「免疫のブレーキ」が致死的な真菌感染症を招く~糖尿病で増加するGas6がムーコル症の発症につながることを発見~
東京医科大学
東京医科大学微生物学分野の柴田岳彦准教授、研究当時、本学医学部医学科の学生だった近藤庄太郎と大脇恵人らの研究グループは、重症真菌症であるムーコル症が糖尿病で発症しやすくなる仕組みの一端を、マウスを用いた研究により明らかにしました。
ムーコル症は、ムーコルと呼ばれる真菌 (カビ) によって引き起こされる、致死率の高い感染症です。免疫機能が低下した人で発症しやすく、特に糖尿病は重要な危険因子ですが、その背景にある仕組みは十分にわかっていませんでした。
今回、研究グループは、糖尿病状態では感染前から肺や血中でGas6というタンパク質が増加し、肺の抗真菌機能を低下させることで、ムーコルの排除を妨げることを明らかにしました。具体的には、Gas6は受容体であるAxlを介して肺胞マクロファージの働きを抑え、好中球を感染部位に呼び寄せるCXCL1/CXCL2の産生を低下させることで、真菌に対する初期防御を弱めていました。一方、Axlを阻害すると、CXCL1/CXCL2の産生と好中球の動員が回復し、真菌量の減少と生存率の改善がみられました。
本研究は、糖尿病でムーコル症を発症しやすくなる新たな分子機構を明らかにするとともに、Gas6/Axlを標的として宿主の抗真菌防御を回復させる治療戦略の可能性を示すものです。
本研究成果は、2026年9月7日 (スイス時間)、国際学術誌 Frontiers in Cellular and Infection Microbiology に掲載されました。
【概要】
東京医科大学微生物学分野の柴田岳彦准教授、研究当時、本学医学部医学科の学生だった近藤庄太郎と大脇恵人らの研究グループは、重症真菌症であるムーコル症が糖尿病で発症しやすくなる仕組みの一端を、マウスを用いた研究により明らかにしました。
ムーコル症は、ムーコルと呼ばれる真菌 (カビ) によって引き起こされる、致死率の高い感染症です。免疫機能が低下した人で発症しやすく、特に糖尿病は重要な危険因子ですが、その背景にある仕組みは十分にわかっていませんでした。
今回、研究グループは、糖尿病状態では感染前から肺や血中でGas6というタンパク質が増加し、肺の抗真菌機能を低下させることで、ムーコルの排除を妨げることを明らかにしました。具体的には、Gas6は受容体であるAxlを介して肺胞マクロファージの働きを抑え、好中球を感染部位に呼び寄せるCXCL1/CXCL2の産生を低下させることで、真菌に対する初期防御を弱めていました。一方、Axlを阻害すると、CXCL1/CXCL2の産生と好中球の動員が回復し、真菌量の減少と生存率の改善がみられました。
本研究は、糖尿病でムーコル症を発症しやすくなる新たな分子機構を明らかにするとともに、Gas6/Axlを標的として宿主の抗真菌防御を回復させる治療戦略の可能性を示すものです。
本研究成果は、2026年9月7日 (スイス時間)、国際学術誌 Frontiers in Cellular and Infection Microbiology に掲載されました。
【本研究のポイント】
糖尿病マウスでは、感染前から肺や血中でGas6が増加していた
糖尿病マウスでは、ムーコルが増殖し、生存率が低下した
Gas6がマクロファージの働きを抑え、好中球が感染部位に集まりにくくしていた
Gas6/Axlを阻害すると、好中球の動員が回復し、抗真菌防御が改善した
図.糖尿病でムーコル症が発症しやすくなる仕組み糖尿病マウスの肺では、感染前からGas6が増加しており、受容体Axlを介してマクロファージにブレーキをかけている。そのため、真菌感染時に好中球を呼び寄せるCXCL1とCXCL2の産生が抑制され、好中球の動員が低下する (下段)。一方、Axlを薬理学的または遺伝的に阻害すると、このブレーキが解除され、好中球の動員と真菌の排除が正常血糖マウスと同程度まで回復し、重症化しなくなる (上段)。
【研究の背景】
ムーコル症は、自然環境に広く存在する真菌 (ムーコル目) によって引き起こされる致死率の高い感染症で、糖尿病患者や免疫機能が低下した患者で発症リスクが高いことが知られています。中でもCunninghamella bertholletiaeは、ムーコル目真菌の一種で、特に高い致死率を示すことが報告されています。糖尿病はムーコル症の主要な危険因子の一つであり、とくにアジア地域で多くの症例が報告されています。実際、COVID-19パンデミックの際には、インドを中心にムーコル症患者が急増し、糖尿病やステロイド使用との関連が注目されました。しかし、なぜ糖尿病でムーコル症が発症しやすくなるのか、その分子レベルの仕組みは十分にわかっていませんでした。
真菌が肺に侵入した際、その排除に中心的な役割を担うのが好中球という免疫細胞です。好中球は、肺胞マクロファージなどの免疫細胞が産生するCXCL1とCXCL2といったケモカインによって感染部位へ呼び寄せられ、侵入した真菌の排除にあたります。
