説明に合わせたスライド表示で学習効果が向上 ~視線計測により、学習者が重要箇所を早く・長く見ることを確認~
東京理科大学

【研究の要旨とポイント】
授業スライドの情報を説明に合わせて少しずつ見せる累積提示法が、学習者の理解を助けることを明らかにしました。
視線計測により、累積提示法では学習者の視線が教員の説明に対応するスライド上の箇所へより早く、より長く向かうことが確認されました。
本研究は、学校教育・企業研修・オンライン学習などの教材設計を改善できる可能性を示すものです。
【研究の概要】
東京理科大学 創域理工学部 生命生物科学科の伊藤 輝氏(2023年度 学士課程卒業)、同大学 教養教育研究院 野田キャンパス教養部の市川 寛子教授らの研究グループは、授業スライドの情報を教員の説明に合わせて少しずつ見せる「累積提示法」(*1)が、学習者の視線を重要な箇所へ導き、学習効果を高めることを明らかにしました。
学校や大学の授業では、教員がスライドを示しながら説明する場面が広く見られます。しかし、完成版のスライドを最初から提示すると、学習者は「いま説明されているのはどこか」を自分で探す必要があります。
本研究では、日本人大学生を対象に、授業動画を用いた実験を行いました。説明に合わせて情報を段階的に追加する「累積提示法」と、最初から完成版を見せる「一斉提示法」(*2)を比較したところ、累積提示法で学んだ学生の方が、学習後テストの得点が有意に高くなりました。
さらに、学習中の視線の動きを計測した結果、累積提示法では、学習者の視線が教員の説明に対応する箇所へより早く向かい、より長くとどまることが分かりました。これにより、学習成績が向上したという結果だけでなく、教員の話に合わせてスライドを眺めることが学習成績の向上につながったという、そのプロセスまで明らかにしました。
本成果は、特別な機器や新しい教材を必要とせず、スライドの見せ方を工夫するだけで学習者の注意を適切に導ける可能性を示しています。
本研究成果は2026年6月25日に
国際学術誌「Journal of Computer Assisted Learning」にオンライン掲載されました。
【研究の背景】
スライド授業では、学習者は教員の話を聞きながら、図、グラフ、文字などを見て内容を理解する必要があります。音声による説明と、画面上の視覚情報を組み合わせて学ぶことは効果的である一方、情報が多すぎる場合には、学習者にとって負担になることがあります。特に、完成版のスライドを最初から一度に提示すると、学習者は教員の説明を聞きながら、「いま説明されている内容はスライドのどの部分か」を自分で探し出す必要があります。説明の内容と見るべき場所がうまく結び付かないと、重要な情報を見落としたり、理解に余分な時間がかかったりする可能性があります。
教育工学の分野では、情報を小さなまとまりに分けて順番に示すことや、色や矢印で重要な箇所を目立たせることが、学習者の理解を助けると考えられてきました。しかし、従来の研究では、その有効性は学習前後のテスト成績で評価され、学習中に学習者がどこを見ていたか、説明とスライド上の情報をどう結び付けていたのかまでは把握できませんでした。つまり、教材の見せ方が学習効果を高めるとしても、その効果がどのような過程で生じたのかを明らかにするには限界がありました。
そこで本研究では、学習中の視線の動きを計測することで、教材の提示方法が学習者の注意をどのように導き、学習効果とどう関わるのかを明らかにしようと試みました。具体的には、スライドの情報を段階的に追加していく累積提示法と、情報を一度に示す一斉提示法を比較し、視線データとテスト成績の両面からその有効性を検証しました。
【研究結果の詳細】
日本人大学生40名を累積提示法と一斉提示法の2グループに分け、学習前テスト後、生物の個体群間の相互作用に関する約20分の授業動画を視聴させました。授業ではハダニとカブリダニの個体数変化を題材に、音声説明とグラフの読み取りを組み合わせた内容が扱われました。両グループで教員の音声説明は共通であり、異なるのはスライドの情報提示の方法のみでした(図1)。
[画像1:
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図1 累積提示法と一斉提示法の違い
さらに視線計測装置を用い、学習者が画面上のどこを見ていたかを記録しました。その結果、累積提示法で学んだ学生は一斉提示法で学んだ学生よりも、学習後テストの得点が有意に高くなりました(図2)。また、累積提示法では、説明に関連する箇所への注視時間が長く、説明後にその箇所へ視線が向くまでの時間も短いことが示されました(図3)。これらの結果は、累積提示法が学習者の視線を適切に誘導し、それが学習効果の向上につながった可能性を示唆しています。
[画像2:
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図2 学習後テストの平均得点
[画像3:
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図3 学習中の視線計測指標の平均値
一方、授業の難しさやテストの難しさ、授業の分かりやすさに関する主観的な評価には、提示方法による有意な差は見られませんでした。このことは、学習者が必ずしも「楽になった」と感じていなくても、実際の学習成績や視線の動きには違いが表れる可能性を示しています。
本研究で示された知見は、学校や大学だけでなく、企業研修、資格取得のためのオンライン学習、遠隔授業など、スライドや動画教材を用いるさまざまな教育場面で活用できる可能性があります。将来的には、AIを用いた教材生成システムにおいて、説明に合わせて情報を段階的に提示する教材を自動的に作成する技術への応用も期待されます。
本研究を主導した市川教授は、「本研究は、第一著者で教員志望の伊藤さんが「わかりやすい授業を行いたい」という思いから教材の見せ方に着目したことをきっかけに始まりました。視線計測はもともと乳児を対象とした研究で使用していましたが、今回は大人を対象として実施しました。視線は学習者の思考プロセスを反映すると考えられることから、本研究により興味深い成果が得られると期待しました。学校教育や大学教育でスライドを活用している先生方には、既存のスライドでも情報を小出しにするだけで学習者が学びやすくなる点をお伝えし、今すぐ実践できる工夫としてお使いいただきたいです。また、すでに累積提示を実践されている先生方には、視線誘導の観点からその有効性が裏づけられたとお伝えできればと思います」と、コメントしています。
【用語】
*1 累積提示法
授業スライドの情報を、教員の説明に合わせて少しずつ追加していく提示方法。最初からスライドの内容全てを見せるのではなく、説明の進行に沿って図、線、文字などを段階的に表示する。
*2 一斉提示法
完成版のスライドを最初からすべて提示する方法。本研究では累積提示法と比較するための条件として用いた。
【論文情報】
[表:
https://prtimes.jp/data/corp/102047/table/264_1_0e78a4bde0e3e1dcaec7a15f9022c486.jpg?v=202607091115 ]
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https://www.tus.ac.jp/today/archive/20260709_1132.html)をご参照ください。
プレスリリース提供:PR TIMES


記事提供:PRTimes