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バイオDX:AIやロボットを活用したバイオテクノロジー研究開発の最新技術動向分析

アスタミューゼ株式会社

バイオDX:AIやロボットを活用したバイオテクノロジー


アスタミューゼ株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長 永井歩)は、バイオDXに関する技術領域において、弊社の所有するイノベーションデータベース(論文・特許・スタートアップ・グラントなどのイノベーション・研究開発情報)を網羅的に分析し、動向をレポートとしてまとめました。

[画像1: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/7141/717/7141-717-9aec5ee85605e688e7050a0476c4d34f-2560x1600.jpg?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]


バイオDXとは?
バイオDX(Bio-Digital Transformation)とは、バイオテクノロジー領域における、AIやロボットなどを活用した自動化・効率化のとりくみです。

バイオテクノロジー領域は、様々な事情が重なり、実験にかかる労力が大きく、他の分野と比較して研究者の負荷が重い状況です。

まず、厳格な倫理審査や安全規制があり、許認可のために独自の手続きが必要という点。他にも、生物や細胞培養では継続的なケア世話が必要で、場合によっては24時間365日の体制が求められる点や、実験条件やサンプルの差異で結果が大きく左右されるため、実験環境の繊細な管理や再現性確保が求められる点などがあります。

実験データやゲノムデータなどの解析に、膨大なデータ量のとりあつかいが必要という問題も無視できません。

そのため、AIやロボットによる自動化の需要が大きい分野となっています。

2018年、Google DeepMind 社が、アミノ酸配列の入力でタンパク質の構造予測を容易かつ高精度におこなうAI「AlphaFold」を発表しました。2022年7月には「AlphaFold」を活用し、既知のタンパク質の配列約2億種類に対する構造予測が実施されました(注1)。

注1:Google DeepMind “AlphaFold reveals the structure of the protein universe”
https://deepmind.google/discover/blog/alphafold-reveals-the-structure-of-the-protein-universe/

タンパク質の構造予測は、製薬における抗体や薬剤の設計、工業における酵素の反応効率化等をおこなう足がかりとなる、バイオテクノロジーの根幹です。これまでは、X線結晶解析やクライオ電子顕微鏡といった実験的手法で実施されていましたが、旧来の手法は、タンパク質の大量かつ高純度な精製が必要で、かつタンパク質の崩壊を防止するための実験環境管理や得られた電子散乱パターンの複雑な解析を要する、手間がかかるうえに成功率の低いものでした。

一方「AlphaFold」は、アミノ酸配列の情報をインプットすれば、類似した配列のタンパク質の情報を検索・活用し、タンパク質の構造予測をおこないます。アミノ酸配列であれば目的タンパク質は少量でよく、解読は完全に自動化されているため、比較的容易かつ再現性高く情報が得られます。構造予測の時間を大幅に短縮し、バイオテクノロジー領域の研究開発を早めるものとして「AlphaFold」の研究開発に携わった Google DeepMind 社の研究者は2024年のノーベル化学賞を受賞しました。

「AlphaFold」がきっかけとなり、IT技術によるバイオテクノロジー分野での研究開発の自動化への期待が高まり、AIやロボット利用についても世界各国で進められています。

日本でもバイオテクノロジー研究の自動化推進は行われています。日本でバイオDXが広まったきっかけは、文部科学省が定めた令和3年度戦略目標に「『バイオDX』による科学的発見の追及」が掲げられたことです(注2)。

注2:文部科学省「令和3年度の戦略的創造研究推進事業の戦略目標等の決定について」
https://warp.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/12231838/www.mext.go.jp/b_menu/houdou/2020/mext_00051.html

バイオDXは、「AI・ビッグデータの活用を中心とした生命科学研究のデジタルトランスフォーメーション」と定義されています。具体的には
- 生命現象のモデル化- 細胞や組織活動のリアルタイム・自動での計測による、生命現象の理解・利用- 細胞内の代謝システムを数理的に理解し、物質生産へ応用- 創薬の新規標的探索
といった分野における実験の実施や結果解析に対するAIやロボット活用の研究が想定されています。
この方針により、バイオDXはイノベーションの源泉となる基礎研究と位置づけられ、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)で本格的に推進されることになりました。

2022年4月には、広島大学が代表機関となる「Bio-Digital Transformation(バイオDX)産学共創拠点」が、JSTの支援施策である「共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT)」に採択されました(注3)。

注3:Bio-Digital Transformation(バイオDX)産学共創拠点「2022-04-01:COI-NEXT本格型に昇格!」
https://www.jst.biodx.org/post/coi%EF%BC%8Dnext%E6%9C%AC%E6%A0%BC%E5%9E%8B%E3%81%AB%E6%98%87%E6%A0%BC%EF%BC%81

