/128234-15-bc28511acb4245cd66636dcf0123e6f1-3419x2176.png?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
[画像3:
https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/128234/15/128234-15-bc910abb89169745a3ee8adefbd1d1a3-3419x2185.png?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
図2 X線回折方による粉末状試料のプロファイル(左)と、
結晶のファセット面のプロファイル
r-GeO2バルク結晶(110)面に対しビッカース硬度測定を行ったところ、約1610 HVであることが確認されました。1610 HVという値はSi(1150 HV)より硬く、SiC(2500 ∼ 3000 HV)、GaN(1800 ∼ 2000)よりは柔らかいことを示しています(図3)。そのため、r-GeO2は比較的加工性に優れた材料であるといえます。
[画像4:
https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/128234/15/128234-15-9f9e112be60439b245dda1ab92182cb6-2702x700.png?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
図3 各半導体材料のビッカース硬さ
今回のr-GeO2のバルク結晶の合成は、r-GeO2という新しい半導体材料で脱炭素社会の実現に貢献するという当社の目標における重要な一歩です。また、ビッカース硬度以外の基礎物性についても第86回応用物理学会秋季学術講演会にて発表を予定しています[2]。
[今後の展望]
今回の成果に基づいて、r-GeO2のバルク結晶の開発をさらに加速していきます。これまではヤング率、線膨張係数、ポアソン比等がアモルファス相で多く報告されていましたが、ルチル構造結晶についても、それらの物性値を計測し、応力計算などに使用していく予定です。また、今回合成に成功したr-GeO2のバルク結晶を種結晶として用いて大口径化、高品質化し、市場投入を目指し、引き続き開発に取り組んでいきます。
今回の成果は、中小企業政策推進事業補助金(成長型中小企業等研究開発支援事業)の支援で実施されました。
研究開発計画名:世界初の次世代半導体 二酸化ゲルマニウムの実用化に向けたバルク結晶開発
[1] Z. Galazka, et al., “Bulk Single Crystals and Physical Properties of Rutile GeO2 for High‐Power Electronics and Deep‐Ultraviolet Optoelectronics”, physica status solidi (b) 2400326 (2024).
[2] 川西 健太郎 他, 「r-GeO2バルク結晶の物性評価」, 第86回応用物理学会秋季学術講演会 (2025) (投稿済).
プレスリリース提供:PR TIMES



記事提供:PRTimes