EBウイルスが関わる血液疾患の「ゲノムの立体構造異常」を解明 ―慢性活動性EBウイルス病などの新たな病態理解へ―
国立大学法人千葉大学

千葉大学大学院医学研究院の礒貝俊太郎特任研究員、岡部篤史准教授、金田篤志教授らは、同大同院血液内科学の堺田恵美子教授、聖マリアンナ医科大学医学部血液・腫瘍内科学の安井寛特任教授、新井文子主任教授との共同研究で、ヘルペスウイルス科に属し、多くの人が感染するEBウイルス(EBV)が関わる慢性活動性EBウイルス病(CAEBV)(注1)や節外性NK/T細胞リンパ腫(ENKTL)の病態を明らかにするため、ゲノムの立体構造と遺伝子制御を解析しました。その結果、EBV陽性細胞では、本来不活性なゲノム領域が活性化し、EBV DNAとの接触に関連して周辺遺伝子の働きが高まることを明らかにしました。本研究は、EBVに伴うゲノム制御異常がT/NK細胞疾患の病態に関わることを示し、新たな治療標的の探索につながることが期待されます。
本研究成果は、米国血液学会の学術誌「Blood」に2026年9月2日に公開されました。
DOI:10.1182/blood.2025032640(期間限定でオープンアクセス)
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図1. EBV陽性T/NK細胞でみられたゲノム構造と遺伝子制御の変化
■研究の背景
EBVは多くの人が感染する身近なウイルスですが、一部ではT細胞やNK細胞に感染し、CAEBVやENKTLなどの難治性疾患を引き起こします。これらの疾患では、共通する決定的な遺伝子変異が見つかっておらず、病態には未解明な点が多く残されています。
そこで研究グループは、DNA配列そのものではなく、細胞核内でのDNAの折り畳まれ方を示す「3次元ゲノム構造(注2)」と、遺伝子の働きを調節する「エピゲノム(注3)」に着目しました。これまでEBV陽性胃がんなどでは、ウイルスDNAとヒトゲノムの接触に伴って遺伝子制御が変化することが知られており、今回、この現象がEBV陽性T/NK細胞疾患でもみられるかを調べました。
■研究成果のポイント
1.EBV陽性T/NK細胞では、ゲノムの立体構造が大きく変化していた
EBV陽性T/NK細胞では、正常なT/NK細胞やEBV陰性腫瘍細胞とは異なるゲノム構造がみられ、本来は遺伝子が働きにくい「不活性領域」の一部が「活性領域」へ変化していました。
2.EBVDNAとの接触部位で、遺伝子制御が活性化していた
EBVDNAとの接触部位は、不活性領域から活性領域へ変化する場所に多く存在し、その周辺ではプロモーターおよびエンハンサー(注4)の活性化と遺伝子発現の上昇がみられました。
3.細胞増殖への影響を確認し、患者さんの細胞でも同様の特徴を確認
こうした変化に関連する遺伝子の働きを抑えるとEBV陽性T/NK細胞の増殖が低下し、CAEBV患者さんの細胞でも関連する遺伝子制御の特徴が確認されました。
■今後の展望(千葉大学大学院医学研究院 金田篤志教授)
本研究により、EBV陽性T/NK細胞疾患におけるゲノム構造・遺伝子制御異常の一端が明らかになりました。今後は、これらの変化がどのように形成され、病気の発症・進展につながるのかを明らかにし、新たな治療法の開発につなげたいと考えています。
■用語解説
注1)慢性活動性EBウイルス病(CAEBV):EBウイルスに感染したT細胞やNK細胞が体内で持続的に増殖し、発熱や全身の炎症などを引き起こす難治性疾患です。
注2)3次元ゲノム構造:細胞核の中で、長いDNAが折り畳まれて形成する立体的な構造です。遺伝子が働きやすい領域と働きにくい領域に分かれて配置され、その構造はエピゲノムの状態や遺伝子の働きと密接に関係しています。
注3)エピゲノム:DNAの配列そのものを変えずに、どの遺伝子を働かせるかを調節する仕組みです。DNAメチル化やヒストン修飾などが含まれ、細胞の性質や遺伝子の働き方を決めるうえで重要な役割を持ちます。
注4)プロモーターおよびエンハンサー:どちらも遺伝子の働きを調節する領域のこと。プロモーターが活性化すると遺伝子が読み取られやすくなり、遺伝子発現が増加する。また、エンハンサーは転写因子と結合して、プロモーターの働きを強める。
■論文情報
タイトル:”Epstein-Barr virus-associated chromatin activation and enhancer engagement in T/NK-cell lymphoproliferative diseases”
著者:Shuntaro Isogai, Atsushi Okabe, Kazusuke Tanaka, Takuya Nakagawa, Shintaro Izumi, Masaki Fukuyo, Bahityar Rahmutulla, Natsumi Yoda, Motoaki Seki, Takayuki Hoshii, Hironori Yoshiyama, Norio Shimizu, Hiroshi Yasui, Ayako Arai, Emiko Sakaida, Atsushi Kaneda
雑誌名:Blood
DOI:10.1182/blood.2025032640
■研究プロジェクトについて
本研究は、以下の研究費等の支援を受けて実施されました。
日本医療研究開発機構
事業名「ムーンショット型研究開発事業」課題名「細胞運命転換を用いた若返りによるがんリスク0の世界」
事業名「医療分野国際科学技術共同研究開発推進事業」課題名「アジアに蔓延する環境要因によるエピゲノム影響とがん進化に関する研究開発」
事業名「肝炎等克服緊急対策研究事業」課題名「B型肝炎関連肝がんの層別化に基づく診断および治療開発による個別化医療の研究」
事業名「難治性疾患実用化研究事業」課題名「診療ガイドライン掲載のためのエビデンス創出を目指した慢性活動性EBウイルス病とその類縁疾患のレジストリ/バイオバンク強化・病態解析・治療法の開発」
日本学術振興会 科学研究費助成事業 (課題番号:24K22139、JPJSCCA20200006)
厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業 (課題番号:26FC1002)
千葉大学国際高等研究基幹研究支援プログラム
千葉大みらい医療基金
プレスリリース提供:PR TIMES
記事提供:PRTimes