世界初(※1)、歯みがき行動で唾液のインフルエンザウイルス不活化能が向上することを確認
ライオン株式会社

ライオン株式会社(代表取締役兼社長執行役員:竹森 征之)は、歯みがき行動により唾液のインフルエンザウイルス不活化能が向上することを明らかにしました。特に、口腔内の総細菌数が減少した人ほど、その傾向が顕著に認められました。このことは、日常の歯みがき行動を丁寧に行うことで口腔内の健康を維持し、さらには感染症リスクの低減にもつながる可能性を示しています。本研究は、歯みがき行動による唾液のインフルエンザウイルス不活化能の向上を世界で初めて明らかにしたものであり(※1)、2025年7月19日付けで英国歯科医師会が発行する科学雑誌『BDJ Open』に掲載されました。
(※1) PubMed、医中誌WEBに掲載された原著論文に基づく(2025年6月23日 当社調べ)
[画像1:
https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/39983/221/39983-221-ffe51fe796571200a62fcac622d985af-2285x1183.png?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
図1 本研究の成果の概要(イメージ)
■研究の背景
近年、各種ウイルスがもたらす感染症リスクが顕在化する中、日常生活における衛生意識が一層高まっています。口腔は感染経路の1つですが、唾液はウイルス不活化能をもつ様々な成分を含み、体内に侵入するウイルスに対する最初の防御機構として働いています。
一方、歯みがきなどの口腔ケアは、口腔内を清潔に保ち、口腔疾患の予防に寄与するほか、良好な口腔衛生状態の維持がインフルエンザの発症率低下と関連する可能性が報告されています(※2)。しかし、これまでの研究では、歯みがきなどの日常的な口腔ケアが唾液のウイルス不活化能に与える影響については明らかにされていませんでした。
そこで当社は唾液に着目し、歯みがき行動が唾液のインフルエンザウイルス不活化能に与える影響について、生化学的手法(※3)を用いて検証しました。
(※2) Kawamoto M et al. Exploration of correlation of oral hygiene and condition with influenza infection. PLoS ONE. 2021;16: e0254981.
(※3) Median Tissue Culture Infectious Dose (TCID₅₀)法による唾液のインフルエンザウイルス不活化能測定、およびqPCR法による口腔内の総細菌数測定
■研究方法
歯みがき行動と唾液のインフルエンザウイルス不活化能との関連性を明らかにするため、20~50代の健康な男女16名(う蝕・歯周病が無い方)を対象に調査を行いました。調査では、各被験者に歯みがきを実施してもらい(※4)、歯みがき行動前後の唾液を採取(※5)しました。その唾液を用い、歯みがき行動前後でのインフルエンザウイルス不活化能と口腔内の総細菌数を測定しました。
(※4) 唾液採取前日23時以降は食事と口腔清掃をせず過ごしてもらい、翌朝午前9時に5分間の歯みがきを実施。歯みがきには当社市販のハミガキ、ハブラシを使用。全ての歯の頬側、舌側、咬合面をまんべんなく普段と同様のブラッシング方法でみがいてもらい、10mlの水で口をゆすいでもらった
(※5) インフルエンザウイルス不活化能の測定では口腔内から直接採取し、総細菌数の測定では洗口後に吐き出した液を採取
■ 結果
歯みがき行動前後の唾液のインフルエンザウイルス不活化能を解析した結果、歯みがき行動前と比較して、歯みがき行動5分後の唾液において、インフルエンザウイルス不活化能(細胞感染抑制率(※6))が有意に向上することを確認しました。また、有意差は認められなかったものの、歯みがき行動1時間後においても高いインフルエンザウイルス不活化能が維持される傾向が見られました(図2)。
(※6) インフルエンザウイルス不活化能の値から算出[細胞感染抑制率(%) = {1-0.1^(インフルエンザウイルス不活化能)}×100]。唾液によって、インフルエンザウイルスの細胞への感染が抑制された割合を示す
[画像2:
https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/39983/221/39983-221-50aabf4a43e09264c3e839f07f1d4dea-2259x2130.png?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
図2 歯みがき行動前後での唾液のインフルエンザウイルス不活化能の変化
Kubo Y et al. Enhanced anti-influenza virus activity of saliva following toothbrushing. BDJ Open. 2025;11:68. Fig 1改変
実験方法:唾液の遠心上清と弱毒化インフルエンザウイルス(H1N1)を、唾液:ウイルス=9:1の比率で混合して1時間静置したのち、10倍ずつ4回連続希釈してそれぞれMDCK細胞に処置。1時間培養後に洗浄し、4日間培養
インフルエンザウイルス不活化能測定方法:光学顕微鏡で細胞感染の有無を判別し、50%の細胞に感染が認められた希釈倍率をもとにインフルエンザウイルス不活化能を算出
さらに歯みがき行動5分後に着目したところ、行動前後の唾液中の総細菌数の変化量とインフルエンザウイルス不活化能の変化量との間に相関が認められました。特に、歯みがき行動により総細菌数が減少した人ほど、唾液のインフルエンザウイルス不活化能が高まる傾向が確認されました(図3)。