これにより、JSTから年あたり最大3.2億円で最長10年にわたる予算の支援が決定されました。
バイオDX産学共創拠点では「誰ひとり取り残さず持続的な発展を可能とする、バイオエコノミー社会の実現」をビジョンにかかげ、ゲノム育種、バイオ医薬品、バイオものづくりといった領域でのバイオDXの活用と、新たな生物・細胞を作り出す取り組みがすすめられています。

これらの状況をふまえ、本レポートでは「バイオテクノロジーを活用し有用な生物・細胞の創造・育成・培養およびその生物・細胞をもちいた素材・製品製造における、AIやロボットの活用」に着目し、バイオDXに関連する技術動向を見ていきます。
バイオDX技術に関する研究予算の動向分析
グラント(科研費などの競争的研究資金)には、まだ論文発表にいたっていない、あらたなアプローチや研究にたいする資金がふくまれています。

アスタミューゼでは、キーワード出現数の年次推移を算出することで、近年伸びている技術要素を特定する「未来推定」という分析をおこない、萌芽的な分野の予測をしています。キーワードの変遷をたどることで、すでにブームが去っている技術やこれから脚光を浴びると推測される要素技術を可視化することができ、これから発展する技術や黎明・萌芽・成長・実装といった技術ステータスの予測が可能となります。

図1は2014年から2023年まで10年間の、バイオDXに関わるグラントの研究概要にふくまれる特徴的なキーワードの年次推移です。

[画像2: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/7141/717/7141-717-8ed005e25d5a6c800b986a543a85a8ae-1263x526.png?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
図1:バイオDXに関するグラント文献にふくまれる特徴的なキーワードの年次推移(2014年~2023年)

成長率(growth)は全期間の文献内における出現回数に対する、後半5年間の出現回数の割合です。1に近いほどそのキーワードが直近に多く出現しているとみなせます。

「atmps」、「organoids」、「biopharmaceutical」といったバイオ医薬に関するキーワードが目立ち、細胞医療の自動化への資金提供がとくに活発になっていることが読みとれます。

また「biofoundry」、「biomanufacturing」などの微生物や細胞をもちいた産業に関するキーワードもみられ、医療だけでなく化学などの産業分野においても、微生物や細胞をもちいた物質生産の自動化への取り組みがみられます。

「crispr」、「base-edits」、「microfluidic-enabled」といったキーワードは、より自由度の高い遺伝子編集と、編集された生物の選別を実施していく、バイオテクノロジーを支える基礎的な実験操作に関するものです。AIやロボットを活用し、実験の基本操作から根本的な改革をおこない、バイオ製造の課題であった製造速度の獲得を目指した研究開発が実施されていると考えられます。

これらのキーワードをふくむ、直近の研究プロジェクト事例を紹介します。
- BioFoundry: A BioFoundry for Extreme & Exceptional Fungi, Archaea and Bacteria- - 機関/企業:UC Santa Barbara 他- - グラント名/国:NSF/米国- - 研究期間:2024~2030年- - 配賦額:約900万米ドル- - 概要:高温、酸性など、通常の生物は生存がむずかしい環境下に生息する極限環境微生物に特化したバイオファウンドリーを設立。微生物探索とデータベース生成、遺伝子と機能の関係解析、培養を介した試作品製造の3ステップで構成され、すべてのステップにおいて機械学習支援による極限環境微生物をもちいたバイオ製造の自動化をめざす。- BIOS: The bio-intelligent DBTL cycle, a key enabler catalysing the industrial transformation towards sustainable biomanufacturing- - 研究機関/企業:LifeGlimmer GmbH 他- - グラント名/国:CORDIS/EU- - 研究期間:2022~2026年- - 配賦額:約660万米ドル- - 概要:デジタルツインを活用したDBTLサイクルを開発。細胞・プロセスレベルの模倣モデルとAI統合により、予測精度向上を実現する。P. putida菌株による、化成品原料として知られるアクリル酸メチル生産を実験台として、バイオセンサーやバイオアクチュエーターによる双方向通信で培養の自律制御に挑戦。- High-throughput ultrasound-based volumetric 3D printing for tissue engineering- - 機関/企業:University of Münster- - グラント名/国:CORDIS/EU- - 研究期間:2025~2029年- - 配賦額:約340万米ドル- - 概要:高速体積3Dプリンティング技術と超音波粒子操作をくみあわせ、センチメートルスケールの配向性心筋構造体をハイドロゲル内に作成する。ロボットによる、超音波照射、マイクロ流体ノズル、温度制御の完全自動化にいどむ。
つづいて図2は、2014年から2023年までの、バイオDXに関連するグラントプロジェクトの件数が上位5か国の動向です。ただし、中国はグラントデータを非公開としており、実態を反映していない可能性が高いため除外しました。また、公開直後のグラント情報にはデータベースに格納されていないものもあり、直近の集計値については過小評価されている可能性があります。