研究グループはこれまでに、growth arrest-specific protein 6 (Gas6) とその受容体Axlからなるシグナル経路が、ウイルス感染時に免疫応答を抑制する「ブレーキ」として作用することを報告してきました。本研究では、このGas6/Axl経路が糖尿病における肺の抗真菌免疫にも関与しているのではないかと考え、ムーコル症の感染防御における役割を検討しました。
【本研究で得られた結果・知見】
研究グループは、ストレプトゾトシン (STZ)を投与して1型糖尿病状態を再現したマウスに、真菌Cunninghamella bertholletiaeを気管内投与する感染モデルを用いて解析しました。その結果、正常血糖のマウスでは感染後も全てが生存したのに対し、糖尿病マウスでは感染後48時間以内に82%が死亡しました。その原因を調べたところ、糖尿病マウスでは感染後の肺への好中球の動員が著しく低下しており、好中球を呼び寄せるCXCL1/CXCL2の産生も低下していました。
さらに、糖尿病マウスの肺では、感染前からGas6の発現が上昇していることがわかりました。Gas6は主に気道上皮細胞で産生され、血中Gas6濃度は血糖値と強く相関していました。そこでAxlを遺伝的または薬理学的に阻害したところ、CXCL1/CXCL2の産生と好中球の動員が回復し、真菌の増殖が抑制され、生存率が改善しました。また、培養実験から、Gas6がAxlを介して肺胞マクロファージのCXCL1/CXCL2産生を直接抑制することも確認しました。
以上の結果から、糖尿病では感染前から肺でGas6が増加し、Gas6/Axlシグナルを介してマクロファージの働きを抑えることで、感染時の好中球動員が妨げられ、真菌に対する肺の初期防御が低下することが示されました。一方、Axlを阻害することでこの状態が解除され、好中球の動員と真菌の排除が回復することが明らかになりました。
【今後の研究展開および波及効果】
本研究は、糖尿病に伴う「感染への弱さ」を、単なる代謝異常の結果ではなく、Gas6/Axlという免疫シグナルの異常によって生じる宿主側の問題として捉える新たな視点を示しました。実際に、Axl阻害薬BGB324 (ベムセンチニブ) によってこの経路を抑えることで、糖尿病マウスにおける好中球の動員と真菌の排除が回復し、感染後の生存率が改善しました。
この成果は、感染症治療を「病原体を攻撃する」だけでなく、「感染に弱くなった宿主の防御力を回復させる」という新たな方向へ広げる可能性があります。BGB324は新型コロナウイルス感染症の治療薬候補として海外で臨床試験が行われた実績もあり、Gas6/Axlを標的とした治療の可能性が期待されます。
一方、本研究は1型糖尿病モデルマウスを用いた基礎研究であり、ヒトや2型糖尿病への適用にはさらなる検証が必要です。今後は、他の糖尿病モデルなどを用いて、Gas6/Axlを標的とする治療が「感染への弱さ」を克服する新たな治療戦略となり得るか検証していきます。
【論文情報】
タイトル:
Gas6/Axl-mediated macrophage hyporesponsiveness drives severe pulmonary mucormycosis in diabetic mice
著者:
Shotaro Kondo#, Keito Owaki#, Gento Hamasaki, Tatsuya Inukai, Jotaro Kinoshita, Toshihiro Ito, Shigeki Nakamura, Takehiko Shibata*
(#: 共同筆頭筆者、*: 責任著者)
掲載誌名:
Frontiers in Cellular and Infection Microbiology
DOI:10.3389/fcimb.2026.1939483
【主な競争的研究資金】
シオノギ感染症研究振興財団 次世代育成研究助成金 (2024年)
〇研究内容に関するお問い合わせ先
東京医科大学 微生物学分野
准教授 柴田岳彦
TEL:03-3351-6141(代表)
E-mail:tshibata@tokyo-med.ac.jp
分野HP:
https://microbiol-tmed.umin.jp
〇取材に関するお問い合わせ先
学校法人東京医科大学 企画部 広報・社会連携推進室
TEL:03-3351-6141(代表)
E-mail:d-koho@tokyo-med.ac.jp
大学HP:
https://www.tokyo-med.ac.jp/
〇大学・所属
東京医科大学 (学長: 宮澤啓介/東京都新宿区)
微生物学分野 (主任教授: 中村茂樹)
▼本件に関する問い合わせ先
企画部 広報・社会連携推進室
住所:〒160-8402 東京都新宿区新宿6-1-1
TEL:03-3351-6141(代)
メール:d-koho@tokyo-med.ac.jp
【リリース発信元】 大学プレスセンター
https://www.u-presscenter.jp/
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