小川洋子の最新刊!『続 遠慮深いうたた寝』10月16日発売。2020年にはブッカー国際賞にノミネート、世界が注目する作家の素顔が垣間見られる、短編集のような極上エッセイ集。 ★一篇全文を特別公開★
河出書房新社

第一弾の前作は名久井直子氏によるブックデザインが第55回造本装幀コンクール「日本書籍出版協会理事長賞」を受賞。第二弾の本作も同氏がデザインを担当。
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株式会社河出書房新社(東京都新宿区/代表取締役 小野寺優)は、小川洋子さんのエッセイ集『続 遠慮深いうたた寝』(税込1,793円)を2025年10月16日に発売いたします。
2020年には日本人で二人目となるイギリス・ブッカー国際賞にノミネートされるなど、国際的にも評価が高い小川洋子さん。
1988年にデビューし、91年に「妊娠カレンダー」で芥川賞、2004年「博士の愛した数式」で読売文学賞・本屋大賞、06年「ミーナの行進」で谷崎潤一郎賞、20年『小箱』で野間文芸賞等々、数々の文学賞を受賞。読者の心を震わせる小説は、世界各国で翻訳刊行され、海外でも絶大な人気と敬愛を集めています。
そんな小川さんの神戸新聞での連載エッセイが〈遠慮深いうたた寝〉です。
書籍化第二弾となる『続 遠慮深いうたた寝』は、懐かしい思い出、創作をめぐる話、心に響く本と読書、ミュージカルや野球など、同連載に加えて他の新聞・雑誌の最新エッセイを中心に収録。温かな眼で日常を掬い取り、あたかも短篇小説のような味わいのあるエッセイの数々が、小川さんの素顔を垣間見られるファン待望の一冊になりました。
2021年刊行の第一弾は、九谷焼の人気作家、上出惠悟氏がこの本のために焼いた陶板画を、名久井直子氏がブックデザイン。その装幀が「素敵すぎる!」と評判になり、その後に第55回造本装幀コンクール「日本書籍出版協会理事長賞」を受賞したことも大きな話題となりました。このたびの第二弾も、その最強タッグのブックデザインで刊行いたします。
刊行を記念して、本書に収録している「無限の自由」一篇全文を特別公開いたします。世界が注目する作家の最新刊『続 遠慮深いうたた寝』を、ぜひお楽しみください!
(『続 遠慮深いうたた寝』収録作品)
「無限の自由」
"空の中ほどに浮かんだのは、くっきりとした新月だった"
"丘のてっぺんに到着してみると……新月がすぐ近くに見えた"
私の小説、『小箱』の中に出てくる文章だが、読者の方からお手紙で、次のようなご指摘をいただいた。
「新月とは、太陽と同じ方向にあって、月が見えない状態ではないでしょうか。仮に二日月と解釈したとしても、時間帯と方角が合いません」
よく調べてみると全くその通りで、自分の無知をさらけ出した形になっていると分かった。
天文のことなど何も知らないのに、何かしら少しでも格好をつけてやろうなどと思うから、こういう恥ずかしい事態に陥るのだ。読者の方には、重版になるか文庫になるか、とにかく機会があれば訂正する旨をお知らせし、お礼を伝えた。
こういう経験をすると、自分の小説を丁寧に読んでくれている人がいる、と実感できて、ありがたい気持ちになる。作家本人さえ気づいていない、作品の世界へ踏み込むための扉が潜んでいるのを感じる。
書き終えた途端、小説は読み手のものになる。作家の予想を超えるはるかなところへ旅立ってゆき、しまいには、本当にこれを書いたのは自分だろうか、と不安になってくる。いや、むしろ不安になるくらいでありたい。
ところで、たくさんある月の呼び名の中から、なぜ新月を選んだのか、少しだけ言い訳をさせてほしい。それは、子どもを亡くした親たちが集まる音楽会の夜の場面だ。彼らは自分の子どもにまつわるいろいろな品々で作った、小さな楽器を耳たぶにぶら下げている。丘に吹く風が楽器を揺らす。ほんの微(かす)かな音が響く。彼らはその響きを、遠くへ旅立った我が子の声だと信じ、ひたすらに耳を澄ませる。
そんな夜、彼らを照らすのは新月がふさわしい、と思ったのだ。新月が見えない月だとも知らないままに。
もしかしたら自分が書いた小説の舞台は、地球ではなかったのかもしれない。どこか見知らぬ星の話なのではないか。ふと、奇妙な考えにとらわれた。
風が吹き、耳たぶで楽器が鳴っている間だけ、彼らは遠くの星にいる子どもたちと再会できる。彼らの頭上には、手が届くほどくっきりとした新月が浮かんでいる。この世ではありえないと皆が信じている現実と、子どもたちがいるはずの場所を、新月の光がつないでいる。
誤りを指摘された一通の手紙から、思いも寄らない発想が広がり、一人で喜んでいる。やはり、小説とは不思議なものだ。読者からの手紙が届くたび、新たな光が射(さ)し、小説は自在に世界を広げてゆく。一旦ページを開けば、無限の自由が待っている。
※こちらの文章は転載禁止です。
1962年、岡山県生まれ。早稲田大学第一文学部文芸専修卒業。88年「揚羽蝶が壊れる時」で海燕新人文学賞を受賞し、デビュー。91年「妊娠カレンダー」で芥川賞を受賞。2004年『博士の愛した数式』で読売文学賞、本屋大賞、『ブラフマンの埋葬』で泉鏡花文学賞、06年『ミーナの行進』で谷崎潤一郎賞、13年『ことり』で芸術選奨文部科学大臣賞、20年『小箱』で野間文芸賞、21年菊池寛賞を受賞。その他の著書に『薬指の標本』『猫を抱いて象と泳ぐ』『人質の朗読会』『琥珀のまたたき』『不時着する流星たち』『約束された移動』『耳に棲むもの』『サイレントシンガー』などがある。
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書名:続 遠慮深いうたた寝
著者:小川洋子
仕様:四六判/上製/240ページ
発売日:2025年10月16日
税込定価:1,793円(本体価格1,630円)
ISBN:978-4-309-03234-4
装丁:名久井直子
陶板画:上出惠悟
URL:
https://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309032344/
※電子書籍も同日に発売いたします。詳細は各電子書籍ストアでご確認ください。
書名:遠慮深いうたた寝(河出文庫)
著者:小川洋子
仕様:文庫判/304ページ
発売日:2025年2月6日
税込定価:891円(本体価格810円)
ISBN:978-4-309-42166-7
装丁:名久井直子
陶板画:上出惠悟
URL:
https://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309421667/
※電子書籍も発売中です。詳細は各電子書籍ストアでご確認ください。
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