[画像3:
https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/39983/221/39983-221-c3890e92983f17be01817a4203e39b0c-2949x2305.png?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
図3 歯みがき行動前後(5分後)での唾液中の総細菌数とインフルエンザウイルス不活化能の変化量との関係
Kubo Y et al. Enhanced anti-influenza virus activity of saliva following toothbrushing. BDJ Open. 2025;11:68. Fig 2改変
これまで、疫学調査により口腔衛生状態とインフルエンザの発症率との関連性が報告されていましたが(※2)、本研究では生化学的手法(※3)により、歯みがき行動によって唾液のインフルエンザウイルス不活化能が向上することを初めて明らかにしました。このことから、口腔内をきれいに保つことにより、ヒト本来の免疫力(唾液のインフルエンザウイルス不活化能)が向上し、外部から口腔に侵入するインフルエンザウイルスを不活化できる可能性が示されました。口腔内の健康維持のみならず、感染症への備えという観点からも、日々の丁寧な歯みがき行動が重要であると考えます。
[画像4:
https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/39983/221/39983-221-6f67a099ec1f5f985c1cc5ab3f8396a6-209x269.png?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
神奈川歯科大学歯学部・短期大学部 副学長
槻木 恵一
プロフィール
1993年神奈川歯科大学歯学部卒業。1997年同大学大学院歯学研究科修了。2007年より神奈川歯科大学教授。2014年より同大学副学長。歯科医師、歯学博士。専門分野は口腔病理診断学・唾液腺健康医学・環境病理学。NPO法人日本唾液ケア科学会理事長。
研究に関するコメント
口腔ケアによって唾液の免疫機能が向上するという本研究の結果は、他に例をみない新たな発見です。唾液は飛沫などとしてウイルスの感染源となる一方で、ウイルスの細胞感染抑制に関与する成分も複数含んでいます。特にIgA抗体は豊富に含まれており、インフルエンザウイルスや新型コロナウイルスの細胞感染抑制にも関与すると言われています。歯みがきなどの口腔ケアによって口腔清潔度が改善され、総細菌量が低下すること等で、このIgA抗体が効果的に機能する環境が整えられ、これがウイルスの細胞感染抑制効果を向上させているのではないかと考えられます。
■今後の予定
本研究を通じて、日常の口腔ケアが唾液本来の免疫機能を引き出し、全身の健康維持に寄与している可能性が示唆されました。当社では本研究に加え、新型コロナウイルスが口腔を介して感染するメカニズムに着目した研究も報告しています(※7、8)。今後も、良好な口腔環境を保つ上で重要な役割を担う「唾液」に焦点を当て、健康維持に資する新たな科学的エビデンスの創出を目指してまいります。
(※7) Tateyama-Makino R et al. The inhibitory effects of toothpaste and mouthwash ingredients on the interaction between the SARS-CoV-2 spike protein and ACE2, and the protease activity of TMPRSS2 in vitro. PLoS ONE. 2021;16: e0257705.
(※8) Kubo Y et al. Saliva after toothbrushing enhances the inhibitory effect on the interaction between SARS-CoV-2 spike protein and human ACE2 in vitro. Oral Science International. 2025;22: e70012.
【論文情報】
タイトル:Enhanced anti-influenza virus activity of saliva following toothbrushing
著者:Yusuke Kubo, Taku Iwamoto, Seiichi Tobe, Riho Tateyama-Makino, Kota Tsutsumi, Keiichi Tsukinoki, Kei Kurita
掲載雑誌名:BDJ Open. 2025;11:68
DOI:
https://doi.org/10.1038/s41405-025-00355-3
ライセンス:CC BY 4.0
【関連情報】
・ライオン統合レポート「オーラルヘルスケアの成長加速」
https://www.lion.co.jp/ja/ir/library/ar/2025/pdf/ir2025.pdf#page=20
・ライオン統合レポート「ライオンの研究開発・戦略」
https://www.lion.co.jp/ja/ir/library/ar/2025/pdf/ir2025.pdf#page=38
・2022年12月15日参考資料:生活習慣と風邪症状に関する実態調査 風邪の引きやすさと歯みがき行動に関係あり!?
https://doc.lion.co.jp/uploads/tmg_block_page_image/file/8469/20221215_01.pdfプレスリリース提供:PR TIMES



記事提供:PRTimes