[画像3: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/7141/717/7141-717-0e11d056642a5ba30ae0b264fd14e12c-2680x1713.png?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
図2:バイオDXに関連する研究プロジェクト件数の国別の推移(2014~2023年)

図3は、研究プロジェクト配賦額の国別推移です。配賦金額はプロジェクト期間で均等割りし、各年度に配分して値を集計しています。たとえば3年計画で3万米ドルのプロジェクトは、各年に1万米ドルを計上しています。
[画像4: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/7141/717/7141-717-38590d8b40f871edab10050a44292940-2464x1708.png?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
図3:バイオDXに関連する研究プロジェクト賦与額の国別の推移(2014~2023年)

件数も研究配賦額も、どちらも米国が1位となっており、配賦額は増加傾向にあります。EUがそれを追い2020年ごろから件数と額を増やしているものの、米国と他国には大きな差があります。

米国では、早期からバイオテクノロジーにおける自動化が意識されてきたと考えられます。2010年から、国防高等研究計画局 (DARPA)が「Living Foundries」プログラムを開始し、約1億1,000万ドルの予算を投じて、複雑な化学物質や材料を生物学的に製造するためのプラットフォーム構築を目指しています(注4)。

注4:DARPA “DARPA Successfully Transitions Synthetic Biomanufacturing Technologies to Support National Security Objectives”
https://www.darpa.mil/news/2021/synthetic-biomanufacturing-transition

このプログラムでは、生物をもちいた製造プロセスの設計・構築・試験の自動化に関する研究も対象となっており、2010年頃から米国が国家としてバイオDXを重要課題としてとらえられていたことがわかります。

また、2018~2021年に活動していた人工知能国家安全保障委員会(NSCAI)から発表された、米国のAI戦略の基礎をきづいたとされる「NSCAI最終報告書」というレポートがあります(注5)。

注5:NSCAI “The Final Report”
https://reports.nscai.gov/final-report/

そのレポートでは、AIと生物学が重なる領域への投資の実施を米国政府に提言しており、バイオテクノロジーとAIの融合が成長する領域となることが予見されていたと考えられます。

2024年には、米国議会により設立された「新興バイオテクノロジーに関する国家安全保障委員会(NSCEB)」により、「AIxBio White Paper Series」が発表されました(注6)。

注6:NSCEB “AIxBio White Paper 1: Introduction to AI and Biotechnology”
https://www.biotech.senate.gov/press-releases/aixbio-white-paper-1-introduction-to-ai-and-biotech/

これまで明確になっていなかった、バイオテクノロジーとAIの融合領域に対して「AIxBio」という名前がつけられました。このことは、米国政府がAIとバイオテクノロジーの融合を注目領域としてとらえていることのあらわれであり、米国がバイオDXへの研究開発への投資をこれからもリードしていくと考えられます。

(以降、バイオDX技術に関する特許出願の動向分析、および全体のまとめについては、弊社コーポレートサイトの該当ページでご確認ください)

著者:アスタミューゼ株式会社 神田 知樹 修士(工学)
さらなる分析は……
アスタミューゼでは「バイオDX」に関する技術に限らず、様々な先端技術/先進領域における分析を日々おこない、さまざまな企業や投資家にご提供しております。

本レポートでは分析結果の一部を公表しました。分析にもちいるデータソースとしては、最新の政府動向から先端的な研究動向を掴むための各国の研究開発グラントデータをはじめ、最新のビジネスモデルを把握するためのスタートアップ/ベンチャーデータ、そういった最新トレンドを裏付けるための特許/論文データなどがあります。

それら分析結果にもとづき、さまざまな時間軸とプレイヤーの視点から俯瞰的・複合的に組合せて深掘った分析をすることで、R&D戦略、M&A戦略、事業戦略を構築するために必要な、精度の高い中長期の将来予測や、それが自社にもたらす機会と脅威をバックキャストで把握する事が可能です。

また、各領域/テーマ単位で、技術単位や課題/価値単位の分析だけではなく、企業レベルでのプレイヤー分析、さらに具体的かつ現場で活用しやすいアウトプットとしてイノベータとしてのキーパーソン/Key Opinion Leader(KOL)をグローバルで分析・探索することも可能です。ご興味、関心を持っていただいたかたは、お問い合わせ下さい。
コーポレートサイト:https://www.astamuse.co.jp/
お問合せフォーム:https://www.astamuse.co.jp/contact/

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